I Want to Tell You2023/07/03 21:01

 CFG こと、「コンサート・フォー・ジョージ」は、知識が何も無い人でも楽しめるが、同時にジョージとその仲間のこれまでのことを知っていると、さらに感慨深い。
 "I Want to Tell You" のことを考えてみよう。
 CFG の予告編でも、冒頭は "I Want to Tell You" である。この曲の、このイントロであることに、意義がある。ジョージの作品を聴き倒している人ににとって、これほど胸がいっぱいになる曲もないのだ。
 それは、1991年のジョージの日本公演で、"I Want to Tell You" この曲がコンサートの幕開けの曲だったからである。



 私は1991年はまだロックアーチストのライブに行けるような身分ではなかったので、このライブ・アルバムを聴き倒すことしか出来なかった。
 実のところ、ジョージのライブの一番最初の曲にしては、渋い曲が選ばれたと思う。たしか、会場で見ていた本秀康さんも「"I Want to Tell You"…?!微妙~っ!!」と思ったとコメントしている。
 普通に考えると、確かにビートルズ時代の曲なら "If You Neeeded Someone" か、ソロなら "What Is a Life" あたりが冒頭にはふさわしい華やかさがあったと思う。
 しかし、そこに "I Want to Tell You" を持ってくるのは渋い。よくよく聴いてみると、結構良い曲であることが分かる。ジョージが選んだのか、意外とクラプトンのお気に入りだったのかも知れない。ちょっと派手目に挟まれるクラプトンのソロもうまくマッチしている。

 重要なのは、10年あまりたって、ジョージ亡き後、彼の追悼コンサートのバンドパート,冒頭にこのイントロが鳴り響くことによって、誰もがあの日本公演を思い出し、胸がいっぱいになったことだ。クラプトンは CFG の構成に関して、日本公演やコンサート・フォー・バングラデュなども念頭においていたはずだ。実際、CFG の冒頭を "I Want to Tell You" が飾るという構成、音楽監督に脱帽である。
 しかも、メイン・ヴォーカルはジェフ・リンという、このちょっと控えめな演出がたまらん…!

CFG 一瞬たりとも見逃せる隙はない。深い意味と、底の抜けの楽しさと、感動の連続総攻撃である。

Ringo's got the best backbeat2023/07/07 22:28

 アシュリー・カーンの編集による、ジョージのインタビュー集 「ジョージ・ハリスン インタヴューズ George Harrison on George Harrison, Interviews and Encounters」は、もちろん購入済み。英語でどう言っているかも知りたいので、日英、両方買ってある。
 なかなかのボリュームの本で、二冊部屋にあると、かなりの存在感。最近、ドラッグストアの店頭で古代ローマ人の広告を見ると、ドキッとする。歳だろうか。





 分量があるので、つまみ食い的に読んでいる。今日はリンゴの誕生日なので、リンゴについて語っているところを読んでみる。もっとも、実は彼らの親密さに比べて、この本でジョージがリンゴについて語っている箇所は多くない。インタビュアーが尋ねないのだ。ジョージにとっても、リンゴの話となると、当然ビートルズの四分の二であり、結局話題がビートルズに引っ張られるのは好きではない時期が多い。
 ともあれ、1974年北米ツアーに先駆けての記者会見で、リンゴについてこう述べている。

 リンゴのバック・ビートは、これまで聴いた中で最高だ。彼とザ・バンドのレヴォン・ヘルムは、自分がこれまで聴いた中で最高のドラマーだ。彼らは技巧的な演奏をするわけでもドラム・ソロをするわけでもなく、演奏に徹する。リンゴは1日24時間、素晴らしいバック・ビートが刻める。彼はドラム・ソロが大嫌いなんだ。(伴野由里子 訳)

 まさしく、100パーセント同感だ。リンゴのあの演奏に徹する姿。ロックバンドのドラマーはかくあるべしというお手本のようなドラミング。ドラマーになるなら、リンゴのようなドラマーになりたい。

Joe Brown2023/07/12 19:55

 CFGこと「コンサート・フォー・ジョージ」に出演しているミュージシャンたちは、ほとんどが説明無用の有名人だが、ジョー・ブラウンに関しては少し説明が必要かも知れない。この、ジョー・ブラウンこそが、CFG 最大の感動ポイントの重要人物なので、なおさらだ。

