Celtic Christmas 2023 (Lúnasa, Dervish, David Geaney)2023/12/03 20:20

 12月2日、すみだトリフォニーホールにて、「ケルト音楽の祭典」と銘打った 「ケルティック・クリスマス 2023」を見に行った。
 主な目的は、やはりルナサ。1998年にスーパーグループとして結成したアイリッシュ・ミュージック・バンドだ。2001年に [The Merry Sisters of Fate] が大ヒットし、世界的にその名を知られるようになった。
 私は2001年当時、ロックのルーツを追っていた。ジャズは音大時代に多少勉強し、その後初期のブルースや、60年代ロックレジェンドに影響を与えたブルースマンなども聴いた。となれば、次はカントリーなのだが … 私はカントリーが嫌いなのだ。詳細は省くが、あの脳天気さが我慢できない。カントリー・ロックはロックだから聴けるのであり、ロックのルーツの一つとしての純粋なカントリー・ミュージックは受け付けないのだ。
 そもそも、カントリーのルーツは何だろうと考えたとき、アイリッシュ・ミュージックであることに気がついた。アイリッシュ・ミュージックから独特の悲しみと陰鬱とした空気を抜き、脳天気に発展させるとカントリーになるらしい。
 そういうわけで、私は渋谷の HMV のアイリッシュ・ミュージック・コーナーに行った。その当時、HMV が推していたのが、前述の[The Merry Sisters of Fate] であり、超ストライク!私はアイリッシュ・ミュージックにとりつかれた。
 以来、20年。アイリッシュ・ミュージックはもっぱら演奏する方に専念している。

 ルナサの代表曲と言えば、なんと言っても "Morning Nightcap" だろう。



 [The Merry Sisters of Fate] が大ヒットした当時、来日公演が行われ、私も渋谷クラブ・クワトロに見に行った。イントロのイーリアン・パイプスの「ブーン…」というドローンが響いた途端に、会場がどよめいた。
 昨日も4曲目に披露してくれたのだが、この代表曲をこんなに早く披露して良い物だろうかと思った。
 現代のザ・ボシー・バンドの名にふさわしい貫禄の演奏。ベースを入れて、ギターでソリッドなリズムを刻む、ちょっと色気のない演奏がクールで、相変わらず私が一番好きなアイリッシュ・バンドのひとつだ。

 コンサートはルナサが前半で、後半がダーヴィッシュ。こちらは女性ヴォーカルが入っており、演奏もあいまってこれも素晴らしい。さらにダンサー,デイヴィッド・ギーニーが参加して素晴らしいステップを披露してくれた
 ちょっとおかしかったのが、ギーニーがタキシード姿だったことだ。リバーダンスのようなショーはともかく、アイリッシュ・ダンスって普段着なのに足もとはビシっと決まる感じが格好良いと思っていたので、タキシードはちょっとびっくり。チラシでは普通にフーディ&デニムだったのに。クリスマスだからって、こうなっちゃったのだろうか?

 アンコールは予想通り、ルナサとダーヴィッシュの共演だった。知っている曲をちゃんと合うように演奏するのだから、必然的にトラディショナルのダンス・チューンになるので、ほとんど私も知っている曲(テンポ通り吹けるかどうかは別)ばかりだった。
 サプライズだったのは、先日亡くなったザ・ポーグスのジェイン・マクガウワンに捧げるべく、ポーグスの曲を演奏したことだ。彼の名前が出たからには曲は推して知るべしだったのだが、問題は誰が歌うかだ。女声はダーヴィッシュの歌手がいるのだが、男性歌手はいない…!なんと、ルナサのフルーター兼ホイッスラーのケヴィン・クロフォードが歌うというのだからびっくり。本人も笑ってしまう選択だったようだが、一生懸命マクガウワンのパートを歌ってくれて、とても感動的な演奏になった。
 シェイン・マクガウワン R.I.P.

