Cheap Trick in Budokan2025/10/04 20:57

 三日前の水曜日に、日本武道館でチープ・トリックのライブを見た。
 三日も経ってから言うなと、ファンからは怒られそうだ。詳しくは知らないのだが、どうやらフェアウェル・ツアーだったらしい。

 そもそも、私はチープ・トリックのファンというわけではない。親しい友人たちにファンの一団がいて、彼らと過ごしたときにチープ・トリックのビデオを一緒にみたこと、そのついでにベスト盤を一枚購入したこと。私がチープ・トリックについて知っているのはその範囲である。
 それがどうして、大事な大事な武道館公演などに行くことになったのかというと、例のファンの一団が盛り上がっており、「誰かぴあの会員になっていないか」、「席を取ってくれ」、「私会員だよ、取ろうか?」…という流れでなんとなく私も行くことに。
 しかも私にしては珍しく、武道館のアリーナを引き当てた。一番後ろの方で決して視界は良くなかったが、まぁアリーナが取れたというそれなりの興奮がある。

 コンサートが始まってみると、ちょっと困ったのは全然曲を知らないことだった。こんなに知らないんだ…とびっくりしてしまった。しかしファンである友人たちにとっては「おなじみの」ナンバーだったらしい。
 私の知っている曲が増えたのは後半からアンコールまでで、これなら私も一緒に歌えると楽しく過ごした。

 日本は世界でも有数のチープ・トリック好きの国だそうだ。そもそも、ヒットのきっかけも日本での人気とのこと。その割には観客は大人しいなぁと、バンドメンバーは思わなかったっだろうか。コール&レスポンスなんて、もっと凄くて良いのにと、客席に居ながら思う。アメリカで体験したものすごい歓声や合唱(うるさすぎて騒音である場合もある)を懐かしく思う。

 たぶん、バンドのオリジナル・メンバーの平均年齢も70歳を超えているだろう。それでもパワフルで、たった四人の音であれだけの迫力を出すのだから、偉いものだと、感心しきりだった。

Pianoforte2025/10/06 19:53

 2021年に開催された第18回フレデリック・ショパン国際ピアノ・コンクールの、舞台裏から出場者たちを追ったドキュメンタリー映画「ピアノフォルテ」を見た。ピアノという楽器名はピアノフォルテの略称である。
 ショパン・コンクールは5年に一度行われるが、2020年は COVID19 の影響で翌年に延期された。



 コンクール本番なので、集中的に映画に収められた人が最終的に勝つというわけではない。フューチャーされていた中では、アレクサンダー(イタリア)が最高位の3位。彼は舞台裏でも自分を見失わず、精神統一が上手だった。かなり成熟したピアニストに近いだろう。
 中には成績が振るわず、取り乱す人や、そもそも勝負にならない人なども発生。コンクールやピアノにのめり込みすぎて精神の病気を抱える人がいるのも分かる。
 同じピアニストとしては、教師と弟子の関係も興味深かった。最も若い高校生のハオ(中国)の先生は、ハオとベッタリ。でもその若い女性の先生は明るくて感じの良い人なのが救われる。ハオは先生といるとリラックスできると同時に、先生に縛られることなく飄々とした感じが良かった。ハオは今年も出場している。頑張れ。
 一方、17歳のエヴァ(ロシア)は神経質で不安定なお年頃。しかも先生が古風な厳しくて、怖くて、弟子を人前で侮辱しても平気でいるタイプ。でもエヴァは精神的に先生に依存しており、彼女がもっと高みを目指すには教師に関して考え直す必要もあるかもしれない。そして彼女は不運にもロシア人。ウクライナ侵攻以来、その活動は国内に限られており、今年のコンクールにも参加していないのだ。ロシア人が参加するには「国籍表示なしの中立的立場」でなくてはならず、さすがに数が少ない。

 そう、第19回ショパンコンクールが始まっているのだ。
 ピアノは芸術であって、スポーツではない。アレクサンダーが言ったように、ピアノで競うなんて、本当がおかしいのかもしれない。しかしギリシャ神話の昔から音楽での勝負は続いており、ショパン・コンクールはその究極形である。無論、優勝すればピアニストとしての一生の名声を得ることが殆どだ(例外もいる)。優勝しなかったとしても、内田光子(1970年2位)のように世界で最高のピアニストになるひともいる。メジャーなコンクールとは無縁でもキーシンのように、これまた世界で最高のピアニストもいるので、コンクールが全てではない。

