還城楽 / Red River2025/01/03 19:26

 新年といえば、元旦の宮内庁楽部による、舞楽の放映が恒例である。今年は巳年なので、ヘビに関連した演目だった。雅楽を知っている人なら誰でもピンとくる、「還城楽(げんじょうらく)」 ―― 西方にヘビを食する人がおり、ヘビをとらえた喜びを舞で表現するというものだ。
 「陵王」とならぶ右方の代表的な舞楽。勇壮で華麗。演奏していても楽しかった。ヘビをとらえて喜ぶ舞なので、小さなヘビが可愛くとぐろを巻いた小道具を使うのも、特徴的だ。

 ヘビといえば、どうしても頭から離れないのは、トム・ペティの父親のエピソードだ。
 幼い頃からインドア派でアート肌のトムさんは、アウトドア派でワイルドな父親が嫌でたまらなかった。渋々付き合って釣りや狩猟にもいっても、嫌な思い出ばかり。そのはなしは、カントムこと、[Conversations with Tom Petty] に詳しい。
 あるとき、トムさんは父親がガラガラヘビを捕らえ、首に掛けたうえに頭上でブンブン振り回すのを見てしまったという。トムさんドン引き。読んでる私は大爆笑した。

 そんなトムさんと、父親のエピソードが反映されているのが、[Hypnitic Eyes] に収録されている "Red River" だと思う。この曲に登場する女性も、ヘビを頭上でぶん回している。ちなみに、トムさんの晩年(?)の曲には、"Pulpwood" というあだ名の「祖父」が登場するが、これもまた実際のトムさんの祖父のあだ名だった。

Tag Heuer Is Back!2025/01/11 20:56

 F1 のオフィシャル・タイム・キーパー,つまりタイム計測に、2025年からタグホイヤーが復帰することになった。



 タグホイヤーというと、高級腕時計のカテゴリーで語られることはあまりないが、そのブランド・アイコンがスティーヴ・マックィーンとアイルトン・セナというだけあって、モータースポーツ・ファンの間では人気のあるメーカーだろう。
 実際、私も F1を見始めた頃のタイム計測がタグホイヤーだったので、セナの素敵な広告ポスターに憧れていた。今も愛用していて、腕時計は基本的にこの一本しか持っていないというタグホイヤー WK13 は、青い文字盤に特に惹かれて、社会人2年目に購入したのだと思う。

 このタグホイヤー復帰告知の映像には登場しなかったが、セバスチャン・ベッテルも、もちろんタグホイヤーを使っている時期がある…と思って検索したら、凄く若いころのウルトラ可愛いティーン・エイジャーがヒットして、悶絶している。



 ミュージシャンにタグホイヤー・ユーザーがいるだろうかと検索したのだが、そもそもミュージシャンと腕時計は相性が悪い。演奏の邪魔だし、楽器に傷がつく。演奏時は腕時計を外すのが普通だ。
 トップ・カテゴリーのスターは、タグホイヤーよりもさらに高価格帯の時計を使っているらしいことは、なんとなく分かった。
 そんな中、タグホイヤー使用者発見。それはミック・ジャガー。ロックスターの腕時計に関する記事で、ミックはタグホイヤーとセイコーを使っていると報じていた。「そう、あのミック・ジャガーがセイコーを使っている」というイヤミつき。
 なによー?!セイコーは良いメーカーだぞ!!自分は使っていないが、なんとなく腹が立つ。
 ともあれ、ミックが若い頃にタグホイヤーを身につけている写真がけっこうある。ミックと言えばファッション・アイコンでもあるが、腕時計についてはコンサバというか、実用性重視 ―― あれでかなりクレバーなキャラクターであることの、一つの発露かも知れない。

The Zombies2025/01/16 19:55

 仕事中にランダムで手持ちの音楽を流していたら、ふとオルガンの凄いソロに惹かれた。こんなに上手いオルガンは、きっとニッキー・ホプキンズに違いないと思った。
 ザ・ゾンビーズの "I'm Going Home" ――



