Jammin' Chord2010/07/01 23:34

 6月29日付で、Cool Dry Placeにカントムをアップした。今回は、Part Tow Songsの、Southern Accents, Pack up the Plantation, Let Me Up の三作品のところ。それぞれ短い章なので、三つ一度にアップできた。

 まず [Southern Accents] で、"Rebels" の話題になるのだが、私もこれは南北戦争の曲だと思っていた。ザ・バンドの曲ほどではないが、示唆に富んでいるではないか。そもそも、あのホーンのアレンジからして、ジョージア州第一騎兵連隊が出てきてもおかしくない。
 トムに言われて、歌詞をつぶさに見れば、確かに南北戦争の曲ではないのだろうが、主人公がそのルーツに言及する時点でやはり無関係とは言えまい。トムとしては、やや「気恥しい」という感情が働くのだろうか。
 "The Best of Everything" のところで、ふと思った。ロビー・ロバートソンってどんな口調だろうか。一人称は何だろう?どうも彼が普通に喋るときは、ハエを捕まえる印象ばかりが強い。トムよりも年上だから偉そうに喋りつつも、可愛げもあるような…トムのことを You と呼ぶ時、その日本語は、「きみ」なのか、「お前」なのか、「あんた」なのか…結局「お前さん」で落ち着いたのだが。
 このアルバムの代表曲である "Don't come around here no more" が登場しない。前半で触れているのだろう。おそらく、デイヴ・スチュアートとの邂逅の流れで。
 ベンモントと、互いにピアノを弾かせようとする下りが微笑ましい。男女でこれをやられたら物を投げたくなるが、どうもベンモントとトムさんという取り合わせが憎めない。そう言えば、マイクもよくリードギターをトムさんに弾かせようとする。

 [Pack up the Plantation] のところで、何故か "It'll all workout" の話になる。この曲は次のアルバム、[Let Me Up] の収録曲なのだが。編集ミスだろうか?
 返す返すも、トムは良い相棒を持った。プライベートな事情で全然仕事が手につかなくても、マイクに渡しておけば最高傑作に仕上げてもらえる。琴を弾いている下りがあるが、Mayuさん,Toshi さんのMeet with Mikeでも言及され、座って弾いたらしいことが判明。「ベント」すると、面白い音がするとのこと…。
 私は近世邦楽に縁がない。雅楽でも龍笛専門だったので、琴(箏)は弾いたことがない。同級生が熱心に琴を習っていたが、「ベント」する左手は、かなりハードな仕事らしい。夏合宿の時は、指を傷めるので、軍手をはめて練習していた。あれは琴奏者の普通なのか、それとも音大生がピアノを弾く事情にあわせてのことだったのだろうか?

 やたらと「アドリブ」が登場する [Let Me Up] 。全体的に曲に対する感想が淡白。「嫌い」の一言で片づけるものすらある。その中にあって、さすがに "Jammin' Me" は良くできている曲の位置づけ。

 和声の話が少し気になった。私は和声が非常に不得意なのでピンと来ないのだが…。"Runaway Train" に登場する、あまり使わないコード,"F#" が話題に出てくる。ギターコードの表現では、これはメジャーコードだと思うのだが…
 Fis(Fのシャープ,嬰ヘ)を基音にした、長三和音…?!つまり、Fis-Ais-Cis (F#-A#-C#)ってことか…。調はH-dur(Bメジャー,ロ長調)で、F#は属和音(V)ということになる(Ges-durの主和音と同じはずだが、それをF#と表現するのはあり得ない)。
 さすがにこの調は変わっている。調子記号が五つ付くので、ベートーヴェン辺りでは使われない調ではなかろうか。(手元にショパンのノクターンがあるので、インデックスを確認すると、そこはさすが12音階の名手ショパン、けっこう調子記号5がある。)
 とにかく、ロックなどポップスでは珍しいのではないだろうか。おそらく、一瞬転調する時に出てくる和声なのだろう。こうなると、譜面で確認したくなる。さすがに持っていない。ネットで "Runaway train" のコードを参照したのだが、どこにもF#が…無い… トムさんとポール・ゾロはいったい何の話をしていたのだろう…。絶対音感がないので(しかも和声聴音!無理!)、皆目見当がつかない。

