メリーランド作戦2008/12/17 23:21

 東部戦線では、ロバート・E・リー率いる南軍が、第二次マナッサスの戦いの勢いを駆って、北部へ攻め入るメリーランド作戦を実行し始めていた。
 南部連合としては、北部連邦が南部連合の独立を認めてくれさえすれば良いのであり、それには北部が戦争を嫌になってしまえば良い。そこでリーは、圧倒的に劣る戦力ながらメリーランド州やペンシルベニア州、さらにニューヨークにまで南軍の進撃を見せつけて北部に厭戦感を 起こし、引き分けのうちに和睦にもちこみたかったのである。

 1862年9月上旬、リーは55000の兵を率いてマナッサスを出発、ポトマック川を渡ってメリーランド州へ侵攻した。
 対する北軍の主力,ポトマック軍の将マクレランは、相変わらずの慎重居士でリーの行軍に肉薄することなく、ゆるゆると84000の兵を北上させリーの出方を見ていた。南軍の東側面は、これまでもさんざん北軍を悩ませてきたジェブ・スチュアートの騎兵が牽制していたという理由もあるが、やはり今回もリーはマクレランの万事消極的な性格を読んでいた。
 ところが、今回はマクレランにとんでもない幸運がもたらされる。リーの南軍に遅れること1週間後の9月13日、マクレランの北軍がフレデリックの町に進軍した。そこでマクレランは、偶然にも南軍の将が紛失したリーの命令書を入手したのだ。
 その命令書によると、リーはここフレデリックで、ただでさえ少ない軍勢をさらに四つに分け、各交通,軍事拠点の占拠に向かわせていた。現に、ストーンウォール・ジャクソンは一番大回りして、大規模な軍事施設のあったハーパーズ・フェリーを落としている(このとき、ハーパーズ・フェリーの住民たちは、名高いストーンウォール・ジャクソン将軍がひどくみすぼらしい身なりをしているのに驚いた。)
 リーの意図を知ったマクレランは当然、大喜び。俄然、行軍速度をはやめて、少人数で散在する南軍の撃滅にかかった。

 ところが、マクレラン側もうかつだった。「北軍がリー将軍の命令書を入手した」という情報が、逆にリーに漏れたのだ。
 リーは即座に分散した兵力を集結させた。しかし、マクレランの行軍も待ってはくれない。南軍はシャープスバーグの町に41000あつまったところで、87000の北軍と衝突することになった。
 このときの戦いは、シャープスバーグの東を流れるアンティータム川の名を取って、「アンティータムの戦い」と呼ばれることが多い。

 9月17日朝、大規模な戦闘が始まった。北軍は圧倒的な戦力を持っているのだから、一斉攻撃で勝利を収めることができたはずだが、マクレランは何を思ったか、部隊を小出しにしかせず、南軍の撃滅には至らなかった。
 そのダラダラした一日の戦闘のせいで、北軍12499、南軍14000の死傷者を出した。これは南北戦争における一日の死傷者数の最高記録である。
 結局、南軍に最後の援軍が到着したところで、マクレランは兵力を温存したまま戦闘の手を緩めてしまい、リーに退却の ― しかも上手い退却のチャンスを与えてしまった。

 アンティータムの戦いは確かに北軍の勝利だった。リーのメリーランド作戦は頓挫し、南軍は退却したのだから。
 しかし、北部連邦 ― そしてリンカーンにとっては、勝利どころではなかった。せっかく、敵方の作戦情報を得て、圧倒的な数の優位を誇り、守りが得意なリーに対して開けた土地での会戦を挑めたのに、いたずらに死傷者ばかり増やし、肝心のリーを取り逃がしてしまったのだ。リンカーンにとっては、勝ちの喜びよりも、圧勝できなかった落胆の方が大きかった。そこを分かっていないマクレランは、リンカーンにとってやはり全幅の信頼をおける将軍ではなかった。
 軍人がこの体たらくでも、リンカーンは抜群の政治家としての手腕を発揮した。内容的には不満でも、アンティータムの戦いは北部連邦の勝利だ。彼はこれを好機ととらえ、奴隷解放宣言を行う。しかも、かなり巧妙に。

 ところで、リーのメリーランド作戦が始まったときのこと。南軍の兵士たちは、ポトマック川を渡り、メリーランドに進軍する道すがら、「メリーランド 我がメリーランド Maryland, my Maryland」を歌っていた。この曲は現在、メリーランド州の州歌になっている。



 このメロディ、日本では「もみの木」というクリスマス・ソングで知られている、ドイツ民謡から取られている。

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