Complete CFG2023/08/04 19:32

 CFGこと、「コンサート・フォー・ジョージ」の映画館での上映はぜひとも見てほしい。さらにDVD, ブルーレイを購入して — 新品でも、中古でも、輸入盤でも良い(字幕には日本語がある)。Complete Concert こと、完全版を鑑賞してほしい。

 まず、コンサート全体の流れの妙が堪能できるからだ。
 荘厳な儀式、クラプトンの不器用ながらも心のこもった挨拶、そしてラヴィ・シャンカールの感動的なスピーチに続いて、重厚なインド音楽パートが始まる。ジョージが愛した深い哲学世界と多彩な音楽 — 精緻なリズムのとカラフルな音色の世界が堪能できるし、”The Inner Light” のライブ版という、稀なパフォーマンスも楽しめる。
 その重々しいインドパートからインターミッションをはさんで、やおらモンティ・パイソンのぶっ飛んだスケッチを配するこのセンス!”Sit on my Face” に続いて、木こりの歌で、どっと場が温まり、いよいよバンドパートが始まる。
 そしてバンドパートが最高潮に盛り上がっての、あのエンディングである。この盛り上がりからの感動的な終わり方という、なかなかできる演出ではない。私がいつも号泣してしまうのは、この完全版の完璧な流れのせいなのだ。

 劇場版ではカットされてしまった曲も絶対に見逃せない。
 エンディングロールでつかわれたものの、”Old brown shoe” と “Give me love” の映像も素晴らしく見ごたえがある。さらに、ジョー・ブラウンの “That's the way it goes” はアルバム [Gone Troppo] からの選曲で、ワーナー時代のジョージをよく表現できている。
 もっと見逃せないのは、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズによる “I need you” — このコンサートで演奏されたジョージの曲の中でも、もっとも作曲年代が古く、初々しいジョージの隠れた名曲を、心に染みる名演で再現してくれたトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ。トムさんの切ない表情も見逃せない。”Handle with Care” も、中断なく完全な形でぜひとも聞いてほしい。その再現性の高さに舌を巻くし、観客が総立ちになるのも当然に思われる。

 バンド・パートの最後の “Wah-Wah“は、なぜ映画でカットされたのか理解できないほど、素晴らしい演奏だ。何十人ものメンバーがステージにうち揃い、大迫力の祝祭的なパワフル・パフォーマンスはまさに圧巻。実のところ、CFG で一番の名演奏だと思うし、この曲の再評価はこのコンサートでの演奏によるところが大きい。圧倒的な “Wah-Wah” があったからこその、ラスト・ナンバー,”See you in my dreams” の本当の感動が伝わるのだ。

 そのようなわけで、全ての人に完全版 Complete Concert 見てほしいCFGである。全編感動と笑顔と幸福のフル・コンサート。きっとこれ以上のものはないだろう。

Robbie Robertson2023/08/10 21:20

 CFG、CFGと浮かれ、夏の保養地で過ごし、その後とんでもなく多忙に過ごしていたら、ロビー・ロバートソンの訃報が飛び込み、びっくりしてしまった。
 ちょっと唐突なような気がして、ロビーって幾つだったっけと思ったが、80歳だったそうだ。ずっと若い人かと思ったら、ジョージと同い年だったのか。

 私にとってロビーと言えば、なんといってもザ・バンドであり、むしろロビーの居ないザ・バンドは聴かないし、ロビーのザ・バンド後の作品も聴いたことがない。そういう意味では、ビートルズにおけポールに近いが、違うのは私がロビー大ファンであるところだ。
 いきなり身も蓋もないが、私は彼のザ・バンドの時 ―― 特に [The Last Waltz] の容姿が超タイプのである。細くて考え深そうで、笑顔が可愛い。[The Last Waltz] 冒頭のロビーの姿に惚れ込んで、私にとってのザ・バンド歴が始まったと言って良い。
 ギターソロを弾く後ろ姿がドツボであり、同類はトム・ペティくらいしかいない。"You're still there, huh?" と声をかけるところから格好良いし…



 もちろん、容姿だけでは無い。私がもっとも彼を評価しているのが、優れたソングライターとしてだ。ボブ・ディランと行動を共にすることが多かった分そういう要素もあるが、ディランよりもよりメロディックで、ポップでありながら民謡にすら聞こえるような普遍性がある。
 その上でロックに決めるところは決めるザ・バンドのバンド力加わり、まさに怖い物なし。名曲は無数にあるが、ここはとりわけ私の好きな "Stagefight" を。私自身が "Stagefright" であるだけに、余計に好きなのだ。



 ちなみに、映画のバージョンではガース・ハドソンのオルガン・ソロがカットされているが、断然ノーカットバージョンがお薦めなので、CDで聴いて欲しい。

 週末のラジオは追悼企画で大変だろう。著名なミュージシャンたちからもコメントがあるだろう。ロビーを追悼するのにロビーの曲というのも妙だが、やはり "The Weight" にはそいう力がある。外せない名曲だ。
 R.I.P Robbie, the great songwriter...

