Free Fallin' on Ice2011/01/03 22:47

 私自身はひどく運動が苦手でまったくやらない一方、野球やF1などスポーツを見るのは好きだ。フィギュア・スケートも好きなスポーツのひとつ。これは音楽も重要な要素であるため、そういう楽しみもある。
 私の友人にフィギュアに非常に詳しい人が居る。普通にスポーツ・ニュースで聞くような、やれ何回転ジャンプが成功かどうかなどだけではなく、作戦,構成,狙い,スケートの質,ジャッジの傾向などかなり細かく教えてくれるので、かなり面白い。
 その友人曰く、小塚崇彦のスケーティング技術の高さは世界最高クラスだそうだ。そんなわけで、私は3シーズンほど前から彼を応援している。

 基本的にはスポーツとしてのフィギュアが好きなので、緊張感のある試合本番の映像ばかり見ていて、採点されないエキシビションはあまり熱心には見ていない。
 しかし今シーズン、ショパンのバラード1番ですごく良いエキシビションを滑っている人が居るので、先日の日本選手権のエキシビションをチェックしていた。すると、小塚くんの番になり、彼の今シーズンエキシビションを初めて見た。見たらびっくり仰天した。なんと、曲が "Free Fallin'" だったのだ…。ジョン・メイヤーによるカバーだが。



ジョン・メイヤーの演奏シーンはこちら

 思わず、テレビの前で奇声を上げてしまった。日本のテレビ番組で "Free Fallin'" を聴くこと自体が非常に稀だというのに、注目度の高い小塚くんがこの曲を滑っているとは…!
 友人の言うスケーティング技術の高さが、堪能できるプログラムと言えるだろう。ジャンプや、複雑なステップ、スピンなどではない、基礎の基礎、滑るという行為そのものの美しさは、確かに素晴らしい。プログラム構成も、彼のこの長所を生かそうとしていることが明らかだ。さらに、歌詞が "I wanna write her name in the sky" のところで、小塚くんが氷に寝そべり、上を指差すという、念の入った振り付けもついている。

 小塚くんのコーチは、佐藤信夫さん。彼の娘の佐藤有香さんも主にアメリカでコーチをしているのだが、振り付けも頻繁に行っている。小塚君の "Free Fallin'" も、佐藤有香さんの振り付けなのだ。彼女はアメリカをベースにしているし、旦那さんもアメリカ人なので、"Free Fallin'" という曲そのものには、馴染みがあるのだろう。このプログラムは曲を聞いただけでアメリカ人が狂喜するのは想像に難くない。
 一方でいかに名曲と言っても、トム・ペティのオリジナルでやって欲しかった…!とは、実は思わない。オリジナルの曲は間違いなくロック史に残る名作だし、アメリカ人もこのオリジナルがさらに好きなはず。しかし、バラードとは言え、ロックとしての存在感が強すぎて、スケートを載せるて流れるのに向いているとは言いかねるのだ。小塚くんには悪いが、さすがにトム・ペティとその相棒たちには敵うまい。
 その点、このジョン・メイヤーのカバーは実にさりげない美しさを湛えているので、スケート・プログラムには向いている。
 今シーズンの後半、小塚くんが活躍して、このエキシビションを鑑賞できる機会が増えると良いと思う。もっとも、ダンサーとして完璧な高橋くんも好きなんだけどね。

 改めて鑑賞すると、胸がつぶれるほど美しくて、感動的な名曲 "Free Fallin"。このライブ映像は、2006年。コーラスの声の張りが素晴らしい。そして一緒に大合唱するオーディエンス。私も去年の夏に体験した、あの不思議な幸福感。去年のライブでは、イントロでマイクとトムさんが額を突き合わせるようにして二本のリッケンバッカーを奏でてくれるという、イカした演出を見せてくれた。ああいうのって、いつどう打ち合わせて、やることにするのだろう…?