House of Guiness2026/04/09 19:33

 ネットフリックスを解約する前に見たのは、[House of Guiness] の全7話だ。
 19世紀末のアイルランド,ダブリンを舞台に、ギネスビールの醸造で財をなしたギネス一家の物語。舞台がアイルランドとあっては、アイルランド音楽をやる者として見逃せない。



 最近のドラマがそうなのか、ネットフリックスがそうなのか、演出がいちいちエグいのが気に入らない。ズーンとかブーンとか低く鳴る効果音も邪魔。そういう重い雰囲気は、ネットフリックスで見たドラマ全てに共通していた。もっと自然体で、ユーモアのある作品はないものだろうかと思う。

 ドラマの雰囲気はともかく、[House of Guiness] を見て興味深かったのは、なんといってもギネス家がプロテスタントだということだ。アイルランド、ケルト民族と言えば、当然カソリックだが、アイルランドを象徴し、アイルランドのハープをラベルにしたギネスビールの創業家がプロテスタントとは意外中の意外。もしかしてケルト人ではないのかもしれない?
 ともあれ、イングランドの支配から独立を目指すアイルランド人の中にあって、イングランドとの繋がりを重要視する「ユニオニスト」であるギネスの対立が物語のひとつの軸になっている。
 富豪ものとあれば、お決まりの家族間の問題も色々。末っ子のエドワード役の人が、オスカー・ピアストリに似ているのが面白かった。
 シーズン2が製作されるとしても、わざわざ再度ネットフリックにお金を払ってまで見たいとは思わない。

 ギネス、アイルランド、ドラマとくれば、音楽に注目するのは当然だ。
 トラディショナルの曲を使った音楽が多く、知っている曲がたくさんでてくる。ただ、編曲はかなりモダンで「やりすぎ感」は否めない。
 そんな中でも時々登場するお馴染みの演奏。まずはチーフテンズ。



それから、一時期はまっていた、Poitin の ”Congress Reel" も登場した。



 一番多かったのは、アイリッシュ・パンクと呼ばれるジャンル。アイルランド人の反骨精神を表すには、パンクが一番あっているのかも知れない。

VOX MARK III “TOTO”2026/04/01 00:00

 トム・ペティが愛用していた VOX Mark III・ホワイトが、シグネチャーモデル “TOTO” として発売される。

 1960年代、ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズが愛用していたことで有名な、VOX の MARK III ― ティアドロップと呼ばれる独特の形が印象的だ。
 格好良いヴィジュアルである一方、60年代から「便座みたい」といわれていたことも、よく知られている。

 トム・ペティも VOX Mark IIIの愛用者だが、彼が1980年代に日本ツアーを行った際、日本のどのトイレに入っても便器に “TOTO” と書かれていることが印象に残り、自分の便座に似た愛器にも“TOTO” という愛称をつけたのだ。
 誰もがこの愛称を「オズの魔法使い」に登場するイヌの名前(もしくはバンドのTOTO) がその由来であると信じていたが、このたびこの “TOTO” のシグネチャー・モデルが発売されるのを機に、マイク・キャンベルが真相を明かしたのだ。

 更に特筆するべきは、”TOTO”シグネチャー・モデルの発売とのコラボレーションとして、VOX Mark IIIモデルの温水便座も同時に発売される事だ。
 特色として、 VOX Mark III の名に恥じぬ、シャワーのキレの良さと、シャワーの角度の微調整が可能なトレモロアームを搭載していることが挙げられる。
 トム・ペティ・ファンのみならず、ロックンロールを愛するもの全ての人のために、”TOTO”シグネチャーモデルと、VOX MarkIII 温水便座の両方を注文すると、2割引になる。この物価高の世、うれしいニュースだ。

Keith Richards: Under the Influence2026/03/21 19:22

 Netflix の契約期間に、気になる作品を見ておこうと思っている。先週はとても話題になった日本の大規模不動産詐欺のドラマを視聴。期待値が高かっただけに、ちょっとイマイチだった。やっぱり詐欺師物の最高傑作は [The Sting] だなぁと再認識する。

