Mike Campbell's "Handle with Care"2023/09/02 22:42

 引き続き、全国で絶賛上映中 CFG こと 「コンサート・フォー・ジョージ」。
 私は何十回も DVD で完全版コンサートを見ていたので、このたび改めて映画を見て驚いた点がいくつかあった。そのひとつが、あの名場面 "Handle with Care" がトムさんのインタビューで中断することだ。
 トム・ペティのことをよく知らない人のために言っておくが(そう方がこのブログを読むとは余り思わないが…)、この時のトムさんは、全米ツアー中にロンドンに飛び、大急ぎで CFG に加わり、また大急ぎでアメリカに戻るという、強行スケジュールだった。さらにこの2001年から2002年ごろに彼は体重をかなり落としており、要するにお肌の艶が人生で最悪の時なのだ。あのインタビュー映像は、いつもはもっと女優然としているトムさんにしては、かなりお疲れモードのビジュアルである。
 ともあれ、ウィルベリーズ・エピソードを語るトムさんのインタビューは、映画に入れたい。でも尺の問題で致し方なく "Handle with Care" に重ねることになったらしい。
 ジョージの公式動画にこの演奏はフルでアップされているので、ぜひとも鑑賞してほしい。



 何もかも素晴らしすぎて、言うべきことはたくさんあるが、ここではハートブレイカーズのリード・ギタリスト,マイク・キャンベルに注目したい。
 長年、トムさんのパートナーだったマイクは、そのデビュー当時から寡黙で静かなキャラクターで、決して歌うことはなく、ギター・プレイに徹してきた。そして彼のヒーローだったジョージとの友人関係は、彼の人生に大きな影響を及ぼした。
 ジョージは独特のメロディックなスライドギターの名手で、その音色を聴くとすぐに「ジョージだ!」と気付くのだが、マイクはそのジョージ・スライドを再現できるギタリストとしては筆頭に来る人だろう。
 そのことを証明したのが、この CFG でのスライドギターだった。これほどジョージへの尊敬を愛情を込め、丹念に演奏されたギター・ソロはない。CFG には名だたる名ギタリストが大勢出演しているが、やはりマイクの "Handle with Care" は出色であった。

 後年、マイクは所有するギターの話をした動画で、グリーン・ストラトキャスターとともに、ウィルベリーズのセッションに参加した話、ジョージの名演、それを再現する思いをかたっている。



 その後、"Handle with Care" はトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのライブ・ナンバーの定番となった。マイクはギターソロを弾き終えると、いつも天を仰ぎ、想いをジョージに捧げていた。
 ちなみに、若い頃からずっとカーリー・ヘアだったマイクが、突如ドレッドになったのは、CFG の後からで、自らのバンドで歌い始めたのも、この時期だった。ハートブレイカーズファンは、「歌うの?マイクが?」と驚いたものだ。
 ジョージの死というのは、マイクにとって人生における一つのポイントだったらしく、実は2017年にトム・ペティという相棒を失った後の彼の人生を支える要素もまた、ジョージの死後から形成されていたように見える。

 素晴らしいミュージシャンたちの、それぞれの人生、それぞれのジョージとの友情、そういうたくさんの想いの詰まった CFG。是非とも映画館で、そしてDVDで完全版を鑑賞して欲しい。

Hackney Diamonds2023/09/07 19:59

 ザ・ローリング・ストーンズが、来る10月20日に18年ぶりのニュー・アルバム [Hackney Diamonds] をリリースすることを、華々しく発表した。ロンドンのハックニーにジミー・ファロンを呼びつけ、ミック、キース、ロニーが揃って楽しい発表会
 そもそも、ジミー・ファロンによる予告動画からして大好きである。エアロスミスの時も出てきたけど、キャリアのあるバンド専用アナログ電話回線ってものがあるらしい。



