便利な文房具2009/08/26 21:46

 私は字が下手だ。
 読めないほどの悪筆というわけではないが、その字はいつも不格好で、センスが感じられない。悪筆は遺伝だという話を聞いたことがあるが、父や兄たちの字を見ると、そうに違いないと思う。

 習字は、小学生か中学生の時が最後だった。毛筆とは縁が切れたと思ったら、大学で復活した。原書講読の講義で、古い毛筆解読に取り組んだのだ。古い書体を覚えるには、目だけではなく、手で覚えなければならないとのことで、学生たちは筆ペンを購入し、様々な毛筆文書を薄紙の下に敷き、写し取っていったのだ。
 私にはこれが苦痛で、世阿弥の悪筆ぶりを(自分のことは棚に上げて)呪ったものだった。
 卒業して古典邦楽研究とは縁遠くなったが、そうすると実に世俗的な次元で毛筆が追いかけてくる。冠婚葬祭、いちいち熨斗紙に名前を書かなければならないではないか。

 私は、筆ペンを発明した輩を恨んでいる。
 文房具会社にしてみれば社長表彰モノの、大ヒット発明だろう。
 しかし、筆ペンというシロモノが発明されたせいで、私たちはいまだに、熨斗袋に名前を毛筆っぽく書かなければならない。さらに、記名帳に筆ペンが置いてあるのを見ると、発狂しそうになる。住所なんて書けるわけがないだろう。第一、私の名前は漢字が非常に難しい。
 筆ペンさえ発明されなければ、今頃私たちは、熨斗袋にボールペンで名前を書いていただろう。字に自信のある人は、万年筆でも使うのだろう。
 「筆ペンがなかったら、本当の毛筆で書かなきゃならないかもよ」と言う人がいたが、さすがにあれは面倒臭すぎる。きっと現状と同じように、普通には使われていまい。
 日本文化を継承するという意味で、毛筆やその「なんちゃって版」である筆ペンを毛嫌いするとは何事だと言われそうだが、私とて字が上手ければ、このように恨んだりはしない。それこそ、周恩来のように優雅に本物毛筆で記名してみせる。
 私の悪筆と、筆ペンの発明。これが諸悪の根元である。

 何の話かというと、文房具の話だ。

 「アメリカ版ビートルズを作ろう」という目論見が、ある意味で的を外し、ある意味で大成功したグループ、ザ・モンキーズ。スティーヴン・スティスルがメンバー候補だっというスゴイ話は、ここでの主題ではない。

 メンバーの一人、マイク・ネスミスの母親,ベティは、リキッド・ペーパーの発明者だそうだ。
 一般名称では、修正液と言うべきか。とにかく、あのペンキのように白い、油っぽい液体を、消せない文字の上に塗って、訂正できるという、優れモノである。

 毎日事務員として誤字脱字に苦労していたベティは、油絵が趣味で、そこから白い液体で字を消すという発想を得たらしい。そこで、身の回りにある白い絵の具で実物を作り、自分の仕事用に使い始めた。
 さらなる改良をすすめるに当たっては、息子マイクが通っていた高校の科学の先生に、アドバイスをしてもらっていた。
 やがてその便利さが認められると、ベティは自ら会社を起こして、商品名リキッド・ペーパーを商品化した。これによって、ベティは莫大な財産を得た。

 1969年に、マイクがモンキーズを脱退したとき、高額の違約金が課せられた。マイクがそれを払うことができたのは、母親の特許収入があったからだとも言われている。
 おそらく、真実だろう。

 私はこの話を、モンキーズに対する知識として得たのではなく、修正液というものを調べていて知った。修正液についての英語文章が突然、モンキーズがどうこうという話になって、最初は何のことだか分からなかった。
 モンキーズの映像と言えば、"Daydream Believer" がポピュラーだが、ここはコメディ・テレビ番組「ザ・モンキーズ・ショー」のオープニング。



 1967年から1969年まで放映された番組だが、とても楽しそう。本当はDVDがほしい。

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