I Need You2022/12/01 21:45

 11月29日はジョージが亡くなった日ということになっているが、私の実感では30日である。2001年のあの日、11月末日だった。翌日にはお能を見る約束をしていた。やはり実体験として記憶すると、日本時間で意識するようだ。逆に実体験していないジョンの亡くなった日は12月8日である。

 亡くなった翌年の2002年の11月29日には、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで、史上最高のトリビュート・ライブ [Concert for George] が開催された。当時からそのメンバーからして凄いということはわかっていたが、その全容が明らかになったのは、そのまた翌年2003年11月末に発表された映画、フル・パフォーマンスの映像、そして CD によってだった。
 この [Concert for Goerge] ―― CFG が良すぎて、何回見たのか、そして買ったかすらもわからない。DVDを何セットも人にプレゼントしているし、モンティ・パイソン布教(そういうこともしていた)にも使った。パイソンの総仕上げで CFG を見た人は、特に音楽好きでもなかったが、CFG にはいたく感動していた。

 CFG をまだ見ていない人も、だまされたと思って見て欲しい。ジョージ・ファンではなくても全然大丈夫。映画ではなく、フル・コンサートがお薦めだ。びっくりするほど素晴らしく、感動的で、友達って、人間っていいなと思える。

 CFG で名曲を一つあげるというのは、とても難しい。全てが名演だからだ。
 でも、あえて今年一曲挙げるなら、"I Need You" にしておく。この曲は、私が音大時代、図書館の映像資料室で何十回も 映画 [Help!] を見ていた最中に、ビートルズの中で実はジョージが一番美男子であることに気付いた曲だ。映画全編にわたって、ジョージは格好良いのだが、特にこの "I Need You" のシーンのジョージに魅了された。
 その場面を切り取った動画もあった。ちなみに、なぜミリタリー・ファッションに戦車、狙撃兵なのかというと、カルト集団がビートルズの(と、いうかリンゴの)命を狙っているからである。地下では爆弾の設置が着々と行われている。カイリー!



 素晴らしいラブ・バラードだ。
 これだけの名曲なのに、意外とカバーが少ない。調べてみると、スティーヴ・ペリーがカバーしているとのこと。ステゥーヴ・ペリー?それってちょっと違わない…?と思って動画サイトで確認したけど。やっぱりちょっと違った。あれは違う。そうじゃない!
 やはりここは、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの出番だろう。なんと言っても、まずこの曲を選曲したトムさんたちのセンスが最高だ。CFG で演奏された曲の中で、もっともジョージの作曲年代が古いのがこの曲だ。
 トムさんの健気で、可憐で、繊細な面が良く出ていて、女子はこういうところにキュンとくるし、たぶん男子もキュンとするのだと思う。何も特別なことはない素直な演奏だが、限りなく美しく、ジョージへの愛情に溢れていて、泣き所の多い CFG の中でも、かなり感動的で心を揺るがす演奏だ。
 よく見るとマイクとスコットがエレキなので、アコースティックなのはトムさんだけ。よくある「アコギ押し出し&しんみり強調系」でもない。ちゃんとロック・バラードしているところが良い。

Tempo of Satidfaction2022/12/06 19:48

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの待望のライブ・アルバム [Fillmore 1997] の聴き所はたくさんあるが、ザ・ローリング・ストーンズ・ファンも必聴である。ストーンズのバージョンで有名な曲もあるし、なんと言っても "(I Can't Get No) Satisfaction" の演奏があるのだ。これがもう最高。



 Heartbreaker's Japan Party さんによる曲目解説によると、「(ストーンズの)オリジナルではなく70年代以降の速い演奏」とのこと。
 確かに、"Satisfaction”は年を追うごとに速くなっているという印象がある。1965年、オリジナルの演奏は、だいたい四分音符=132くらいだ。(だいたいというのは、私がデジタルのメトロノームを持っていないため、アナログの刻みでしか確認できないのである。)同じく、1965年の BBCレコーディング [On Air] でも同じテンポだ。



 それが1981年になると、なんと約168という、ぶっ飛んだテンポになる。これはかなり極端。ライブ会場が巨大スタジアムになったりして、ストーンズのライブ観の変化が反映されているのだろうか。ほとばしるアドレナリンのなせる技か、いかにも乱入者をギターでぶん殴りそうな速さだ。



