バラカンさんとTP&HB2015/04/15 21:40

 先週、日本経済新聞の夕刊にピーター・バラカンさんのコラムが連載され、興味深く読んだ。個人的には、日本人の英語に関する辛口の批評が、こたえた。はい、まったくおっしゃるとおりで。精進します。

 それはともかく、バラカンさんなので、当然音楽の話になる。
 1974年に来日して音楽出版社で働くようになったバラカンさんは、好きな音楽が必ずしも日本では売れないということに事実に直面し、はっきりとは書いていないが、「失望」を味わった。その象徴的な出来事が、「トム・ペティといえば、米国の大スターですが、彼のデビューアルバムが出たときのことは忘れられません。」という言葉で始まる。
 アルバム [Tom Petty & The Heartbreakers] の発売は1976年11月だから、バラカンさんが来日して2年以内のできごとだ。アルバムを聴いたバラカンさんは「これはすごいと感動」し、どんどん売って欲しいとレコード会社にかけあったものの、大した宣伝はされなかったという。これもはっきりとは書いていないが、アメリカの大スタートム・ペティが日本で無名であることが残念でたまらず、苦い想い出のようだ。
 レコード会社がたいして宣伝してくれなかった理由がふるっている。
 曰く「女性に受けるルックスではない」―
 怒れば良いのやら、喜んで良いのやら。たぶん、喜んで良いのだろう。別に音楽を否定されたわけじゃない。私にとってトムさんは最高にイカした、格好良い、容姿の良い男子だが、それは彼が最高のロックンローラーだからであって、音楽がなかったら、ただの額の広い金髪ガイコツである。

 確かに、あれほど素晴らしいロックバンド、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズが日本で売れず、無名に近いという現状は、嘆かわしいことだと思う。
 しかし、これは贅沢な悩みで、実際の彼らはあのロックの本場、巨大市場、世界で一番ロックを愛する人口の多いべらぼうな国で、押しも押されぬ大スターであり、大金を稼ぎ、まだまだ稼ぐつもりだ。
 幸い、20世紀以来、音楽は録音媒体の時代であり、今やインターネットも発達している。素晴らしい音楽はどこからか伝わり、バラカンさんのような人がラジオで流し、それは決して巨大な利益を生まなくても、誰かの心には響いている。日本での状況だけが全てではないし、そんな日本でも、ファンたちが幸せにハートブレイカーズ談義に花を咲かせることも可能なのだ。

 バラカンさんをいたく感動させたTP&HBのデビューアルバム [Tom Petty & The Heartbreakers] のことを、通称 [American Girl] だと思っているのは、私だけだろうか。[White Album] とか、[ゆでめん] みたいな意味で ― 私だけか。どこで勘違いしたのだろう。
 とにかく、私はこのデビュー・アルバムが大好きだ。TP&HBで好きなアルバムを一つだけと選べと言われれば、断然このファーストアルバム。
 先日ダウンロードしたハイレゾで、改めて聴いてみた。
 どうやら、このハイレゾ、ファーストとセカンド・アルバムにおいて、音の良さが際立っているのではないだろうか。つまり、この2作は紙ジャケットが出ていない。確か紙ジャケットはリマスターだったと思うので、既にかなり音は良くなっていたと思う。最初の2作はそれに漏れていたため、ハイレゾでは劇的に音が良くなっていることが分かり易いのではないだろうか。
 先日聴いた "American Girl" は、ベスト版などでオリジナル・アルバムより少し音の良いものに慣れており、顕著な差を見いだすことが出来なかったようだ。
 細かいレース編みの模様がくっきり見えるような感覚。繊細なシェイカーや、刻みが一つ一つ、輝いている。アコースティック・ギターの音は、すぐ隣りでまさにボディが鳴っているような感じだ。
 冒頭の "Rockin' Around (With You)!" のイントロで、こちらに迫ってくる音の迫力が違う。"Luna" のオルガン・ソロでは、ベンモントの指がオルガンの鍵盤に触れる様子が見えるようだ。

 いつ聴いても、何度聴いても、改めて聴いてもやはり名作アルバム。私が好きなロックはこれだ。これだけがTP&HBだけではないし、もっとスゴイ曲が満載のスゴイアルバムもたくさんあるが、このデビュー作品の持つ初々しさ、必死さ、清々しさ、それでいてちょっと痛々しく、それが愛おしい、そのくせ強がりで私を置いて走っていってしまうような威勢の良さ。
 こんなアルバムを、日本の誰も ― どころか、世界でもそれほど多くの人が聴いていないときに耳にして、感動し、その感動を今でも語るバラカンさんは、とても幸運な人だと思うのだ。

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