The Composer2015/10/01 22:47

 スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの曲のなかで、彼らの代表曲の一つには挙げられないが、個人的に好きな曲として、"The Composer" という曲がある。
 驚いたことに、YouTubeをざっと見渡しても、スモーキー・ロビンソンのバージョンのこの曲がアップされていなかった。

 まず歌詞がとても素敵だ。
「きみは韻の踏み方なんて知らないし,音楽的な知識もない。四分音符とか、拍子のことなんて、ギリシャ語みたいに思えるだろうけど。でもきみがつくるメロディはなんて心に深く染みこむのだろう。きみはぼくの心で聴く歌の作曲家」
 
 スモーキー自身が偉大なソングライター。リズムと、美しい歌詞が、明るく軽やかなメロディに調和する曲を多く書いている。

 この曲をスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズで録音するのは1969年だが、ダイアナ・ロス&スプリームスも同年、彼らより先に録音している。こちらのバージョンの方が有名なようだ。



 ゴージャスでややオーバー・プロデューシング気味だろうか。一応ヒットしたようだが、彼女たちの他のヒット曲に比べると、「それほどでも無い」らしい。スプリームス自身も、一種の「失敗作」のように捉えていたらしきコメントを見たことがある。
 個人的にはとても好きだ。ダイアナ・ロスの愛らしい歌い方が、サビなどでいかされている。

 スモーキーの方のバージョンを貼ることができないのが残念。ぜひとも聞いて欲しい曲だ。収録アルバムは、[Time Out for Smokey Robinson & The Miracles](1969)

 スモーキーの動画をアレコレ探していたら見つけたのが、これ。1993年に、スモーキーが初めて親友のアレサ・フランクリンとテレビで共演した時の様子。
 スモーキー80年代のヒット曲"Just to See Her"(彼は作曲には関わっていない)。
 アレサとスモーキーなんて、間違いない取り合わせ。圧巻だ。

Sugar and Candy2015/02/18 21:56

 前回のディラン様ラジオこと、[Theme Time Radio Hour]のテーマは "Sugar and Candy"。
 キャンディときて、私は真っ先に思いつく曲は、カウンティング・クロウズの "Hard Candy"。たぶん、カウンティング・クロウズでは一番好きな曲だと思う。



 ピアノの輝くような音色の使い方が素晴らしい。胸が締め付けられるような、切ないメロディだけど、スピードもビートも落とさず突っ走る爽快感。"again and again and again..." の絶妙なコーラスがいかにもこのバンドらしい。
 この曲でのキャンディは、固くて、素朴な、昔懐かしい味。戻っては来ない、切なくて甘い過去を象徴するイメージだろう。

 ディラン様は、砂糖も飴も、食べ物そのものとして取り上げた曲を多く紹介していたような気がするが、一方でもちろん "suger" は "honey" と同じように「愛しい人」というニュアンスでもよく使われる。
 まずは、ストーンズの"Brown Sugar"。ライブでも最高に盛り上がる名曲だ。たぶん、ロックでは最も有名な "Sugar" だろう。
 これは1971年。ピンクのスーツは、なかなかイケている。



 トム・ペティのソロアルバム [Wildflowers] の "Honey Bee" は、"Come on now, give me some sugar" という歌詞から始まる。
 この曲は、サタデー・ナイト・ライブで演奏している有名な演奏があるが、NBCなので動画サイトにはない。デイヴ・グロールが歯でも痛いのかという顔でドラムを叩き、トムさんが青汁(*注)だった。
 ここには、アルバム収録バージョンをはる。


 

 (注 青汁:昔、八名信夫がCM出演していた青汁。そのときの八名信夫の額の広い髪型が、トムさんの前髪を上げた姿に似ているので、このSNL出演時のトムさんを「青汁」と言う。ブロンド前髪サラサラ顔かかりなトムさん大好きな女子ファンのNちゃんが、SNLを見て「いやー!青汁ー!」と叫んだのがその始まり。)

 モータウンからも "sugar" を一曲。
 スティーヴィー・ワンダー1970年の曲 "Sugar"。マーティン・フリーマン先生のおあつらえ20曲にも選ばれている。
 スティーヴィー・ワンダーは活動期間が長く、多作なアーチストだが、私が好きなのは1966年の[Up-Tight] からこの70年頃まで。



 最後はやはりディラン様に締めてもらう。
 "Sugar baby" も良いけど…ここはロックに!2002年の "Brown Sugar" ! いいなぁ。この年は、"Something" も歌っている。私も会場にいたかった。

Happy2015/02/03 22:16

 ディラン様ラジオこと、[Theme Time Radio Hour]、今回のテーマは "Happy"。

 出るだろうなと思ったら本当に出た、ザ・ローリング・ストーンズの "Happy" !