 1989年の [Flash Point] になると少し落ち着いて、144になる。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの [Fillmore 1997] もだいたい144だ。ハートブレイカーズの場合は、オリジナルをちょっとノリ良く、軽やかに演奏としているという感じだろうか。ハウイという優れたハイ・トーン・ヴォーカル兼ベースの存在が大きいだろう。

 それで、一番最近はどうなのかと思って、今年のヨーロッパ・ツアーの動画を見てみた。
 これがびっくりするほどゆっくり。オリジナルの132より更に遅くて、128~129くらいではないだろうか。これもまた、彼らのライブ観の変化かも知れない。
 それにしてもこの動画、キースが長い間映っているので思うのだが…やっぱり老いたなぁと思う。ミックがちょっと異常なのであって、キースの佇まいが「お若い79歳」というところで、ロニーもまた、「お若い75歳」なのだろう。

Heartbreakers Beach Party, Yeah!2022/12/10 21:26

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのライブアルバム [Live at Fillmore 1997] を何度となく繰り返し聴いているが、いつまで経っても他のアルバムを聴こうという気が起きない。素晴らしい。

 色々と新しい発見があるが、その中でひとつ、へぇと思ったのは、ハートブレイカーズのローディ,ギター・テックの Alan "Bugs" Weidel という人の名前である。「バグズ」という呼び名で親しまれているが、私はずっと彼の姓は「ウィーデル」だと思っていた。
 ところが、"Knockin' on the Heaven's Door" の前に「ごめん、アンプが壊れた」というトムさんの話しで、読みは「ワイデル」であることがわかった。なんだかドイツ語みたいな発音だ。
 ともあれ、バグズはトムさんの命を救った(舞台から落ちて押しつぶされそうな所を助け出した)こともある。ハートブレイカーズにとって欠かすことの出来ない人物だ。



 [Fillmore] の発売が公式発表されたと共に公開された、「ちょっとまった、誰か "Heartbreakers Beach Party" って言った?」からの "Heartbreakers Beach Party" ―― 「ベンモン、キーは?」と確認して演奏が始まるのだが、ベンモントが E! と言っているのに、A?と訊き返すとかトムさんはわざとぼけているのか…
 実際は、Eマイナーの1コードだけで終始する変な曲である。聴衆の前で演奏するのは初めてだが、リハーサルはそれなりに入念にやったようで、演奏に隙はない。聴衆とのやりとりも楽しい素晴らしい瞬間になった。

Johnny B. Goode / Bye Bye Johnny2022/12/14 22:16

 ブッコロー柄のブックカバー、ゲット!!
 普段、ブックカバーは使わないのだが、これだけは欲しかった!



 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの [Live at Fillmore 1997] に関して、日本のファン組織である Heartbreakers Japan Party さんの解説するところによると、あの刷り物に "Bye Bye, Johonny" と印字さてしまった "Johnny B. Goode" だが、実は歌詞が "Bye Bye, Johnny" と "Johnny B. Goode" のミックスになってしまっているとのこと。
 そこで歌詞を確認するために、まずはオリジナルのチャック・ベリーから聞いてみる。





 うーん、これは混同するなぁ。コーラスはともかく、Aメロは意図的に音節もコード進行も同じにしているから、ごっちゃになる気持ちもわかる。トラディショナル・アイリッシュの楽曲でも同じようなことが良く起きる。



 Aメロの1番はちゃんと "Johnny B. Goode" だが、2番から "Bye Bye Johnny" になり、3番は "Bye Bye Johnny" の断片がミックスされて、一部何を歌っているのかもよくわからなかったりする。
 トムさんの歌詞の記憶が曖昧だったために、リハーサルでの確認が必要だったらしい。多分トムさんはみんなに「俺が何を歌っても構わずに Jonny B. Goode で押し通してね!」と言ったに違いない。だからバンドの演奏も、コーラスも微動だにせずに突き進んだのだろう。

 もう一つ気になるのは、この曲のイントロだ。どうも1ヴァーズ分長いような気がする。映像が無いので確認できないが、本来の歌い出しでトムさんがマイクロフォンに付かなかったのではないだろうか。「あー、ちょっとまった」みたいな。それで慌てず騒がず、ベンモントがソロを弾いて、おもむろにトムさんが歌い出したように思われる。
 ハートブレイカーズが腕の良いバンドマンたちだったということでもあるし、同時に入念にリハーサルをやった結果でもあると思う。Practice, practice, practice. やるべきは練習である。そこらの素人でも、伝説のロック・バンドでも。