お風呂で海戦2010/07/03 22:54

 ビートルズの映画 [A Hard Day's Night] で好きなシーンと言えば、ジョンとジョージのお風呂シーン。
 演奏シーンじゃないのかと指摘を受けそうだが…演奏シーンなら、"If I fell" だろうか。

 とにかく、お風呂(もしくは髭剃りシーン)はいつ見てもうれしい。帽子をかぶってお風呂に入るジョン。これをモンティ・パイソン以前にやったのだから、大英帝国恐るべし。
 ジョンは、どうやら英独海戦を想定しているらしい。バスルームに入ってきたジョージに、ドイツ語で話しかけている。(それにしても、バンツと帽子をかぶっているとは言え、人がお風呂中に、普通に入ってくるものなのだろうか?)



 ジョンが鼻歌で歌っているのは、まず "Rule Britannia" 。英国にとっては、国歌に準ずるような扱いを受けている。
 映像は、2009年のプロムス・ザ・ラスト・ナイト。エラい盛り上がりようである。独唱歌手の成りはナポレオン戦争時期をイメージしているのだろうか。ユニオン・フラッグや、イングランド,スコットランド,ウェールズ,アイルランドの旗にまじって、他国の旗もゆれているのがご愛敬。



 もう一曲は、ドイツ国歌である。映像は、ドイツ国歌 2008年の欧州杯…らしい(私はサッカーに疎い)。



 この曲の作曲者は、パパ・ハイドン。オリジナルは皇帝フランツ二世を称える歌だったが、その後歌詞を変えてドイツ国歌となった。さすがに、パパ・ハイドン。良い曲である。

机上の放置CD2010/07/06 22:03

 梅棹忠夫氏が亡くなった。音大に入った時、一番最初に先生に読めと命じられたのが、 『知的生産の技術』だった。PC全盛の今、その手法がそのまま使えるわけではないが、興味を持ったら、調べ、記録し、考え、構築していく ― そういう知的生産作業の魅力に、眼を開かされる思いだった。もう一度読みたい本かも知れない。

 CDはその名の通りコンパクトなため、棚にしまわず、机上やステレオ上に重ねて放置しているものが多数ある。思いつきで、何が放置されているのかを見てみることにした。

MOJO (Tom Petty & The Heartbreakers) これはあって当然。

グレン・グールド集 (グレン・グールド)
 グールドのバッハ「イタリア協奏曲」第三楽章はよく聞きたくなるもんだ。

ショパン,ノクターン集 (ダニエル・バレンモイム) 現在、学習中のため参考用。

Evil Urges (My Morning Jacket)
 TP&HBの前座だからと思って買ったけど全く聞いていない。

Live in Chicago (TP&HB)
 最近はこういうブートが堂々と普通のCDショップで売っている…

シベリウス ヴァイオリン協奏曲 (ヤッシャ・ハイフェッツ&シカゴ交響楽団)
 なんでこんなものが…?思い出した。マイク・キャンベルが、「エレキのストラディバリウスと呼ばれる、レスポールを入手した」という表現を読んで、はて、この例えは適切なのかどうかを考えているうちに、ストラディバリウス所有者の事を考えて、確かハイフェッツは持っていたよな…という連想で引っ張り出したんだ。

Knockin' On Heaven's Door (サウンドトラック)
 映画が好き過ぎて、何故かサウンドトラックが2枚ある!

ベートーヴェン ピアノソナタ集 (ウラディーミル・アシュケナージ)
 これも自分の演奏参考用だろうな。収録曲は「月光」「告別」「テンペスト」「悲愴」「熱情」「田園」「ワルトシュタイン」かなりお買い得な取り合わせ。

Woman + Country (Jakob Dylan) ごめん、1回しか聞いてない。

タモリ2 (タモリ) 中洲産業大学森田教授の音楽講座!

シューマン ピアノ曲集 (中村紘子) g-moll ソナタの参考用だと思われる。

Lunasa (Lunasa)
 何回か前のセッションでやる曲を聴くために、引っ張り出したような記憶が…

Nicely Out Of Tune (Lindisfarne)
 超お勧めなブリティッシュ・フォーク・ロック。彼らの記事を書こう、書こうと思いつつ後回しになっている。

Fog on the Tye (Lindisfarne) 以下同文

Live at Royal Albert Hall 1971 (The Byrds)
 これは買って良かった名盤!でも、「霧の8マイル」は長すぎるよ!

