騎兵たちの活躍(テンチ家の兄弟 その8)2010/12/01 23:04

 テンチ家の兄弟 ― ジョン・ウォルター・テンチ(ベンモントの曾祖父)と、ルービン・モンモランシー・テンチは、ジョージア第一騎兵連隊に所属している。彼らは南部連合テネシー軍として、1862年年末から1863年の正月にかけて、マーフリーズボロ(ストーンリバー)の戦いに参加していた。
 この戦いで南軍は北進を阻まれ、冬の到来とともに西部戦線のテネシー方面はマーフリーズボロを挟んで膠着状態に入った。実に、半年ほども大きな動きがなかったことになる。

 無論、南北両国の首脳陣は戦争の長期化を歓迎せず、現場に対して早く攻撃に移れとせっついていた。
 南軍の方は、まずテネシー軍の司令官であるブラッグに人望が無さ過ぎで、軍組織の指揮系統にやや混乱が生じていた。南部連合大統領デイヴィスは個人的感情としてブラッグに肩入れしていたが、かといってこの膠着状態を放置しておくわけにもいかない。そこで、前年の半島作戦時に負傷して第一線の指揮から遠ざかっていたジョーゼフ・ジョンストンを、事態打開のために派遣した。かといって、別にテネシー軍の司令官が交代するわけでもない。ジョンストンは何をどうすれば良いのか、よく分からない状態に置かれ、この調整は失敗に終わる。
 一方、北部連邦カンバーランド軍の司令官ウィリアム・ローズクランズにも、問題があった。彼はいくらリンカーンや陸軍長官のハレックから、早くテネシー軍を攻撃して南部へ追いやれと催促されても、それをまともに行おうとはしなかったのである。リンカーンにしてみれば、その頃まだグラントがヴィックスバーグを落としておらず、西部戦線における戦場が大きく二つに分かれている状態は、気が気ではなかった。ローズクランズがグズグズしている間に、南部の補給が回復して、ヴィッグスバーグ方面がさらなる苦戦になっては敵わない。
 ローズクランズというのは、1861年南北戦争の初期に、ウェストバージニア方面で、マクレランのもと現場指揮を執った人物である。すなわち、テンチ家の兄弟のひとり、ジェイムズが戦死したときの敵方の将軍なのだ。と、なれば気分として有能かつ勇敢な将軍であってほしいのだが、どうも現実はそれほど上手くいかない。
 ローズクランズは、行動を起こさない理由をアレコレと上に説明しているが、その中の一つは、「自分が動くと、テネシー軍は西に転じて、グラントを脅かすだろう。自分が動かず、テネシー軍を釘付けにしていることによって、間接的にグラントを助けているのだ」という、よく分からないものだった。およそ、軍隊というものが対峙しているとき、眼前の敵の動きをみるや、そっぽへ走り出すような近代戦が存在するだろうか…?

 この体たらくのなか、トップはともかく、双方の騎兵部隊が独自に活発化し始めた。特に南軍は全体に占める騎兵の割合が多い。東部戦線のスチュアートなどもそうだが、南軍の方が北軍よりも騎兵の質,指揮官の質でやや勝っていた。当人たちにもその自覚があるようで、やや無茶な作戦もかなりやらかしている。
 南軍東部戦線で有名な騎兵指揮官は、まずネイサン・ベッドフォード・フォレスト。戦後の行動によって、その評価が難しくなる人物だが、この内戦中は、常に有能な騎兵指揮官だった。そして、ジョゼフ・ウィーラー。彼もスチュアートさながら、敵の背後を回る式の騎兵独特の活動を得意としていた。
 目立たない人物だが、ジョン・ペグラム少将という指揮官も居る。彼は、テンチ家の兄弟が所属するジョージア第一騎兵連隊などを連れて、1863年3月から4月にかけて、ケンタッキー方面への奇襲をかけている。これはあまり念の入った作戦ではなかったらしく、大した成果もないまま、同僚にけなされるなどもしたらしい。
 このケンタッキー方面への奇襲は、さらに6月下旬にかけて断続的に続いた。その中で6月15日にジョン・W・テンチが負傷するという記録がある。彼はその後も軍務につき続けているので、この時の怪我はたいしたものではなかったようだ。

 一方、ぺグラムの行動を味方ながらけなしていた人物のなかには、ジョン・ハント・モーガン准将がいた。彼は1863年7月に、「モーガンの襲撃」と呼ばれる騎兵による冒険的な軍事行動を行った。具体的にはオハイオ川を渡ってインディアナ州や、オハイオ州南部など、北部へと乗り込んだのだ。
 しかし、これは無謀すぎた。モーガンもろとも、北軍の捕虜になるというのが、その結末である。その後、モーガンは捕虜収容所から脱走するという、これまた冒険的な行動を成功させるが、南軍に復帰後も指揮官としての信頼は取り戻せないまま、1864年8月に戦死している。