 ゾンビーズについて、知らなすぎた。このオルガンは、ゾンビーズの中心メンバー、ロッド・エージェントの得意技だった。
 Wikipedia によると、ゾンビーズは UK のセント・オールバンズ出身、1964年デビューのバンドで、1968年までに3枚のアルバムを発表しただけでいったん解散、90年代以降に再結成している。自分の所有する CD を確認してみると、オリジナルアルバム2枚と、ベスト盤を持っているので、彼らの曲はだいたい持っていることになる。
 2004年に日産の車の CM に "Time of the Season" が使われて、リバイバル・ヒットとなった。私が買ったベスト盤も、このとき販売された物だ。

 

 きょうは一日ゾンビーズをずっと聴いていた。活動期間の短さや、アルバムの少なさの割に名曲が多い。一種の「短命な天才」なのだろう。
 元気の良いロックンロールが最高なのが、"Indication"



 フォークロックやサイケの要素が分厚く構成された名曲 ―― "Care Of Cell 44" ―― これは良い曲だなぁ!



 "This Will Be Our Year" になると、ロック史が一回りして、1990年っぽさまで出ている。ファストボールの曲だと言われても違和感がない。



 本当に名曲揃いで、いままであまり気に留めなかったのが申し訳なかった。ただ、言い訳をするとゾンビーズで一番好きな曲は変わっていない。ダントツで "Friends of Mine" ―― 本当に最高。歌詞も良いし、シンプルで爽やか、それでいてちょっとバタバタした若さも格好良い。短いギター・ソロに "Ha!"とかけ声が入るところまで素晴らしい。黄金の1960年代を彩る、最高峰の名曲だ。

I Want You Back Again2025/01/19 22:09

 ザ・ゾンビーズといえば、トム・ペティが大ファンだったということは有名だ。"I want You Back Again" のライブ・パフォーマンスは、何枚かのライブ・アルバムにも収録されている。



 ベンモントのオルガン・ソロが冴え渡っている。

こちらのロッド・エージェントのインタビューによると、トムさんとベンモントが再結成後のゾンビーズのライブを訪れ、楽しい時間を過ごしたそうだ。
 エージェント曰く、トムさんが初めて見たロックンロール・ライブの一つが、1965年のゾンビーズだったとのこと。"Summer Time" にトムさんはノックアウトされたそうだ。
 このインタビューはトムさんが亡くなった後だが、トムさんの生前にエージェントと、ヴォーカルのコリン・ブランストーンがトムさんのラジオ・ゲストに呼ばれたこともある。このときの写真は、色々な意味で面白かった。主にトムさんが。まず、ゾンビーズの Tシャツを着ている。好きなバンドのライブに行くロックンロール好きの格好ではないか。
 そしてなんと言っても、トムさんの脱力っぷりがすごい。トムさんはフォト・セッションやツアーとなると、外見をピカピカに磨き上げてのぞんでいた。それで付いたあだ名は「女優」。ところが、このゾンビーズを迎えたときは至ってリラックス・モード。うっかりすると、トムさんということが分からないほどだ。
 ともあれ、憧れのロックンロール・スターに会えて幸せなトムさんと、自分たちよりずっとビッグになった、フォロワーに会えてゾンビーズの二人にとっても幸せな瞬間だったろう。

Gunnar Nilsson Memorial Trophy (Donington Park 3 June 1979)2025/01/23 21:49

 ガース・ハドソンが亡くなった。彼に関する記事は、また改めて。週末のラジオの反応も聴いてみたい。

 去年、イモラでセバスチャン・ベッテルが、アイルトン・セナ・トリビュートとしてマクラーレンMP 4/8 ショウ・ランをしたときに被っていた、スペシャル・デザイン・ヘルメットのミニチュアがセブの公式ショップで発売されるなり、速攻でポチってしまった。なかなかのお値段だが、推しは強い。