Thunder Byrd (Roger McGuinn)
 このアルバムのタイトル、ずっと [Thunder Bird] だと思ってた…!

Early Tracks Volume I (Howie Epstein) 2枚目ってどうなったの?

An Anthology (Duane Allman)
 伝記本の参考用に手元に出していたのだと思われる。レーイラー!とか出てくるのでびっくりする。

BOSEを買った時についてきたサンプルCD さっさとしまえ。

The ARC Gospel Choir ~Thank You Lord~
 DVDとセットになっていて、お買い得だったセット。これも記事にしようと思いつつ、後回しになっていた。

Elizabethtown (サウンドトラック)
 TP&HB目当てで買ったのは確かだが、なぜ出してあるのかは不明。

A's B's & EP's (Manfred Mann) クラウスが居るのかどうか分からない。

Afterhours (The Bothy Band)
 たぶん、セッションで "Farewell to Erin" をやるので、聴いたのだと思う。

Out of the Wind into the Sun (The Bothy Band)
 間違いなく "Rip the Calico" 目当て。いつかフルで吹いてみたい。

タモリ (タモリ) ソバヤソバーヤ!!

Down in the Groove (Bob Dylan)
 ローリングストーン誌の「偉大なアーチストの残念アルバム」に挙げられていると聞いて、「そんなはずは無かろう!名作だぞ!」と思って、引っ張り出した。

Let It Roll (George Harrison) しかも2枚。美男子ダブルで!

Christmas In The Heart (Bob Dylan) クリスマスはとっくに過ぎましたよ。

Byrds (G. Clark, C. Hillman, D. Crosby, R. McGuinn, M. Clarke)
 閉店した新宿のHMVから、売れ残りを私が引き取ったもの。

ゴールドベルグ変奏曲 (グレン・グールド) もちろん、55年録音。

Y Not (Ringo Starr) もちろんベンモント目当て。

名古屋の歌だがね(名古屋開府400年記念CD)
 いただきものです。燃~え~よドラゴンズ~♪

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ (グレン・グールド)
 げげッ!グールドでベートーヴェン?!私はいったい何を考えていたのだろう…?

Forest (ハウゴー&ホイロップ)
 北欧ケルティック・ミュージック。なかなかチャーミングで良い。アーチスト後者の名前はHoirupなのだが、"o" に斜線が入るので、出せないでいる。

Ritual ブルガリアン・ヴォイス (ブルガリア国立放送合唱団)
 学生時代、ブルガリアン・チャントにはまったため、それを思い出して買ったのだが、イメージとはちょっと違った。学校で聴いたCDが欲しい。

Etnico ma non troppo (ヘヴィア)
 F1番組で使われた曲が聞きたかったので買ったもの。イベリア半島のバグパイプ…の、電子版なのだが…うーん、私はもっと土臭い音楽が好きなので、ちょっと却下。

Goin' Home -A Tribute to Fats Domino-
 もちろん、TP&HB目当て。そのほかも錚々たる面々なので、ちゃんと聞いてみよう。

Alone, ballads for solo piano (アンドレ・プレヴィン)
 プレヴィンがN響の客員指揮者になった時に購入。ジャズなので、良く分からないけど流しておくと良い感じ。

The Best of the Bothy Band
 ボシーのアルバムが手に入りにくいという状況を受けて、購入したもの。結局全アルバムを入手したので、開封しないまま。

 合計39枚。…そんなに放置しているのか。しまわなきゃ。
 さらに驚いたのは、そのうち8枚がクラシック(プレヴィンを含む)。意外と聞いている…というより、ロックはiPodに入っているので通勤時に聞くが、クラシックはそれをしないので、普通にステレオで聴くことになるのだろう。

Post-consumer stock (再生素材)2010/07/10 23:32

 散々待たされたのち、やっと輸入盤 [MOJO] が到着した。ブルーレイやアナログ盤は再生機材を持っていないので購入しない。そんな訳で、とりあえず [MOJO] ゲット作戦は完了。
 この輸入盤到着の遅れは…やはりブルーレイと一緒に配送するという経済的な理由なのではないかと思っている。経済活動の中で仕事をしている身としては、分からないでもない。