 前述のジョンストンはアール・ヴァン・ドーン少将率いる騎兵をテネシー軍への援軍として、派遣していた。ドーンは小競り合いに駆けずり回っていたが、まだ南北本体軍が膠着状態にあった1863年5月、テネシー州スプリングヒルに置かれていた作戦本部で、頓死した。
 戦死ではない。ドーンがとある医者の妻と不倫関係になり、その医者によって、射殺されたのである。

 現場責任者はなんだかんだと動きが鈍く、各騎兵隊が独自に駆け回り、ある者は色恋沙汰の末に鉄砲で撃たれる。
 南北戦争の指揮官たちを見ていると、時々これがナポレオン以後の世界 ― 高度に近代化された軍隊の指揮官なのだろうかと、疑いたくなることが、ままある。

Ravi Shankar & George Harrison / Collaborations2010/12/04 23:33

 ラヴィ・シャンカール&ジョージ・ハリスンの、ボックスセット, [Collaborations] は、アメリカのアマゾンから購入していたので、もうずいぶんかえに手元に届いていた。カードの請求書が届いたのだが、思っていたよりレートが良かったらしく、予想よりずっと安くなっていた。こういうときはさすがに円高に感謝している。



 学生時代、民族(俗)音楽学の先生が、インド音楽を専門としていた。当人もシタールを少しかじっていたようだ。当然講義にもインド音楽が多く出てきた。それから、日本の楽器学の最高権威とも言うべき教授の講義でもインド音楽が話題になったのだが、両者に共通していたのは、「インド音楽にまともに取り組もうとしたら大変な事になる」ということだった。
 聞いた感じがとても素敵なので飛び込んでみたくもなるのだが、その音楽の複雑さときたら、とんでもないらしい。そういえば、インド人は数学に強いと言う。そういう数学的な理論で複雑かつ厳密、重厚で濃密で長大、要するに巨大な音楽に立ち向かう事になるというのだ。
 民族(俗)音楽の講義では、当然ラヴィ・シャンカールが登場した。音楽そのものとしての話題ももちろんだが、20世紀という時代にあるインド音楽の、ある一面の偉大な体現者としてでもある。ジョージも話題に上ったのは、言うまでもない。

 民族(俗)系の音楽に興味が皆無でもなかったし、何といってもジョージのファンなので、ラヴィ・シャンカールのアルバムは、いつも欲しいと思っていた。しかし、私にはインド音楽に正面から立ち向かう度胸もないし、何を買うのが適当なのかも分からない。とにかくジョージが何らかの意味でかかわっているアルバムが欲しいとおもいつつ、月日を過ごしていたところに、このボックス・セットが発売になったので、渡りに船だった。

 素敵なデザインのボックスに、丁寧な作りのブックがついている。私のシリアル・ナンバーはNo.1504。収録は以下の通り。

Chants of India
 ジョージのプロデュース。その名の通り、チャント(合唱曲)ばかりのアルバム。[Concert For George] でも流れた、"Sarve Shaam" も収録されている。インストゥルメンタル的にはちょっと物足りないかもしれない。

Music Festival from India
  これもジョージのプロデュースで、ライブDVDもついている(日本のDVDプレイヤー再生可能)。録音の一部は、ヘンリー・オン・テムズの、ジョージのハウス・スタジオで行われている。これが一番お勧めのアルバム。インストゥルメンタル的にも楽しめるし、聴きやすい。(4, 2, 2)とか、(3,2,2) など、拍子が表記されているところが面白い。

Shankar Family & Friends
 これまたジョージのプロデュース。聞いたとたんに、ジョージが作ったと分かるポップ・ソング "I Am Missing You" がぶっ飛んでいる。この曲は明らかに、歌手の選定ミスだろう。ジョージに歌わせた方が絶対に良いと思うのだが。この曲のポップエッセンスが、アルバム全体にも及んでおり、ちょっと戸惑わなくもないか。

 私のように、とりあえず「何か欲しい」としか思っていない人にとっては、手頃でちょうど良い。ただし、飽くまでもインド音楽のボックスなので、ジョージやビートルズが好きだからという理由だけで購入するのはお勧めしない。

 ブックの印刷は実にお金のかかった感じ。写真がとにかく美しい。改めて言うのもなんだが、ジョージは美形だ。
 ジョージやシャンカールのコメントも入っている。
 印象的だったのは、ジョージが子供のころからラジオでインド音楽を耳にしていたということ。それから、シャンカールが初めてジョージに会った時の印象。ビートルズの四人全員と会ったのだが、ジョージの印象が特別だったと言うのだ。ジョージの大勢の親友たちは、たいてい同じようなことを言う。ジョージは最初に一目見たときから、特別だそうだ。