 ディラン様が解説したように、キースがリード・ヴォーカルを務める曲であり、その代表。ライブでもよく演奏される。
 バラカンさんの解説でも言っていたが、この曲の録音にはストーンズのメンバーはキース以外は参加していないという。プロデューサーがドラムを叩いている。
 Wikipedia で確認してみると、この「ストーンズのメンバー以外で録音」というのはベイシック・トラックの話 ― つまり、スタジオでのメインとなる録音での話で、後にミック・テイラーがスライド・ギターを、ミックがバック・ボーカルを加えているそうだ。確かに、あきらかにミックの声がする。
 名作 [Exile on Main St.] の収録曲で、2枚組LPの時は、2枚目のA面冒頭にこの "Happy" が来たそうだ。ワクワクするようなイントロに、キースのゴキゲンなボーカル。さらに、B面の冒頭は大好きな "All Down the Line" だったというから、LP時代のメリハリも羨ましい。

 ディラン様はブレンダ・ハロウェイのバージョンでは "You Make Me So Very Happy" を流したが、このときオリジナル版と前置きしている。ブラッド・スウェット&ティアーズのバージョンも有名で、マーティン・フリーマン先生はこちらも好きだと言っている。



 私のタイプの音ではない。やはりブレンダ・ハロウェイのバージョンの方が断然好きだ。



 テンプテーションズのバージョンもあるが、やや脳天気。ハロウェイのちょっと影のある声の方が、サビに入るときの固さによく合っていると思う。

 "Happy" というと、最近大ヒットした有名な曲があるが、私は門外漢なので、最後にシスター・ヘイゼルの "Happy" をご紹介。
 比較的初期のアルバムの収録曲で、ライブでもよく演奏する。イントロのぶっきらぼうな感じが打って変わって、ポップなサビに流れ込んでいくところが良い。
 ライアンのスライド・ギターもやり過ぎず、主張しすぎず、でも絶妙に響き渡る感じで大好きだ。

Broadway Musical2014/08/23 20:16

 基本的に、ミュージカルというものに興味がない。
 オペラは好きなものもあるのに、どうしてミュージカルとなると興味が湧かないのかはよくわからないが ― 
 たぶん、ストレート・プレイに異常なテンションの高さを練り込んだところに、一種の気恥ずかしさを感じるのだと思う。オペラは、最初から大仰なクラシック音楽の枠内だし、テンションもそれほど高くないとおもっている。

 前回、ミュージカルに詳しいKさんとニューヨークに行ったとき、彼女に勧められてブロードウェイ・ミュージカルを見ることにした。Kさん曰く、どんなジャンルでも、世界一のレベルの作品には説得力があるとのこと。
 確かにそれはそうだと思い、王道ミュージカルとでも言うべき、[Mary Poppins] を見た。



 Kさんの言うことは本当だった。世界一レベルのミュージカルは、私にも楽しめた。歌と踊りの上手さは、半端なく、圧倒的。
 曲の出来の良さも重要だ。元になったディスニー映画からして、名曲の多い作品なので、そこは保証済み。
 Kさんが言うには、これが世界で最高レベルのパフォーマンスであり、東京など、他の都市では見ることが出来ないから、そのつもりでとのこと。だから、ニューヨーク以外では相変わらず、ミュージカル門外漢でいる。

 さて、来月。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのライブを見るために、ニューヨークへ行く。ライブは1回だけの観戦なので、他にもエンターテインメント系の計画を立て、ミュージカルを見ることにした。
 演目は完全に私の趣味で即決。[Motown: the Musical] これしかない!