 ハックニーは、ロンドン市内,シティの北東地区で、ザ・マイティ・ブーシュの舞台としての印象が強い。ロンドンから出発した若きストーンズは、高い税金を逃れてフランスへ行ったり、アメリカに行ったり、世界中を回って、そうしてロンドンに戻ってきた。
 新譜のうち、2曲はチャーリー・ワッツがドラムスを録音した時期の(2018年って言ってたかな?)作品であり、ほかは全てスティーヴ・ジョーダンによるドラムスだという。果たして、チャーリー亡き後のストーンズは、ストーンズなのだろうかという疑問も当然あるだろう。しかし、こうしてステージに三人が元気に、しかも格好良く揃っていると、「ストーンズではない」とは、なかなか断言しにくい。
 長いキャリアのバンドに、メンバーチェンジや欠員はつきものである。それに、いま居るストーンズをストーンズとして楽しまないと、ロック・ファンとしては惜しすぎるだろう。たぶん、チャーリーも楽しんで欲しいと願っている。

 早速お披露目されたミュージック・ビデオとともに "Angry" を鑑賞。メンバーも言っていたが、リフが最高に格好良い。
 ちょっと面白かったのは、Bメロへの移行で、コードがメジャーに「開く」感じが珍しいと思った。ストーンズの曲はどちらかというとタイトなコードに徹する印象があったので、こういう軽い展開は興味深い。



 さて、新譜の発表となると、当然だれもが考えるのが、サポート・ツアーである。ストーンズの新譜ともなると、大々的なワールド・ツアーが想定されるのだが… 小規模になる可能性もある。北米とヨーロッパのみとか、もしかしたら UK 限定かもしれない。そうなったら、私は飛ぶ。確実に飛ぶ。

I Need You / Lolas2023/09/16 19:16

 CFG こと、映画「コンサート・フォー・ジョージ」は、引き続き全国で絶賛上映中。映画を見たら、DVD, Blu-rayを入手して、完全版コンサートの鑑賞が、断然お薦めだ。カットされた楽曲の演奏シーンや、構成の上手さ、号泣もののラストシーンは全ロック史におけるライブ映像の中でも出色の存在だ。

 演奏シーンがカットされた曲の中で、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの "I Need You" も、とても素晴らしい。
 "I Need You" はジョージの楽曲歴としてはごく初期に分類され、CFG で演奏されたジョージの曲の中ではもっとも作曲年代が古い。ビートルズの映画 [Help!] に演奏シーンが登場し、ジョージのアンニュイで沁みる心情がとてもよく伝わってくる。



 この曲を選んだトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのセンスも優れているし、心を込めて歌い上げるトムさんの声が切ない。ジョージとの思い出をかみしめながら、天上のジョージにムカって歌いかけるトムさんの表情も必見だ。

 2001年にジョージが亡くなってから、たくさんのトリビュート録音,アルバムが作られたが、その中でも若手ミュージシャンが中心となった [He Was Fab / A Loving Tribure to George Harrison] は私のお気に入り。このアルバムで、"I Need You" をカバーしたのが、ローラス Lolas である。
 ちょっとリバーブを効かせすぎのきらいもあるが、軽快で美しく、爽やかな作品だ。



 ちょっと気になったので ローラスをチェックしてみた。ジャンルとしては、パワー・ポップ、パンクの要素もあり。でもかなりコーラスワークを重視しており、ザ・バーズやビートルズ色が濃い。
 日本ではやや CD の手に入れにくい状況にあるようだが、かなり興味をひかれたので、探してみたいと思う。どうも、デジタル音楽ファイルだけというのはイヤで、CD が欲しい性質なのだ。

Music for Lovers2023/09/20 21:21

 スポーツをテレビで見るのが好きだ。音楽は実行型(自分でも演奏するし、コンサートにも出かける)なのに対して、スポーツはテレビで楽しむのが一番性に合っている。
 この季節、野球はまだもう一盛り上がりだし、F1 もまだまだ、しかも今年はラグビーのワールドカップもある。四年前も書いたが、ラグビーは子供の頃から好きなのだ。そしてフィギュアスケートもシーズンが始まりつつある。大忙しだ。
 フィギュアスケートはまだ練習試合程度だが、来月には GP シリーズで本格化だ。いまのところ、各スケーターの曲などをチェックしている。