 私は、20世紀の音楽をその代表者で説明しようとするなら、ビートルズ,ジョン・ケージ,ラヴィ・シャカールだと思っている。この三者のうちの二人が、強い尊敬と愛情の相互関係で結ばれていたという事実は、音楽という芸術にとって、この上ない喜びと言うべきだろう。ジョージの周囲には、いつもそういう友情が成す奇跡が、普通に起こっている。彼の生前も、そして死後も。

I Feel Like Playing2010/12/07 23:30

 ある程度の実力を伴ったバンドが、長続きする秘訣は何か。マイク・キャンベルは「よく分からない」と言っている。
 ストーンズにしろ、ハートブレイカーズにしろ、まず基本的にバンドという形態に対する強いこだわりが必要だろう。キース・リチャーズがストーンズ命であることは有名だし、かのトム・ぺティもバンドが好き過ぎ。
 しかし、ある程度のキャリアを積んでくると、自分のバンド以外の息抜きも多少必要なのかもしれない。フロントマン以外のメンバーも、よそで楽しく、しかもちゃんと稼ぎになる仕事をうまくこなせば、バンドの長続きに寄与するのではないだろうか。その好例がベンモント・テンチであり、マイク・キャンベルだろう。二人ともトムにとって掛け替えのない大事な存在だが、バンド外活動にも熱心だ。
 もっとも、ジョージのように自分のバンド外の方が居心地がよく、自分の実力を発揮させることに気付いてしまうと、一気にバンドから離れてしまうので、両刃の剣なのだが。要するに、事は難しいということ。

 ロニー・ウッド,そのバンド経歴は実に華麗なものがあるが、ストーンズに定着してからはずいぶん長い月日が経っている。その間も、当たり前のように素敵なソロ・アルバムを発表し続けている。今年、彼が発表したのが、[I Feel Like Playing] ― 彼はいつも、アルバムに絶妙なタイトルをつける。(某、モウジョウ…とか…どうなんだろう…)



 このアルバム、かなり素晴らしい。12曲中、10曲が共作も含めたロニーのオリジナル。その一つ一つがすばらしい楽曲なのだ。それを思うと、オリジナル楽曲に関しては、ほぼグリマー・ツインズの曲だけで構成されているストーンズは凄まじく贅沢なことをしていることになり、空恐ろしくなる。

 何といっても、冒頭の"Why You Wanna Go And Do A Thing Like That For" からして、もう反則ものの素晴らしさ。イントロを聞いただけで良い曲だと分かってしまう。非常にしっとりとした、しかもチャーミングで ― ロッドのソロ・アルバムに入っている "Mandorine Wind" に良く似た雰囲気。簡素な作りだけど、切々としていて、泣かせる。こういう曲がアルバムの冒頭というのがすごい。最後の曲に持ってきそうなものだが。
 私の一番のお気に入りは、3曲目の "Lucky Man"。いうなれば、馬鹿ロック。ひどくイカしたイントロが既にロックにキメている。ドラムが入る前に、我慢できずにヴォーカルが入ってくるような感じで、もうあとは溢れ出る、溢れ出る快感。本物のロックンローラーがそこに居るんだなと、実感させられる。コーダのシャウトの突き抜け方が愛しい。
 5曲目の "Think About You" は、最近のTP&HBにありそうな、ブルージーな格好良さ。
 他の曲の中には、非常にストーンズ的な音楽が多い。さすがに長く居ると、感染るらしい。そして最後の曲、"Forever" は、どこかジョージっぽい感じがする大作。
 このロニーのアルバムは、いったん聴き始めると、へヴィー・ローテーションになっててしまう。魅力にあふれている。やっぱりロニーは凄い。

 これほどのロッカーなだけに、いつまでも元気にロックしていてほしい。だから、プライベートや健康面でフラフラされると、不安になってしまう。良い野球選手もプライベートの面でフラフラされると、ファンとしては心配になってしまうのと一緒。とにかく落ち着いて、自分を大事にロックしてくれると嬉しい。もう21世紀なのだから。大好きだよ、ロニー。

 そう言えば、「新譜が出る。買う。」と言ったまま、その感想を述べていないアーチストが居た。エリック・クラプトン。
 …エリック・クラプトン・ファンの私としては、あのアルバムは無かった事にしたい。無論、iPodにも入れていない。どうも感想を述べるほどの内容を覚えていない。最後の「枯葉」など、早く終わらないかなと本気で思っていた。
 結局、私はロック馬鹿でしかないということだろうか。とほほ。

