Die Fledermaus2016/10/02 21:17

 ヨハン・シュトラウスⅡ作曲のオペレッタ「こうもり Die Fledermaus」のDVDが欲しくて検索してみると、これまたあまり選択肢がない。結局、評判の良いものを選んだら、1983年12月31日,ロンドンはコヴェントガーデンのロイヤル・オペラハウスになった。なんと、30年以上前。
 指揮はプラシド・ドミンゴ。テノールとして有名な彼の、指揮者としての出世作だ。豪華な出演陣に、サービス旺盛な演出。最高にハッピーで楽しい作品に仕上がっている。そもそも、「こうもり」というのは楽しさだけで出来ている。

 あらすじと言っても、馬鹿騒ぎの連続で、他愛も無い。
 法廷侮辱罪で5日間の服役を命じられた裕福な銀行家のアイゼンシュタインに、名バリトン,ヘルマン・プライ。その妻のロザリンデにキリ・テ・カナワ。ロザリンデにしつこく言い寄る元恋人のテノール歌手が歌いまくったあげくに、アイゼンシュタインのかわりに収監される。
 一方、アイゼンシュタインは入獄前の楽しみを提案してきた友人ファルケ(あだ名は「こうもり博士」)の誘いに乗り、オルロフスキー侯爵の夜会に出かける。ロザリンデもその夜会に仮面をつけて乗り込む。一方、ロザリンデの小間使いアデーレも女優に化けて夜会に参加。そして刑務所長のフランクまでやってくる。
 享楽のひとときののち、刑務所に集まった一同は、「こうもり博士」が仕掛けた復讐劇の真相を知ることになる。

 キリ・テ・カナワにヘルマン・プライといえば、この当時最高のメンバーだ。特にヘルマン・プライは私にとって「セヴィリアの理髪師」のフィガロ役が印象深い。コミカルな演技の上手さが最高。キリ・テ・カナワの当惑しつつも夫を手玉に取る妻ぶりに安心感がある。進行する喜劇の案内役でるファルケのベンジャミン・フランクリンもダンディで格好良い。
 この公演は大晦日の祝祭に相応しい豪華な演出で、ゲストのバレエあり、コミック・ソングあり、しまいにはシャルル・アズナヴールまで登場して あの "She" を披露する有様!
 「こうもり」はドイツ語の作品だが、この舞台では、英語とイタリア語も併用。このめまぐるしさも舞台に勢いを加えている。

 「こうもり」と言えば、歌手だけではなく、コメディアンが演じる看守フロッシュのクオリティも重要だ。この舞台のフロッシュでも大笑い。特に良かったのが、チップをくれたアルフレードが「コヴェント・ガーデンの歌手だ」と知るなり、可哀想になってチップを返すところが最高だった。
 指揮者がドミンゴであることも、忘れてはいけない。「オルガ,イーダ」という二人の女性の名前から「アイーダ」(ヴェルディのオペラ)を連想したフロッシュが、「行くぜ、マエストロ!」と「清きアイーダ」を歌い始めると、すかさずドミンゴが歌い出す!

 最高に盛り上がる「シャンパンの歌」と、「アイーダ」の下りがまとめられた、動画があった。スキンヘッドの人は、オルロフスキー侯爵。女性が演じることになっている。黄色いドレスの女性は、ヒルデガルド・ハイヒェレ演じるアデーレ、次に歌う男性がヘルマン・プライ演じるアイゼンシュタイン。




 「こうもり」と言えば、外せないのは「序曲」。聞いたことの無い人は居ないほど、有名な序曲。シュトラウスの作品の中でも、最高の作品ではないだろうか。
 コヴェントガーデンの「序曲」は動画になかったので、ここは2010年のウィーン・フィル,ニューイヤー・コンサート。指揮はジョルジュ・プレートル。会場はもちろん、楽友協会の「黄金の大ホール」。ニューイヤー・コンサートはシュトラウスのポルカやワルツが多く、やや退屈な曲目なのだが、さすがに「こうもり序曲」は輝いていた。



 このウィーン・フィルはさすがに溜めの大きい演奏だが、ドミンゴとコヴェント・ガーデンはもっと軽快でストレートな演奏だった。私の好みは後者。

 「こうもり」はオペラ全ての作品の中でも、万人に勧められる作品。重苦しい作品は敷居が高いかも知れないが、「こうもり」は気軽に楽しめ、しかも作品としての完成度が高い。クラシックに馴染みの無い方にもお勧め。