 さて、到着した輸入盤と国内盤をしげしげと見つめてみた。



 私は音楽媒体のパッケージにはあまりこだわりがない。むしろ、場所を取る大きさのものは好きではない(同じアルバムを複数枚買う行為とは矛盾しているが…)。その意味では、[MOJO] はシンプル設計で結構。[Highway Companion] のブックレットは作りが良くて素敵だったが、あのジャケットが嫌いなので残念。
 米国製と日本製の違いは何か。あまりない。よくよく眼をこらすと、どうやら紙質が違うようだ。ごく僅かな違いだが、日本製の方がやや紙に艶がある。
 ジャケットの裏側を見ると、アメリカ製の物だけに "WMG Green" のロゴが印刷されている。これはワーナーブラザーズの環境保護対策プロジェクトのロゴ。ブックレットにも、「再生紙を使用しています」とある。一方、日本盤には再生紙表示がない。

 ところで、つい最近まで知らなかったのでが、こんな[MOJO] のミニ・プロモーション・ビデオのような、CMのようなものがあったらしい。



 目がチカチカする。なんだかテリー・ギリアムのパイソン・アニメっぽいと言えなくもない。
 結論。トムさんのアップはほどほどに。特にモノクロの時は。そして、結局格好良いのはマイクである。

その男の正体2010/07/13 23:23

 今日はゲティスバーグ以降の動きについて記事にしようと思っていたのだが、どうしても気になって仕方のないことがある。これが解決しないことには、夜も眠れない。そして会議中に寝る。

 2010年7月7日、リンゴ・スターはめでたく70歳の誕生日を迎えた。
 各ニュースサイトやファンたちの話題にも上がっている通り、当日リンゴはニューヨークのラジオ・シティ・ミュージック・ホールでのライブを行い、リンゴの誕生祝いに駆けつけた大勢の友人たちと共に、"With a little help with my friends" を歌った。そのあと登場した人も含めて、ステージに登場した豪華な面々の名前については、ここでは割愛する。
 気になるのは、その "With a little help with my friends" でステージに上がった一人の人物の正体。音楽性のかけらもなさそうな約一名は無視して、舞台下手(向って左側)、ジェフ・リンが目立つ一団の中に、1分10秒くらいから加わる、白っぽい(白じゃないし、シルバーでも無い)帽子の男が加わって、楽しそうに歌っているのだが…



 この人が、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズというバンドでキーボードを弾いている、ベンジャミン・モンモランシー・テンチ・三世という人に見えるのは私だけだろうか?
 姿からしてベンモントっぽいし、ちょっと紫っぽいシャツとかよく着ているし、右手小指のでっかい指輪とか見覚えがあるし。きっとベンモントに違いないと思いつつ、愛フィルター故の見間違いだと嫌なので、いろんな人にどう思うか聞いているのに、誰ひとり明確に判断してくれない!ニュース・サイトの「登場人物欄」も一生懸命見ているのだが、ベンモントの名前は無い!それこそ、「登場人物」に挙げられた以上の人数が、ステージに溢れているのは確かだ。
 さぁ、あなたはどう思う?

 TP&HBのツアーは6月末にいったん休みに入り、7月10日インディアナポリスから再開されている。ベンモントが7日にニューヨークに居たとしても全然おかしくない。
 なんと言ってもベンモントはリンゴの最新アルバムに参加し、インタビュー映像にも登場するなど、私の認識では完全に「リンゴ・ファミリー入り」している。お休みを早めに切り上げ、ニューヨークでリンゴのお祝いに駆けつけてから、仕事に戻るベンモントだったら、更に好きになってしまうではないか…!
 トムとマイクがジョージ・ファミリーなら、俺はリンゴ一家だ…!?
 果たして、真実やいかに?