Fillmore with Roger McGuinn2022/12/18 21:20

 もし、できることなら。時を遡り、好きなところに行けるとする。でもただ一日一か所。1997年2月サンフランシスコ。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのライブを見られるとしたら、どの日にするだろうか?
 "Heartbreaers Beach Party" の日も楽しそうだし、"American Girl" の感動もぜひ味わいたい。

 曲目もさることながら、ゲスト・アーチストは誰の日が良いだろうか?カール・パーキンスか、ロジャー・マッグインか、ジョン・リー・フッカーか。私がこの三者で選ぶなら、だんとつでロジャー・マッグインがゲストの日にしたい。
 ハートブレイカーズとロジャー・マッグインなんて、ウィルベリーズ並みの豪華さだ。特に今回のライブ・アルバムに収録された "Eight Miles High" は、どのバーズ自身のライブアルバムよりも、素晴らしい演奏で、一番好きだ。
 ロジャー・マッグインと、トムさんだけでも豪華なのに、その上トムさんもう一人分であるハウイに、スコット、されにはベンモントもいるのだ。しかもギター専任がマイクなのだから、こんなに豪華な演奏はないだろう。
 "Eight Miles High" にはインド音楽や、ジャズの要素が取り入れられ、一説にはサイケレリック・ロックの最初の一曲とも言われているらしい。確かにそういう曲だし、同時に複雑で不可思議な演奏に対して、コーラスの美しさの対比も素晴らしいと思う。



 もちろん、純粋な(?)フォーク・ロックである "It Won't Be Long"も素晴らしい。コーラスの完璧なハーモニーもさることながら、奏でられてるギターが何なのかも気になる。ロジャーは例のリッケンバッカーだろうか?まさかトムさんとマイクもリッケンバッカー?スコットは何を選ぶのか?
 実際にその場に居てステージを見たら、きっとそんなこともわかっただろう。

You Ain't Goin' Nowhere2022/12/22 21:59

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの [Live at the Fillmore 1997] の、ロジャー・マッグインとの共演 “You Ain't Goin' Nowher” を繰り返し聴いていて、ふと思った。この曲はすっかりザ・バーズによる演奏がすり込まれているが、オリジナルはボブ・ディランのはずである。そのオリジナルって、どのアルバムに入っているのか、ピンとこないのだ。
 確認してみると、公式に発表したのはザ・バーズの方が先で、ディランの公式録音は “The Greatest Hits II” (1971) に入っていた。私はこの二番目のグレイテスト・ヒッツを持っていなかったので、ピンとこなかったらしい。
 その後、”The Basement Tapes” そのまたブートレッグシリーズなどに収録されたが、公式なオリジナルはこのバージョンということになるようだ。



 1992年のボブ・フェストでは、三人の女性による演奏が印象的だった。改めて見ると、豪華なバンドで、G.E. スミスのリードギターもかなり華やかだ。
 この時のライブの特徴なのだが、ホスト・バンドとゲストとのリハーサルがやや不十分だったようで、この曲も終わり方で一斉にスミスを振り返るのがおかしかった。




 [Live at the Fillmore 1997] では、ハートブレイカーズによる豪華なコーラスがかなり控えめにミックスされ、ロジャー・マッグインの声を引き立てるように響き、この上なく美しい。ギター・ソロはたぶんマイクだと思うが、彼の個性を押し出す感じはせず、あくまでもザ・バーズへのリスペクトに溢れていて、とてもすがすがしい。

Never Enough2022/12/26 19:58

 フィギュア・スケートの全日本選手権が終わった。
 女子は念願の、坂本 vs 三原の真っ向勝負となり、世界女王の坂本が二連覇を果たした。私としてはとても満足な対決,結果だった。
 ペアはなんとエース・カップルが出場できないというアクシデントがあったが、実力的には間違いないので、彼らが世界選手権でメダルを取ることを期待している。
 アイス・ダンスは、とうとう村元・高橋組が小松原組を破って日本一になった。しかも予想外に点差がついた。本当にここまで来たのだという、感慨もひとしおである。あの高橋大輔が、アイス・ダンスで世界選手権に帰ってくる!これだけでもワクワクだが、さらに言うならフリー・スケーティングにぜひとも進んで欲しい。後半組に入るのは難しいかも知れないが、最低限フリー進出。期待している。