 モータウン・レーベルの創始者であり、レーベルを大成功に導いたベリー・ゴーティの自画自賛物語。現実はそれほど脳天気なものでもなさそうだが、これはお芝居なので、作り事の世界を楽しまなければ損だろう。
 もちろん、若い頃の本物のモータウン・スター達にはかなうまいが、そこはブロードウェイのこと。かなりクオリティの高いパフォーマンスで楽しませてくれそうだ。

 ラント・フォンテーン劇場で公演が始まったのは2013年4月。この年のトニー賞でもパフォーマンスを披露している。これはテンションが上がる!どうせならダイアナ・ロスの人にも歌って欲しかったなぁ。



Walk Away Renée2014/07/03 21:47

 前回の、ディラン様ラジオこと [Theme Time Radio Hour] のテーマは、"Walking"。
 1966年レフト・バンクの "Walk Away Renée" がとても印象的だった。
 私はこの曲を、先にフォー・トップスのカバーで知っており、寡聞にしてもともとレフト・バンクの曲だとは知らなかった。いかにもモータウンの作曲チームが作りそうな良く出来た曲だと思っていたのだ。

 まずは、ディランが流したレフト・バンクのオリジナルから。



 曲は完璧というほどの素晴らしい作品でありつつ、ヴォーカルはかなり弱いという対照性が面白い。しかもコーラスもかなり怪しい。
 しかし、この不完全性がロックンロールの良さでもある。遠い存在ではない、近所の少年達のような親近感と、素晴らしい音楽の取り合わせが、ロックが人々の心を掴む要素なのだと思う。ロックが、クラシックのような完璧な技術の音楽だったら、これほど魅力的ではなかっただろう。

 このレフト・バンクの "Walk Away Renée" は、ディラン曰く「天才少年」だったマイケル・ブラウンが主な作曲者。当時、なんと17歳だったというのだから驚きだ。彼はバンドメイトの恋人だったレネに恋をして、その感情がこの曲に昇華されたのだと言う。つまり、"Layla" のティーンエイジャー版か。

 ハープシコードや、フルートなど、普通ロックでは用いられない楽器を使っているので、「バロック・ロック」なるジャンル名まで出来たらしいが、「バロック音楽」の神髄はポリフォニー(多声音楽)だと思っている私には、あまりピンとこない。フルートのメロディの下で、ハープシコードは分散和音を弾いているだけではないか。その点で言えば、ビートルズの "In My Life" のほうがよほど出来が良い。
 「バロック」かどうかはとにかく、ロックに上手く他ジャンルの楽器を用いた好例といったところだろう。

 さて、私が先に聞いていたのが、このフォー・トップスのカバー。レフト・バンクが発表した翌年、アルバム [Reach Out] に収録されている。



 さすがにヴォーカルの素晴らしさは比べようがない。コーラスはもちろん完璧だし、リード・ヴォーカルの情熱的な表現も素晴らしい。
 オーケストレーションは、ハープシコードにフルートなどという可愛らしい編成で許されるはずもなく、ぶあついストリングスに、ソロはトランペット。ゴージャスで感動的。私はこのヴァージョンを先に聞いているだけあってこちらも大好きだ。

 一方、2006年にリンダ・ロンシュタットと、アン・アヴォイが彼女たちのアルバムに "Walk Away Renée" のカバーを収録したとのことで、聞いてみたのだが、これはイマイチ。
 優しく穏やかな演奏ではあるが、悲壮感や苦しみが抜けてしまい、端正すぎて面白くない。レフト・バンクのあのヨレヨレ加減からあまりに乖離すると、この曲の良さは失われるのかも知れない。

Fools2014/03/02 20:08

 ディラン様ラジオこと、[Theme Time Radio Hour] はそろそろシーズン1の終わりを迎えようとしている。本国での初回放送が4月1日に近かったため、テーマは"Fools"。エイプリル・フールの話題がいろいろあって面白かった。特に、カメの話が。ああいう話、大好き。

 "Fool" といって真っ先に思いつくのがフォガットの "Fool for the CIty"。この場合の "Fool" は、イカれているとか、ぞっこんとかいう意味だろうか。



 フォガットはベスト版を1枚だけ持っている。なぜフォガットを持っているのかは、実は謎。どういう経緯で彼らを知って、ベスト版を買うことになったのか、まったく覚えていない。
実はついさっきまで、アメリカの ― 西海岸のバンドだと思っていた。UKのバンドとは知らなかった…

 "Fool" には「道化師」という意味もあり、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの "Tears of a Crown" に登場する Crown, Fool はこちらにあたる。



 そして、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの "Fooled Again (I don't like it)"。1976年のデビューアルバムに収録された。
 BBCの番組に出演した際の映像があるが、これがかなり格好良い。当然だが、どのメンバーも初々しい。この時期のマイクには珍しく、ややオーバーアクション。



 もうすぐ、エイプリル・フール。さて、今年はどうしよう?