 私のお気に入り坂本花織は、フリーでニーナ・シモンのメドレーを使う。これはかなりクール!男子でニーナ・シモンを使うひとはいるが、女子ではなかなかのチャレンジになるだろう。
 先日の試合の動画を見ると、雰囲気はかなり良さそう。出来はまだまだで、ジャンプも失敗しているので、これからの更なる仕上がりに期待できる。ショートの曲は…まぁ、それほど悪くないが、作曲者名は伏せられてた方が良かった。まぁ、フリーとのコントラストとしては良いのではないだろうか。

 ニーナ・シモンといえば、ラジオの「サンシャイン・ミュージック・フェスティバル」(実際のミュージック・フェスに行かなくても楽しめるような、ライブ音源の特集番組)での、"Music For Lovers" (1966 Live at Newport Jazz Festival)が素晴らしく良かった。
 イントロで、観客が "Come on!" と声を上げたのに対して、"Shut up, shut up!" と返すところが良い。「お黙り!」といったところだろうか。



 スタジオ録音ではオルガンを使った曲だが、断然このアコースティック・ピアノのヴァージョンが素晴らしい。さりげないパッセージも天才的で、こうのうはニーナ・シモンとかモーツァルトにしかできないのだろう。
 よくメディアなどではただスケール内のハーモニーを定型のまま派手に鳴らしているだけで、「すごいピアノ」などともてはやされているのを見るが、ああいうのは実のところ大したことはなく、本物の天才というのは、ニーナ・シモンやモーツァルトのことである。

セブが鈴鹿にやってきた、ヤァ!ヤァ!ヤァ!2023/09/24 19:41

 去年、セバスチャン・ベッテルが引退して以来、すっかり F1 関連の記事はご無沙汰である。
 もちろん、全レースを観戦しているが、やはりセバスチャンがいない F1 は寂しい。しかもチャンピオン争いはまったく面白くなく、独走状態の彼は、数少ない「好きでははいドライバー」なのだ。彼以外ならほぼ全員応援しているんだけどなぁ…
 救いは、シンガポールでフェラーリが優勝したこと、お気に入りのノリス君がシンガポール、日本と連続で2位だったこと。チャンピオン争いは、諦めるとして、残り数レース、少しでも面白いレースを魅せてくれることを期待している。

 一方、わがセバスチャン・ベッテルは引退してインスタグラムを更新しつつ、マイペースな活動を続けている。
 セブがとりわけ愛している鈴鹿では、"Buzzin' coner" 「コーナーを飛ばせ!」と題して、F1 公式に食い込んで生物多様性へ啓発活動を行った。
 鈴鹿の2コーナーの縁石をミツバチ色にする男、セバスチャン・ベッテル。コーナーの内側に、自ら道具をふるって手伝った「虫さんホテル」を設置(日本の伝統的な手法で、伊勢神宮風の作り)し、地元との子供達とも交流してペイント会。
 しかも、全20名のドライバーを動員してこの「虫さんホテル」をチームごとにペイントしてもらって生物多様性への働きかけを F1 としてアピールした。ここまでできるのも、セブの人徳の賜物。アロンソやハミルトンも、セブのためなら喜んで集ってくれる。
 セブのインスタグラムではかなり長文の日本語でアピールしてくれた。ありがとう、セブ!

Sebastian Vettel and The Grid Build 'Bee Hotels' At Suzuka! | 2023 Japanese Grand Prix



 気候変動問題、生物多様性問題、人権問題、戦禍、貧困、飢餓。そのほかにもいろいろ、この世にはたくさんの問題がある。人気者がその影響力を利用して、問題を解決へ向かわせるための、より良いムーヴメントを起こそうというのは、ジョン・レノンやジョージの例のように、何十年も昔から行われている。
 昨今、問題解決をアピールしたいあまり、かえって人々の心を逆行させる活動家がいる一方で、セブは賢く、考え深く、そして自分が身を置いた F1 の素晴らしき世界への賛辞を惜しまずに行動している。彼の愛する F1 も、どこかで多様な問題と折り合いをつけなければならない。エンジンのハイブリット化はその一環だったし、セブがいま力を入れている環境に優しい新しい燃料へのアプローチも、遠からず F1 に影響してくるだろう。
 私は今後50年、100年と F1 が続き、その面白さが継承されると良いと思っている。その一方で、このスポーツは政治、経済、テクノロジーのスポーツであり、自然環境への負荷をかけるスポーツでもある。どこかで折り合いをつけなければならない。その点を、セブはあの人なつっこい笑顔で、分かりやすくメッセージにして伝えてくれている。
 私はできる限りでセブのサポートをしたい。というか…ええ、買いましたとも!"Race without trace" のフーディも、"Buzzin' corner" の T-シャツも!一体何ユーロ吹っ飛んだんだ?もうなんでもいいよ、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのボックス物と同じで、いくらでも出すよ!

