変名のはなし2011/04/25 21:57

 変名というものがある。事情があって自分の正体を隠したいときに、意図的につける第二,第三の氏名のことだ。
 日本史上、幕末の活動家たちも ― 私は「志士」という名称があまり好きではない。「志士」の名にふさわしい人物も居た一方、ただのフーリガンもどきも居た。そもそも、「志士」の大半が攘夷を叫んでいたのだが、明治維新によって定まった方向はそれとは違う ― ともあれ、彼らも反対勢力から身を守るために、よく変名を用いていた。
 自分の好きな花を名前にする詩人が居る一方で、「春山花輔」と、「花山春輔」などというふざけた変名を用いたコンビも居る。井上聞多と伊藤俊輔 ― 有名な御神酒徳利のことだが、とにかくまじめにこの変名を使ったかどうか、極めて疑わしい。もっとも、この一本ネジの抜けた感じだからこそ、ひとりは刺客に襲われて「ほぼ死体」になったのかも知れない(死ななかったけど)。

 反対勢力に命を狙われないまでも、自分の名を伏せたいと思う場合もある。ミステリーの女王,アガサ・クリスティは、ロマンス小説を書くときに「メアリ・ウェストマコット」というペンネームを用いた。既にミステリー作家として有名になっていた以上、別ジャンルでは変名を用いて、この分野での実力を試したかったのだろう。もっとも、日本翻訳版では、最初からクリスティの名前が出ていたそうだが。

 ジョージ・ハリスンも、何度か変名を用いている。
 最も初期の変名として有名なのは、「ビートルズ・アンソロジー」でも紹介されている、カール・ハリスン。ビートルズがレコードデビューする前、「芸名をつけたほうが格好良い!」…程度の認識で、それぞれに変名を作った。ジョージが自分につけたのが、このカール・ハリスン。カールとは、ジョージが敬愛するカール・パーキンスから取っていることは、言うまでも無い。



 ジョージとジェフ・リンの間の人たち、どっかで見たような顔だが…誰だっけ?
 このカール・ハリスンという変名、いかにも子供っぽいネーミングセンスで、微笑ましい。

 ジョージ自身が知らぬところで、勝手に変名がつけられたいたケースもある。



 クリーム最後のアルバム,[Goodbye] の "Badge" にクレジットされている、ランジェロ・ミステリオーソ L'Angelo Misterioso というのは、ジョージのことだ。イタリア風のネーミングで、「ミステリアスな(ナゾの)天使」…とでも言うべきか。とにかく、あまりふるったネーミングセンスとは言いがたい。クラプトンがつけたのだろうか。

 ジョージを敬愛していたニッキー・ホプキンズのアルバム、[The Tin Man Was a Dreamer] でのジョージは、ジョージ・オハラ George O'Hara とクレジットされている。


 どうもこれは、ジョージが自分でつけた変名っぽい。頭に "O'" をつけた、アイルランド風のネーミングは、ハリスン家がリヴァプールに移住したアイルランド人の末裔であることを意識しているのだろう。

 ジョージの変名として、最大(?)のものは、もちろんウィルベリー・ネームだ。

 

 [Vol.1] のジョージは、「ネルソン・ウィルベリー」。ブラジルのF1チャンピオン,ネルソン・ピケから取ったという話もあるが、どうなのだろう。後にダーニが、「アイルトン・ウィルベリー」を名乗るので、あながち間違っていなさそうだ。もっとも、私もジョージと同じくモンティ・パイソンのファンなので、ホレイショ・ネルソン提督("Kiss me Hardy.") 説も捨てがたい。
 無論、ウィルベリー兄弟全員がそれぞれ変名を名乗っている。トム・ペティの、チャーリー・T・Jr. のファミリーネームは何なのか。これは、[Conversations with Tom Petty] で明らかになっている。

 ぼくはチャーリー・T。デレク・テイラー書いた膨大な量の「ウィルベリー一家の歴史」によればそうなる。アルバムには入れられなかったけど。たしか、マイケル・ペイリンが解説を書いているんだよね。でも、デレク・テイラーは本当に膨大な「ウィルベリーズ顛末」を書いていたんだ。  それによると、ウィルベリー一族の父親の名前はチャールズ・トルスコット・ウィルベリー Charles Truscott Wilbury(笑)。それで、ぼくはチャールズ・トルスコットにしたら面白いだろうなと思って、チャーリー・Tになったわけ。

 [Vol.3] になると、ジョージはスパイクに、そのほか,ブーとか、マディとか、どんどんへんてこな名前になっていく。
 別に変名を作らなくても、刺客に狙われるわけではないし、本当にシリアスな意味でレコード契約上の問題も、実は無かったのかもしれない。それでも、ジョージとその大親友たちは、きっと変名を作って楽しんだことだろう。音楽そのものにとっては、実にどうでも良いことだが、そんなどうでも良い事に本気で取り組み、全力で楽しむジョージは、改めて素敵だと思う。

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