 [MOJO] のお気に入り楽曲投票をまだ済ませていない方はお早めに!明日14日までです。

The Gettysburg Address2010/07/16 23:59

 ゲティスバーグから撤退した南軍が北軍にそれほど妨害されることもなく、ポトマック川を渡ってバージニアに戻ったことは、リンカーンをおおいに怒らしめた。リーと、彼が率いる南軍を壊滅させることができなかった - チャンスはあったのに ― そのことに、戦闘的意義よりも、政治的な意義で重大なも問題を見出していたからだ。
 当然、北軍を率いたミードはゲティスバーグでの戦勝将軍でもあるにもかかわらず、厳しい非難に晒された。
 北部連邦はこの状況を打開するためにも、1863年秋までポトマック川を渡ってリー率いる南軍に攻撃を仕掛けようと試みた。しかし、故郷に戻り、防御に入ったリーと南軍を破るのは容易なことではなく、結局これといった戦果をあげることなしに、冬を迎えた。小氷期の末期だった当時の寒さは、現在の比ではない。さらに装備の問題もあって当時、冬季に派手な戦闘は基本的に行われなかった。

 ゲティスバーグの戦いから4ヶ月後。ゲティスバーグの戦場近くには、国立戦没者墓地が作られた。その奉献式(開場セレモニーのようなもの)には、大統領リンカーンも招かれた。
 ここでのメイン・スピーチは、エドワード・エヴァレットが行った。彼は下院議員、州知事、イギリス公使、ハーバード大学学長などを務めた人物で、その演説は2時間にも及んだ(当時の演説会ではこの程度の長さは普通だったらしい)。
 一方、リンカーンは客として短いスピーチを依頼され、およそ2分ほどの短いスピーチを、静かな口調で終えた。彼が演説している最中の写真は残っていない。とにかくあっという間に終わった。別に派手な展開は起こらなかった。
 しかし、取材していた複数の新聞記者たちがその短い演説を書き取り、新聞に掲載されたことにより、この簡潔な演説は広く知れ渡るようになった ― すなわち、「人民の、人民による、人民のための政治 government of the people, by the people, for the people 」が特に有名な、ゲティスバーグ演説である。
 極めて短い演説なので、ネットは簡単に全文翻訳で読むことができる。

 時間差で起こったこの演説の劇的な効果を、リンカーンは計算していたのだろうか。おそらく、偶然だろう。
 ともあれ、北軍が華々しく勝ったわけではないものの、後世から見れは一つのターニング・ポイントであり、結局南北戦争全体の規模としては最大級の激戦だったゲティスバーグの戦場跡地で、この演説が行われたという状況の効果は絶大だった。しかも、短く、簡潔な演説であるところも重要だ。その場は墓地の奉献式であり、議会で意地悪な議員たちを相手にしているのではない。多くの「一般人」のために、添え物程度に短く簡潔な演説にしたのが、功を奏した。要するに分かりやすいのである。
 さらに、強い政府を伝統的に嫌うアメリカ国民にとっても、「人民の、人民による、人民のための政治」という表現が、実に巧妙に働いた。実際のリンカーンの大統領としての仕事は、戦時だったためかなりの剛腕ぶりだったが ―
 リンカーンは、この短い演説が及ぼした影響の強さを、あまり知ることはなかっただろう。ゲティスバーグ演説から一年半も経たないうちに、彼は命を落とすことになったのだから。

 終わってみると北軍とミードの詰めの甘さが余韻として残るゲティスバーグだが、結果が南軍の負けだったことには違いない。リンカーンがこの微妙な勝利にある程度の意義を感じていたのと同様に、リーもゲティスバーグの結果がもたらす重大な事態を自覚していた。
 リーはこの敗戦の責任は自分にあるとして、南部連合大統領デイヴィスに、バージニア軍司令官からの辞任を申し出たが、これは受理されなかった。デイヴィスは個人的にもリーがお気に入りだったし、他にリーの後を任せる人材も南軍にはなかった。
 南軍の中では「だれのせいで負けたのか」というやや次元の低い ― 後世の人間にしてみれば、社会・政治状況からして負けてしかるべきなのだから ― 議論がいくらか起こった。その責任論攻撃の一端は、戦場に遅参したスチュアートに向けられた。
 スチュアートは、ストーンウォール・ジャクソンが欠けた後、その穴を埋めるために中将への昇格を期待していたが、ゲティスバーグでその機会を逸した。彼が昇格しなかったことは、事実上の懲罰のように受け取られた。
 それでも南部は、挽回の機会はあると思っていた。まだ完全に打ち負かされたわけではない、大将にはカリスマ性のあるリーが、まだ居てくれている。スチュアートの華々しい騎兵も居る。北軍にはたいした指揮官もいなさそうなので、春が来れば、またやってやれると、南部は信じて、物資不足の冬をやり過ごそうとしていた ―。