 音楽関係でなにか面白いものはないかと検索したら、2015年の作品、キース・リチャーズのドキュメンタリーがあった。題して “Keith Richards: Under the Influence”  当時ソロ・アルバムを作っていたキースに取材して、キースが影響を受けたものなどを中心に紹介する作品だ。



 まず面白かったのは、オープニングがモーツァルトの「魔笛序曲」だったこと。キースの母親が音楽好きで、ポップスのみならず、クラシックも身近に聴いていたそうだ。
 祖父のがこれまた音楽好きで、キースにギターを仕込んでくれたのはの有名な話。絵本にもなっている。そして大音量で鳴り響くブルース。キースが影響を受けたものとして、やはり一番多くの時間を割いているのはブルースだ。
 マディ・ウォータースとチャック・ベリーのレコードを抱えた幼馴染のミックに数年ぶりに会ったキースが、すぐさま意気投合してバンドを作るという、有名なエピソード。このレコードそのものが非常に重要なのであって、もしこの時ミックが別のものを持っていたら、歴史は変わっていただろう。

 キース曰く、アメリカのフォーク、ブルース、カントリーなどには、ケルト音楽の要素を感じるのだという。カントリーは当たり前だが、フォークやブルースというのは意外だった。
 キースといえども、影響をうけた音楽はブルース一辺倒ではない。カントリーも好きで、グラム・パーソンズがその導き手になったくれたとのこと。そこで登場するのが、あのヌーディー・スーツだ。私がカントリーはダサいと思っている要素の一つで、あれを見ると背筋が痒くなる。キースもやや呆れ気味だったが、カントリー・ミュージシャンはワルが多く(それこそキースなんて可愛いもの)、かなりの変人が多いということを教えてくれた。

 一つエピソードで面白かったのは、マディ・ウォーターズと、キース、ミック、ロニーが共演した時、さすがのキースも緊張してロニーと「何着る?何着る?」とうろたえたとのこと。二人で相談しての、白シャツにベストとなったそうだ。ミックはその場にいなかったらしく、ひどく浮いた格好をしている…ミックだからなぁと今までは納得していたが、やっぱり浮いている。



 出演もしているが、当時キースのアルバムの共同プロデューサーを努めていた、スティーヴ・ジョーダンがとても印象的だった。さすがドラマー三大スティーヴの一人。すばらしいドラミング技術で、こういうドラマーになりたいと思わせる人だ。

 キースは終始ゴキゲンで、ずっと笑っている。そしてずっとタバコを吸っている。この作品は11年前だが、今のキースも喫煙しているのだろうか。今でも生きていることが不思議なほど薬物とアルコールに耽溺した人物だが、ある人は「悪運が強い」のだと評していた。
 悪運もそうだが、このゴキゲンなロックンローラーを見ると、人に愛されやすい人物で、その愛され加減が彼をこの世にとどめているのではないかとも思う。
 そう、彼はロックンローラーであり、ロッカーではない。キース曰く、「ロック」というのはちゃんちゃらおかしいポップスで(口ずさんでいた曲もなんとなくアレだなぁと分かる)、自分がやるのは、あくまでも「ロックンロール」だと。それはトム・ペティも名言していたので、私の好みもそのあたりに範囲があるのだと確信するに至った。

The Queen’s Gambit2026/03/14 19:35

 お察しの通り、野球を見るために NETFLIX の契約をせざるを得なくなっている。F1 に関しては有料チャンネルで見ることにすっかり慣れてしまったが、野球となるとちょっとびっくりする。もっとも人気のあるスポーツでこの試みはどうだろうか。
 ただ野球をみるだけでは悔しいので、1ヶ月のうちに見たいものは見ておくことにする。
 そのうちの一つが、アメリカの NETFLIX オリジナルドラマ、「クイーンズ・ギャンビット」だ。1960年代を舞台に、孤児でありながらもチェスに天才的な力を発揮しするベス・ハーモンを主人公とする小説が原作だ。



