Fillmore 19972022/11/26 22:18

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのライブアルバム、[Fillmore 1997] が発売になった。私は4枚 CD のボックスセットを注文している。
 もっとも、現物がいつ手元に届くかはわからない。しかし、ダウンロードも商品に含まれているので、さっそく今日から聞いている。

 有名なブートレグが耳なじみだが、やはりそれよりもずっと音が良い。特にトムさんやスコットのアコースティックギターの音、一粒一粒が弾けていている。そしてベンモントのピアノもはっきりと浮き立っている。
 思えば1997年といえば、[Full Moon Fever] や [Into the Great Wide Open] から10年経っていない。[Echo]以降の重厚でハードなライブ・バンドとは、またひと味違う感じがする。若く弾けるような青いハートブレイカーズが、いぶし銀になろうとする、その端境期が [Fillmore 1997] と言えるだろう。
 即ち、若さ、もしくは重厚さへの偏りが少なくて、とてもバランスのとれているライブ・パフォーマンスということだ。全20公演で取り上げた曲目数も多く、ゲストも豪華。様々なカバー・ソングも楽しめる。これからTP&HBを聴こうとしている人にも、お薦めできるライブ版ではないだろうか。

 このライブ・アルバムを語ろうとしたらいくら記事があっても足りないのだが、今日は2曲とりあげる。両方ともカバーだ。
 まずは、"Johnny B. Goode" なんと刷り物(ジャケットやスリーブなど)には、誤って "Bye Bye Johnny" と記載されてしまったというレアなエピソードつきだ。
 確かに、TP&HB というと、"Bye Bye Johnny" を歌っている印象が強いくて、誰も間違いに気付かなかった可能性がある。演奏が始まってもしばらく違和感なく "Bye Bye Johnny" のノリでいたら、あれ?これ、"Johnny B. Goode" だ!というオチ。ちょっと面白くて、こういうハプニングは好きだ。
サビでのハウイ、スコット、ベンモントのシンプルなコーラスが格好良いし、マイクのギターソロもやり過ぎない手加減が絶妙。



 もう一曲は、このアルバムの発売が発表されてから一番楽しみにしていた、"Knockin' on the Heaven's Door" である。ディラン様とのライブでも披露されているが、あれは女声コーラスがちょっとうるさい。マッドクラッチの名演も素晴らしいが、こっちはドラマーが上手くないし、上手くない癖におかずを入れすぎなのが耳に付く。
 そういう意味で、純粋にトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの演奏が公式でずっと聴きたかったのだ。
 ディランとのツアーですっかり馴染んでいる曲なので、演奏に余裕が感じられる。ディランのようにハーモニカのソロが無いぶん、ロック・バラードっぽさが強調されていて良い。
 注目は、サビの歌詞。"Knock knock knockin' on the heaven's door" を4回繰り返すのが、ディランのオリジナル録音だが、ディランとトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのツアーから、四回目を "Just like so many times before" と歌うようになり、それがディランの通例となった。このアレンジ詞をライブで歌う人と言えば、ディラン自身以外には、トムさんくらいしかいないのである。マッドクラッチの演奏でも、アレンジ版だった。
 では、この1997年 Fillmore ではどうだったかというと?なんと、1番と2番では"Knock knock knockin' on the heaven's door" を四回繰り返し、3番になって初めて最後に "Just like so many times before" と歌うのだ。コーラスもちゃんと合っているので、これはハプニングではなく、前もってそのようにリハーサルをしていたのだ。
 ああ、やはりトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズは、このディランの名曲をディラン以外で最高に演奏してみせる唯一無二の存在だなと、再実感した。

Vielen Dank, Sebastian!2022/11/22 21:18

 ええ、買いましたとも attitude! UK から海を渡ってきましたよ、attitude! 棚でオタマトーンやトムさん、ディラン様に囲まれて微笑んでおりますとも!