 おまけ。セブの二択!
 プロストか、セナかで、セナを選ぶかと思ったけど、セブ曰く「フェアじゃ無いな、ぼくはアランとは知り合いだから」といって、両方とのこと。
 やっぱりセブの笑顔は最高だな…!

Bob Dylan on Guitar with The Heartbreakers2023/09/30 19:42

 すでに周知のとおり、2023年9月23日、インディアナ州ナッシュヴィルで行われたファーム・エイドに、ボブ・ディランがサプライズで登場し、エレキギターを奏で、“Maggie's Farm,” “Positively 4th Street” そして “Ballad of a Thin Man”の3曲を披露した。それだけでも大サプライズなのだが、なんとバンドはザ・ハートブレイカーズだったのだから、もう驚天動地の出来事であった。

 無論、「ハートブレイカーズ」は正式にはハートブレイカーズではなかった。マイク・キャンベル&ザ・ダーティ・ノブズの現在のドラマーがハートブレイカーズのスティーヴ・フェローニであり、そこにキーボード・ゲストとしてベンモント・テンチが加わったのである。
 しかし、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのファンとしては、これはどう見てもハートブレイカーズであり、ボブ・ディランとの伝説のコラボの再現であった。

 演奏そのものの感想としては、ディラン様がもっとギターを練習しておいてくれていたら更に良かった。長年ライブではピアノを弾いていたせいか、ディラン様のギターが調子っぱずれで、ほとんど無調状態なのだ。でもまぁ、それはご愛敬だ。ヴォーカルは春に東京で見たとおりかなりイケている。
 何が重要かと言えば、ディラン様がロックに帰ってきたこと、ハートブレイカーズと共演したことだ。多くのロックスターが高齢になり、この世を去る人もある中、もうほとんど不可能と思われたディランとハートブレイカーズの共演。奇跡的だと言って大袈裟ではないだろう。
 トム・ペティの死後、マイクはハートブレイカーズが別の誰かをヴォーカルに迎えて活動することは、想像できていないと言っていた。実際彼はフリートウッド・マックに加わったり、ザ・ダーティ・ノブズで自ら歌いまくったりして、相棒亡き後の音楽活動を様々に試してきた。
 しかし、ここにきてなんとボブ・ディランをヴォーカルに迎えて、彼の曲を演奏したのだ。



 トム・ペティの死後、彼へのトリビュート・パフォーマンスは数知れず、ちいさな規模の追悼コンサートも行われていただろう。しかし、「コンサート・フォー・ジョージ」のような大々的、かつハートブレイカーズも加わっての追悼コンサートは行われていない。今回のディランとハートブレイカーズの共演は、その呼び水なのではないかと、かなり期待している。
 さらに興味があるのが、今回そういう経緯でこの共演が実現したのかという点だ。誰かディランとハートブレイカーズ両方を取り持てる仲介者がいたのか?ディラン様が気まぐれにハートブレイカーズ(ベンモント、もしくはマイク?)に声をかけたのか。
 私はマイクが首謀者ではないかとも思っている。彼はもともと無口で大人しく、控えめなキャラクターだが、その実いちど仲間になった人とのつながりをしっかり保持して、思わぬ所でその人脈を生かすという特技がある。そもそも、オリジナル・ハートブレイカーズ結成 ―― つまり、トムさん&マイクのコンビと、ベンモント及びその協力者をつなげたのは、実はマイクだったのかも知れないと。これはごく個人的な見解である。

 トム・ペティが突然この世を去り、世界はパンデミックに襲われ、そして今年、ストーンズが再始動し、ディランがエレキギターを弾きながらハートブレイカーズと共演する。もうひと波来そうだ。