 1960年代が舞台なので、当時はやった曲も登場した。キンクスが一曲あった以外は、それほど私の好み寄りではなかったが。
 高校で孤立していたベスが、チェスで名を挙げたために女の子グループのパーティに招待されたシーンで、テレビから流れるやや安っぽいポップスに、女の子たちが夢中になるのに対して、ベスが興ざめして立ち去るシーンが印象的だった。
 The Voguesが1965年にヒットさせた、”You’re the One” がその時の曲だ。




 もともとは、UKのポップ歌手ペトュラ・クラークの曲だそうだ。ペトュラ・クラークというと、モンティ・パイソンのスケッチによく出てくる、押しも押されぬ大スターだが、ポップスの域を出ず、ロックというわけではない。それでも当時UKの勢いはポップスの世界でもすごかったことがよく分かる。
 動画を探したら、60年代名物、脈絡なく背後でお姉さんたちがやたらと踊っていたので、嬉しくなってしまった。



 ドラマはというと、評判通り面白かった。ベスがその天才性を発揮するチェスのイメージ ― 架空のチェス盤にでコマが動く様子などはうまく表現できている。
 俳優としては、ベス役女優さんがとても素敵で良かった。着ている服もどれも素晴らしい。ジンジャーもよく似合っている。ベスと全米チャンピオンを競うベニーの役者さんは、「ラブ・アクチュアリー」のドラム少年だった。
 難を言えば、60年代で「精神安定剤」という緑の薬に加えて大酒飲みときたら、もっとどぎついドラッグも身近だったのではないかという疑問点だろうか。ベスを手助けするハリーはもっと素敵な容姿でも良いと思うが…まぁ、最初の印象が悪い人なので、わざとなのか。
 東西冷戦とチェスと言えば、ボビー・フィッシャーが現実の世界では有名なので、このドラマは彼が存在しない世界という設定なのかと思った。しかし、予告されているシーズン2によると、どうやらボビー・フィッシャーが登場するらしい。フィッシャーは60年代、一時的に活動せず、世に出ていなかったので、シーズン1はそのフィッシャー不在時代を描いたということにしたようだ。
 シーズン2で伝説の天才ボビー・フィッシャーと、ベスがどんな関わりになるのか、面白そうだ。ついでにどうしてベニーが全米チャンピオンなのに貧乏ぐらしをしているかの謎も解明してほしい。(ギャンブルがどうのこうのと言っていた気はするが…)
 そうすると、私は野球が終わっても NETFLIX を契約するのか?未定だ。

David Crosby: Remember My Name2026/03/06 20:29

 2019年のドキュメンタリー映画、[David Crosby: Remember My Name] を見た。制作の一人は、おなじみのキャメロン・クロウである。



 ソロアルバムの制作や、ツアーに勤しむ78歳くらいのクロスビー。愛する家族と過ごす素敵な家で、上機嫌にインタビューに答えている。
 曰く、冴えない太った少年だったクロスビーは、ギターを手に入れて歌い始めると俄然その存在が輝き始める。映画全体を通じてもっとも印象的だったのは、クロスビーの力強く、つややかで、唯一無二の、その歌声である。
 彼は1941年生まれ、時代が時代である。またたく間にバーズという伝説のバンドの一員となり、その才能を発揮した ー と思ったらクビになった。その間、数枚のアルバムは発売しているのだが、人生の長さからすればあっという間かもしれない。ある日、バーズのメンバー2人がポルシェでクロスビーの家に乗り付けて、クビを宣告するところなどは、アニメーションを使っている。

 面白かったのは、クロスビーがバーズをクビになった後、船を買って海に出るという彼の独自の生き方だ。60年代ロックンローラーのなかでそういうタイプはあまりいない。

 やがてグレアム・ナッシュと運命の出会いをするのだが、彼のことを「どこの誰かも知らなかった」とのこと。そこにスティーヴン・スティルスも加わって、CS&N の結成である。若い頃のスティルスという人は、モンキーズ候補になっただけあって、歯並びと頭髪に問題がある以外はなかなかの美男子だ。
 レコーディングの合間、バルコニーでなにやら言い合うクロスビーとナッシュ。言い合いなのだが、その2人の声がまた良い声なのが面白かった。ナッシュの声が高い…!