モーツァルトは子守唄を歌わない2016/10/05 21:25

 好きな作家と言えば。

 司馬遼太郎
 塩野七生
 アガサ・クリスティ

 ここにもう一人、加えたい人が居る。
 森雅裕がその人だ。
 その作品の幾つかしか読んでいない。しかし、1985年江戸川乱歩賞を受賞した出世作,「モーツァルトは子守唄を歌わない」は、私が読んだ回数としては、一位の作品だろう(二位は、たぶん「坂の上の雲」)。

 モーツァルトが死んで18年後、ナポレオン率いるフランス軍が進駐するウィーンでのこと。18年前に死んだフリースという医者が作った子守唄を、楽譜屋がモーツァルト作曲として出版すると知って、その娘シレーネ・フリースは憤慨していた。
 ところが、その楽譜屋はベートーヴェンが演奏会に向けて練習していた音楽ホールの貴賓席で、「水浴びした焼死体」となって発見される。それがきっかけとなり、ベートーヴェンはモーツァルトとフリースの死にまつわる謎を追い始める。
 探偵役ベートーヴェンの相棒は、弟子でピアニストのカール・チェルニー。やがて彼らは、モーツァルトを毒殺したという噂のあるサリエリや、モーツァルトも所属していたフリーメイソン、宮廷、フランス軍などを巻き込んだ「真実」に迫る。

 35歳で死んだモーツァルトに関して、毒殺だ、陰謀だという話は昔からある。私はモーツァルトだろうが、そうでなかろうが、歴史に関して陰謀説はまったく信じない人なので、モーツァルトもあの時代はよくあった、若くして死んだ人の一人だと思っている。
 この作品に描かれる内容は全くのフィクションなので、人物の描かれ方なども含めて、本気にはせず、気楽に楽しんでほしい。
 とにかく、この小説は江戸川乱歩賞に相応しいミステリーであり、極上のエンターテインメントだ。
 探偵役にベートーヴェンを起用した時点で、まずこの作品の勝利は決まったような物だ。気むずかしくてぶっきらぼう、皮肉屋で口の悪いこの大作曲家と、天才ピアニストだけど生意気な弟子のコンビ芸は、一読の価値がある。

「先生。思いきってここで死んで、モーツァルトの境地に達することにしますか」
「だから、お前はピアニストなんてやめて、ワイン屋でも始めろ、というんだ」


 曲目としては、モーツァルトのオペラ「魔笛」が重要な存在になっている。しかし、聴いたことがなくても支障は無いだろう。むしろ、ベートーヴェンのピアノ協奏曲5番「皇帝」は、聞いておくと良いかも知れない。何度か演奏シーンがある。
 それから、フルートという楽器が「木管楽器」であり、本来「木製」であることを知っていると良いだろう。キーの沢山ついた金属製の楽器になったのは、19世紀後半以降だ。

 とにかく、このミステリー小説には 殺人あり、暗号有り、宝探しあり、楽器学あり、ワインあり、歴史あり、活劇あり。てんこ盛りのめまぐるしい展開が、明るさと軽妙さにつつまれて、詰めこまれている。
 もう一つ特筆すべきは、作品の舞台がほぼウィーンの町中に限られていること。このウィーンをベートーヴェンとチェルニーが駆け回るのだが、馬車を使うシーンは1回くらいしかない。ウィーンを訪ねる前に読むと楽しさも増すだろう。

 ひとつ残念なのは、この作品は新品で入手できないことだ。
 1985年の江戸川乱歩賞は、森雅裕と東野圭吾が同時受賞した。後者は今や押しも押されぬ売れっ子作家。一方、我が森雅裕は、作家としての成功の道をたどらず、その著作はどれも絶版になっている。
 どうやら森雅裕という東京芸術大学,美術楽部出身の作家は、大人として、社会人として、必要であるコミュニケーション能力や、自己制御能力に欠けるところがあるらしい。うまく「プロの作家」として振る舞うことが出来ず、その世界からはドロップアウトしてしまった ― もしくは、させられたようだ。

