The Waiting2022/10/03 22:13

 5年前の今日10月3日(日本時間。現地時間では10月2日)トム・ペティが亡くなった。この日は日本時間でいつも認識している。リアルタイムでそのニュースを追っており、実感が強いせいだろう。あの日も東京は、秋晴れの良い天気だった。毎日通っていた都心のオフィスから見た青空を今も思い出す。
 遠い昔のような、つい最近のような。どこかでまだ夢だったのではないかとふと思ったりする。

 この日に、どの曲を記事にするべきだろうかとちょっと考えていたのだが、週末のラジオ番組で、"The Waiting" がリクエストされていたので、ああそれが良いと、乗っかることにした。

 The waiting is the hardest part ―― イントロからして、なんて素晴らしい大名曲だろうか。象徴的で、ロマンチックで、力強くて、明るくて切ない。ロックンロールが60年代から運んできた美しいものを胸いっぱいに吸い込み、どっと吐き出すようなヴォーカル。やり過ぎないくせに良過ぎるギターソロ…調和と張りのあるスタンや、ハウイのコーラス。
 どこからどう切り取ってもダイヤモンドのように輝いている。
 あのイントロの美しさときたら。30歳のトムさんが、自分が世を去った後、この曲のイントロでだれもが目に涙を浮かべること前提に作ったとしか思えない。もちろんそんなはずはないが、でも名作が作られる時というのは、そういうものなのだろう。

 どんな動画をあげるかは迷うところだ。オリジナルはそれぞれみなさん、聞いていただくとして。ここは色々な "The Waiting" が押し込まれた、映画からのカットにする。
 最初にリフを思いついたトムさんが四六時中リフを鳴らすから、ご近所さんから「もうやめろー!」と文句を言われた話、エルヴィスのシャツを着ての SNL, マイクが嫌がるビデオ、エディ・ヴェダーとの共演。
 改めて驚くのだが、こんな凄まじい曲でみんな大好きなのに、スーパーボウルでは演奏しなかった。なんとも贅沢なことだ。

Turn On Your Love Light2022/10/07 20:27

 携帯音楽プレイヤーをウォークマンに切り替え、日々Boseのスピーカーで聴いている。どうやら前代のガジェットに収納し忘れていたようで、ヴァン・モリソンのゼムが、"Turn On Your Love Light" をレコーディングしたのを初めて聴いた。



 これは格好良い。スペンサー・デイヴィス・グループを彷彿とさせるサウンドで、この曲の魂を熱く伝える。アウトロのコーラスのしつこさも、とてもソウルで、ロックで素晴らしい。
 ゼムの録音は1964年頃だが、オリジナルは1961年のボビー"ブルー"ブランド。ゴスペル歌手である。このゴスペルの信仰心の発露の仕方は、宗教の枠を越えて人の心を動かす力がある。
 ワイルドなホーンセクションから、ジャングルビートと、ピアノの細やかなリズムに乗って、熱唱するブランド。これは大人数のゴスペル・クワイアがやったら、もっと格好良いだろう。



 私が最初に "Turn on Your Love Life" を聴いたのは、映画「ブルーズ・ブラザーズ2000」においてだ。映画としてはオリジナルに遠く及ばないが、同窓会的な楽しさがあるし、やはり音楽は最高。
 バンド対決に登場したブルーズ・ブラザーズ・バンド。さすがの演奏技術である。ゼムやブランドの録音とは格が違うという上手さである。このバンドはシンガーが最高ではなくても愛嬌があって、ダンスが格好良く、人を食った感じがとても好きだ。
 そしてこういうのは、反則だと思うのだが、最後に少年のバスターが歌い出すところは、泣かせにかかっている。こういうベタな演出でも、音楽は素直に聴いて、素直に感動すると,心が晴れやかになる。ゴスペルの良いところはそういうところだ。

Arigato gozaimasu, Suzuka!2022/10/11 20:15

 あまり F1 に入れ込みすぎると、心が疲れてしまうし、結果が心苦しかったりすると、精神安定に支障をきたす。そのような訳で、鈴鹿での日本GPだからといってあまり目を血走らせないように、努めて冷静に、ちょっと距離をおいて見たいと思っていた。