A Grammy Salute to The Beatles2014/02/16 20:24

 グラミー・スペシャルとして、ビートルズがアメリカに渡り、エド・サリバン・ショーに出演や、コンサートを行ってから50年を記念したテレビ番組、[The Night That Changed America: A Grammy Salute to The Beatles] が日本でも放映された。
 3月16日に WOWOW で再放送される。

ザ・ビートルズ・トリビュート・ライブ ~グラミー・スペシャル~

 エド・サリバン・ショーの映像をふんだんに盛り込み、さらにそれとリンクするような形でトリビュート・アーチスト達の演奏が続く。スティーヴィー・ワンダーやジョー・ウォルシュのようなベテラン陣に、マルーン5や、デイヴ・グロール、そしてイマジン・ドラゴンのような若者まで、実にゴージャスで見応えのある演奏野目白押し。
 まず良かったのは、スティーヴィー・ワンダー。私は60年代までのモータウンが好きなので、スティーヴィーの声もその時代の印象を持っている。今回、"We Can Work It Out" をうたったスティーヴィーの声も、変わらず若々しい。



 そして、ジェフ・リンとジョー・ウォルシュ、ダーニ・ハリスンが揃っての "Something" がとても感動的だった。ダーニのコーラスがとても力強く、美しい。
 ジェフ・リンが、60年代末にアビーロード・スタジオにビートルズの録音を見学しに行った時のエピソードを披露していた。昔、アビーロードのドキュメンタリー番組でも、語ってた。



 さらに、このライブでもっとも騒々しく、分厚い音の曲、 "While My Guitar Gently Weeps"。デイヴ・グロールのパワフルなドラムが非常によく合っていた。

 ポールとリンゴ、ビートル本人達のプレイは、楽しいのひとこと。特にリンゴは楽しい。"Yellow Submarine" で大物も、観客も一斉にピースサインを振る。
 ポールは自分のバンドでの演奏。どうせなら、スティーヴ・ルカサーやドン・ウォズのハウス・バンドと一緒にやれば良かったのに。
 最後は "Hey Jude"。…良いけど…私としては、さらに "Twist and Shout" が欲しかったかな。

 ビートルズがアメリカ上陸して50周年ということで、こういう動画もある。



 14歳の時の感動を語るトム・ペティ…若い。これ、いつの撮影だろうか?90年代に見えるのだが…?

The Sapphires2013/12/30 20:28

 まず、今朝とびこんできたショッキングなニュース。ミハエル・シューマッハがスキー中の事故で重体だと言う。
 シューマッハは、私がF1を観戦している間ほとんど全てのシーズンに活躍しており、彼が不在だったのは一度目の引退後から復帰までと、引退後の今年だけだ。
 ジョーダンでデビューしたときから、「天才くん」と呼ばれていたが、まだマンセルと一緒に楽しくサッカーをする無邪気な若者だった。セナが亡くなり、思ったよりも早くF1界を牽引することになり、ベネトンでチャンピオンになった。デイモン・ヒルとチャンピオンを争っていた頃はヒル・ファンの私の目の敵にされたが、フェラーリに移籍して皇帝と呼ばれた頃は、けっこう好きだった。
 最初の引退もつかの間、メルセデスで復帰したときは嬉しかった。優勝こそしなかったが、それなりに存在感を示してくれた。
 彼が困難を克復し、復活してくれることを祈っている。1999年、シルバーストーンでのクラッシュで、骨折の大けがをしたとき。目隠しシートの向こうから手を上げて「大丈夫だよ」と知らせてくれたシューマッハ。その再現を信じている。