私の好きなビートルズ2010/12/09 23:05

 12月8日はジョン・レノンが死んだ日だったため、いろいろと彼の名前を目にした。
 私が好きなジョン・レノン。以前は、ジョンのソロ・ワークに、より強くジョンの魅力を感じ取ろうと努力したものだ。しかし、マイク・キャンベルがビートルズ初期の魅力を力説しているのを知った。それ以来、無理することをやめた。私はビートルズが好きだ。ビートルズのジョン・レノンの方が、ソロのジョンより好きだ。

 あらためて、私はビートルズのどんな曲が好きなのか。試みに、iPodのプレイリストに、思いつきの「ビートルズ・ベスト・アルバム」を作ってみた。大事なのは、あまり考えず ― アルバムや作者のバランスなどを考慮に入れず、お気に入りを選択してみたところ、69曲になった。

I saw her standing there (PPM/P)
Twist and shout (PPM/J)
She loves you (PM1/JP)
It won't belong (WB/J)
All my loving (WB/P)
Don't bother me (WB/G)
Please mister postman (WB/J )
Roll Over Beethoven (WB/G)
I want to hold your hand (PM1/JP)
A hard day's night (AHDN/J)
I should have known better (AHDN/J)
If I fell (AHDN/J)
Can't buy me love (AHDN/P)
I feel fine (PM1/J)
No reply (BFS/J)
I'm a loser (BFS/J)
Rock and roll music (BFS/J)
I'll follow the sun (BFS/P)
Mr. Moonlight (BFS/J)
Help (H/J)
I need you (H/G)
You're going to lose that girl (H/J)
Day tripper (PM2/JP)
Drive my car (RS/P)
Norwegian wood (This bird has flown)(RS/J)
Nowhere man (RS/J)
I'm looking through you (RS/P)
In my life (RS/J)
If I needed someone (RS/G)
We can work it out (PM2/P)
Paperback writer (PM2/P)
Taxman(R/G)
Eleanor Rigby(R/P)
Here, there and everywhere (R/P)
Yellow submarine (R/R)
She said she said (R/J)
And your bird can sing (R/J)
I want to tell you(R/G)
Sgt. Pepper's lonely hearts club band (SPLHCB/P)
With a little help from my friends (SPLHCB/R)
Lucy in the sky with diamonds (SPLHCB/J)
Magical mystery tour (MMT/P)
The fool on the hill (MMT/P)
Hello goodbye (MMT/P)
Strawberry fields forever (MMT/J)
Penny lane (MMT/P)
All you need is love (MMT/J)
Back in the U.S.S.R (WA/P)
Ob-La-Di, Ob-La-Da (WA/P)
While my guitar gently weeps (WA/G)
Birthday (WA/P)
Everybody's got something to hide except me and my monkey (WA/J)
Revolution 1(WA/J)
Savoy truffle (WA/G)
Revolution (PM2/J)
Lady Madonna (PM2/J)
Hey Jude (PM2/P)
It's all too much (YS/G)
Two of us (LIB/P)
Let it be (LIB/P)
Get back (LIB/P)
Don't let me down (PM2/J)
Old brown shoe (PM2/G)
Let it be (PM2/P)
Come together (AR/J)
Something (AR/G)
Oh!Darling (AR/P)
Octopus' Garden (AR/R)
Here comes the sun (AR/G)

 “Let It Be” は、シングルとアルバム双方を残すことにこだわっている。それほどこの曲が良いのではなくて、ジョージのギターが双方とも捨てがたいのだ。  便宜的に色分けしてみたのだが ― メイン・ヴォーカルを取っている人で分けると、ジョンポールジョージ,ジョンとポール双方・リンゴは黒くしてある。
 69曲中、ジョン27曲,ポール24曲,ジョージ12曲,リンゴ3曲、ジョン&ポール3曲。圧倒的にジョンが多いのかと思ったら、意外にもジョン,ポールでほぼ同数だった。ジョージが12曲と、17%を占めているところに、私の趣味が反映されている。
 [Please Please Me] から [Beatles For Sale] を初期、[Help!] から [Sg. Peppr] を中期、それ以降を後期と分類すると、ジョンが [11-8-8] と推移するのに対し、ポールは[1-7-13],ジョージは[2-4-6] となる。ジョンはコンスタントながら、ポール,ジョージが後期になるにしたがって、グイグイと増えていくのが面白い。
 アルバム別に数える。[White Album] は2枚組だし、[Magical Mystery Tour] はシングル集のような意味合いがあるので除外すると、やはり一番好きなアルバムである、[Revolver] から7曲が目立つ。それに次ぐのが、[Rubber Soul], [With the Beatles], [Beatle For Sale] となる。それぞれがソロ志向の強い曲を作る時期よりも、「ビートルズのアルバム」としては、好きなアルバムが前半に片寄っていることが分かる。
 やっぱり私が好きなビートルズの基本は、ジョン初期のあの凄まじいヴォーカルなのだと、改めて思ったりもする。