 しかし、鈴鹿からの中継が始まると、やはり平静を保っては居られなかった。20人全ドライバー分の応援が観客席を彩る中、やはりセバスチャン・ベッテルへの応援が目に付くし、中継陣も「最後の鈴鹿」を連呼する。余り期待しすぎると、あとで辛いからやめてほしい…でも、やっぱり期待してしまう。
 その期待にまず予選 Q1で応えるセブ。アウトラップのとき、ズバズバ前を抜いて行き、最後のシケインでだけちょっと減速。本当に鈴鹿を知り尽くし、どうしたら一番早く、そして美しく走れるのかを知っている。
 Q2 はさらに鮮やかだった。おそらくエンジニアも、すべてセブに任せていたのだろう。鈴鹿でセブに指示するべき事なんて無いのかも知れない。川井ちゃん曰く、「この人、鈴鹿でトップ10逃したこと無いです」――
 そして今年の鈴鹿で、屈指の名場面となった Q3。ソフトの新品は1セットしかないので、一人だけタイミングをずらして、悠々と、美しく、爽快に駆け抜けて見せた。自分でも満足の行く走りだったようだ。まだ後ろで真剣勝負の9台が血眼になっているのに、観客席に手を振り、メッセージを送る…



 「ありがとうございます」はこちらの台詞だ。浜島さんは、「サーキットの人が泣いてるでしょうね」と言っていたが、私が号泣していた。

 さて、雨の決勝である。セブに何事も起きませんように、どうかトップ10に入れてもらえますように ―― という祈りも虚しく、最初にぶつかって、スピンして、グラベルに突っ込む ―― もう既に心がかなり疲れていたので、「ああ…人生なんて、そんなものだよね…」と、諦めの境地に入る。
 だがしかし、本当の鈴鹿の幸運は、セブのものだった。赤旗があけて、やっと始まったスプリント・レース、「誰がまっさきに突っ込んでインターにするかですよ!」と川井ちゃんは言う。要は博打だ。それがセブだった。セブ自身が、セーフティ・カー明けにインターミディエイトにすることを決断したという。
 この決断以降、幸運はずっとセブのものだった。あのアロンソに、いったんはタイヤ交換を決断させ、再度追いつかれたのは最終周回であり、フィニッシュ・ラインを通過したとき、セブのほうが何センチか前だった ―― あと1周でもあったら、セブは 7位だっただろう。
 結果はあの車で望める最高位であろう、6位、8ポイント獲得。おめでとうセブ!ありがとう、セブ!You are the driver of the day!



 セブが心から愛し、一番好きなサーキットである鈴鹿が、素晴らしい結果で本当によかったと思う。日本人のファンとしては、何の心残りもなく、セブに楽しませてもらい、セブも楽しんだことだろう。
 F1 なんて、しょせん政治,経済,テクノロジーであって、お金まみれの汚い競技かも知れない。それでもセバスチャンはこうして多くの人に愛され、温かく見送られてゆく。そういうことだって、F1にもあるのだ。これもスポーツであり、人間の良い面を見せてくれるのだ。



 パルク・フェルメに車が並んだところでテレビを消してしまったので、チャンピオンが決定したことを知ったのは、数時間後だった。特に感慨は無いのだが…まぁ、去年のような絶望的な悲劇にならなくて良かった。

Bose / QuietComfort EarBuds II2022/10/15 23:53

 何度か記事にしたことがあるが、私は Boseの QuietComfort 20 の愛用者である。たしか、2012年ごろに発売されたと思うので、もう10年は経っている。それでも私が持っているイヤホンの中で、抜群の性能を誇っている。
 略して QC20 ―― 有線イヤホンではあるが、なんと言っても、ノイズ・キャンセリング機能が最強。しかも駆動時間が14時間。耳にフィットするイヤーチップも安定感があり、リモコンの操作性も良い。
 もはやこれがないと、飛行機や新幹線はもちろん、日常の公共交通機関は乗れないし、そのほかでも仕事中に雑音を消したいときや、眠るときのノイズ消しなどにも重宝している。最高の逸品で、現役器とともに、箱未開封の一つも確保している。

 しかし、ちょっと考えてみると、最近は毎日の通勤をしていない。それを思うと、QC20 は少しオーバースペックかも知れない。それに最近、エクササイズと会議用に使っている Bose SoundSport がワイヤレスなので、ワイヤレスの快適さも欲しい。
 丁度、Bose が完全ワイヤレスのノイズキャンセリングイヤホン QuietComfort EarBuds II を発売したので、これを買ってみた。略して QCEB2 ―― その長所と短所をまとめてみる。