 F1 最終戦が終わり、セバスチャン・ベッテルが引退した。
 名残惜しく、寂しくてたまらないが、週末に号泣しないで済んだのは、みんなが全力でセブとの別れを惜しんだからだと思う。ドライバー20人全員揃っての夕食会(ルイス、ありがとう)に、古巣のレッド・ブル、フェラーリでも送別会とプレゼント贈呈。セブ主催で大勢の関係者とトラフィック・ランを楽しみ、テレビ中継オープニング映像はセブ・スペシャル・エディション。決勝の国歌演奏後に、ドライバー達がセブのために花道を作り、一人一人と握手(ルイスとは固くハグ)、アロンソはコックピットに入る前にわざわざ手を握って挨拶。
 無事に完走して(入賞おめでとう!)、一人特別にメイン・ストレートでドーナツ・ターンを披露し(トップ3以外は別のコーナーでやっていた)、インタビューも特別に行われた。
 予選でも鬼気迫る走りを見せて、まだまだ出来るじゃないかと惜しまれ、ルイスは「帰ってくると思う」とまで言う。
 感謝と笑顔の週末が終わり、キミ・ライコネンがセブへのお疲れ様メッセージをSNS に投稿する。
 私が泣いている暇なんてないくらい、セブの引退は感謝と祝福、友愛に満ちたものだった。こういう引退ができるドライバーが、どれくらいいるだろうか。右京さんは記憶にないと言う。

Sebastian Vettel's Farewell To Formula 1 | 2022 Abu Dhabi Grand Prix

 私にとって最初セブは、 F1 関係者がオークションに出品したビートルズのサイン入りレコードを入手した、面白くて可愛いドイツ人だった。あっという間にチャンピオンに駆け上がり、最年少ポール・ポジション、最年少ワールド・チャンピオンの称号を手にして、未だに保持している。若くしてチャンピオンに君臨すること、なんと4年。F1 がハイブリッドに移行する前の、最後の最強チャンピオンだった。
 ビートルズのファンで正格は天真爛漫、やんちゃでレース中に頭に血が上るとエラいこともしてくれた。笑顔が可愛いナイス青年で、宿泊施設の不足しているレースでは「自分たちはいいけど、報道関係のみんなが気の毒だからどうにかしてほしい」などと、気遣いも出来る素敵な大人へと成長していった。
 フェラーリに移籍してからも、けっこう活躍したと思う。優勝もたくさんしているし、ルイスとチャンピオン争いを繰り広げて、F1 を面白くしてくれた。
 ドライバーたちの代表者としても本当によく働いたし、気遣いもした。ミスをして落ち込む若いドライバーを励まし、アドバイスもした。ミックにとっては友人でもあり、父親代わりでもあった。安全・公正で、ファンのためのレースに貢献し、大雨の中クラッシュしたノリスのことを、わざわざ車を寄せて確認してくれたりもした。
 レース以外で悪目立ちして孤立しがちなルイスを、いつもサポートし、自らもこの世界をより良くするためのメッセージを説得力を持って発信し続けた。

 セブはこれから、愛する家族と幸せに暮らしつつ、川井ちゃんも言ったように、若者たちへのメッセージ発信者として活躍していくだろう。
 若者というか…ええ、私、買いましたよ!セバスチャン・ベッテル・ショップで Tシャツを!Save the Bees を!送料込みで90ユーロが吹っ飛びましたよ!

 今まで本当にありがとう、セバスチャン。お疲れ様。
 セブにいま贈る一曲 … ちょっと考えたんだけど … これかな。またお会いしましょう。
 Bleiben Sie wohlauf!

Yesterday2022/11/18 22:08

 フィギュアスケート、NHK杯の季節がやってきた。本命は、(世界ランキング的にも、わたし的にも)女子が坂本、男子が宇野。そしてアイスダンスの日本勢の争いに注目。なにせ村元・高橋組のリズム・ダンスがイケているので、小松原組も油断はできない。それから、個人的に贔屓にしているのが友野一希。あの表情ができるスケーターは本当に少ないので、推しなのだ。
 さて、金曜日、第一ラウンド終了。本命の二人がいきなり軽く躓いたのだが、まぁ、明日のフリーで逆転する流れなんだろうなぁ…と思う。坂本も、宇野も準備段階であまり良い手応えがしていなかったらしく、あれくらいになると自己分析も精密になる。でもそこは百戦錬磨の世界チャンピオンズである。フリーでは充分に魅せてくれるだろう。
 村元・高橋組が後半グループに残ったのはびっくり。最初はおっかなびっくり、昨シーズンは派手にミスってたりしたのに。やはり高橋大輔という希有なスケーターには本当に驚かされる。大谷翔平以上の驚異である。