 ブラウンは1941年生まれのイングランド人。ビートルズと同じ年代で、ほんの少し先にデビューしている。ロックンロール・バンド・シンガーとして活躍して、長くそのキャリアを重ねている。エレキギターの名手でもあり、UKでは広く知られたミュージシャンだ。
 ちなみに、彼が1921年の映画音楽 "The Sheik of araby" を1961年にロックンロール版として歌ったのを聴いたのがレコード・デビュー前のビートルズだった。



 1962年1月に、ビートルズがデッカのオーディションを受けて落ちるという有名なエピソードがあるが、このときジョージがリード・ヴォーカルになって歌ったのが、この "The Sheik of araby" であり、その録音は [Anthology] で有名になった。



 ジョージとブラウンは、ヘンリー・オン・テムズのご近所さんとして非常に親しかった。家族ぐるみの付き合いで、娘のサム・ブラウンのことは幼い頃からよく知っていたし、ダニーもまた、ブラウン一家とは非常に親密な関係で、CFG からもその雰囲気が良く伝わる。
 こちらは、1988年にカール・パーキンス・トリビュートとしてジョージ、ブラウン、パーキンスが共演した映像。ちょこっとエリック・アイドルが登場するのがご愛敬だ。ジョージというのは、自分自身よりも、友人のために演奏するとリラックスして良いパフォーマンスを見せるタイプである。



 ジョー・ブラウンがジョージと公私ともに親しく、家族ぐるみの絆があったことや、娘のサム・ブラウンがジョージ生涯最後の録音に参加していることをを踏まえてCFG を鑑賞すると、その感動具合がぐっと上がる。

 それにしても、劇場上映版のセットリストは、歯抜けだらけだ。
 断然「完全版」がお薦めなので、中古でも何でも良いので、完全版を手に入れて欲しい。"Wah-Wah" って劇場版でカットされていたっけ?あまりにも名演奏過ぎて、絶対カットされようが無いと思っていたのだが…

Horse to the Water2023/07/16 19:50

 CFG こと、「コンサート・フォー・ジョージ」は見所しか無いコンサートだが、女性がリード・ヴォーカルを務める唯一の曲として、"Horse to the Water" を挙げておく。

 "Horse to the Water" のオリジナル曲はジョージがジュールズ・ホランドのアルバムの録音に参加して収録したのだが、それは2001年10月2日火曜日のことであった。ジョージが亡くなる約二ヶ月前。生涯最後の録音ということになっている。
 オリヴィアとともにスタジオを訪れたジョージはだいぶ具合が悪く、ホランドは録音をためらったが、ジョージはやる気だったし、オリヴィアもやらせて欲しいと意思表示をしたと、どこかで読んだ。
 曲のクレジットは、G./D.Harrison となっており、ジョージとダニー、親子唯一の共作曲である。ジョージはヴォーカルを入れるのに精一杯で、ギターを弾くことは出来なかった。しかし、オーバーダビングされたギター・ソロはジョージのスタイルを忠実に踏襲している。



 この曲が収録されたジュールズ・ホランドの "Small World Bog Band" はジョージの死から約1年後に発表された。
 ジョージの曲らしくちょっとシニカルな歌詞で、湿っぽいところがなく、最後までジョージはジョージらしかった。声については、私は意外としっかりとした声だと思ったが、死の影と強く感じる人もいるそうだ。

 ジョー・ブラウンの娘,サム・ブラウンは素晴らしいシンガーであり、ジョージとの縁も深い。ジョージ2000年バージョンの "My Sweer Lord" を収録した時も、バック・ヴォーカルを務めたのは彼女だった。
 サム・ブラウンは "Horse to the Water" でも印象深いバック・ヴォーカルを務め、当然ながら CFG でもこの曲を歌った。衣装もクールで、パワフルで素晴らしいパフォーマンスだった。最後に、ダニーの手を取ってステージを下がってゆくところも見逃してはいけない。ブラウン家とハリスン家の絆が見て取れる。