 長所の最大のものは、その音質の良さだ。私はあまりオーディオ器機に興味が無いので音質がどうこうとあまり言わないのだが、この音の良さは際立っていた。音の解像度が高く、全ての音がくっきりと立って聞こえる。バンドの演奏なら、そのバンド編成の真ん中に立って、目でも演奏者を見ているような感覚がする。これまで潰れて聞こえていた音がすべてほどけて、鮮やかに響くこの音質は、本当に素晴らしい。
 次の長所は、やはり完全ワイヤレスの快適さだ。ケーブルにつねに気を遣わなければならない有線の問題を、完全に解決し、再生,停止,aware(外音取り込み)と Quietモードの切り替え、音量調節、曲送り,戻しまで、本体をタップするだけでできる。タップにはちょっと癖があるので、慣れが必要だが、これは時間の問題だろう。

 さて、短所である。残念ながら数え上げると QC20 と比べての短所の方が多い。
 まず、駆動時間が短い。最大6時間、ケース充電を複数回挟めば最大24時間だが、何にせよ連続では6時間しか駆動しない。これではニューヨークやヨーロッパへのフライトには耐えられないし、新幹線を使っての移動でも足りなくなってしまう。
 次に、落ちる。物理的に落ちる。これまでの耳にはめ込む大きなイヤーチップではなく、小さなイヤーチップを耳の穴に入れ、外周にスタビリティバンドを巻き、これで外耳の窪みに固定するのだが、これが不安定で、すこし早く歩くと簡単に落ちる。常に落ちることに気を遣ってヒヤヒヤしなければならないのは、大きなマイナスだ。
 三つ目。これが最大の短所だが、ノイズキャンセリング機能が QC20 と比較すると明らかに劣る。私の感覚だと、QC20 のノイズキャンセリング機能が100だとしたら、QCEB2 は60~70といったところだ。QC20 なら完全に聞こえなかった乗り物のノイズ、人の話し声などが、かなり気になる。もちろん、QCEB2 を外してみれば、もっとすごいノイズがあり、ノイズキャンセリング機能がかなり働いていることは分かるのだが、QC20 の性能に10年慣れた身としては、これはいただけない。QuietComfort を名乗るのは、QC20 に対して失礼ではないだろうか。

 以上が、10年前に発売された QC20 と、最新の QCEB2 との比較である。やはり QC20 の性能と信頼性は揺らぐことはなかった。かといって QC20 を酷使し続けるわけにも行かない。そこで、日常使いとしてのイヤホンは、QCEB2 で妥協することにする。ノイズキャンセリングの劣る点も、音質の良さで埋め合わせられるし、慣れということもあるだろう。
 そして、ここぞという所で、QC20 を使う。長距離移動、睡眠、より完璧な環境など。現役器、そして予備器を使い潰し終わる頃には、Bose がQCEB2 の短所を全て克服し、QC20 並みの製品を完全ワイヤレスで実現することを期待する。



 そのような訳で、私が所持する Bose は合計六つになった。CDプレイヤー, Bluetooth スピーカー,QuietComfort20(2個),QuierComfort EarBuds II, SoundSport ―― でもまぁ、実のところオーディオにはそれほど興味はないし、凝ってもいないつもりである。

Do You Want to Dance2022/10/19 20:28

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの1997年 [Live at Fillmore] の発売が待たれる。
 このフィルモアでのライブが伝説的である理由はいくつかあるが、その一つがハートブレイカーズにとってのアイドルとの共演も挙げられるだろう。ロジャー・マッグイン、ジョン・リー・フッカーである。私はブートでフッカーとの共演は聞いたことがあるが、ロジャー・マッグインはまだ聴いたことがないので、とても楽しみだ。
 それから、ハートブレイカーズにとってのアイドルの曲のカバーもまた、多いのが特徴的だ。私にとっては、ストーンズやキンクス、ディランのカバーが楽しみ。特に "Knockin'on Heaven's Door" は、ディラン抜きのハートブレイカーズ版として、なかなか貴重ではないだろうか。ハウイとのコーラス・ワークが楽しみだ。

 ハウイとのコーラス・ワークと言えば、フィルモアから10年前、1987年の "Do You Want to Dance" が動画サイトに上がっていて、とても素敵だった。
 動画無しの音声のみで、オーディエンス録音なので音は悪いが、珍しい曲目だし、演奏そのものがゴキゲンなのだ。1987年7月26日ということは、ディランとのツアーの間だろうか。



