Emotionally Yours2020/10/15 21:55

 1960年代、ロックの黄金時代に青春を過ごし、ヒットを飛ばしたアーチストにとって、80年代をどう生きるかは、それなりの難しさがあっただろう。
 爆発的な60年代、その勢いを駆る70年代を経て、年齢もかさね、ある程度の業績を残して80年代を迎えると、それまでとは性質の違う音楽世界が始まる。滑稽なほどポップで、プラスチックの質感のするピカピカした世界。マシンによる作り込みが進み、サウンド・エフェクトも過剰 ―― 
 ある人は一線から退いて隠遁生活をしているように見られたが、それも一つの賢い生き方だったと思う。
 若い頃からのドラッグの悪癖が80年代に代償となり、健康を害した者、この世を去った者もいる。ジョンなど、80年代の最初にいきなりその命を神が召し上げたほどの時代だった。

 そんな中、ボブ・ディランの80年代も、それなりの時代の一つだった。彼の業績の中でクローズアップされにくい時期かも知れないが、よく作り、良く演じたと思う。
 この "Emotionally Yours" など、分厚いエコーに、ピコピコしたサウンドが、意外とうまくディランに寄り添っていて、絶妙に出来ている。



 80年代の特徴として、ミュージック・ビデオの隆盛が挙げられるが、その点においても、この曲はうまくやりこなせた感がある。
 そもそも、冒頭にマイク・キャンベルの姿を挿入した制作者を褒めたい。あの素朴なたたずまいが、お姉さんがグルグル回る馬鹿らしさを緩和してくれた。

 マイクのギターには、ジョージっぽさが現れ始めている。ディランに合わせて、邪魔にならないようにエレキのフレーズを入れると、ジョージが手本になるというのは、興味深いところだ。
 ロビー・ロバートソンが、ディランと肩をがっちり組んで、一緒にツカツカ歩く感じのギターだったのに対して、ジョージとマイクは、ディランの強烈な個性を、優しく包み込むような空気を作り出している。

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズが、微妙に60年代レジェンドたちより年下だったことが、ディランにも幸いした。シンセサイザーと肩パットの嵐の中で、ハートブレイカーズは若いながらも、地に足の着いたロックンロールを奏で、一緒に歩んでくれたのだ。
 そういう風に仕組まれた音楽の歴史は、なかなか上手く出来ていると思う。

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