 それでもなんだか気になってみてしまうし、最近はインターネットでどんどん一次予選の演奏が聞けてしまうからやっかいだ。
 きょう、私は一次予選の6人の演奏を聴いたので、それぞれちょっとメモを付けていった。一次予選の通過者は出場者の半分だが、私のメモによると、6人中2人しか通過しないらしい。さて、実際の結果はいかに。

 今回のコンクールで驚いたのは、本選(ファイナル)の曲が、協奏曲に加えて、幻想ポロネーズも加わったことだ。とても画期的な改善だと思う。
 そもそも、ピアノの詩人ショパンにおいて、協奏曲だけでファイナルを競うのはどうなんだという議論は長くあったのだ。ショパンの最高傑作ではないし、正直言ってオーケストラも上手くない。たった一人で世界を作り尽くすのがショパンなのに、協奏曲で最終的に決まるのは納得がいかないという訳だ。しかも、ここのところずっと、協奏曲1番を弾かないと勝てないといわれている。(オケが不慣れで2番だと上手く行かないという噂あり)そのせいで、みんな揃って1番を弾く。けっこううんざり。
 だから、幻想ポロネーズは大歓迎。わかりやすい曲ではないが、その分技量の差が出るのではないだろうか。ちょっと楽しみだ。
 音楽に国籍もなにもないだろうという建前はあるが、まぁ、たしかにおなじ日本人が健闘してくれると嬉しい。ただ、なんとなくポーランド・ロシア以外のヨーロッパ人の奮起に期待したい。最後にポーランド・ロシア勢以外で優勝したヨーロッパ人はなんと1960年のポリーニ(イタリア)だそうだ。60年以上出ていない。まぁ、ゲルマン人は「ショパンなんて別に」なのかもしれないが…ともあれ、健闘を祈る。

Midas Man2025/10/12 10:23

 映画「ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男」を見た。原題は “Midas Man” マイダスとはギリシャ神話に登場するミダス王のことで、触れるものが黄金に変わるという男だ。触れたバンドが黄金ビートルズになったという意味だろう。



 どこが見どころかと言えば、もちろんどの程度ビートルズを再現できているかである。ブライアンについてはだいたい知っている話ばかりだったので、それほど興味があるわけではない。
 結論として、どの程度ビートルズに寄せられていたかというと…65点といったところだろうか。ジョンは顔も喋り方も似ているけど、背が低いのと、やや鋭さが削がれてむしろジュリアンに似ていた。ポールは顔の上半分はそっくり!下半分は似ていない。ジョージは、眉を足した(だろう)ことは良いが、それ以外はあの輝くような美少年ぶりは不発。リンゴにいたっては全く似ていなかった。
 演奏する姿はまぁまぁ。選択する楽器も違和感がなかったし、四人の仲の良さがよく出ていた。
 ブライアンは俳優ありきで、べつに似せるつもりもなかったらしい。それはエド・サリバンもしかり。ジョージ・マーティンは姿こそかなり似ていたが、喋り方がまったく似ていないので、中途半端な仕上がり。ビートルズ・ファンは、マーティンの喋り方も熟知しているのだ。

 この映画の苦労のしどころは、ビートルズを描くのにビートルズのオリジナル楽曲を、一切使えないところだ。初期はカバー曲だけでなんとか乗り切れるのかもしれないが、”Please Please Me” “I Want to Hold Your Hand” が大ヒットする重要な場面で、使えないという足かせはいかんともしがたい。その後はだいたいビートルズっぽい雰囲気だけで話が流れていき、この話は別にビートルズのマネージャーじゃなくても良いのでは?ということになった。