 サム・ブラウンの素晴らしいヴォーカリストぶりをは、同じく"Small World Bog Band" の"Valemtine Moon" でも堪能できる。私が知る女性ヴォーカル曲の中でも、トップクラスに好きなパフォーマンスだ。

Jeff Lynne2023/07/20 19:47

 CFG こと、「コンサート・フォー・ジョージ」において、バンド・マスターであり、ミュージック・ディレクターであるエリック・クラプトンの果たした役割は重要、かつ効果的だった。クラプトンの功績は全ての CFG 鑑賞者の高評価を得るだろう。
 同時に、私はコンサート本番における、コンサート・オーディオ・プロデューサーを務めたジェフ・リンにも、とびきりの賛辞を贈って欲しいと思う。あの大人数が揃いも揃って、あの超絶パフォーマンス。そのサウンドを作りあげるのも、とても重要かつ困難な仕事だったに違いない。

 もちろん、パフォーマーとしても、素晴らしい歌唱を披露してくれた。彼がリード・ヴォーカルを務める曲だけではなく、バック・ヴォーカルとしても抜群の上手さで、数々の名演奏を演出した。
 "Something" はポールとクラプトンのコラボレーションが素晴らしかったが、これを演出したのは、ジェフ・リンのコーラスだった。

 ジェフ・リンは1980年代後半以降のジョージの音楽活動において、欠くことの出来ない最重要人物だ。ジョージのアルバム・プロデューサー、ソングライター、そして素晴らしき友人だった。ジェフ・リン自身はそもそもビートルズの大ファンだが、中でもジョージと個人的な友情を得て、その作品に大きく貢献してくれた。ジョージ・ファンにとって、ジェフ・リンは恩人でもあるのだ。



 ジョージとのコラボレーションは、さらにトム・ペティやポールとの共演や、ビートルズ・アンソロジーへの参加へと繋がった。
 思えば、ジェフ・リンとのジョージの関係は、年数にすると長くはないが、クラプトンと同じくらいの存在であり、それ故に彼は CFG 最大の貢献者と言えるのだろう。

Wilburys Reunion2023/07/24 20:37

 CFG こと「コンサート・フォー・ジョージ」では、様々な奇跡のコラボレーションが実現したがその最大の物は、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズに、ジェフ・リン、そしてジョージの代理としてのダニーが加わった、トラヴェリング・ウィルベリーズの reunion ―― "Handle with Care" のパフォーマンスだった。

 トラヴェリング・ウィルベリーズは、1988年の春、ジョージがプロデューサーのジェフ・リンと急遽シングルB面用の曲を録音する必要に迫られ、たまたま一緒に食事をしていたロイ・オービソンも誘い、スタジオを借りるためにボブ・ディランに電話したら快諾され、ジョージがギターをトムさんの自宅に取りに行きがてら、トム・ペティも誘ったため、この五人が奇跡的に集い、"Handle with Care" が作られたという、歴史的大事件を発端とする。
 ディラン邸で五人揃って楽しく曲ができあがったついでに、さらなる数の録音をしてアルバムを発売するに至ったのが、[Volume One] であり、ロイ・オービソンの死後に四人で作ったのが [Volume Three] である。



 ウィルベリーズはライブ活動をしなかったので、その曲のライブ演奏は基本的にだれもしなかったが(ディランが個人的に "Congratuations" を演奏をしたことはある)、とうとう CFG において、"Handle with Care" の演奏となったのだ。
 ハートブレイカーズはもちろん手練れ揃いであり、マイク・キャンベルによるジョージ・スライドの再現は完璧、スコット・サーストンによるハーモニカもしっかり仕事をしている。
 トムさん、ジェフ、ダニーが揃っていることだけでも涙ものなのに、オリジナル・ウィルベリーズでドラムスを担当したジム・ケルトナー(サイドベリー Sidebury と言う。これはハートブレイカーズに対する、Sidebreakers に由来するジョーク)と、パーカッショニスト,レイ・クーパーも揃っているのだから、完璧だ。
 CFG で演奏されたという情報だけでも泣きそうだったし、その映像をみたらもう号泣だし、その後トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのライブでお馴染みのナンバーとなって、ライブ映像もあるし、私も何度か生で聞くことができた。
 "Handle with Care" のカバーも続出し、バンドがいくつか集まってコラボとなれば、この曲が選ばれる。まさに、"Handle with Care" は、友情の象徴である。友情の素晴らしさ、尊さ、友人の愛しさを優しく歌い上げ、讃える名曲。CFG の中でも最高潮にみどころの一つだろう。

 さぁ、CFG のスクリーン上映まであとわずか!この機会を逃すな!そして完全版のソフトを手に入れて映画を上回る感動を得るのだ!