 ちなみに、ベスト10を無理に選ぶとすれば、”Twist and Shout”, “No Reply”, “Nowhere Man”, “In My Life”, “If I Needed Someone”, “She Said, She Said”, “And Your Bird Can Sing”, “While My Guitar Gently Weeps”, “Hey Jude”, “Here Comes The Sun” となり、圧倒的に、ジョン,ジョージの割合が増える。

 ともあれ、ビートルズの良いところは、いくつかあるものの、そのお手頃なボリュームも長所の一つだと思うに到った。オリジナルアルバム13枚、活動期間も短いし、かといって曲が少なすぎるわけでもない。そういう、とっつきやすさも、ビートルズの良さだろう。

Hard Promises2010/12/12 22:45

 12月10日付で、Cool Dry Placeに、「カントム」のPart Two, Hard Promises をアップした。

 "A Thing About Me" のところで話題になるカバー・バージョン,エミルー・ハリスと、サザン・パシフィックの演奏。これは、TP&HBがディランと初めて共演したファーム・エイドのステージでの様子だ。



 エミルー・ハリスは素晴らしい歌手だとは思うが…この曲はどうだろう。TP&HBオリジナルのかっ飛ばしロックンロール・バージョンに慣れてしまうと、ちょっと違うかな、という感じてしまう。

 この曲に出てくるトムとマイクのギターについて、トムは「お互いの音をどう聞いているか、そして互いのギャップをどう埋めているか。ぼくらはとても長い間一緒にやっているから、直感的に分かるんだ。」と述べている。
 そう言えば、ボブ・ディランはアルバム [Together Through Life] のセッションでマイクと共演したことについて、こうコメントしている。
“He’s good with me. He’s been playing with Tom for so long that he hears everything from a songwriter’s point of view and he can play most any style.”
 マイクとは上手くいった。彼はトムととても長い間一緒にやっていて、ソングライターの視線から全てを聞きとるし、どんなスタイルでも演奏できる。」

 なるほど…?長く一緒にやっているのはトムさんだけど、ディラン様に対してもその能力は応用されるのか。

 音域についてのコメントも面白い。ポール・ゾロの言う、「普通は2オクターヴ」だが、これは歌手として訓練した人の「普通の音域」である。常人であれば、せいぜい1オクターヴしかない。オードリー・ヘップバーンの音域が1オクターヴしかなくて、「ムーン・リバー」の作曲には苦労したというのは、有名な話。
 カウンター・テナーあたりで、3オクターヴある人もたまにいるし、ジェシー・ノーマンなどもそれくらいありそうだ。だから、トムの言う4オクターヴというのは、眉唾だ。私はその手の話を信用しない。
 もっとも、トムは「音域が上がると、音程を正しくは歌えなくなる」という、重要な自覚をきちんと述べている。これはさすが。ハートブレイカーズはかなり音程には厳しいようだ。私も音程は正確であればあるだけ良いと思っている。

 "Kings Road" は、私にとってもおきにいりの曲。元気に突き抜けたロックンロール。
 この映像は、テレビ番組に出たときのライブ。ノリが最高で、格好良い!ライブで見てみたい。



 どうしたんだろう、髪が短い。やたらと短い。みんな短い。特にトムさんは、髪が短いと普通の人 ― いや、普通よりややダサい人にしか見えない。しかも、スタンやベンモントまで短い。どうしたんだ、何かの罰ゲームか?
 この演奏は、格好良いブレイクがあって良い。演奏している当人たちも楽しそう。演奏が終わった後に、珍しくトムとマイクが嬉しそうにハグしている。どうしたんだ、何かの罰ゲームか?

The Witmark Demos2010/12/17 23:25

 8月にニューヨークに行って、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズを見るという大イベントがあったせいか、ひどく遠い出来事のように感じるが、今年はボブ・ディラン来日という大事件があった。
 ライブそのものの形態もあって、鑑賞にはなかなかの苦難が伴ったのだが、ともあれ彼が相変わらず旺盛なライブ意欲を持っていることが嬉しかった。そして、曲目の多くが21世紀になってからの楽曲で、ただの昔の歌手ではないディランの格好よさに、改めて惚れなおした。

 その一方、10月にはブートレグ・シリーズ Vol.9 となる、[The Witmark Demos: 1962-1964] が発売された。
 これは、ディランが最初に所属した音楽出版社である、リーズ・ミュージックおよび、ウィットマーク&サンズのために録音した音源を集めたものだ。すなわち、デモと言っても作曲作業過程に、メモ代わりに録音するようなものではなく、ある程度完成した曲を、人に聞かせることを目的としている。