 もうひとつびっくりしたのは、私が不覚にも "Yesterday" で感動してしまったことである。山本草太のSP, 歌っているのはマイケル・ボルトン。曲目もさることながら、この歌手で感動するというのもまたびっくり。すべて山本君のスケートの良さのおかげである。
 山本君、怪我に悩まされ、ジャンプがきまらず、なかなかトップ・オブ・トップには届かないスケーターだったが、独特の優雅さがあって、とても好かれている。今年はそこにジャンプの調子の良さも相まって、曲と歌手の重さに負けていない。
 何せ、"Yesterday" は「あまり好きでは無いビートルズの曲」のうちの一つである。なんというか… [Help!] というロック色の強いアルバムの中で浮いている。バラードとしては "I Need You" の方が上等だと思っている。しかもマイケル・ボルトン…私との接点がなさ過ぎで、意外な取り合わせだが、山本君のおかげで素晴らしい作品になったと言えるだろう。



 そういえば、フィギュアスケートの曲にビートルズを選ぶということを、かなり先進的にやったのは高橋大輔だ。まだヴォーカル入りが使えなかった頃に、インストゥルメンタルのビートルズ・メドレーを使ったのだ。あれもまた、高橋という希代の表現者だからチャレンジできたのであって、その後たくさんの人がビートルズやストーンズを使うきっかけになった。

 マイケル・ボルトンだけでこの記事を終わらせるのもどうかなぁと思ったが、かといってディラン様の "Yesterday" は、台無し感が半端ない。でも載せる。ディラン様とジョージの楽しい時間だからね。

Rubber Soul vs Revolver2022/11/14 19:55

 週末のバラカンさんのラジオ番組は、月曜日にまとめて聴くことにしている。
 バラカンさん曰く、[Revolver] は質的にビートルズの最高傑作に間違い無いのだが、それほど好きではない曲も何曲かあり、その曲数の差で [Rubber Soul] の方が「より好きなアルバム」だそうだ。
 私にとっても、[Rubber Soul] と [Revolver] は一番好きなビートルズのアルバムの座を争う二作品だ。一応、ジョージの曲が3曲入っていること、"And Your Bird Can Sing", "She Said She Said" が入っていることが決め手になって、[Revolver] が一番好きだとしている。

 しかし、確かに [Rubber Soul] も捨てがたい。ジョージ・ファンとしては、"If I Needed Someone" は数曲分に相当する名曲だし、"Nowhere Man" や "In My Life" も最高傑作だ。
 そう思って改めて [Rubber Soul] の数曲を聴いたのだが、やはり前回リマスターのステレオは大失敗だった。バランスが悪くて、背中がかゆくなるような気持ち悪さがある。やはりモノラルで聴くべきだろう。



 こうなると、今回の [Revolver] のように、再度ステレオ・ミックスのし直しが待たれる。何せ今回の [Revolver] はかなり大成功だったと思うからだ。

 あらためて [Rubber Soul] の曲目を見ると、ほかにも "Drive My Car" や、"Norwegian Wood (This Bird Has Flown)" が含まれているので、かなり強い。
 ただ、リンゴがヴォーカルを取る曲は、圧倒的に [Revolver] の "Yellow Submarine" が勝っているし、「余り好きではない曲」で言うと、私は "Michelle" が大嫌いなので、たぶんそこで "Rubber Soul" は分が悪いのだと思う。

 それにしても、"In My Life" の威力は凄い。曲も、歌詞も演奏も満点で、[Revolver] では "Here There and Everywhere" と "Eleanor Rigby" でやっと対抗できているというものだ。



 こうして聞き比べると、ますます両者の甲乙は点けがたく、正直言って双方がビートルズで一番好きなアルバムになる。たしか、アンソロジーでリンゴか誰かが、この二枚は「一組のアルバムのような物だ」と言っていた。
 ますます、[Rubber Soul] のスペシャル・エディションの発売が待ち遠しくなってしまう。[Revolver] は一番好きなアルバムだからと言う理由で5枚組スペシャル・エディションを買ったのだが、結局 [Rubber Soul] でも同じ事になりそうだ。売る側の思うつぼ。致し方ない。

Baby Britain / Son Of Sam2022/11/10 21:12

 意識したときには既に亡くなっていたポップスのアーチストの代表がジョン・レノンだが、エリオット・スミスもその類いに入る。
 正確には、彼が "Miss Misery" で名をなしたときは、そういう人がいるんだという認識はしていた。ただ、後年彼の音楽が気に入って聞き始めたときには、もう亡くなっていたのである。
 2003年、34歳のその死の詳細はともかく、彼が甚だ悲しく、いたましい魂を抱えていたことは分かる。
 そのせいか、彼の声を聴くといつも、「いたましい」という言葉が浮かぶ。シャッフルの合間にふと彼の曲がイヤホンから流れてくると、あまりのいたましさと美しさに、胸が潰れるような気持ちがするのだ。別の言い方をすると、胃が痛くなる。

