迷惑な援軍2010/08/15 22:29

 南北戦争は、西部戦線に目を向けることにする。話は、ゲティスバーグの10月前、1862年秋に戻る。
 西部戦線は、広大な地域をその戦闘範囲に含むが、主に二方面の戦いに代表された。ひとつは、テンチ家の兄弟 ― ジョン・ウォルター・テンチ(ベンモントの曽祖父)と、ルービン・モンモランシー・テンチが所属するナッシュビル周辺の戦闘。もう一つは、ミシシッピ川をめぐる戦闘である。

 ミシシッピ川河口に関しては、北軍が既に海軍でもって制圧していた。残すは、ミシシッピ州ヴィックスバーグである。このミシシッピ川東岸の拠点を落とさないことには、北軍が川を制圧したことになならない。しかしこのヴィックスバーグは攻めるのが難しい。
 北軍が攻めあぐねる中、リンカーンがユリシーズ・グラントを部下のシャーマンなどとともに、テネシー方面から派遣したのは、1862年の秋である。
 グラントは、川側からヴィックスバーグを落とすことは困難であると早いうちから判断していた。まずバイユーという地図さえ満足にない低湿地・沼地という悪条件がある。したがって、グラントはヴィックスバーグの北300kmほど離れたテネシー州メンフィス付近から、順々に南軍の拠点を落としながら南下し、ヴィックスバーグへ向かい、消耗線に持ち込む作戦を取った。
 ところがこの作戦は、なかなか上手く作用しなかった。グラントもその部下たちも、南軍の騎兵の活躍 ― ヴァン・ドーンや、ネイサン・ベッドフォード・フォレストらが率いる南軍自慢の騎兵に、手を焼いたのである。しかも北軍の物資は奪われ、焼かれ、電信を寸断され、鉄道の線路まで破壊されてしまった。1862年の12月までの状況はこのようなもので、グラントにとっては芳しい戦況とは言えなかった。

 そんな中、リンカーン大統領のもとに、イリノイ州の下院議員ジョン・A・マクラーナンドが、ある提案を持ち込んだ。マクラーナンドは自ら大規模な旅団を組織し、ヴィックスバーグ攻撃を買って出ようというのである。
 軍隊という厳格な組織にとって、このような私的で、政治的狙いが露骨すぎる自称「援軍」は、明らかに好ましくなかった。そもそも、マクラーナンドはこれまでもやや中途半端な形で戦闘に参加しては、グラントに関してあまり良いコメントをしてこなかった人物である。グラントがそんな援軍を歓迎するはずがなかった。
 リンカーンもそこは理解していたであろうが、彼は徹頭徹尾の政治家だった。大統領は「政治的配慮」というもので、この発言力の強い下院議員の提案を、「喜んで」受け入れたのである。
 グラントにしてみると、迷惑この上ない。リンカーンは司令官はグラントであることを保証してくれているが、グラントはマクラーナンドが到着する前に、シャーマンに対してヴィックスバーグのすぐ北,チカソーの拠点を落とすように命じた。グラントにしては珍しく、やや焦ったようだ。しかしシャーマンのこの軍事行動は成功せず、やがて1863年になるとほぼ同時に、マクラーナンドが到着して、シャーマンの上に立つことになった。
 しかし、誰にも想像できたであろうが、グラントより10歳ほど年長のマクラーナンドは将官としては不向きな男で、グラントの忠実な部下であるシャーマンのみならず、ある意味「部外者」であるはずの、海軍側からも非常に評判が悪かった。彼ら曰く、マクラーナンドの高圧的で尊大な態度の軍事的指示には従えないと言う。
 グラントは、1月下旬にはマクラーナンドから指揮権を取り上げ、自らの配下に置くことによって、事態を収拾した。

 政治的配慮としては、このグラントのマクラーナンドへの対処はかなり大胆なものだった。実際、マクラーナンドはグラントの失脚を画策するなど、グラントにダメージが無かったわけではない。
 しかし、グラントの将官としての強みは、あまり物事に動じないところにあった。自分が非難されようが、戦闘でボロボロに負けて多数の死者を出そうが、彼はどこかとぼけた様にやりすごすのが特技のようだ。南北戦争のように、相手が意地になって馬鹿力を発揮し、しつこい敵の場合、このオタオタせず、我慢強いグラントの態度は、地味ではあるが有効だったのだろう。

コメント

_ dema ― 2010/08/31 11:35

遅れコメです。
今度は西部戦線に移ったんですね。
ヴィックスバーグはグラントがもっとも鮮やかな手腕を見せた戦いでしょう。
南北戦争では、軍事に政治的要素が絡むことがずいぶん出てきます。アメリカの2大政党制での牽制のしあいがいびつな形で出ている感じですね。
司令官もそうだけど、大統領は、本当に大変だったと思います。

_ NI ぶち ― 2010/08/31 22:18

>demaさん
 最後に西部戦線を書いたの時期を確認したら、眩暈がしましたよ(笑)。あのまま東部戦線だけ追いかけてもよさそうですけど(←おい)、何せテンチ家の兄弟が西部戦線ですので…
 ほんと、二大政党制の駆け引きは、よく出てきますよね。マクレランとかリンカーンの対抗馬になろうとするし。おいおい、マクレラン…!
 司令官として最強なのはやはり、リーですけど、政治家としてはリンカーンが突出していますね。デイヴィスの敵じゃない。南北戦争は、政治的にはほぼ最初から北部連邦の勝ちが決まっていたような気がします。その割りに4年も続いたのだから、南部魂恐るべし。俺はワルだぜ(TP&HBの"Rebels" の訳詞がこうなっている)。

_ dema ― 2010/09/02 23:01

あのイントロjはいい!

_ NI ぶち ― 2010/09/04 23:41

>demaさん
 トムさん的には不完全燃焼なこの曲ですが、私もこれは好きです。テンションが高くて。あのブラスセクションは、どうしても南北戦争を彷彿とさせますよね・・・

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの制作者名最初のアルファベット半角大文字2文字は?

コメント:

トラックバック