 クロスビーと女性たちとの関係も語られている。特にジョニ・ミッチェルに関しては興味深かった。それにしても、早々にバーズをクビになるし、CS&Nもナッシュの人格で保たれていることは誰でも知っていそうだが、そこにジョニ・ミッチェルとは劇薬混ぜるな危険という感じだ。
 ある時の恋人が若くして事故で亡くなったとき、深く悲しむクロスビーを、仲間たちが献身的に支えたという話が泣かせる。音楽的才能が豊かでありながら、人間性に多少問題のあるクロスビー。でも、友人たちにとっては放っておけない存在だったのだろう。

 ウッドストックに限らず、60年代末から70年代のライブシーンが素晴らしかった。CS&N (もしくは CSN&Y)というと、美しいハーモニーが特徴だが、ライブでの熱さ、パワフルさも決して引けを取るものではなかったようだ。CS&Nのアルバムは何枚か持っているが、ライブ・アルバムは持っていない。何か良いものがあったら買ってみようと思う。

 60年代から蓄積していった薬物の問題は、クロスビーの命こそ奪わなかったものの(不思議なことに)、人生を破滅させようとしていた。とうとう1985年に逮捕、収監された。刑務所で完全に薬物と縁が切れたかどうかは知れないが(あまり信じていない)、クロスビーは社会復帰し、また仲間と音楽活動を始める。

 普通なら、90年代を経て21世紀も、歳を取りながら円熟した演奏を聴かせ続ける ― と思ったら、その後に波乱があるのがクロスビーのある意味すごいところである。
 私も見た2015年の来日公演後、北欧でのCS&Nのツアーで、長年クロスビーを許し、守ってきたナッシュが耐えきれなくなり、完全な決裂となったのだ。しかもステージ上で。原因はたぶん自分にあるのだろうというクロスビー。
 以降、彼はかつての仲間から完全に孤立してしまっているという。ナッシュも、ロジャー・マッグインも、スティルスも、ヤングも。彼らの連絡先も知らないし、また一緒になにかやる見込みはまったくないという。
 自分でも分かっているようだが、やはりクロスビーはかなり強烈な個性の持ち主で、人と上手くやっていくのが得意ではないのだ。映画の随所に表れるのだが、彼は怒りの処理が苦手だ。悪感情を持つと、決めつけが激しく、場をわきまえずに強い表現で(そして汚い言葉で)罵倒してしまう。「正直に生きる」といえば聞こえが良いが、人間は思いやりなしには一緒にいることは出来ない。
 若いミュージシャンと音楽活動を続けるクロスビーの姿で、映画は終わる。持病が多く、いつ死んでもおかしくないと言っていたが、実際に彼が亡くなるのは4年後のことだった。友人たちと決裂したままというその死が、ちょっと寂しい。でも愛する家族はいたのだから、彼なりに幸せだったことだろう。

 蛇足ではあるが、仲間の連絡先を一つも知らないクロスビーを思うと、ある日突然、ボブ・ディランから電話がかかってきて、「バンドを頼む」といわれるマイク・キャンベルってすごいなと、改めて感心した。