 最初聴いたとき、とっさにこの曲をどこで聴いたのか、思い出せなかった。知っている曲だが、誰のどのアルバムに入っているのか?
 答えは、ジョンの [Rock 'n' Roll] である。オリジナルの倍ぐらいの低速で歌っていた。ジョンのバージョンとは別に、たぶんどこかで、デル・シャノンのバージョンを耳にしたこともあるに違いない。
 ハートブレイカーズのカバーは、もちろんデル・シャノンのバージョンである。なんと言っても目をひく(耳をひく?)のは、コーラスでの高音域である。ディランとのツアーの時は、女性コーラス,ザ・クイーンズ・オブ・リズムが一緒だったが、思うにこの "Do You Want to Dance" のサビでの高音域は、女性コーラスではなく、ハウイではないだろうか。
 それこそ、デル・シャノンとそのバンドでもない限り男性には難しい音域だが、ハウイには出来ると思う。そもそも、デル・シャノンのバンドにいて、トムさんに攫われたハウイなのだから。

 何を聞いても、ハウイのコーラスは素晴らしい。1997年フィルモアが伝説であることの理由の一つに、これがハウイの在籍した時代だと言うこともあるかも知れない。それはつまり、スコット・サーストンと、ハウイが同事に在籍していたということ。とても贅沢なことだ。
 ハウイとのコーラス・ワークを堪能したいという意味では、以前 VHS で発売されていた [Take the Highway] の完全版も出て欲しいし、それよりも以前、1980年代のライブ音源も発掘して欲しい。この世のどこかに、きっとまだまだたくさん、知らないハートブレイカーズがあるに違いない。夢のある話だ。

Love Minus Zero /No Limit2022/10/23 21:26

 ボブ・ディランのファンとして、彼のどのアルバムも大好きだが、60年代はそのみずみずしさがなんとも言えない。彼の若く気高い雰囲気の容姿も相まって、形容しがたい魅力がある。
 動画サイトを見たら、1965年のディランが、"Love Minus Zero / No Limit" をライブ演奏する、カラー動画があがっていた。最近の技術でカラーにしたものらしい。



 かなりの強風の中、ディランはたてがみのように、髪をなびかせている。穏やかな表情に、なんの力みも無い歌唱。リラックスしていて、すごく雰囲気が良い。
 伝記作家が言うには、この曲には禅の思想が取り入れられているらしい。禅が何か一向に分からない私には、歌詞を理解するのは難しいだろうが、この曲のちょっとした浮遊感、心地よさが気持ちよく聞こえるのだ。

 もちろんカバーも多いのが、このザ・タートルズのカバーが面白い。



 いかにもフォーク・ロックというアプローチで、やがてコーラスが分厚くなる。その分厚さといったら、スタンダードなザ・バーズよりもすごくて、ちょっとびっくりするほどだ。どこかのグリークラブっぽい。
 しかも、エンディングは既聴感が半端ない。ザ・バーズの "The Bells Of Rhymney" とちょっと見分けが付かない。プロデューサーがわざとそうしたとしか思えないほどだ。
 ディランの曲をフォーク・ロックにするとこうなるという典型と言って構わないようだ。

She's a Rainbow (Covers)2022/10/27 20:54

 以前、ウクレレで "She's a Rainbow" をやっているという記事を書いたが、仕上がりは遅々として進まない。私がぐうたらしているからなのだが、ピアノと違って「弾かなければ、弾けなければ」という義務感やプレッシャーがないので、気軽に楽しんでいるし、それで良いと思っている。レッスンも、半ばギタリストの先生と音楽ムダ話をして楽しんでいるようなものだ。
 しかも、ろくに練習しないくせに、「ニッキー・ホプキンスのピアノ・ソロを再現したい」などと言い出す。先生も苦笑い気味に、「音、取っといてください」と言って後は次回となった。

 "She's a Rainbow" はストーンズの有名、かつ人気の曲だが、意外とカバーは少ない。Wikipedia もチェックしたのだが、カバーに関しては特に記述がなかった。
 そんな中、先日ラジオで聴いたのはモリー・タトルという女性シンガー,ギタリストのカバー。これが素晴らしかった。なんといってもギター・ソロで、あのニッキー・ホプキンスのピアノ・ソロを見事に再現しているところが凄い。無謀であるが、ウクレレ弾きの私が目指すのはこれだ。



 女性と言えば、このハーパーさんも素敵。ピアノ・ソロこそ再現に挑んではいないが、うまく雰囲気を作っている。
 このハープ、なんという種類だろうか。大きいがコンサート・ハープほどではないし、アイリッシュ・ミュージックでよく見るようなハープよりもやや大きいし、弦が平行に二列並んでいる。
 アイリッシュ・ハープのワークショップに参加したことがあるが、器楽が比較的得意な私でも、「これは無理だ!」と思わしめる楽器であり、同時に憧れの楽器でもある。