 まずは、1999年の "Baby Britain" ―― このビデオを見ると、彼が非常に多彩で様々な楽器を演奏したことが分かる。ドラムまでこなす人は希だろう。その希な人のうちの二人が、ポールとトムさんだが。



 そして、2000年 ―― 結局生前に出した最後のアルバムとなった [Figure 8] に収録されていた "Son of Sam"



 エリオット・スミスのプロデューサーとしての手腕も、遺憾なく発揮されていると思う。様々な繊細なサウンドを幾重にも重ね、それでも脆さを保ったままの痛々しさが胸を突く。ギターも、ピアノも、コーラスも、あれほどゴージャスなのに、あの儚さは一体なんだろう。
 それから、彼は「顔と声が一致しない人」の一人で、容姿からはちょっと想像できないような天使ヴォイスの持ち主だ。決して太さのある、声帯の強い「シンガー向き」の声ではない。むしろいわゆる蚊の鳴くような「ギタリスト声」の人で、同じような特徴を持つのが、ジョージだ。

 ロックの悲しみの面を知りたければ、エリオット・スミスを聴くと良い。ただ、聴く側の心が痛んでいるときは、ちょっと重いかも知れない。

Call Me the Breeze2022/11/06 20:52

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの [Live at Fillmore 1997] から、公式ミュージック・ビデオ "Call Me the Breeze" が発表された。
 残念ながら全編アニメーションで、彼らの実写映像は一瞬たりとも現れない。やはり1997年のフィルモアは、映像がちゃんと残っていないことの証左のようだ。
 こういう、アニメや文字のコラージュだけの公式ミュージック・ビデオというものには、あまり興味をそそられない。"Taxman" の公式動画とか…アレはなんだろうか。音楽はいいけど、動画としての魅力はあまりないと思う。



 もう一点、この1997年のバージョンがやや残念なのが、ベンモントのピアノ・ソロが長すぎることだ。もちろん、これを最初に聴く分には、彼のピアノのスキルを満喫できるので良いのだが、後年 ―― 1999年に、ベンモントのピアノ・ソロもありつつ、最後はトムさんとマイクのダブル・リード・ギターで締めるバージョンが登場するのだ。それがもの凄く格好良く、断然好きだ。



 何が良いって、ツイン・リード・ギターその物もさることながら、トムさんとマイクが息を合わせて、完璧に揃えられるように、すごく練習したのだという跡がよく分かることだ。私は音楽を演奏する人間なので、もの凄く練習して上達した部分というのは、分かる物だ。フィギュアスケートの振り付けなども同様。そういう、猛練習の跡とその結果が素晴らしいと、満足感のレベルが違うのだ。
 トムさんがちょっと緊張しながらも、マイクに近づいてきちんと弾き、マイクは余裕を持ってトムさんに寄り添い、微笑みながら演奏を楽しんでいる様子もたまらない。こういうのを、私は眩しいと思うのだ。

Revolver / 2022 Deluxe 5 Discs2022/11/01 19:43

 注文は確かにしていたが、忘れた頃に大きな箱が届いた。ザ・ビートルズの [Revolver / Deluxe 5 Discs] ―― 特典で大きなポスターつき。飾りたいけど、私の自由に出来る壁面はジョージとトムさんと、ディラン様で占められている。
 5枚のCDの内容は以下の通り。

CD1: オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス
CD2 & 3: セッションズ
CD4: オリジナル・アルバム モノ・マスター
CD5: EP (Paper back writer と Rain, それぞれステレオ&モノ)