 運良く、映画「ソウルガールズ The Sapphires」を試写会で見た。

 1960年代末、歌が好きなアボリジニの三姉妹ゲイル,シンシア,ジュリーは人種を理由にコンテストでも相手にされにされずにいた。彼女たちの歌声に目をつけた飲んだくれの自称ミュージシャン,デイヴは彼女たちに大人しいカントリーではなく、情熱的なソウル・ミュージックを勧め、デビューを目指す。
 従妹のケイを加え、ザ・サファイアーズと名乗った四人は、ベトナム戦争の慰問ミュージシャンのオーディションに挑戦し、彼女たちはスターへの道を歩み始める…



 音楽好きにはだんぜんおススメな映画。特にソウル・ミュージック、モータウン、そしてブルース・ブラザーズのファンは必見だ。"Soul sister, Brown suger", "Land of 1000 Dances","I Can't help myself","Soul man" など、ソウルの名曲の目白押し。
 それだけでなく、映画のオープニングはいきなりCCRの "Run Through the Jungle" だし、デイヴに「クソ」呼ばわりされるカントリーも、マール・ハガードの渋い選曲で素晴らしかった。
 人種差別という重く、悲しい困難と、ベトナム戦争という厳しい現実、それでも力一杯歌う女の子達の姿がキラキラとまぶしく、たかが音楽、されど音楽。ただのお伽噺としての成功物語ではなく、実在したザ・サファイアーズをモデルにしたからこそ得られる説得力も良かった。

 コメディの要素もあって楽しかった。何と言っても自称ミュージシャンで、敏腕マネージャーであるはずのデイヴ役、クリス・オダウドが良い。
 クリス・オダウドと言えば、ブリティッシュ・コメディ・ファンにはお馴染み "The IT Crowd"(邦題「ハイッ!こちらIT課」)のロイ。ひょろんと背が高く、脚がきれいで、飲んだくれで、頼りないダメ男。音楽モノでは定番の強欲マネージャーとは違い ― もちろんお金は大好きだが ― 決して悪党にはなれず、憎めないデイヴを好演していた。エンディング・クレジットでも最初に名前が出ていたし、主演は彼だったのではないだろうか。
 コメディ・ファンの私としては、彼を満喫できただけでもけっこう満足。

 最近モータウンを聴き始めた身にはぴったりの映画だった。サンドトラック購入も検討している。日本での公開は2014年1月11日から。

Chris Clark2013/10/14 19:48

 モータウンのアルバムは、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ,ジャクソン5,スティーヴィー・ワンダー,スプリームス,マーヴィン・ゲイあたりから集まりつつある。
 モータウンの師匠(と、私が勝手に決めている)は、マーティン・フリーマン師。彼のモータウン・コンピレーション・アルバム、MADE TO MEASURE に取り上げられているアーチストを聞いていこうと思うのだが、中でも上記以外で気になっていたのは、クリス・クラークという女性アーチストだ。モータウンでは珍しい、白人シンガーである。

 モータウンから発売されたアルバムは2枚。今は、アルバム収録外の曲もたっぷり含めて、CD2枚組でほぼコンプリートになるらしい。



 マーティンによると、ベリー・ゴーティの伝記を読んで、彼女の存在を知ったとのこと。 "From Head to Toe" は、ロンドンのレコードショップで入手し、とてもお気に入りとのこと。私もこの曲はマーティンのコンピレーションの中でも気に入った曲のひとつだ。
 イントロのクールさが格好良い。曲を書いたスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの録音もあるが、クリス・クラークの方が良い。



 独特のハスキー・ヴォイスが格好良い。

 彼女のアルバムの中には、ほかのモータウン・アーチストの曲も多いし、ハリー・ニルソンや、ビートルズのカバーも含まれている。
 中でも、 "Get Back" は素晴らしく格好良い。



 ビートルズのカバーは、大抵「ビートルズの方が良いね」という感想しか出てこないが、これはイカしている。曲調のハードさが、クラークのドスの利いたハスキー・ヴォイスに非常に良くマッチしている。ある意味、ポールよりも合っているのかも知れない。
 いったんダウンする2分47秒から、もう一度飛び込むところの騒々しさが最高。ホーンセクションを大音響にしている潔さが爽快。

 マーティンも本を読むまでは知らなかったというのだから、私はマーティンに教えてもらわなければ、一生出会わなかったかも知れない。
 2枚組CDで彼女の曲がほぼ網羅されているのだから、これはお買い得。実はアルバムをまとめた1枚目しかまだ聞き込めておらず、これからは2枚目を楽しむことにする。