 私は、中途半端な、しかも本当に断片的な音源を公式に、しかも大量にリリースする行為にはやや疑問を持っている。このことは、ビートルズの [Anthology] の時に強く感じた。いかに大ビートルズであっても、仕上がりの悪いものを大量に、しかも高い値段で売るという行為はどうかと思ったのだ。クラシックで言えば、いかにマウリッツォ・ポリーニでも、毎日の自宅での練習までは録音して販売しないのと同じだ。あの時期、ちょうどTP&HBも似たようなボックス [Playback] を出した頃で、後者の内容の良さが、ビートルズのイマイチ感をより際立たせたことも、影響している。
 そういう意味で、今回のディランの「デモ」にもやや警戒感を持っていたのだが、そこは杞憂だった。すでに述べたように、このデモはすでにある程度出来上がったものなので、価値的には問題ない。1962年から1964年にかけての、みずみずしく、野心的で、何といっても若いディランが息づいている。

 ただし、ブートレグ・シリーズ Vol.1 と、どう違うのかと尋ねられたら困る。要するに、あまり変わらない。もちろん、つぶさに聴けば違いがあり、その違いに感動を新たにするべきだし、その方がファンとして格好良いのだろう。しかし、私はだいぶ前に、そういう高尚なファンである努力を放棄している。
 とにかく、この [The Witmark Demos] は、Vol.1 とかなり印象がかぶる。曲目も実際かぶっていて、Disc 2 の4曲はすでに他のブートレグ・シリーズで発表されている。私は "When The Ship Comes In" の素晴らしさに感動してしまったのだが、これはVol.1 ですでに聴いていた。
 ともあれ、ディラン・ファンであれば、欲しいアルバムだろう。無論、ファンになりたての方には勧めないが。

 相変わらず若い頃のディランが容姿が良く(その後も、今も良いが)、その特色を最大限に生かしたアートワークが見られるのだが、気になるのはタイプライター。
 ソングライターというのは、普通にタイプライターを使うのだろうか。ディランがタイプを使っている写真はよく見る。これは歌詞がほぼ出来上がってから打つのだろうか。ジョージはウィルベリーズの時、ディランの字はクモが這うような細かさで、読めやしなかったと言っているが…
 ともあれ、ディランはタイプライターを打つ姿も、格好良い。

Brandeis University 19632010/12/19 23:59

 私は好きなアーチストの、日本のレコード会社のホームページというのはほとんどチェックしない。そのせいで、重要な情報をうかつにもたびたび見落としている。
 ボブ・ディランの [The Witmark Demos] はデモということで、さて買うか買うまいかしばらく考えていたし、彼の初期アルバム8作品のモノラルCDボックス、[The Original Mono Recordings] は買う気が無かった。後者に関しては、去年のビートルズ・モノ・ボックスの馬鹿売れ加減に触発されたのではないかと思われる。
 ところが、とある情報源が重大なことを知らせてくれた。なんでも、日本版 [The Witmark Demos] (3780円)と、[Mono Recordings] (18900円)の双方を購入し、付属応募券2枚をはがきに貼って応募すると(2011年1月31日応募締め切り)、特典非売品ライブ音源、[Bob Dylan In Concert Brandeis University 1963] がもれなく貰えると言うのだ!(特典の発送は2011年2月以降)これは聞き捨てならない。



 一瞬、我を忘れて22680円を放り投げそうになったが、すさまじく物知りな情報源はもっと重要なことを教えてくれた。アメリカのアマゾンなら、[The Witmark Demos] か、[Mono Recordings] のどちらか一方を買えば、[Brandeis University] がついてくると言うのだ(期間限定)。
 私は、はなからボックスを買う気が無かったので、脇目もふらずに [Witmark] の値段を確認した。13.99ドル。…なんだ、その安さは…。アメリカは凄い。無論、日本への輸送費がかかるので、合計21.97ドル。やっぱり、2000円しない。即、購入。日本で普通に買ったら22680円を費やし、来年2月以降を待つことになっていたが、[Brandeis University] は2000円たらずで、早々に私の元にとどいた。