The Greatest Rock 'n' Roll Singer2023/12/09 21:30

 昨日、12月8日はジョン・レノンが亡くなった日である。当時、私は生まれてこそいたが、 ビートルズもジョン・レノンも知らない頃で、そのニュースの記憶も全くない。周囲にジョンの死に衝撃を受ける人も居なかった。
 銃撃はニューヨーク,1980年12月8日午後10時頃におきた。日本は9日朝。当時のことを覚えておいる人は、9日の出来事として認識しているだろう。ちょうど私がジョージの死を11月30日、トムさんの死を10月3日と認識しているように。

 ジョン・レノン。もちろん、ビートルズのメンバー。史上最高のロックンロール・シンガーだと思っている。エルヴィスのような深みのある美声ではなく、青春の甘さ、苦さ、美しさを地声に乗せて歌いきる。長時間歌うと喉がかれるという、本来は「ナシ」な声なのだが、反逆のロックンロールはその歌声の独壇場だった。
   私は、ジョンのビートルズ・レコード・デビュー後、初期アルバムにおける歌唱がたまらなく好きだ。これほど素晴らしいロックンロール・シンガーは二度と出ないだろう。

 ビートルズの中で一番好きな曲の一つ、そしてジョンの歌唱の素晴らしさを思い知らされる、"Twist and Shout"。ついで、ポールとリンゴのグルーヴ感も最高である。かなり重い演奏で、完コピしようとしたらだいたいテンポで音を上げるだろう。



 ジョンの冒頭のシャウトが、オリジナルも、ほかのバージョンも、その後の作品をも吹っ飛ばしてしまった "Mr. Moonlight"。ポールとジョージのコーラスも素晴らしく美しい。ジョンの声にポール(エルヴィス系)とジョージ(声薄い)というコーラスが揃ったのも、ビートルズが他のバンドとは一線を画する点だ。

Lady Chieftains in Yoyogi2023/12/18 20:58

 代々木のアイリッシュ・パブで、トラディショナル・アイリッシュ・ミュージック・バンドのレディ・チーフテンズ Lady Chieftains のセッションがあったので、久しぶりに鑑賞しに行った。
 私は実のところ、お酒の席というものが非常に苦手で、人の数の多いところ、音楽を聴かずに喋っている人がいる場所もまた苦手。そのため、音楽が好きな割に、アイリッシュ・パブに行かない。もったいないことをしていると思う。

 レディ・チーフテンズは、いつだか、もちろんパディ・モローニも健在だった頃のある来日のとき、呼び屋(だったかな?)がチーフテンズをもてなすつもりで、日本人女性(若い人が多かった)だけを寄せ集めて、アイリッシュ・ミュージック・バンドを組み、レディ・チーフテンズとして世にお披露目したのが始まりだった。
 経緯や名前から行くと、「なんちゃって」感の拭えないこのバンド、じつは実力もかなりのもので、日本でここまでちゃんと揃っているバンドはなかなか無い。メンバーにはクラシック出身者が何人かいて、ケルト人ではない分の差を努力と生真面目さで埋め、質の高い演奏をしてくれる。



 アイリッシュ・ミュージック・バンドにも色々個性がある。レディ・チーフテンズは、まずフィドルとフルートが手練れである。二人ともクラシック出身だ。経験と勉強が充分に積み重なって、揺らぎのない演奏をする。
 そして、素晴らしかったのはハープの存在。なかなか音が大きくならないので難しいのだが、エアーではもちろん、ダンスチューンでもその存在感を発揮するリズム感が素晴らしかった。
 思えば私のすきなケルティック・バンド ―― ルナサや、タリスクにはギタリストがいるし、ボシー・バンドもギターとブズーキがいる。ルナサにいたってはベースもいるので、そういうリズムの強い、ロック向きのバンドが好きなのだ。
 現在、レディ・チーフテンズのパーカッショニストは海外修行中だそうだが、帰ってきたらハープとともにあのリズムをさらに強固な物にして欲しい。

 フルーター兼ホイッスラーはなかなかの有名人で、何枚もアルバムを発表しているが、どういうわけかダンスチューンのアルバムを出さない。私はダンスチューンが好きだがからティン・ホイッスルを習っているわけで、気長にダンス・チューン・アルバムの発売を待つつもりだ。

Sing, Sing, Sing2023/12/25 21:26

 年の瀬となれば、スポーツではフィギュアスケートが先週末一つの山場を迎えた。
 女子は世代の谷間や負傷者などもあり、坂本花織の一人勝ちであった。世界選手権の枠が三人の割には、ちょっと物足りないが、致し方ない。個人的には三原と坂本のファンなので、三原を世界選手権に持って行きたかったが、なかなかそうは行かない。