 要はビートルズという世界最高のバンドを世に送り出した、大成功者であったブライアンだが、薬物という悪癖と、当時はさらに生きづらかった同性愛者だったことの苦悩を描く映画だった。60年代は魔法の時代であり、音楽文化が黄金期を迎え、色とりどりの花で彩られ、様々な奇跡が起きたが、人間にとってそのスピードはついていけないものであり、その負の側面である薬物によって、多くの人は若くして命を落としいった。ビートルズという象徴的な太陽の影にそんな物語がある。

 そのほかに印象的だったのは、シラ・ブラックがけっこう良くフューチャーされていたこと。キャバーンのクローク係だったところから登場している。ブライアンのことを全ては理解していないが、優しく友愛に満ち、支えになろうとする姿が良かった。
 もう一つ良かったのは、ブライアンのアシスタントだった、アリステア・テイラーがしっかり出てきたところ。テイラーは、私が初めてビートルズにはまった小学生の時、ビートルズの情報を得るべくまず図書館でかりた本の著者だった。ビートルズの良き理解者で、欠くべからざる人のはずだが、その後のビートルズを取り巻く環境の変化で彼は歴史から弾き出されてしまった。そのことが私個人として悔しかったのだが、今回は日の目を見た。

 そしてこの映画で一番良かったところは、ジェリー&ザ・ペースメイカーズの “ You'll Never Walk Alone” が流れるところ。これぞ Liverpool !という感じで、すべてを持っていってしまった感じ。良かったなぁ。

TP&HBのどこが好き?2025/10/21 19:49

 ここ一週間以上、ショパン・コンクールの演奏しか聴いていたのだが、最終結果発表が終わった途端に、すぐにトム・ペティを聞き始めた。どうやら私にとっては生で見るスポーツと同じだったらしい。ピアニストのくせに、けしからん。

 10月20日はトム・ペティの誕生日だ。きょうは21日だが、アメリカ時間ということで。生きていたら75歳だった。それを記念して、”Don't Fade On Me” のリハーサルの様子が公開された。



 マイクが寄り添っている様子が良い。いまにも一緒にワン・マイクロフォンで歌い出しそうだ。そもそもこの曲は、ギターの弾き方をマイクがトムさんに教えたところからできているので、歌詞以外はほぼマイクの作品と捉えて良い。

 先週末は、Heartbreakers Japan Partyさん主催のオフ会だった。なんと第75回。素晴らしい。
 よく話題になるのだが、どうして TP&HB を好きになったのかという話になる。だいたいは他に好きなミュージシャンがいて、そのつながりで好きになるというパターンが多い。

 なぜ好きなのかと言えば、要するにタイプだということだろう。私が最初にトムさんと仲間たちを聴いたり、見たりしたとき、彼らはポップでクールで、シンプルなロックンロールをやっていて、しかもとても仲の良さそうな素敵なバンドだった。実際は色々難しいこともあったし、ギスギスもしていたが、彼らなりの愛情とチームワークは確実にあった。
 私は男子が仲良くバンドをやっているのを眺めるのが好きなのだ。ビートルズがそのお手本で、ハートブレイカーズはまさに「ビートルズのようなバンド」だった。私のこの点は徹底していて、ディラン様を最初に好きになったときは、ジョージと一緒に仲間と楽しくバンドを組でいる人だったのだ。

 具体的にどの TP&HB かと言えば、このブログでは何度も言及しているように、”So You Want To Be A Rock ‘n’ Roll Star” のライブ映像だ。
 はっきり言って、金髪碧眼はタイプではない。しかし、トムさんはちょっと変わった顔つきで(ネイティヴ・アメリカンの血が入っていることを知るのは少し後)、しかも服がださかった。むしろ、ダークな髪色のギタリストが真摯で控えめで、ジョージっぽい雰囲気で格好良く、彼に変な服の金髪がちょっかいを出したりして仲良しな感じがツボだった。
 そして、トムさんの表情が良かった。生き生きとしたその表情には、ロックンロールを演奏することがどれだけ好きかが表れていた。微笑みながら会場を見回す瞳の輝きが魅力的で、この表情こそが私のタイプだった。べつに金髪碧眼でなくても構わなかった。
 その後、様々な映像、画像を見ることになるのだが、どれも最初の印象を裏切ることなく、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズは最高に格好良く、ロックンロールの真髄を体現する存在であり続けている。これからもそうだろう。