それぞれの"Here Comes the Sun"2010/07/19 22:16

 TP&HBツアーは順調に進んでいる。公式ページにはカンザス・シティでの写真がアップされていたのだが、トムさんの赤いサテンっぽい素材を取り入れたジャケットが、なかなか格好良い。
 一応、"with" という表現になっているが、有り体に言えば「前座」。ツアーの最初はジョー・コッカーや、ZZトップ ― やがてバディ・ガイに、8月11日からは、クロスビー・スティルス&ナッシュが登場する。私だったら、このCS&Nが一番見てみたい。

 ふと我に帰ってみる。私はどの程度CS&Nについて知っているだろうか。あまり知らない。デイヴィッド・クロスビーは元ザ・バーズの人(ちょっとした ― 容姿イメージ的な ― 詐欺師),スティーヴン・スティルスはモンキーズに入り損ねた人,そしてグラハム・ナッシュは、元ホリーズの人。…確かにほとんど知らない状態だ。
 ホリーズの映像をYouTubeで探そうとしたら、ナッシュが居ない(と、思われる)ホリーズばかりが引っかかる。どうやらホリーズ史から学習する必要がありそうだ。
 そうこうしているうちに、ロックンロール・ホール・オブ・フェイム25周年記念コンサートの映像が引っかかった。ポール・サイモンがクロスビーとナッシュを迎えて、親友ジョージ・ハリスンの曲を歌う。



 クロスビーの図体がでかすぎるのだろうが、それにしてもポール・サイモンは小さい。そのうち携帯電話みたいに落し物の常連になってしまいそうだ。ナッシュは自分の周りの空気を掻きまわさないと歌えないのだろうか?サイモンとクロスビーが淡々と美しさを表現しているだけに、あの悶えっぷりが可笑しい。

 "Here Comes the Sun" つながりで、ジェイムズ・テイラーとヨーヨー・マのコラボレーション映像を見る。



 ヨーヨー・マは、クラシックに留まらない幅広い活躍で、非常に人気が高い。このテイラーとのコラボレーションも、それなりに良いものだろう。
 それはそれだが、ヨーヨー・マについて、私には少し「クラシックに集中すれば良いのに」という思いがある。別に多ジャンルと交流したり、コラボレーションをしたりする事自体は悪いことではない。ただ、出来あがってくるものが、物足りない。この "Here Comes the Sun" にしても、奇麗な演奏ではあるが、オリジナル・レコーディングが持っているような、「ロックの勝利 」を燦然と知らしめる輝きには程遠い(このことは、他の誰のカバーでも同様だが)。
 チェロは音色の美しい楽器だ。確かにコラボもしてみたくなる。しかし、クラシックの技術力を知っている者の耳には、どうしても物足りなくなってしまう。その物足りなさが、もったいない。マほどの才能の持ち主なら、カザルスにも肉迫出来るのではないかとという評判さえあったのに。
 それとも、マはどこかで自分に見切りをつけているのだろうか?彼は単なる演奏馬鹿ではなく、非常に研究熱心で視野も広い。カザルスにはなれない以上、自分がなるべきものを別の方向に見出してしまっているのだろうか?
 私は基本的にクラシックには興味がない。そんな私にも、ちょっとそんなような事を考えさせる "Here Comes the Sun" だった。

Show must go on.(追記あり)2010/07/20 21:27

RFR Riverfromt times blogs (7/18セントルイス)

 TP&HB,およびマイクの様子のレポートを抄訳。急遽訳したので、ちょっといい加減。あしからず。
原文Review + Photos + Setlist: Tom Petty & the Heartbreakers and Drive-By Truckers Steam Up St. Louis' Verizon Wireless Amphitheater, July 18, 2010