 セッションズは全部で31トラックあって、なかなか聴き応えのある内容だった。ちょっと残念なのは、"And Your Bird Can Sing" の3トラックが、2枚に分かれたこと。どちらかに寄せ集めた方が良かっただろう。ともあれこの曲は超名曲で、セッションズのバージョンでは "If I Needed Someone" のような "Ah" というコーラスが入っていた。とても美しい。
 "Got to Get You into My Life" や、"I Want to Tell You" などが、最初はけっこうストレートなロックだったのが、格好良かった。アルバム収録バージョンも良いが、セッションズ・バージョンも捨てがたい。
 "Yellow Submarine" の、ジョンとポールの初期バージョンが聴けたのも嬉しい。ディランっぽいフォーク調だったのが、やがてリンゴが歌い、サウンド・エフェクトを加えて、あの賑やかな行進曲になって行く様がありありと分かる。
 "Taxman" にジョンとポールの賑やかなコーラスが入っていたのも興味深いし、"Elenor Rigby" では弦楽のアーティキュレーションがかなり違っていたのも面白いかった。スラーで弾いていた和声をスタッカートにしたセンスは、さすがジョージ・マーティンとポールだ。
 "She Said She Said" では、最初はあの変拍子が不完全だったことが分かる。これはリンゴと合わせていくことで、あのアルバム収録バージョンの、変拍子なのに歌詞に完璧にフィットしたリズムになったのだ。ジョージがディランのように「言葉」を語るリズムで自然に変拍子を作ったように思えるのとは、対照的だった。

 さて、オリジナル・アルバムの "New Stereo Mix" と、"Mono Master" である。どちらの方が良いか?
 そもそも、"Revolver" は発売された当初から モノ と ステレオ の両方が存在したが、最初の CD 化の時には Stereo が採用されたらしい。ただ、2009年のリマスター時には両方発売されたため、両方買うはめになったのだが ―― 私の耳だと、2009年のステレオは何となく失敗だったと思う。初期アルバムのステレオ化が顕著なのだが、音の層を無理に剥がして強力な接着剤で左右に貼り付けた感じがして、どうもバランスが悪かったのだ。そのような訳で、2009年のリマスターはモノでばかり聴いていた。
 しかし、このたびのニュー・ステレオ・ミックスがひと味違う。変な言い方だが、とてもモノに近いサウンドで、左右への偏りがない。それでいて音楽の各層が丁寧に、微細に、洗浄されたように聞こえる。
 "She Said She Said" を何回も、モノ・ステレオ,交互に聴いて比べたのだが、モノの方が音がぼやけている。一方、ステレオは三拍子になる辺りの高音オルガンの音まで、手に取るように聞こえるのだ。
 また、分かりやすいところでは "I'm Only Sleeping" に挿入される欠伸の声が、モノラルだと高音域しか判然としないが、ステレオだと低音域もちゃんと聞こえて、これまでに聴いたことのない音がした。
 結局、今回2022年の再販では、"New Stereo Mix" が一番良いという結論になったので、私はこれからこれを基準にしようと思う。

 それにしても、大きなポスター、でっかい箱、何枚もの新旧のディスクで、辺りが "Revolver" 過多の洪水状態である。今回のセッションズが入っていたスリーブのデザインが、どうやら当時ボツになったらしき円形のコラージュ写真なのだが、それと比べても、やはりクラウス・フォアマンによるアート・ワークは抜群だ。

She's a Rainbow (Covers)2022/10/27 20:54

 以前、ウクレレで "She's a Rainbow" をやっているという記事を書いたが、仕上がりは遅々として進まない。私がぐうたらしているからなのだが、ピアノと違って「弾かなければ、弾けなければ」という義務感やプレッシャーがないので、気軽に楽しんでいるし、それで良いと思っている。レッスンも、半ばギタリストの先生と音楽ムダ話をして楽しんでいるようなものだ。
 しかも、ろくに練習しないくせに、「ニッキー・ホプキンスのピアノ・ソロを再現したい」などと言い出す。先生も苦笑い気味に、「音、取っといてください」と言って後は次回となった。

 "She's a Rainbow" はストーンズの有名、かつ人気の曲だが、意外とカバーは少ない。Wikipedia もチェックしたのだが、カバーに関しては特に記述がなかった。
 そんな中、先日ラジオで聴いたのはモリー・タトルという女性シンガー,ギタリストのカバー。これが素晴らしかった。なんといってもギター・ソロで、あのニッキー・ホプキンスのピアノ・ソロを見事に再現しているところが凄い。無謀であるが、ウクレレ弾きの私が目指すのはこれだ。



 女性と言えば、このハーパーさんも素敵。ピアノ・ソロこそ再現に挑んではいないが、うまく雰囲気を作っている。
 このハープ、なんという種類だろうか。大きいがコンサート・ハープほどではないし、アイリッシュ・ミュージックでよく見るようなハープよりもやや大きいし、弦が平行に二列並んでいる。
 アイリッシュ・ハープのワークショップに参加したことがあるが、器楽が比較的得意な私でも、「これは無理だ!」と思わしめる楽器であり、同時に憧れの楽器でもある。

