ユリアンナ・アヴデーエワ2011/01/07 23:59

 第16回国際ショパン・ピアノ・コンクールの優勝者,ユリアンナ・アヴデーエワが来日し、シャルル・デュトワ指揮のN響とショパンのピアノ・コンチェルト1番で共演し、その模様がテレビで放映された。
 


 この写真は、コンクールの時のもの。エレガントなパンツスタイルで、格好よかった。
 アヴデーエワは1985年生まれのロシア人。すでにジュネーヴ国際音楽コンクールや、パデレフスキー・コンクールで名をはせていたらしく、今回のショパン・コンクールでも有望視されていたようだ。
 彼女の優勝で喜ばしいことと言えば、まずマルタ・アルゲリッチ以来45年ぶりの女性優勝者であること。芸術家に性別も国籍もあったものではないはずだが、ピアノというのは圧倒的に男性の方が有利な楽器なので(ピアノに限ったことではないが)、やはり女性の勝利は嬉しい。アルゲリッチも今回審査員を務め、アヴデーエワを激賞しており、今回も一緒に来日している。ちなみに、N響でタクトを振ったデュトワとアルゲリッチは、元夫婦である。

 ショパン・コンクールの優勝者には、賞金30000ユーロと、金メダルが授与される。賞金はそれほど高くはないのだが、その名誉は計り知れない。そして、さらに副賞がつく。ニューヨークフィルとの共演で、ワルシャワと、ニューヨークでのコンサート。そして、日本でのN響とのコンサートだ。
 NHK交響楽団は世界に誇れる一流オーケストラだし、シャルル・デュトワもまた超一流の指揮者(デュトワはN響を気に入っている)。彼らとの共演もまた、名誉なことだろう。

 もう一つ、アヴデーエワの優勝で私が嬉しかったのは、彼女が弾いたピアノ。今回、初めて日本製のピアノが勝ったのである。ヤマハが渾身の力作として送り込んだ、CFX。小売希望価格1990万円なり。これはヤマハのピアノとしては例外的に凄まじい高額になっている。ヤマハがどれだけこの楽器に情熱を注ぎ、それをショパン・コンクールに送り込んだか、その意気込みが伝わってくる。
 本来、ヤマハやカワイと言った日本製のピアノはヨーロッパ系の有名ブランドピアノにくらべて安価なわりに、性能が良いという特徴を持っている。その日本メーカーがここ一番で資金と技術をつぎ込んで作り上げた楽器が、獲得した成果は天晴れと言うほかない。これまで、スタインウェイの独壇場だっただけに、私は優勝決定の翌日、日経の一面に「ヤマハ、ショパン・コンクールを制する」の文字が躍るかと思った。最近、私はヤマハ音楽教室の方針に疑問を持っているし、製造工場を海外に移すことにも懐疑的だった。今回のことで、ややその評価が持ち直したと言って良い。
 ベンモント・テンチとハートブレイカーズは最近、ピアノをヤマハからスタインウェイに変えて、ミーハーな喜びを隠し切れないような印象だが…どうよ!ヤマハに戻さない?!

 肝心の、アヴデーエワのN響との共演はどうだったのか。
 私は好きだ。「マルカート万歳!」…という感じの、実にはきはきしたタッチで、断言口調とでも言うべきか。ショパンならもっと柔らかく弾くべきという意見もあるかも知れないが、私はバリバリしたエッジの立った音が好きなのだ。
 私が小学生のころ、私のあまりの手の小ささに(今でも小さいが)、師は半ば頭を抱える思いだったらしい。それでも私は習いに来る。そこで、ひたすらマルカートで弾くことを鍛錬させられた。即ち、指を高い位置からストンと落とす癖をつけたのである。落とすのであって、決してキーを力で叩くのではない。この「ストンと落とすマルカート」を徹底することによって、音量を確保するのに、私の小学生時代は費やされた。おかげで、私の体格の貧弱さのわりに、音量や音の強さで苦労したことはない。
 そういうわけで、私はマルカートでピアノを弾く人が好きらしい。
 さらにアヴデーエワの堂々とした雰囲気も良かった。彼女が25歳と、最近のショパン・コンクール優勝者に比べて少し大人であることもある。とにかく、彼女は無駄に顔の表情が豊かすぎたり、音楽に酔いしれるようなところがない。あくまでもオーケストラとの共演であるという自分の立場をよくわきまえている辺りも好感だ。

 まだ、アヴデーエワの演奏はほとんど聞けていない。しばらくはショパンばかり弾くことになるだろう。その後、彼女がどんな勉強をして、どんなピアニストになるのか、楽しみだ。あのマルカートっぷりを聞くと、バッハなんて探究してくれると面白そうだが。