Concert for George2011/11/30 21:09

 11月29日はジョージが亡くなった日。映画が公開された今年は、また感慨もひとしおだ。そこで、久しぶりに[Concert for George] をフルで鑑賞することにした。
 これが、今回の映画よりも泣ける代物だった…。いや、最初に見たときから泣いていたが…それにしても。すごいコンサートもあったものである。これまでに何回見たのかも分からないくらい繰り返しているが、いつも感動しっぱなしだ。



 最初にクラプトンとラヴィ・シャンカールが出てきて挨拶をしただけで、グっとくる。
 そして、前半のインド音楽。このパートをフルで鑑賞するのは久しぶりだ。アヌーシュカの美しさが目を惹く。彼女とても、たまにはミスることがあるらしく、ちょっと笑っているのが可愛い。"The Inner Light" で、ジェフ・リン登場。なんだか緊張している。考えてみると、このコンサートで、最初にソロで歌う大役を、よくぞ引き受けたものだ。
 "Arpan" は大曲とあって、時々リハ不足か、練習不足をうかがわせる瞬間があるが、聞く側の耳が慣れてきたということだろう。最後にクラプトンまで加わると、いよいよこのコンサートならではの楽曲だという気分が盛り上がる。
 舞台から引き上げる前に、ラヴィとクラプトンが何か言葉を交わして笑っている。「ジョージがいたら喜んだんじゃない?」「いるよ、最前列にかぶりついつる!」…ってところだろうか。

 モンティ・パイソンで泣かされそうになるのは不本意だが、仕方ない。楽屋で、テリー二人が、嬉々としてお尻を出しながらソックスをどうするとか相談していたのが好きだ。

 後半のジョージズ・バンドのセクションになると、改めて思い知らされるのは入念なリハーサルの重要さ。私は練習不足の本番というものに対する許容範囲が狭い。ボブ・フェストや、ロックの殿堂セッションも素敵だが、ただ練習・リハ不足はどうしても気になる。
 「生ならではの即興性」などというものでカバーできるレヴェルというのは意外と達しにくいもので、クラプトンが拘ったリハの入念さには共感を覚える。
 クラウス・フォアマンは自分の演奏機会の少なさが不満だったようだが、バンドマスターの立場からすると、仕方がないかもしれない。何せジョージの曲は演奏が難しい。
 映画を見て、改めてジョージの曲に複合拍子が多いことを思い知った。 "Here Comes the Sun" は代表的だが、"Give Me Love" は変拍子にフェミオラが加わるし、"That's Way It Goes" にも複合拍子が入り込む。歌の節回しも独特なので、「みんな知ってる曲だから、いきなり合わせても大丈夫だよね」があり得ない。コード進行も一筋縄にはいかない。
 このコンサートの演奏レヴェルの高さを思うと、クラプトンがリーダーとなっての入念なリハーサルの成果は、何物にも替えがたいすばらしいものだったと納得する。参加メンバーが華やかだし、感動的な要素が強いので視線が散りがちだが、全体的な演奏レヴェルの高さは、最大限に評価されて良いだろう。

 映画ではレイ・クーパーの、ジョージの死に対する悲しみの深さが印象的だったが、それを知ったうえでCFGを見ると、なるほど確かに、時折うつむいているクーパーの思いが、わかるような気がする。

 ジョー・ブラウンのバンド・メンバーを見ていて、今回初めて気付いたことがある。このバンドのドラマー、フィル・キャパルディはジム・キャパルディの実弟だそうだ。兄弟そろってCFGに参加とは、幸せなことだ。 兄上がお亡くなりになったのはとても残念。

 それまではグっとくる程度で我慢できたが、やはりTP&HBの登場となると涙が出る。特に "I Need You" は破壊力がある。"Taxman" の時はモニターで歌詞を確認していたトムさんが、まったくモニターを見ない。終始上を見上げたまま、あの「きみ無しでなんて 生きられない お願いだから ぼくのもとに帰ってきてよ」という、詩を歌い上げる姿を見ると、どうしても泣けてくる。
 アンディ・フェアウェザー=ロウにしても、マーク・マンにしても、ジョージのあのスライドの再現に良くがんばっているが、やはり最高なのは、"Handle with Care" のマイク・キャンベル!彼の笑顔と格好良いギター・プレイは、CFGの華の一つだと思う。

 コンサートも大詰めになってくると、ステージの端々に出演者達があふれ出して、押すな押すなの様相を呈しているのがおかしい。クラウスなんて、"My Sweet Lord" でもう舞台中央まで来てるもんね。
 リンゴが出てくると、毎回思うのだが魔法が解けるかのようにみんなの顔に笑顔が浮かぶ。ポールは…投げキッスはご遠慮下さい…特に、ジェフ・リンには。…それはともかく、ポールの演奏のクォリティもとても高い。最近、ジョージのオリジナルばかり聴いていたせいか、"All Things Must Pass" のテンポの速さに少し驚いた。

 最後の "Wah-Wha" の格好良さは相変わらず。あれだけの人数が舞台にひしめいて、あそこまでの演奏ができれば、クラプトンも満足だろう。
 このコンサートで一番泣かせるのは、やはり "I'll See You in My Dreams"。ジョー・ブラウンの歌い方が優しくて、穏やかで、大げささがなくて素晴らしい。温かくて、美しくて、ちょっとだけ寂しいけど、愛に溢れたコンサート、ジョージも楽しんだよね。舞い散る紙吹雪を眺めながら、ステージ上の誰もが満足そうなのが印象的。

 映画は好評なようだし、劇場にはいかずともDVDを購入予定の人も大勢いる。これらの人たちでCFGを持っていない人は、これを機に購入をおすすめする。ジョージは確かにいる。あれほど素敵なコンサートは他にちょっとない。