Con Te Partirò2026/02/23 19:43

 オリンピックが終わり、そして私が夜中の3時に起きてはぎゃあぎゃあ騒ぐ生活も終わった。ふぅ、やれやれ。

 今回の大会でもっとも印象的な場面の一つとなった、フィギュアスケートのペア。私はもちろんショート・プログラムを生で見ていたのだが、日本のエースペア、三浦・木原の例の大きなミスによる出遅れで、すっかり絶望してしまった。フリーを生で見るかどうか迷ったが、やがて女子が始まり、全て生で見ることを考えると、体力を温存したい。そういうわけで、フリーを見ずにオフィスに出勤してしまったのだ。ところがフィギュア仲間から「朝からアゲアゲだ!」というテキストが届く。その瞬間から、私は全ての情報を遮断して猛烈に仕事をし、4時にオフィスを飛び出して帰宅すると、後半2グループ8ペアの演技を録画で一気に見たのだった。
 そんなの、りくりゅうの演技だけを動画で見れば良いじゃないかと笑われたが、フィギュア・スケート・ファンはそうはいかない。彼らだけでなく、その前後も見ての流れを鑑賞しなければならないのだ。
 改めて言うまでもないが、木原と三浦は本当によくやった。ペア・カップル種目が苦手な日本において、奇跡的な大躍進を遂げた。思えば28年前、長野オリンピックでの、国辱モノの演技が嘘のようである。このままペアも競技人口を増やしていってほしい。

 アイス・ダンスも全て堪能。前半リズム・ダンスの規定テーマが、90年代エレクトロダンスミュージックだったのは、かなりきつかった。一組や二組は我慢できるが、全員となると、やっぱりきつい。その分、フリーダンスの充実ぶりが堪能できた。
 残念ながら、日本のアイスダンスは世代の谷間にはいってしまい、個人での出場がかなわなかった。しかし、高橋大輔がアイスダンスに転向したのを期に、アイスダンス気運は高まっている。これからが楽しみだ。私の理想は、シブタニ兄妹のキレのあるダンス。期待している。

 女子シングルは本当に素晴らしかった。男子とは対照的に、最終組はミスのすくない好演技が続いた。ペトロシアンが4回転トウループで転倒した以外に、転倒者がいなかったのだ。そのため、順位ごとの点差は極僅差で、どのスケーターも称賛に値する。
 三位の中井が、あのフリーの点数で銅メダルを取れたのは、ひとえに高難度ジャンプ3Aのおかげだろう。かなり安定感があるので、これからも伸びていってほしい。残念ながらメダルに届かなかった千葉も素晴らしかった。特にSPの出来は満点で、ドナ・サマー対決としては、千葉に軍配を上げたい。
 金と銀の差は本当に紙一重だった。コンビネーション・ジャンプの後半が抜けるという、ミスとしてはかなり大きなミスをした坂本だが、その他は他を圧倒 ー 特に演技構成点、スケーティングは抜きん出ていた。金メダルを取れなかったのは悔しいだろう。でも、彼女がこの8年間で成し遂げた功績は大きい。
 女子シングルは、ドーピングによって真っ平らな幼児体型の17歳か18歳の少女が4回転を飛びまくって勝つという、スポーツとしては非健康的な状況が続き、スケーティングの粗さや、振り付けのいい加減さ、技の出来栄えの軽視などが著しかった。
 それが世界情勢の変化とともに、変化を余儀なくされ、坂本やアリッサ・リウ、アンバー・グレンといった、「アスリートとして鍛えられ、引き締まった、でも人間として普通の」体型のスケーターが、技とスケーティングの完成度で切磋琢磨するようになった。今回のオリンピックがその頂点にあるのだと思う。
 今季で引退する坂本が選んだ曲 “Con Te Partirò” が歌うように、これからまた新たな旅が始まる。それが中井や、島田などが挑む3Aや四回転の世界だ。坂本花織という一時代を代表するスケーターが実現した、完成度の高い美しいスケーティングが、受け継がれつつ、ジャンプもまた難易度を高めていってほしいと、願ってやまない。

Paint It Black2026/02/15 15:11

 オリンピックの男子シングルはとんでもない大荒れの展開となった。

 ショート・プログラムまでは、予想の範囲内。鍵山がミスするとは思わなかったが、ぎりぎり2位になり、マリニンが1位は当然。
 ところがフリー・プログラムの最終組が、総崩れ。私が銅メダルの候補の一人に上げていたシャイドロフだけが、軽微は着氷ミスで済み、コンビネーション・ジャンプの後半を四回転にするという離れ業をやってのけたのだが、その他は本当に総崩れだった。
 地元期待のグラスル、団体を回避したアダム・シャオ・イム・ファ、本来は安全安定の鍵山までミス連発。
 こうなったらラスボスに締めてもらおうと思ったら、そのマリニンがとんでもない大崩壊。あそこまでの大崩れは珍しかった。おそらくこの事件は、長く語り継がれるだろう。

