ギター制作者は語る2024/12/03 21:09

 Heartbreakers Japan Party さんが、10月に LA を訪れた際、高名なギター制作者である、かねてから交流のある入戸野徹(にっとの とおる)さんを尋ね、そのときのレポートがアップされている。とても面白いので、ぜひ読んで欲しい。

Toru Nittono Guitars Report – You And I Will Meet Again(2024)

 トム・ペティ、マイク・キャンベル、そして彼らのギター・テックであり、ローディであり、友人だったアラン・”バグズ”・ウィーデルが絶大な信頼を置くギター制作者が入戸野さんだ。どんなにひどい状態のギターでも、入戸野さんならどうにかしてくれるという、いわば「最後の砦」。だったら、もっと早く持ってこいという本音がすごくよく分かる。

 トムさんの印象として、最初に使われたのが「優しい」という言葉なのが印象的。そう、トムさんって大人しくて優しい雰囲気が、ファンとしてもたまらない。ロックンローラーだからって、尖っていたり、つっけんどんだったりする必要はなくて、基本的な人格として「優しい」ってポイントが高い。
 しかし、いわゆる「こだわりが強い」というやつで、これは本来のややネガティブな意味合いだろう。弦は長く張っていればいればいるほど良いと思い込んでいる辺り、理屈が通じない。張り替えると「MOJO が消える」という謎の信条。

 さらに「こだわりが強い」のがマイクだというのだから、手に負えない。有名なブロードキャスターのネックを絶対に清掃させないという…!
 マイク曰く、「MOJO が消える」 ―― それはもう聞いた!

 こちらは1977年6月の Rockplast ――
 もともとマイクのストラトキャスターをトムさんが弾いて、代わりとしてマイクが入手したブロードキャスターの組み合わせだろ思うのだが、どうだろう。ネックはまだきれいだ。

 

Last Dance2024/12/09 19:56

 2024年のF1 GPが全戦終了。コンストラクターズ・チャンピオンにはマクラーレンが輝いた。ランド・ノリスの Pole to Win は圧巻で、来年のさらなる活躍を予感させるものだった。いまから来シーズンが楽しみだ。ただ、ランドは性格が良すぎるのが心配。あのセバスチャンだってアレコレやらかしている。gentle 過ぎると、F1 ワールド・チャンピオンにはなれない。それとも、あの良い性格のまま、ぶっちぎりで勝ち逃げてくれるか。それはそれで、私の心が穏やかで良いのだが。
 フェラーリの復活も今年を面白くしてくれた。二人のドライバーがどちらも脂ののった時期にきていたし、フェラーリ名物の不手際も最小限で、良かったと思う。
 レッド・ブルは前半に絶対的な強さを誇り、後半は強いのか弱いのかよく分からず、ドライバーによるのか、何かうまくマネージメントされていないのか、不思議な展開だった。こういうF1 の政治、経済、テクノロジーが現代の最高次元で駆使されつつも、びっくりするような失敗や悪循環があるようなところが好きだ。

 ルイス・ハミルトンは長年共に戦い、6度のワールド・チャンピオンとなった、メルセデスでの最後のレースとなった。特別なお別れセレモニーも許可されており、やはり格が違う。うっかり、引退でもするのかと勘違いしそうだが、来年はフェラーリ。サインツを押し出しての移籍だ。色々な意味でドキドキする。
 
 同じ週末に、フィギュアスケート・グランプリ・ファイナルが行われた。男子のフリーの録画を失敗するという凡ミス…!佐藤のフリー、見たいぞ!
 女子は、我が坂本花織が珍しく大舞台でミスり、男女ともアメリカが勝つという近年では珍しい展開になった。ジャンプはもちろんだが、調子の良い時に比べて、完成度がイマイチ。まぁ、坂本にも調子の悪いときはある。彼女が完璧な演技を揃えたとき、グレンがどんな点をたたき出すのか、二人の勝負が楽しみだ。グレンには 3Aというかなり確実性の強い必殺技があるが、演技構成的には坂本に劣る。世界選手権では良い勝負になるのではないだろうか。

 今回のGP ファイナルで目立ったのは、なんと言っても女子2位の千葉百音だろう。あのコーチのところの選手としては、例外的にけっこう好き。特に今年の SP は凄く良い ―― というか、今年のGPシリーズの選曲のなかで、一番良いのが、千葉のSP ドナ・サマーの "Last Dance" だ。
 調べてみると、1979年のヒット曲とのこと。いかにもこの時代の最先端ポップスで、特に後半にアップテンポになるところが格好良い。千葉はかなり頑張っているが、もっと!もっと弾けて良い!こういうのは、高橋大輔、鈴木明子、友野一希という、私のなかの「三大ダンサー」を見習って、ぶっ飛ぶくらい弾けなきゃ!
 日本選手権が楽しみだ。

ピアノの修理2024/12/15 20:38

 ピアノの修理が必要になった。
 基本的に、ピアノというのは年に一度調律師さんに調律してもらえば、せいぜい鍵盤を拭くか、ほこりを払う程度のメンテナンスしか必要ない。音大やピアノの先生のところなら、調律が年に二回になったり、弦が切れたら取り替える程度のことだ。
 今回、私のピアノに生じた不具合は、鍵盤トップの象牙板が剥がれるという現象だった。