 男子のフリーは最終組が、ある意味考えさせられる結果だった。6分間練習では、全員4回転ジャンプが絶好調で、文句のつけようが無かったのだ。
 ところが、本番になってみるとほぼ全員がミスの連発である。実は私も先週末ピアノの発表会だった。これまたミスの連発だった。練習で出来ていたことが、びっくりするくらい再現できない。本番というものは、まったくの別物なのだと再認識した。あの絶好調の宇野でさえ得意のフリップで転倒したのだ。本当にびっくりした。
 結局、誰の演技が一番良かったかと言えば。やっぱり友野を挙げたい。確かにジャンプのミスはあった。しかし、あんなに完璧な「こうもり序曲」があるだろうか。あそこまで表情豊かに演じきれる人が、ほかに居るだろうか。私の「好み」で言うと、彼が世界選手権代表に選ばれて嬉しい。
 二位という快挙の島田は、確かに世界選手権に行かせてあげたいと言う気もするが、今回の全日本の結果だけでは難しいところだろう。ランビエール同門の宇野としては、島田も一緒に行きたいという気持ちもよくわかる。女子は坂本と三原の同門二人が揃って出場するのだからなおさらだ。ただ、演技力で言うと島田と友野の間には差があったと思う。これまでも友野は世界選手権で結果を残して、日本の三枠獲得に貢献してきた経験もある。私はそれを買いたいと思う。

 さて、今回の全日本選手権で印象的な曲を使ったのは、ショート・プログラムで5位に入った三宅咲綺だった。去年は26位に沈んだという彼女だが、今年のSPは会心の出来で、全てのSPの中で一番感動させてくれた。
 コーチは坂本、三原と同じ中野園子コーチ。中野コーチ、凄いな!しかも振り付けは私が大好きな鈴木明子と来ている。これで感動しないはずがない。

 曲は、映画 [The Greatest Showman] の "Never Enough" ―― この映画は、確か飛行機で見たと思う。有名なオープニング・タイトル曲や、"This Is Me" などはちょっと大袈裟すぎて好きではないが、"Never Enough" だけは素晴らしかった。劇中ではオペラ歌手が歌うことになっていたが、まったくオペラ的な歌唱ではなく、ポップスの発声で違和感がすごくあったが、曲と歌唱自体は良かった。
 女優自身が歌ったのではなく、ローレン・オルレッドというプロの歌手が歌っている。最近、"Briten's got talent" に出たりして、やっとスポットライトを浴びつつある。

Die Fledermaus / Overture2022/12/30 22:41

 私はてっきり、フィギュア・スケート世界選手権出場者で悶着しているのは、友野か島田かという話しだと思い込んでいた。どうやら島田か、山本かという話しだったらしい。それは意外だった。山本は確かに全日本で5位だったが、GPシリーズの実績で固いと思っていたので。
 確かに、今の選び方は多角的で異論もあると思う。スポーツなだけに、一度の勝敗で潔く決めてしまうのも一理あると思う。ただ、私は音楽をやっている人間なので、複数の機会があるとしたら、ある一回だけで全て決めてしまうのには、二の足を踏むだろう。それこそ、出場枠が一つしか無ければもう少し話は単純かも知れないが ―― いや、いつぞやロシアの男子で揉めたなぁ…。難しい話しだ。

 ともあれ、私が贔屓にしているのは宇野は別格として、友野一希である。彼の「こうもり」はぜひ見て欲しい。
 世界選手権では、これよりも良い演技をしてもう一度このブログに貼り付けられますように。



 時期的にも「こうもり」だ。もしウィーンでもっとも贅沢な年末年始を過ごすなら、大晦日に国立歌劇場で「こうもり」を見て、元日に楽友協会でウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサートを見る。いや、もちろんそんな難しいことは無理だとわかっているが…ちなみに、国立歌劇場の「こうもり」はマチネーと、夜公演の二回ある。
 イタリア語のオペラなら「フィガロの結婚」を薦めるし、ドイツ語なら「こうもり」。間違いない。
 このブログでは、最近の ―― 21世紀になってからの動画を多く貼り付けてきたが、ここはちょっと古い動画を。1987年のニューイヤーで、指揮はヘルベルト・フォン・カラヤン。晩年の指揮になる。テンポは抑えめでマエストロにふさわしき威風堂々たる―― でもやっぱり気分の上がるゴキゲンな「こうもり序曲」。