 内容は、1963年5月10日にマサチューセッツ州のブランダイズ大学で行われたコンサートのライブ音源になっている。これは、なくなったローリング・ストーン・マガジン創刊メンバーのコレクションの中に残されていたものだそうだ。
 音質はなかなか立派なものだ。ただし、所々が切れていたりするのが愛敬。ディランも興が乗ってきて、マイクに何か(ギター?)をゴンっ!とぶつけたりもしている。
 どの曲もニューヨークに出て来たばかりの若きボブ・ディランの、生演奏の魅力が溢れている。同時に、当時のいかにもモダン・フォークが好まれていそうな大学の雰囲気が多少伝わっているような気もする。英国からやってくる可愛い容姿の、騒々しいロックンロールな坊やたちなぞ、入り込むすきもなさそうだが。実はディラン自身がビートルズに魅せられるなぞ、想像もつかない時代の空気が詰まっている。

打ちものいろいろ2010/12/22 23:37

 今日は、雅楽の演奏団体,伶楽舎のコンサートだった。テーマは、「打ちもの」。打楽器にスポットをあてたコンサートである。
 曲目は、舞いものの「青海波」,芝先生による復曲の「曹娘褌脱」,後半は猿谷紀郎作曲の現代曲(初演)。「曹娘褌脱」は、べつに曹操孟徳の娘がフンドシを脱ぐ音楽ではない。どこかで字を間違えたらしいが、雅楽にはよく、この「褌脱」が出てくる。それはともかく ― 
 「青海波」は、源氏物語の「紅葉賀」で光源氏が舞うシーンがあり、そのためか知名度が高い。
 (このように書いて、私が源氏を知っているかのように誤解されると困る。私はまったく源氏に興味がない。せいぜい能の元ネタとしてチェックする程度。ああいう主人公(どこが魅力的なのだ?)の物語が延々と展開されても、困るのだ…)

 この季節の平日にコンサートというのはきつい。私も仕事が片付かず、開演時間になってもオフィスを離れられなかった。やっと抜け出して会場についてみると、もう前半が終わろうとしている。私は現代雅楽が苦手で、だんぜん古典が好きなので、がっかりしてしまった。
 休憩時間に、よし、これはアンケート用紙に、「この時期の平日はきついです!」と書いてやろうと思い、受付で渡された紙類を確認したのだが、どうもアンケート用紙が無い。
 おや、今回は無いのかしらと、周囲を見回してみると、みんな手に手にアンケート用紙と、ピンク色のプログラムを持っているではないか。

 ピンク色のプログラム…?

 私が手元のプログラムを改めて見ると、なぜかそっけない普通紙に白黒コピーしたとしか思えないプログラムがそこにある。え、なに、何なの?どうして私だけピンクじゃないの?遅刻すると、アンケートはもらえないわ、プログラムは白黒コピーだわ、そこまで虐待されるのか?!
 終演後、楽屋で友人にこの話をすると、驚くと同時に大爆笑された。
 やはり、コンサートには時間どおり行くもんだ…。

A Long December2010/12/24 23:48

 北緯31度、12月末のベツレヘムの厩は、出産には寒すぎやしないかと、極端な寒がりの私は思わないでもない。天文学者によれば、イエスが生まれたのは9月でないかとか、羊飼いが12月に羊を放牧しているはずがないとか ―   とにかく12月25日はクリスマスで、厳密には前夜祭である24日の日没以降から、クリスマスとするらしい。一年で一番大きな行事を、一年の最後に「祝いたい」という心理は良く分かる。実際、それで2000年近く、多くの人が盛り上がり続けているし、そのおかげで優れた音楽も沢山つくられた。

 ただし、ロックという音楽ジャンルにおいては、あまりクリスマスの名曲というのは多くないと思う。音楽がもともと持っている性格として、あまり向いていないせいではないだろうか。
 そんな中で、この時期の音楽をふたつ。

 ひとつは、以前にも紹介した、ザ・ポーグズの "Fairy tale of New York"。欧米でロック・ポップスの人気クリスマス・ソング投票をすると、必ず上位に入るそうだ。それも納得の名曲。私も強いて1曲だけロック・ポップス部門でクリスマス・ソングを選べと言われれば、この曲を選ぶような気がする(そこで私がTP&HBを選んでも、フェアに判断したとは思われまい)。
 この曲は、ライブ映像は見ずに聴くのがお勧め。



 特にクリスマスと限定していないが、12月の音楽としてどうしても外せないのが、カウンティング・クロウズの "A Long December"。これまた、私にとっては、カウンテイング・クロウズで一番好きな曲。スタジオ録音も素晴らしいが、 [Across a Wire / Live in New York] 収録の、ライブもさらに感動的。コーダの盛り上がりなど、さらに最高。
 切なく、悲しく、でも絶望しない、いかにもロック的な美意識がよく出ている曲だ。胸がいっぱいになって、最後に泣くようにシャウトして、それでも美しくて強いというのは、ロックの特権だろう。