 そもそも、象牙というものは野生動物保護のために採取は禁止、1990年のワシントン条約で国際取引も禁止なので、新しくは入手できない。我が家のピアノは象牙が使えなくなる前、1985年製の K.Kawai KG-D5で、ピアノの鍵盤としては最後の象牙鍵盤に近いだろう。無論、新品で我が屋に来たのではない。ピアノは天下の回り物。私が高校生の時にやってきた。
 剥がれてみて分かったのが、KG-D5の象牙は2ピース(手前と奥)の継ぎ手ではなく、一枚ものであること。良い作りだ。



 とにかく大事なピアノの一大事である。すぐに調律師さんに連絡すると、実はベテランの調律師さんも象牙鍵盤のメンテナンスについては、確認を要するという。浜松(実際には磐田らしい)の工場に問い合わせるとのこと。とりあえず、割れないように養生テープで固定する。

 調律師さんは二日後にやってきて、まず前蓋を外し、鍵盤が載っている台ごと、前に引き出す。そしてハンマー部分を外し、鍵盤を固定しているネジを全てはずすと、やっと鍵盤が弾き出せるようになる。
 初めて知ったのが、第88鍵の右サイドにはでかでかと「象牙」と書いてある。







 調律師さんは、象牙が剥がれた鍵盤だけを持ち帰り、工房で象牙をはりつける。かつて象牙の接着には膠が用いられていたが、いまは工場から送られてきた、合成接着剤を用いるそうだ。
 抜き取ってから三日後、象牙がくっついた状態の鍵盤が戻ってきた。
 象牙の鍵盤は、剥がれでもしない限り、念のために貼り付け直すということはないとのこと。そのため、これから先、剥がれては直し、剥がれては直しが繰り返されるだろう。

 きょう、ウクレレの先生(ギタリスト)に会ったので、ギターの修理に使う接着剤を訊いてみたところ、「高級品には膠を使う」とのことだった。なんでも、化学合成接着剤は、伸び縮みしないので楽器が全体に固くなるのだという。部分的な修理にもちいると、その部分だけが固くなると言う現象が起きるそうだ。
 ピアニストが自分でピアノをメンテナンスするというのはあまり多くないが、ギタリストはどうだろうか。むしろ、作り始めるのではないかと思い、先生にギター作りに挑んだことがあるかと訊いたら、実はあるとのこと。しかし、あまりにも部品が多いことと、繊細な作業が多すぎるので、ギターを弾く時間がなくなってしまい、結局やめたそうだ。なんだか分かる気がする。

Samba2024/12/21 21:23

 フィギュアスケート全日本選手権である。一年で一番楽しみだ。
 今年の男子は、ショート・プログラムで現役一線選手が総崩れ。見事なまでに全滅状態だった。そんな中で、織田信成が話題をさらっている。
 そういう訳で、サンバとは何かというのをググっているのだが、これが以外とよく分からない。結局一番よく分かったのは、日本人の方の説明だった。



 サンバの代表曲って何だろうと思うのだが、これもまたなかなか難しい。リオのカーニバルの動画ならいくらでもあるのだが、山車と衣装が盛り上げられすぎて、音楽とリズムが埋没している物ばかり。
 スポーツ中継や、その他日本のメディアで露出の多い、「サンバ」と名の付く有名曲は、"Samba De Janeiro" だと思うのだが、これがなんとドイツのグループ、Bellini の曲だというのだ。ドイツ?!しかもベッリーニ?!



 結局、いちばん説得力があったのは、ニューヨークにおけるカーニバル・カルチャー・パーティと題された、ストリート・パフォーマンスだった。しかも、途中で見物人の中からブラジル人らしき女性が飛び入り参加して、しかも超上手いという展開が熱かった。

Kings Road2024/12/27 20:09

 月に一度配信される、Heartbreaker's Japan Party さんのメール・マガジン、Depot Street を楽しみにしている。ネット上には膨大で雑多な情報が乱れ飛んでいるので、面倒になって遮断することも度々だが、このメール・マガジンという控え目ながらソースがしっかりしていて、しかも内容が充実している読み物には救われる思いだ。
 12月の配信では、1983年にキャメロン・クロウがトムさんに短いインタビューした内容が掲載されていた。トムさんがバンドメンバーについて、そのキャラクターを説明しているのだが、スタンを「スタンリー」、マイクを「マイケル」と呼ぶのが面白い。
 確かに、トムさんは急に「マイケル」とか「キャンベル」などと呼ぶことがある。もちろん「マイク」呼ぶ方が圧倒的に多いのだが、どういう時にどういうスイッチが入って呼び方を変えるのか、興味深くも、まったくつかみ所がない。

 トムさんがギターソロ直前に、"Come on, Mike!" と呼びかけることは良くあるが、[An American Tresure] に収録されていたライブ・バージョンの "Kings Road" では、"Come on, Michael!" と叫んでいる。



 この曲で歌われている Kings Road は、ロンドンのチェルシーにある道路で、60年代から最新ファッション、カルチャーの中心地となった。アメリカのいなかから出てきたハートブレイカー (a new world boy) にとっては、クラクラするような光景だったようだ。
「boys やら、girls やら、ちょっとよくわからない人やら」…トムさんこそ、女の子みたいに可愛いくせに。

 Kings Road といえばでもう一曲、ストーンズの "You Can't Always Get What You Want" に登場する、"I went down to the Chelsea drugstore" のドラッグストアは、Kings Road にあり、いまはマクドナルドになっているそうだ。
 1969年、ミックとキースは26歳。このダイナミズム、豊かな音色、心地よいリズム。プロデューサーがよほど手練れなのかと思えば、プロデューサーのジミー・ミラーも27歳だったというのだから、背筋が寒くなる。