 しかし、森雅裕のファンというのは、確実に居る。「モーツァルトは子守唄を歌わない」もかなりの部数が刷られたはずだし、10年ほど前には復刊企画で発売もされた。古本市場にはたくさん出まわっているだろう。
 明るく楽しいミステリーが好きな方には、一読をお勧めする。

 「モーツァルトは子守唄を歌わない」には、続編「ベートーヴェンな憂鬱症」もある。同じ森雅裕作品としては、芸大を舞台にした、オペラと美術をめぐる学園ミステリー「椿姫を見ませんか」も、とてもお勧め。

ロック・ファン、ウィーンへ行く2016/10/08 20:04

 明日から5泊で、オーストリアのウィーンへ行く。

 そもそも、私は旅行好きというわけではない。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのライブを見るという目的がを果たすためには、海外に行かなければ行けない、そう言う理由で旅に出る。去年のロンドンは、観劇目的だった。
 今年の場合、ハートブレイカーズのツアーは無し。ストーンズも無し。即ち、旅に出る理由はない。
 ただ、いつかは行こうと思っていたのが、ウィーンだ。ロック・コンサートがない今年こそ、ウィーンに行くタイミングだと思った次第。クラシック音楽は、ロックほどには好きではないが、全く興味が無い…というわけでもない。

 ウィーン滞在の目的。

コンサート鑑賞
ウィーン国立歌劇場「トスカ」(プッチーニ作曲)
フォルクスオーパ―「こうもり」(シュトラウスⅡ作曲)
ウィーン楽友協会,ウィーン交響楽団(ベートーヴェン作曲など)

音楽関係名所巡り
ウィーンのモーツァルトハウス,ベートーヴェンハウス,中央墓地,ザルツブルグ(モーツァルト生誕地),ハイリゲンシュイタット(ベートーヴェンの保養地)など

美術館めぐり
ウィーン美術史美術館,ベルヴェデーレ・ギャラリー

その他色々
 ケーキを食べる。特にザッハトルテとアプフェルシュトゥルーデル。テレビを見る。本場のレッドブルを飲む。恥ずかしながら、私はレッドブルの愛飲者。「モーツァルトは子守歌を唄わない」の舞台をめぐる。

 知っているドイツ語は…

Guten Tag.
Danke schön.
Ich liebe dich.

 以上。
 英語で押し通すことにする。

Staatsoper2016/10/10 03:42

 やっとウィーン到着。
 宿は国立歌劇場の向かい。明日、ここで「トスカ」。

Salzburg2016/10/12 03:26


 ザルツブルクのお土産品。
 これは…アレか。普通にコラボすれば良いのに。

Wiener Musikverein2016/10/13 06:57


 ウィーン楽友協会 黄金の大ホール。
 92歳ジョルジュ・プレトゥのアヴァンギャルドな解釈にびっくり。

ベート-ヴェン先生とディラン様2016/10/14 00:19


 ベート-ヴェン先生のお墓参りを完了し、ウィーンに戻ってから知った大ニュース。ボブ・ディランが今年のノーベル賞を受賞!
 これって毎年、ネタで言われる話だと思っていたから、よもや本当に受賞するとは!ともあれ、おめでとうございます。授賞式のパフォーマンスが楽しみ。
 ディラン様が、ディラン様の素晴らしい詩をディラン様の音楽で伝えること、それこそ私が愛すること。

Back from Vienna2016/10/15 21:55

 ウィーンから無事帰国。

 一番美味しかったのは、分離派会館向かいの Luigi's のアプフェルシュトゥルーデル。パイ生地が厚くて、甘すぎず、酸っぱすぎず。混んでもいないのに一番美味しかった。



 次に美味しかったのは、カフェ・モーツァルトのモーツァルト・トルテ。有名なカフェなので、激混みだったけど、この名物ケーキは美味しかった。



 ザルツブルグにも行ったが、有名な旧市街のメインストリートは工事車両が唸りを上げまくり、モーツァルトの生まれた家もイマイチ。むしろ、新市街のモーツァルト住居の方が、展示が充実していた良かった。



 ウィーン市内では、ベートーヴェン・ハウスが雰囲気があって良かった。彼はこの最上階に住んでおり、「モーツァルトは子守唄を歌わない」で登場するのも、ここだ。



 それにしても。ウィーンはモーツァルト様々。あっちもこっちもモーツァルトグッズに、怪しいコスプレ、お土産。モーツァルトがいなかったら、観光収入が半減するのではないだろうか。