映画館に行こう!CFGを見よう!2023/07/30 19:22

 昨日、日比谷シャンテシネマでの 「コンサート・フォー・ジョージ」の上映を見にいき、その回の特典である、ピーター・バラカンさんのトークショーもいっしょに楽しんだ。

 CFG は、もっぱらディスクでコンプリート版ばかり見てはいちいち号泣していたので、劇場版は2003年の特別上映の時以来、初めて見たかもしれない。
 全然コンプリート版と異なる曲順に目を白黒させていた。トム・ペティ&ザ・ハーロブレイカーズなど、満を持して登場すると思い込んでいたので、ずいぶん早く出てきたなぁとびっくりしてしまった。
 モンティ・パイソンの存在が、どんなものだったのか、ジョージとそとの音楽にどう関係するか、説明するテリー・ギリアムが親切。でもパイソンの場合は歌詞の字幕をつけなかったのは不親切だった。
 入念なリハーサルの様子も豊富に挿入され、ジョージのために集った仲間たちの和やかで愛情豊かな雰囲気が伝わってきた。特にクラプトンのインタビューはたくさん採用されていた。結局のところ、彼にとってこのコンサートは、自分のためであり、自分のジョージへの愛情、ジョージを失った悲しみの消化のために必要だったと、率直に吐露していたところが印象的であり、感動的だった。ジョージが与えた音楽とその愛情の世界は、家族、友人、関係者、直接の知り合い、ただのファン、一人一人にとってクラプトンと同じような思いをもたらした。それをCFGという形で表現してくれたクラプトンに感謝だ。

 バラカンさんは大の CFG ファンであり、ラジオなどでもの大絶賛、ぜひとも見てほしいと言っている。
 今回の大スクリーンでの鑑賞で良かったのは、あの大人数 ― そう、何十人というすさまじい人数が揃ったステージの、それぞれの顔がしっかり確認できたこと。
 中でも、ゲイリー・ブルッカーもクラプトンやジェフ・リンとほぼ出ずっぱりで大活躍であり、マーク・マンやアルバート・リーの職人技が印象的だったとの事。そう、彼らの派手ではないが基礎のしっかしりた演奏に、CFGの価値は裏打ちされている。
 それから、ジョー・ブラウンと、ジュールズ・ホランドという、UK では誰でも知っている人の説明も親切で良かった。
 さらに、今は亡き人々 — ビリー・プレストンと、トム・ペティの存在は大きかったとも言っていた。ビリー・プレストンの声とオルガンは絶品で、聞いていると幸せな気持ちになる。そう、それは私も同じで、特に「コンサート・フォー・バングラデュ」でのビリー・プレストンは本当に見る方を幸せにしてくれたものだ。

 少し前に、パティ・ボイドが来日していたので、バラカンさんは彼女とも話していており、昨日の映画館でもやはりジョージ、パティ,そしてクラプトンという三人の複雑な関係にも触れた。結局のところ、ミュージシャンなんていい加減なもので、女癖の悪い連中うだったという、なかなか粋なコメントで、私は嬉しくなった。そう、ジョージって、男にもモテるけど、女性にもモテまくったからね。
 それでバラカンさんは、「Something を歌っているとき、エリックは何を考えていたのかなぁ、パティのことかなぁ」と仰っていましたが…

  ジ ョ ー ジ の 事 を 考 え て い た に 決 ま っ て る で し ょ !

 映画でも何度か涙腺にきたが、意外とコンプリート版ほどの号泣ではなかった。やはり、あの構成、”Wah-Wah” で最高潮に盛り上がった末の “See you in my dream” なのだなぁと思う。
 さぁ、映画館でCFGを見よう!そしてディスクを入手してコンプリート版を見よう!(海外輸入盤でも日本語字幕があるのでご安心を)。