 結果として、もっともミスを少なく抑え、複数四回転を成功させたシャイドロフが金メダル。おめでとう!デニス・テン以来のカザフスタンからのメダリスト。私もコンビネーションの後半に四回転が欲しい派なので、彼の勝利はとても嬉しい。
 鍵山はショートの貯金のおかげで、なんとか2位に引っかかったという感じ。そして「男は黙って4Lz」佐藤駿!彼は団体戦に続き、本当によくやった。初めてのオリンピックでここまでやれるとは。彼にとって取ることの出来なかった団体戦の「オプション金」は個人の銅メダルとなり、報われた。

 明日の朝からはペア。日本のペアはショートの曲に ”Paint It Black” を使っている。アイスダンスの銀メダルカップルも、実は “Paint It Black” だった。この曲、何回かまえのオリンピックシーズンから使われていて、隠れた人気曲である。
 メロディの複雑さよりも、雰囲気とドライブ感に特徴のある、ストーンズ初期の曲。ブライアン・ジョーンズがシタールを弾いていることでも有名だ。  さぁ、明日の明け方。日本の「りくりゅう」ペアは “Paint It Paint” でどんな仕上がりを見せるだろうか。楽しみだ。

Hallelujah2026/02/07 19:45

r  いよいよ、冬季オリンピックが始まった。フィギュアスケート・ファンとしては最大の注目イベントである。もう昨日からテレビにかじりつき、ぎゃぁぎゃあ大騒ぎ。明日の早朝も起きてみるつもりだ。まだ団体戦なのにこんなに盛り上がってしまって、どうするつもりだろう…

 フィギュアスケートで使用される曲には流行りがある。浅田真央が強かった頃はショパンがよく使われていたし、ワンシーズンに日本人が「オペラ座の怪人」を三人も使ってしまい、「オペラ座問題」などと言われたものだ。ほかには、ベートーヴェンの「月光」や、ドビュッシーの「月の光」なども人気曲だ。
 前回のオリンピックあたりから、採用する人が多くなったのが、”Hallelujah” ー もちろんヘンデルではなく、レナード・コーエンの ”Hallelujah” である。もっとも、コーエンのオリジナルを使う人はいない。さすがに踊りにくいだろう。



 使われたのは、まずジェフ・バックリーのバージョンだった。切々として、シンプルで美しい。



 今シーズンも2人くらいはいると思うが、女声と男性コーラスだっと思う。男性コーラスはベルカントの大人数でやる、最近のスタイルで私の好みではないが。

 検索していて知ったのだが、なんと1988年のライブではディラン様がカバーしていた。わぁお、これは聴かねば。



 さすがはディラン様!素晴らしく格好良い。まさに絶唱だ。フィギュアスケートには使えないが、私の心に一番突き刺さるのは、結局ディラ様なのだった。

 さて、フィギュアスケートは、女子シングルの順位争いが熱くなるだろう。なにせ、団体の予選をやっただけでも、どの選手もしっかりピーキングをしてミスのない演技が連発されている。期待大。
 今シーズンのこれまでの戦いで、ほぼアリサ・リウ、アンバー・グレン、坂本花織のメダル争いと見られていたが、ロシアから戦争に対する中立表明で出場するアデリア・ペトロシャンの出場でわからなくなった。なんでも、トリプルアクセルと、三つの四回転が跳べる…らしい。まともに評価されれば金メダル候補だが、今のジャッジはジャンプの完成度とスケーティングの美しさに重きを置いているので、さぁどうなるか。
 この2週間、私は未明の観戦を何度も繰り返すことになる。選手と一緒に私も頑張るぞ…!