ディラン、この3枚2016/10/19 21:13

 ノーベル賞の影響で、ディランの話題がニュース,メディアで目立つ。連絡が取れないとか、連絡自体を断念したとか、当人寝てるとか、素知らぬ顔でツアー続行とか、あれやこれや。そのたびに、見慣れているはずの映像 ― Prince's trust や、Unpluggd がチラっと出てきて、いちいちときめく。

 ところで、ディランがノーベル賞を受け取るとして、「記念スピーチ」をするのではなく、「記念パフォーマンス」 ― つまり、歌うと思い込んでいるのは、私だけだろうか?ディランだって数々の授賞式の中で、歌わなかったこともあるが、こういう大きく取り扱われる機会には、ぜひとも歌ってもらいたい。何を歌うかは、もちろん好きにすれば良い。
 晩餐会とか、舞踏会なんかもあるらしいが ― 参加しなくても良いのだろうか。一曲だけでも歌ってくれさえすれば、仏頂面で晩餐会のテーブルにチョコンと座るディランも、別に悪くはない。
 どうやら当人は現在、盛大な「気恥ずかしさ」を発揮しているようだが、とにかく好きなようにするディランが、私は好きだ。フランク・シナトラ大会以外はね。

 さて、昨日、日本経済新聞夕刊の文化面に、三人の「識者」による「わたしのディラン、この3枚」という特集記事があった。
 それぞれに「なるほど」、という感想だが、ずばり「そう!その1枚だよね!」の1枚が挙がっていなかった。



 私としては、絶対に外せない1枚。トラヴェリング・ウィルベリーズの [Volume 1]。

 ディランがとても愛している人や、尊敬している人、そしてディランに憧れている人たちと、ノリと友情だけで結成したロック・バンドとそのアルバム。ディランの詩の世界も堪能できるし、リラックスした音楽も溢れるほどに詰まっている。
 「孤高の吟遊詩人」もディランを表現する言葉だろうが、ジョージに言わせればユーモアのある、楽しい人、一緒にいたい人とのこと。仲間と楽しく和気藹々と過ごし、素敵な音楽を奏でるウィルベリーズのボブ・ディランこそ、私が最初に好きになったディランの姿だ。



 「3枚」挙げるとしたら、あと2枚がなかなか難しい。
 "Like a rolling stone" が入っている時点で、[Highway 61 revisited] は確定。
 あと1枚は…ライブの魅力という点で、[Hard rain] とか、[Royal Albert hall] も良い。21世紀の作品では [Love and theft] だろうか。
 もしかしたら、「人がどう期待しようが、どう酷評しようが、自分がやりたいことをやる」という姿勢を貫き、なおかつその音楽も好きな [Saved] も良いかも知れない。

ボブ・ディラン、写真の3枚2016/10/23 20:29

 ついでなので、「わたしのボブ・ディラン、写真の3枚」を挙げようと思う。

 まずは、1965年。



 美しい…!ビューティホー!!格好良くてクールで美しい!
 動画は、"Subterranean Homesick Blues" 去年の今頃、このビデオが撮影されたロンドンの路地に行った。



 お次は、1968年。



 森の中でディラン様がジョージの肩に手を回しているのも良いし、この後の年、謎の本気度でテニスをする写真も良いけど、やっぱりこのデレデレ加減が最高。転居のお知らせは、もちろん私のでっちあげ。
 動画は、1971年,コンサート・フォー・バングラディシュのリハーサル。



 最後は、1987年。



 必死に入ろうとするノーベル文学賞受賞者。この写真、撮影したのはたぶんマイク・キャンベル。好きすぎる…。
 トムさんがケーキを持っているのは、トムさんの誕生祝いだったから。そういえば、先週はトムさんの誕生日だった。おめでとう!
 ちなみに、ディランはこの後、ジョージの家に泊まりに行っている。

 動画を見ていたら、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのドキュメンタリー [Runnin' donw a dream] のディランとのツアーを扱った箇所を切り取った物があった。北欧語の字幕かな?ディランとハートブレイカーズのコラボレーション・ツアーは2年におよび、写真は終盤のロンドン公演後の楽屋で撮影された。
 この時期のディランも、ロックで活かしていて、最高に格好良い。