 左側がブラジル国旗をベースにしたセナのデザイン、左側は白にドイツ国旗カラーをあしらったセブのデザインだが、赤の横線オーストリア国旗デザインと、ローランド・ラッツェンバーガーの名が描かれている。1993年におなじイモラで亡くなった、二人をトリビュートしているというわけだ。



 箱を見れば分かるのだが、このミニチュア・ヘルメットを制作したのは、ヘルメット・メーカーの Bell だ。
 でも、セバスチャンといえば、カートの頃から一貫して Arai の愛用者として有名。実際、セブが被っていたヘルメットは、もちろん Arai 製なのだ。でもミニチュアは Bell かぁ … 微妙だなと思っていたら、なんと後ろにちゃんと Arai のロゴが入っていた!ミニチュア・ヘルメット制作ってそいういう物なんだ…



 ヘルメットを眺めていて思い出した。ジョージが F1 ファンだった脈絡でよく登場するのが、ジョージがレーシング・スーツにヘルメット姿で、レーシング・カーを運転している写真。そもそも、あれは何なのだろう?



 1979年6月に、ドニントン・パークで行われた、グンナー・ニルソン・メモリアル・トロフィーの時の模様だそうだ。前年に現役 F1ドライバーながら癌で亡くなったニルソンを追悼し、癌基金を作るための二日間のイベントで、有名なレーサーたち ―― もちろん、ジョージの親友ジャッキー・スチュワートを含む。ほかにも、ニキ・ラウダ、ジェイムズ・ハント、マリオ・アンドレッティ、ネルソン・ピケなどなど ―― が参加したレースも行われた。そのなかのドライバーの一人として、ジョージも参加したというわけ。
 運転しているのは1961年ロータス、スターリング・モスのマシンとのこと。F1マシンが大きなウイングを備える前のマシンなので(そもそもフロント・ウイングらしき物が登場するのは1979年頃から)、いわゆる「葉巻型」というやつだ。
 ジョージのヘルメットは、Bell ―― Arai が F1 で用いられるようになる前なので、致し方なし。

 ジョージと言えばその素晴らしい髪のボリュームがシンボリックだが、さすがにヘルメットをかぶるとペッタンコになっている。凄く珍しいと思う。

伶倫楽遊 ―― 伶楽舎第十七回雅楽演奏会2025/01/26 21:26

 雅楽の伶楽舎が創立40周年だそうだ。私が音大で芝祐靖先生や宮田まゆみ先生に雅楽を習っていた頃は、まだ伶楽舎も創立からそれほど経っておらず、人数の要る演奏会では学生も手伝っていたりしたが、時が経つのは早いものだ。
 40周年記念演奏会が、紀尾井ホールで開かれた。
 四ッ谷の駅からトコトコ歩いて紀尾井ホールへ向かうと、おや?と思ったのが、紀尾井ホールの壁。「日本製鉄 紀尾井ホール」とある。頭に「日本製鉄」なんてついていたっけ?紀尾井ホールも30周年だそうだ。確かに、当時の新日本製鐵のメセナ事業として創立されたのが紀尾井ホールだというのは知っていたが、2025年4月から「日本製鉄 紀尾井ホール」になるとは…!

 楽曲は現代曲三曲。現代曲というのは、50年以上昔でも「現代」と言う。古典でなければ現代曲である。
 一曲目は ―― 残念。ぜんぜん。イマイチ。雅楽器の響きを理解し切れていない。唐突で説得力がない。よくあるんだよなぁ、この手の「雅楽の現代曲」。玄妙に鳴らしてみたり、目一杯音を出して騒々しくしたり。結局空振り。いつものことなので、驚かない。
 二曲目は、芝先生の「舞風神 序破急」 ―― こちらは安定の芝先生。さすが、芝先生は古典への造詣が深い。太食調の音取りから始まり、序破は古典だと言われても分からない。しかし急になると、マーチのように勇ましくなり、ウキウキした気持ちになった。さらに、いつもは最前線にいる打楽器を最後部においたのもよかった。ホールの鏡板(能舞台で言う松の板…)のすぐ前に打楽器があり、特に羯鼓の響きが天上から振ってくるような豊かな響き。とても良かった。