 近年まれに見る激戦になったのが、男子シングル。フリーはまさに圧巻だった。最終グループの6人が全員素晴らしかったのは言うまでもないが、その手前の組の三宅、壺井も素晴らしく良かった。本人たちのやりきった顔が全てを物語っていた。中でも友野は号泣してしまった(ファンだと言うこともあるので…)。四大陸も世界選手権も出られないのは惜しい!
 優勝はパンツをはき間違えてもまだ、宇野の余裕が勝った。彼はシニアでの試合出場数が人より抜きん出ているので、勝負に強いのだ。ジャンプの調子が上がらない中でも、勝ち抜く力はさすがだろう。それにしても、鍵山の SP での転倒は痛かった…!四大陸はノー・プレッシャーで良い演技をしてほしい。

 音楽的に印象的だったのは、実は上位選手でただ一人上手くいかなかった、島田高志郎だった。ショート・プログラムの "Sing, sing, sing" は転倒こそしたものの、出だしの笑顔からがっちり心を掴まれた。
 こういうスウィング感の強い曲調は、日本人の得意な分野ではない。高橋大輔か、友野一希くらいしか、表現できるひとがいない。高島はこれまで「表現」の人と言うよりは「雰囲気」の人だったが、今回の "Sing, sing, sing" はまさに彼自身のスウィング感が現れていて、幸福感でいっぱいになった。

 私は "Sing, sing, sing" はベニー・グッドマンがオリジナルで、歌が後でついたと思い込んでいたが、実はその逆でルイ・プリマのニューオーリンズ・ギャング―― 歌つき ―― がオリジナルだそうだ。



 ベニー・グッドマンのバージョンを知ってしまうと、やはり物足りない。これは完全に "Twist and Shout" のパターンで、カバーが最高のバージョンというやつだ。

David Leland2023/12/29 19:25

 ニュースによると、映画監督,脚本家のデイヴィッド・リーランドが12月24日に亡くなったそうだ。
 この名前を聞いて特にピンとくる人はあまりいないだろうが、トラヴェリング・ウィルベリーズの "Handle with Care", "She's My Baby", "Inside Out", そして [Concert for George] の監督だったというと、重要人物だったことがわかる。

 彼の履歴を見ると、どうやらジョージが作った映画プロダクション,ハンドメイド・フィルムズ作品の脚本を手がけた辺りから、ジョージとの関係が始まったらしい。ウィルベリーズのビデオ制作を任されたというのだから、かなり信頼されており、他のウィルベリーズ・ビデオのみならず、ジョージが亡くなった後も CFG の監督をしたという、その手腕は確かな物だった。

 ウィルベリーズの魅力を語り始めたら果てしなくて、簡単に年を越してしまうが、ミュージック・ビデオの素晴らしさも、その魅力の一部である。
 私はウィルベリーズがデビューしたときをオン・タイムで知らないのだが、とにかく最初は覆面バンドだったはずである。しかし同時に MTV で "Handle with Care" が流れると、覆面どころかオーラ丸出しのスーパースターの勢揃い。
 リーランドが監督したウィルベリーズ MVの中でも、特に "Handle with Care" は、ウィルベリーズの世界観を見事に表現してみせた。旅するウィルベリー・ブラザーズのあの温かで和やかな空気感が余すところなく映像化されており、いつ見ても、何度見ても涙がこみ上げてくる。素材もさることながら、リーランドの監督としての技量があってのことだろう。



 [Concert for George] の素晴らしさは、演奏そのものもさることながら、その雰囲気の良さである。追悼コンサートでありながらまったく湿っぽくなく、むしろ幸福感に溢れた独特な空気感がある。リーランドの手腕はここでも発揮され、ジョージを愛する人全ての温かな心を、丁寧に映像に映し込んでくれた。
 劇場上映されたバージョンも悪くはないが、ここは是非とも DVD か Blu-ray を購入して、完全版をぶっ通しで見て欲しい。そう、冒頭クラプトンの挨拶から、インド音楽、モンティ・パイソン、バンド・パフォーマンス、そしてラスト・シーンまで。リーランド監督がこの映像に閉じ込めた、永遠の幸福感、友愛の素晴らしさが胸に迫ってくるに違いない。