Let the Good Times Roll2026/02/01 19:28

 ボブ・ディランのブートレグシリーズ Vol. 18 [Through the Open Window] を購入。バカでかい箱にはこりているので、CD二枚のコンパクトタイプにする。
 最初の一曲は、1956年 ー ディランまだ15歳のときの、プライベート音源。とても印象的だった。曲は “Let the Good Times Roll” ー シェリー&リー が同年に発表した曲なので、ロバート少年は最新ヒット曲を録音したことになる。



 この曲、どこかで聴いたなぁと記憶をたどると、ハリー・ニルソンの録音だった。



 ほかにどんなカバーがあるのかと検索してみると、ロイ・オービソン御大があった。もっとも、彼のあの美声の魅力を活かしているとは言えないと思うが…



 ディランにとってはとてもお気に入りの曲だったらしく、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズとのツアーでも披露している。



 残念ながらディラ様とトムさんのツインヴォーカルを楽しめる!というけではないが、このコラボレーションらしい格好良い仕上がりだ。

Rafal Blechacz2026/01/27 19:45

 昨日、ミューザ川崎シンフォニーホールに、ラファウ・ブレハッチのピアノ・リサイタルを聞きに行った。
 普段、コンサートというと紀尾井やサントリーが行動範囲なので、ミューザは久し振り。こけら落とし公演以来ではないだろうか。

 実は、ブレハッチというと、せいぜい2005年ショパン・コンクール優勝者のポーランド人で、ご多分に漏れず道に迷うとバッハを弾くという以外、特に知識も興味もなかった。
 ただ、ある日職場の近くの道を歩いていると、このリサイタルのパンフレットが非常にきれいな状態で落ちており、それをじっと見てしまったので足を運んだというわけだ。

 端的に言って、すんばらしい演奏だった。ものすごく良かったと思う。
 プロのピアニストでさえ、ピアノはぶっ叩いてなんぼという向きがあるのだが、この長身痩躯の青年 ―でもなくなったか。20歳で優勝してから20年経っている ― は、実に力の抜けた、静かで、柔らかな指使いでベートーヴェンの厳格さも、シューベルトの繊細さも幅広く表現しきっていた。
 「月光」は挨拶代わりというところだろうか。シューベルトの即興曲がまた良かった。特に 3番 の美しさがぐっとくる。シューベルトは敬遠している私だが、次に練習する曲候補の第一位に躍り出た。
 ブレハッチの演奏で紹介したいところだが、動画がなかったので、ここはホロヴィッツ御大にご登場いただこう。



 ここまでが前半。後半はショパンづくしである。舟歌、バラード3番、マズルカ3曲、そしてスケルツォの3番である。
 可笑しかったのが、聴衆の反応が前半とはまるで違っていたことである。ショパンを弾くと俄然、大盛り上がりで拍手も大音量だ。20年前とはいえ、ショパン・コンクール優勝者だから、ショパンの受けが良いのは当然なのだろう。そもそも、ピアノのリサイタルに来るような人は最初からピアノ好きであり、すなわちショパン好きなのだ。
 自分も弾いたことがあるバラードとスケルツォも良かったが、一番印象に残ったのは舟歌だ。これは私が憧れている曲でもある。一度先生にやりたいと言ったら、先生自身も師匠に習っていないからという、分かるような分からないような理由で断られたことがある。ブレハッチの素晴らしい演奏 ― とにかく優雅 ― を聴いた今、再度トライする価値はあるかもしれない。



 万雷の拍手を受けて、アンコール。さすがに他の作曲家だろうと思ったら、なんとショパンのワルツ7番だったので、ちょっとびっくりした。ちなみに、7番は私が生まれて初めて弾いたショパンである。そういう思い入れもあって、とても良い経験となった。



 最近は、ポリーニ、ブレンデルと相次いで巨匠が亡くなったピアノ界。これからブレハッチの全盛期を迎えるのだろうか。とても楽しみだ。