 アダムが…と、言うか全員が…細い…。

 この時期になると、面白いスポーツもやっておらず、テレビはつまらないスペシャル番組ばかりでうんざりしがちだ。しかし、その間隙を突いて、たまに面白い番組があったりするので、困る。げんに今、NHKでやっているNHK音楽祭,ヤルヴィ指揮の「運命」が面白すぎる。たしか、近くディランの [No Direction Home] も放映するはずだ。
 今度の日曜日は、私が唯一腰を入れてみる日本のお笑い番組M1と、フィギュアスケート日本選手権と、「坂の上の雲」が重なってしまった。どうしよう。しかも、N響アワーは、ショパン・コンクール・ウィナー,ユリアンナ・アヴディーエワだ!何も一日ですべてをやることもあるまいに。

MOJO Tour 20102010/12/27 22:24

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの公式サイトから、今年のライブツアー音源ダウンロード開始のメールが来たのが、12月14日。元禄赤穂事件の日だった(無論、実際の打ち入り事件は旧暦の話。雪は、実際には降っていなかったらしい。このように書いて、私が忠臣蔵好きだと思われると困る。私は基本的に忠臣蔵が嫌いだ)。
 私はHighway Companion Clubメンバーだし、ネットでライブチケットも購入している。そのようなわけで、8曲ダウンロードと、14曲ダウンロードの案内双方が来た。無論、14曲ダウンロードを嬉々として始めた。



 あまりダウンロードだのインストールだの言う作業は得意ではない。それでも、なんとか英語を読んで、MP3形式でダウンロードすることにする。メールで送られてきたクーポン・コードを入力し、ダウンロード開始。私のネット環境は光ではないため、毎回この手の作業をするとべらぼうな時間がかかる。今回もそれを当然覚悟したのだが ― なぜか、ダウンロードは一瞬にして終了してしまった。
 いやな予感がしつつも、ダウンロードされたフォルダを開けようとすると…なんと、エラー。フォルダにはファイルの一つも保存されていない。要するに、ダウンロードに失敗したのだ。いかん、いかん。あわてて後戻りして、再度クーポンコードを入力すると、こんどは「このクーポンはもう使っちゃったからもう、駄目だよーん」などと、ふざけたメッセージが赤字で出てきた。
 何をバカなことを言うか。しばらく懲りもせず、送られてきたクーポンコードを入れては同じ赤字メッセージを突きつけられ ― を繰り返し、やっとあきらめた。
 なんたること!この、私が!超TP&HBファンのこの私めが!ライブトラックをダウンロードできないなどという無法があってたまるか。仕方がないので、ヘルプページから、助けてくれメールを出すことにした。

「ハローアロー。HCCメンバー向けの14曲ダウンロードをやってみたばってん、エラーになってしまったぞなもし。ダウンロードできんでおじゃる。もう一度チャレンジしても、クーポンコードが無効になっちまったアルよ。原因は知らんけん。いかがすればよろしゅうござろうか。あしのコードはXXXXXX、これでありんす。」

 すると翌日、バーバラなる人から返信メールが来た。

「ハイ!メールありがとう!ご迷惑をおかけしてごめんあそばせ。あなたさまのトラブル内容と、コードを書き込んで、メールしてくださいませ。よろしくね。チャオ!」

 だからさ、最初にエラー内容とコードを送信したでしょ。一度で把握してよね。まぁ、いいや。こちらのコミュニケーション能力に問題があることは認める。

「ハロー。お返事を下さり、恐悦至極。エラー:HCCメンバー用ライブトラックダウンロードできない。コード:XXXXXX よろしくお頼みぃ。」

 すると即座に、またバーバラからメールが返ってきた。

「ハイ!あなたのクーポンコードはコレよ。頑張ってね♪チャオ!」

 …そのようなわけで、通知メールから3日目に、やっと私はMOJO Tour 2010 14曲を入手した。

 やはり最近の技術のなせるわざ。音が良い。大好きな "King's Highway" など、スコットにロン、ベンモントまで加わってのコーラスが細密に再現されていて、ぐっと来た。
 実際のライブを見ている時は、トムさんの腰振りに気を取られて気付かなかったのだが、"You don't know how it feels" 後半のベンモントのピアノがイカしている。そして白眉は、新譜 [MOJO] の楽曲。新譜の曲なのに、演奏が練れていて、安心感のある格好良さが光る。特に、"Running Man's Bible" の終わり方が最高。うわぁ、凄い!

 こうして、あらためて [MOJO] の曲を聴いていると、すごく良いアルバムなのだという実感を新たにした。グラミー賞については、ノミネートは当然として、いつもなら受賞するか否かはあまり重要なことだとは思っていない。しかし、今回の場合かなり良いアルバムだけに、もしかして獲るかもしれないという、期待が湧いている。さて、どうなることやら。