Love Minus Zero /No Limit2022/10/23 21:26

 ボブ・ディランのファンとして、彼のどのアルバムも大好きだが、60年代はそのみずみずしさがなんとも言えない。彼の若く気高い雰囲気の容姿も相まって、形容しがたい魅力がある。
 動画サイトを見たら、1965年のディランが、"Love Minus Zero / No Limit" をライブ演奏する、カラー動画があがっていた。最近の技術でカラーにしたものらしい。



 かなりの強風の中、ディランはたてがみのように、髪をなびかせている。穏やかな表情に、なんの力みも無い歌唱。リラックスしていて、すごく雰囲気が良い。
 伝記作家が言うには、この曲には禅の思想が取り入れられているらしい。禅が何か一向に分からない私には、歌詞を理解するのは難しいだろうが、この曲のちょっとした浮遊感、心地よさが気持ちよく聞こえるのだ。

 もちろんカバーも多いのが、このザ・タートルズのカバーが面白い。



 いかにもフォーク・ロックというアプローチで、やがてコーラスが分厚くなる。その分厚さといったら、スタンダードなザ・バーズよりもすごくて、ちょっとびっくりするほどだ。どこかのグリークラブっぽい。
 しかも、エンディングは既聴感が半端ない。ザ・バーズの "The Bells Of Rhymney" とちょっと見分けが付かない。プロデューサーがわざとそうしたとしか思えないほどだ。
 ディランの曲をフォーク・ロックにするとこうなるという典型と言って構わないようだ。

Do You Want to Dance2022/10/19 20:28

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの1997年 [Live at Fillmore] の発売が待たれる。
 このフィルモアでのライブが伝説的である理由はいくつかあるが、その一つがハートブレイカーズにとってのアイドルとの共演も挙げられるだろう。ロジャー・マッグイン、ジョン・リー・フッカーである。私はブートでフッカーとの共演は聞いたことがあるが、ロジャー・マッグインはまだ聴いたことがないので、とても楽しみだ。
 それから、ハートブレイカーズにとってのアイドルの曲のカバーもまた、多いのが特徴的だ。私にとっては、ストーンズやキンクス、ディランのカバーが楽しみ。特に "Knockin'on Heaven's Door" は、ディラン抜きのハートブレイカーズ版として、なかなか貴重ではないだろうか。ハウイとのコーラス・ワークが楽しみだ。

 ハウイとのコーラス・ワークと言えば、フィルモアから10年前、1987年の "Do You Want to Dance" が動画サイトに上がっていて、とても素敵だった。
 動画無しの音声のみで、オーディエンス録音なので音は悪いが、珍しい曲目だし、演奏そのものがゴキゲンなのだ。1987年7月26日ということは、ディランとのツアーの間だろうか。



 最初聴いたとき、とっさにこの曲をどこで聴いたのか、思い出せなかった。知っている曲だが、誰のどのアルバムに入っているのか?
 答えは、ジョンの [Rock 'n' Roll] である。オリジナルの倍ぐらいの低速で歌っていた。ジョンのバージョンとは別に、たぶんどこかで、デル・シャノンのバージョンを耳にしたこともあるに違いない。
 ハートブレイカーズのカバーは、もちろんデル・シャノンのバージョンである。なんと言っても目をひく(耳をひく?)のは、コーラスでの高音域である。ディランとのツアーの時は、女性コーラス,ザ・クイーンズ・オブ・リズムが一緒だったが、思うにこの "Do You Want to Dance" のサビでの高音域は、女性コーラスではなく、ハウイではないだろうか。
 それこそ、デル・シャノンとそのバンドでもない限り男性には難しい音域だが、ハウイには出来ると思う。そもそも、デル・シャノンのバンドにいて、トムさんに攫われたハウイなのだから。

 何を聞いても、ハウイのコーラスは素晴らしい。1997年フィルモアが伝説であることの理由の一つに、これがハウイの在籍した時代だと言うこともあるかも知れない。それはつまり、スコット・サーストンと、ハウイが同事に在籍していたということ。とても贅沢なことだ。
 ハウイとのコーラス・ワークを堪能したいという意味では、以前 VHS で発売されていた [Take the Highway] の完全版も出て欲しいし、それよりも以前、1980年代のライブ音源も発掘して欲しい。この世のどこかに、きっとまだまだたくさん、知らないハートブレイカーズがあるに違いない。夢のある話だ。