 (TP&HBの)セットリストが始まってから90分ほど、"Don't come around here no more" の後、ぺティは観衆に向かって、来てくれたことに感謝の言葉を述べ、メイン・セットリスト(アンコール前のセット)の最後に、取りかかろうとしているようにみえた。
 突然、彼は周りを見て、あわただしく「バイ」と言い、ぶっきらぼうな様子でステージから降りてしまった。観衆の間から、混乱のざわめきが起こった。ステージに脇では、長年のギタリストである、マイク・キャンベルが、何人かの人に支えられているのが見えた。
 ぺティが数分後にステージに戻り、観衆に対してキャンベルは具合が悪く、医者に診てもらっていると述べた。もし具合が良くれば、「バンドは戻ってきて、もっと演奏するよ」と、観衆を安心させようとした。
 彼の言葉どおり、いくらかの休憩後、ぺティと、(マイクを含む)ハートブレイカーズはステージに戻り、さらにおなじみの"Refugee" から始まる、3曲を演奏した。

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの広報は、キャンベルには脱水症状が出たと、述べた。


 わ、私が倒れそうだよ…バッタリ。


<追記>
 「マイクに何かあったら、トムさんを殺して、私も死ぬ~!」などと、なぞの取り乱しを乗り越え、ニュース記事や、YouTubeをチェック。(動画はみないようにしてたのに…ちっ)
 バンドの戻りを待つ間、観客の間からは「マイク・コール」が湧き上がったとのこと。マイクは引っ込む3曲前くらいから座っていたとのこと。
 映像を見ると、"Don't come around here no more" の最初あたりからきつそうで、座ったり、水を飲んだり、額をおさえたり…いろいろして、ドラムキットの側というよりは、スピーカーの間に座り込んでしまった感じ。決して派手にぶっ倒れたわけではない(それは私だ)。
 いったんは「大急ぎで」ステージを降りてしまったトムさんが戻ってきて、事情を説明している動画もあって、もうこのときはトムさんも深刻な状況ではないことが分かっているらしく、至って落ち着いている。
 マイクが戻ってきてからの"Refugee" や、"American Girl" の映像もあるが、ほぼ問題がなさそう。いや…トムさん、"American Girl" の歌詞間違えてない?「メモリー」を「バルコニー」みたいに言ってない?

 とにかく、大事には至らずセント・ルイスでのライブを終えてよかった。ちゃんと休養できるのかしら。無理はしないでほしい。
 ほんと、大好きだよ、マイク。

Circus restart !2010/07/24 10:59

 18日のステージ上で倒れてしまったものの、しばらく休息してからステージに戻り、最後の3曲を演奏し切ったマイク・キャンベル。彼の強さに感動するとともに、ハートブレイカーズというバンド(この場合、トムさんもハートブレイカーズの一人。彼自身も、自分をそうだと思っている)が、どんなバンドか再認識したような気がする。中断はどうしてもするにしても、マイク抜きの5人で演奏するという選択肢はあまりないらしい…。ハートレブレイカーズのイメージどおりではある。もっと言えば、トム・ぺティという人がどういう人かという事も同時に再認識させられたのかもしれない。

 マイクが本当に具合悪そうにしている動画もあるけど、それを張りつけるのは気の毒なので割愛。その代り、ステージに復帰し、最後まで演奏して、オーディエンスに向かって挨拶をするところ。



 ええい!あまりマイクに触るな!暑苦しい!とくにヒゲ!ベンモントが、ジャケットに袖が通らなくてアタフタしながら、列に加わるところが可愛い。…おいおい、ぶっ倒れるほど暑いんだから、無理に着なくても良いだろう。
 私が前回見たときもそうだったが、マイクはいつも最後までトムを見守るように、ステージに残っている。そして今回も、いつものようにトムさんの後ろからステージを降りて行った。まるで何事もなかったかのように。

 ともあれ、大事を取って、20日のライブは8月末に延期。これは、マイクの身のことを思えば当然。当人は困っていそうだが…。まぁ、ボス・トムが命令口調で無愛想に即決、異議なしだろう。
 かくして、22日のデトロイトから、晴れてツアー再開。アップされている写真や映像を見ると、マイクもバンドもいつもの通り元気に演奏しているようで、ひと安心だ。まだまだ暑い時期のライブは続く。大勢の人々がTP&HBのツアーを楽しみにしている。無理をせず、体調管理に気をつけ、元気なライブを聞かせてほしい。