 三曲目は、名曲・大曲の誉れ高き武満徹の 「秋庭歌一具」。
 これまで私は、「秋庭歌」は過大評価だと思っていた。おそらく、聞いた場所が悪かったのだろう。最初は明治神宮の外庭、二回目は国立劇場。どちらも音が散る、大きすぎるなどで、「秋庭歌」には向いていなかった。この曲は演奏グループをいくつかに分けて、オーディエンスに対して立体的に配置されている。その音の立体構造の中に響くものこそ、「秋庭歌」なのだ。
 特に笙の贅沢な使い方が素晴らしい。九人もいるのだ。逆に言うと、笙は蚊の鳴くような音なので、これだけ必要なのだということ。
 合計五カ所から響き渡る雅楽器のリレーが滑らかで、巧妙だ。特に龍笛が一つの息が異常に長いのかと思わせるような絶妙なアンサンブルで、はっとするような美しさだった。本曲である「秋庭歌」までがこの曲の良さが詰まったパートだ。後半パートになると、構成的にやや息切れかなと思う。次に聞くときは、この箇所の感想が改まるだろうか。

 パンフレットの曲目解説を見ると、「秋庭歌一具」は音大の先輩が書いていた。わぁお、なつかしい!先輩方にも久しぶりに会いたいと思う、演奏会終わりだった。

Garth Hudson2025/01/30 21:33

 1月21日にガース・ハドソンが亡くなったことにより、ザ・バンドのメンバー全員が死去した。私の好きなバンドで、全員が亡くなってしまったのは、ザ・バンドがはじめてのケースではないだろうか。

 私の好きなザ・バンドは [The Last Waltz] までに限定されるのだが、その活動期間における、ガース・ハドソンの果たした役割は計り知れなかった。どの曲を聴いても、彼の楽器演奏の才能は、アンサンブルの上手さ、加減、調整、繊細なニュアンスの表現に活かされ、ロックという比較的シンプルで押しの強いジャンルの音楽としては特別に天才的とも言えるものだった。それはもちろん、彼にクラシック音楽の素養があったからであり、同時に彼がロビーの作る曲の最大の理解者だったからだろう。

 何を置いてもガースはオルガンのヴィルトゥオーソだった。いくらでも曲が挙げられるが、やはり一番は "Stage Fright" ―― ザ・バンドの中でも一番に好きな曲だ。「舞台恐怖症」という歌詞も好きだし、シンガーとしてのリック・ダンコも大好きだし、格好良くて、そしてガースのオルガン・ソロが最高だ。
 その最高な "Stage Fright" のヴァージョンは、もちろん [The Last Waltz] なのだが、気をつけなければならない。映画ではガースのソロが、一部カットされているのとだ。しかも当時のこと、あまり巧妙でもない。この曲はオーディオ版で、フルにガースのソロを堪能するべきだ。



 ガースは一種の「器楽器用」の人で、管楽器の演奏にも秀でていた。
 "Acadian Driftwood" の特徴的な高音管楽器は、なんとなくティン・ホイッスルだと思い込んでいたが、このたび確認してみると、なんとガースのピッコロだというのだ。もちろん、ピッコロの演奏として世界最高峰とまでは言わないが、余技にしては上手すぎる。



 そしてガースの管楽器として最も印象的なのは、サックスの演奏だろう。[The Last Waltz] の "Make No Difference" の最後に、左側からスッとカットインしてサックス・ソロを吹く姿は、この映画の中でも指折りの美しいシーンだ。
 87歳。長生きしてくれたこと感謝している。