Detroit Bankruptcy2013/07/21 21:17

 先週、アメリカから大きなニュースが飛び込んできた。  デトロイト市が負債180億ドルをかかえ、財政破綻したという。要するに破産。英語では "bankruptcy" と表現されている。

 19世紀末、自動車産業の始まりと共にデトロイトは繁栄の町へと突き進み、アメリカの自動車メーカービッグ3が本拠地とし、人口は最盛期で180万人。モータータウン,モータウンとしての繁栄を謳歌していた。
 1960年代から日本車などの攻勢もあり、衰退の一途をたどり、財政難に、治安の悪化など、苦しい状況は伝え聞いていたが、厳然たるそして、冷たい事実としての "bankruptcy" を突きつけられると、ぞっとする。
 今や人口は70万人。目抜き通りですら少し進めばゴーストタウンのようになり、治安は最悪と表現され、全米でもっとも危険な町とされている。

 デトロイトは、私にとってはもちろん、音楽の町だ。最近聞き始めたモータウン・ミュージック。この商業的にも大成功した音楽の一ジャンルは、デトロイトの発展をバックグラウンドとして誕生した。
 1950年代、隆盛を極める自動車工場で働くべく、多くの労働者達がデトロイトに集まり、そんな人々の中から ― とりわけ黒人たちの間から、あの素晴らしき音楽が生まれ、それを以てアメリカンドリームをかなえようとする野心がそれを表舞台 ― メディアの表層へ引き上げ、実際に大成功を収めたのだ。
 私は、60年代のあの野心満々で、自分たちの音楽を臆することなく叩き出し、弾けんばかりの活気にあふれたモータウンに惹かれている。マーサ&ヴァンデラスの "Dancing in the street" はその最たる物ではないだろうか。この曲は、"The tears of a clown" と並んで、モータウンの最高傑作だと思っている。



 わがモータウンの師(と勝手に思っている)マーティン・フリーマンが、モータウンの町を訪ねるBBCの番組、[Martin Freeman Goes to Motown] では、最初にデトロイトを訪れ、モータウンミュージックの伝説を追う。あのファンク・ブラザーズのメンバーのライブを見に行って、大いに盛り上がったり、レコーディングに関わった人々を訪ねたりしている。
 モータウンミュージック誕生の地、ヒックスヴィルUSAは、今はミュージアムになっている。マーティンは目を輝かせて楽しんでいる。モータウンファンなら誰でも行ってみたいだろうが、これが治安の悪い地域にあるらしい。(小柄で金髪で可愛い師匠、よくぞご無事で…)
 この番組が作られた2009年当時、マーサ・リーヴスは、デトロイト市議会議員を務めており、その事務所を訪ねるシーンもある。この動画では、6分25秒から。



 輝かしいモータウン・ミュージックの記念が壁を埋め尽くす様子は、当時の誇らしい活躍が窺われる。その一方で、マーティンも話題にしているが、1972年モータウンミュージックはLAに本拠地を移す。マーサはデトロイトに残り、モータウン・レーベルとは決別する。
 これもまた、デトロイト繁栄の、一つの終焉だった。その少しまえ、1967年には大規模な暴動が起こり、治安の悪化はすでに表面化していた。モータウン・ミュージックはそんなデトロイトを捨てたように見えるが、実際はモータウン・ミュージック自身も、黄金期の輝きを取り戻すことはなかったと思うのだ。
 今のところ、私が聞く限り素晴らしきモータウンは、せいぜい1970年代初頭くらいまでで、以降は1960年代には及ばない。これからもっとたくさん聞くことになるとは思うが、この印象が変わるという予感はしない。モータウン・ミュージックの成功はは、決してデトロイトとは切り離すことの出来ない ― 運命を共にする、そういう輝きだったのではないか。

 デトロイトはこの財政破綻を克復し、復活するのだろうか。時代は進み、時間は巻き戻せない。デトロイトのかつてのような繁栄と、モータウン・ミュージック黄金期の輝きは戻らないだろう。それでも、デトロイトは新たな一歩をこれから踏み出すのだと、信じたい。

 Give me one more chance,That's all I ask of you
 Just one more chance,I'll make it up to you