Bob Dylan on Guitar with The Heartbreakers2023/09/30 19:42

 すでに周知のとおり、2023年9月23日、インディアナ州ナッシュヴィルで行われたファーム・エイドに、ボブ・ディランがサプライズで登場し、エレキギターを奏で、“Maggie's Farm,” “Positively 4th Street” そして “Ballad of a Thin Man”の3曲を披露した。それだけでも大サプライズなのだが、なんとバンドはザ・ハートブレイカーズだったのだから、もう驚天動地の出来事であった。

 無論、「ハートブレイカーズ」は正式にはハートブレイカーズではなかった。マイク・キャンベル&ザ・ダーティ・ノブズの現在のドラマーがハートブレイカーズのスティーヴ・フェローニであり、そこにキーボード・ゲストとしてベンモント・テンチが加わったのである。
 しかし、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのファンとしては、これはどう見てもハートブレイカーズであり、ボブ・ディランとの伝説のコラボの再現であった。

 演奏そのものの感想としては、ディラン様がもっとギターを練習しておいてくれていたら更に良かった。長年ライブではピアノを弾いていたせいか、ディラン様のギターが調子っぱずれで、ほとんど無調状態なのだ。でもまぁ、それはご愛敬だ。ヴォーカルは春に東京で見たとおりかなりイケている。
 何が重要かと言えば、ディラン様がロックに帰ってきたこと、ハートブレイカーズと共演したことだ。多くのロックスターが高齢になり、この世を去る人もある中、もうほとんど不可能と思われたディランとハートブレイカーズの共演。奇跡的だと言って大袈裟ではないだろう。
 トム・ペティの死後、マイクはハートブレイカーズが別の誰かをヴォーカルに迎えて活動することは、想像できていないと言っていた。実際彼はフリートウッド・マックに加わったり、ザ・ダーティ・ノブズで自ら歌いまくったりして、相棒亡き後の音楽活動を様々に試してきた。
 しかし、ここにきてなんとボブ・ディランをヴォーカルに迎えて、彼の曲を演奏したのだ。



 トム・ペティの死後、彼へのトリビュート・パフォーマンスは数知れず、ちいさな規模の追悼コンサートも行われていただろう。しかし、「コンサート・フォー・ジョージ」のような大々的、かつハートブレイカーズも加わっての追悼コンサートは行われていない。今回のディランとハートブレイカーズの共演は、その呼び水なのではないかと、かなり期待している。
 さらに興味があるのが、今回そういう経緯でこの共演が実現したのかという点だ。誰かディランとハートブレイカーズ両方を取り持てる仲介者がいたのか?ディラン様が気まぐれにハートブレイカーズ(ベンモント、もしくはマイク?)に声をかけたのか。
 私はマイクが首謀者ではないかとも思っている。彼はもともと無口で大人しく、控えめなキャラクターだが、その実いちど仲間になった人とのつながりをしっかり保持して、思わぬ所でその人脈を生かすという特技がある。そもそも、オリジナル・ハートブレイカーズ結成 ―― つまり、トムさん&マイクのコンビと、ベンモント及びその協力者をつなげたのは、実はマイクだったのかも知れないと。これはごく個人的な見解である。

 トム・ペティが突然この世を去り、世界はパンデミックに襲われ、そして今年、ストーンズが再始動し、ディランがエレキギターを弾きながらハートブレイカーズと共演する。もうひと波来そうだ。