 Cool Dry Placeに、カントムから "Some days are diamons" と、"Song and music from "She's the One" をアップした。
 前者は、[Wildflowers] の後、ジョニー・キャッシュのアルバム制作に参加し、さらに映画「彼女は最高」のサントラ録音、そして伝説のフィルモアライブの時期について語っている。
 どうやら、離婚がどうのこうのという時期らしく、なぞの借家に住んでいるトムさん。まさか本当に彼の言うように「掘っ立て小屋」だったとは思えないが、とにかく、ニワトリと同居はしていたらしい。ニワトリ…と、トムさん…。ニワトリってあれで結構凶暴だから(ヒヨちゃんとか)、トムさんとか簡単に負けそう。
 ジョニー・キャッシュのセッションで、カール・パーキンスと会い、有頂天になるところも可愛い。そう言えば、全く同じような現象が、ジョージにもあったな。
 いざ、映画のサントラ制作に入ってみると、「向いてない」ということで、ぺースがつかめない。そりゃそうだ。そこで、ハートブレイカーズとしてのアルバムにしてしまえば良いんじゃ…と、思ったとたんに、仕事が進む。やれやれ。
 それにしても、トムさんはハートブレイかーズ以外にも、相談ができる友達に恵まれている。これって、大事なことだよね。

 アルバム[She's the one] に対する、「アルバム」としての思い入れはあまり深くないようで、コメントも短く終わっている。
 それでも、私にとっては "Walls" はかなりランクの高い名曲で、とくにCircusのバージョンが好き。あのプロデューシング技術をあらん限り詰め込んだような迫力と、美しいサウンド。そしてあのリンゼイ・バッキンガムの凄まじいコーラス!やはり強いコーラスは素晴らしい。さらに、ハウイの声も加わっていたのだから、まさに無敵のヴォーカル・ワークと言うべきだろう。

Blue Suede Shoes2010/07/27 23:14

 「カントム」を翻訳していたら、カール・パーキンスとセッションをして、テンションが凄まじく上がったTP&HBが居た。
 それで思い出すのは、[Blue Suede Shoes: A Rockabilly Session] である。1985年10月21日に録画されたこのプログラムは、もともとHBO/Cinemaxで放映されたものだったが、その内容があまりにも豪華なので、最初はビデオで、その後は(とてもブート臭い)DVDになったので、かなり有名だ。
 ロックンロール,ロカビリーファンのみならず、ビートルズ,ジョージ周辺ファンにとってはマスト・アイテムなのだが、今はどういう媒体で流布しているのだろうか?

 カール・パーキンスのファンにとっては当然嬉しいロカビリー満載ライブ・プログラムだが、やはりジョージ・ハリスンや、リンゴ・スター、デイヴ・エドモンズ、エリック・クラプトン、ロザンヌ・キャッシュが参加しているところが特筆するべき点だろう。
 特にジョージは、しばらくあまりメディアに露出しない時期が続いた後の登場なので、見ているファンとしてもドキドキする。

 このプログラムのジョージときたら、ウィルベリー道まっしぐらである。即ち、大尊敬する先輩を盛りたて、「あれもやろうよ、これも弾いて」などと楽しいリクエストを、弾ける笑顔でを矢継ぎ早に繰り出す。大先輩も可愛いジョージを前に顔が緩みっぱなしで、大サービス。ジョージにねだられて、抵抗できる人なんて、居ないだろう。ウィルベリーズで言うと、ロイ・オービソンや、ボブ・ディランが、このジョージ・ぺースにはまる。
 そして、ジョージの同世代,もしくは少し下の弟・妹とも楽しくわいわい。こういう空気を作らせたら、ジョージの右に出るものは居ない。
 トムさんも言っていたが、このパターンにはまったジョージを、誰も止められない。トムさん曰く、「ジョージがリーダーだと、楽しくていつまで経っても終わらない!」
 ロックという音楽は、音楽そのものもさることながら、ジョージ・ハリスンという稀有の人材を生み出したことにも、その意義があるのかも知れない…。

 映像は、セッション終盤,カール・パーキンスの代表曲 "Blue Suede Shoes"



 特筆すべきは、カール・パーキンスの鋼鉄のような髪型か、ロザンヌ・キャッシュの(裾が長すぎる)80年代大爆発ジャケットか、飛び回るブライアン・セッツァー関係者か、…いや、やはり1分18秒くらいからのジョージ&エリックの、「義理の夫」コンビだろう…。エリック、ジョージへの "Come on !" アクションが決まり過ぎだよ。よかったね。カメラも上手く撮ってくれまして、良い仕事でした。