The Best of Everything2023/08/15 19:50

 ロビー・ロバートソンと言えば、忘れてはいけないのはトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの "The Best of Everything" をプロデュースしたことだ。
 この曲はもっと前のアルバムのために書いておきながら、結局収録しないでいたもので、偶然テープがロビーの手に渡ったことをきっかけに、ロビーがプロデュースし、かなり分厚いホーンセクションをはじめとした音を足し、なおかつリチャード・マニュエルのコーラスまで加わった。
 その経緯について、「カントム」こと、The Conversations with Tom Petty で、トムさん自身が語っている。翻訳は私なので、あしからず。

Q:"Rebels"には、ホーンが上手くフィーチャーされていますが、抑えた音量になっています。同じく [Southern Accents] 収録の "The Best of Everything" とは対照的ですね。あちらのホーンは、とても明るく、目立つように、ミックスされています。
 それに、亡くなったリチャード・マニュエルもハーモニーで参加しています。

TP:彼はぼくのお気に入りシンガーの一人だ。でも、(リチャード・マニュエルが)録音したときには、一緒にいなかったんだよ。ロビー(・ロバートソン)がやったから。

Q:もともと、"The Best of Everything" は[Hard Promises] のために録音しとうとしていたのですか?

TP:うん。でも、長さ的に余裕がなくてね。いつも入れたい曲をカットする必要に迫られる。
 ([Hard Promises]に)入れなくて良かったよ。ロビー・ロバートソンが手を加えた後の方が出来が良いからね。彼が手を加えてくれたことによって、とても良くなったと思うんだ。
 ぼくが書いた中では、一番良い曲の一つだと思う。本当に良い曲だし、彼はそこを評価してくれた。今でも、この曲に関しては誇りに思っている。

 ぼくらがこの曲を作ったとき、ロビーは "The King of Comedy" っていう映画の音楽監督をしていた。それでぼくに何か良い曲はないかと訊いてきたので、ぼくは完璧に合うとても良い曲があると答えた。そうしたらロビーが言った。
「なるほど、この曲を借りて、金管とか加えても構わない?」
 ぼくは答えた。「もちろん。やってみてよ。」
 ぼくはずっとザ・バンドのホーン・アレンジが好きだったからね。それでロビーはこの曲を持って行き、少し編集を加えた。もともと、無くても構わない余計なひとヴァースがあったのだけど、これが凄いことになった。とても嬉しかったよ。

Q:(ロビーは)あなたが何かをまた追加で録音することなく、全てのミックスをやったのですか?

TP:そうなんだ。ぼくがスタジオに入ってくるのも嫌がってね。ぼくはこの曲を彼にくれてやって、仕上げるということを理解した上で、渡したんだからね。
 ある時偶然、ぼくはロビーが仕事をしている同じ建物で、仕事をしたことがあった。ぼくは彼のところへ行って、覗いてみようとした。ところがロビーはドアを締め切って言うんだ。
「だめ、だめ、だめ、入っちゃだめ。こっちが終わるまで近寄るな。お前さんが気に入らなかったら、また変えてやるから。」
 結局、ぼくは一音も変えなかった。出来上がりを聴いたとき、ぼくは「まじかよ、すげぇな」と思った(笑)。安心してくれると良いね。

 実のところ、ロビーは曲そのものに少し手を加えていた。彼がどこを削除したのかは覚えていないけど、とにかくもっと単純明快にしたんだ。歌詞には手をつけてないと思うけど、とにかく曲を少し短くした。
 さらにロビーはホーンのアレンジを加え、リチャード・マニュエルのハーモニーをぼくのボーカルに重ねた。

Q:あなたの声と重なったこのサウンドは好きですか?

TP:そりゃ、夢が叶ったんだから。ぼくはシンガーとして、(リチャード・マニュエルを)すごく尊敬しているんだ。(リチャードが録音した)その場に居なかったとしても、ぼくは満足さ。居たらぼくがドジるだろうし(笑)。
 ロビーは本当に良くやってくれた。彼には大きな借りができた。

 思っていたよりも多くこの曲について語っていた。ロビーがトムさんを締め出すところの口調は、それなりに考えて訳したつもりだ。ロビーはジョージと同い年だったから、トムさんにとっては完全に先輩格。そしてトムさんは有名な年上キラーである。この曲以外にもロビーとの共同作業もあったら面白かっただろう。

 実のところ私はある時期まで、このロビーによって分厚く作り込まれた "The Best of Everything" をそれほど評価していなかった。ハートブレイカーズにこのサウンドは、大袈裟すぎると思ったのだ。
 しかし、2006年に TP&HB のドキュメンタリー映画 [Runnin' down a dream] でこの曲が使われた場面が印象的で、評価が変わった。とても味わい深く美しい曲で、感動的なホーンやコーラスが加えられた名プロデュースに聞こえてきたのだ。
 トムさんが亡くなってから6年後に、ロビーが亡くなった。ロビーの才能を評価するのに、ふさわしい一曲としてこの曲も記憶しておきたい。

If you wached Concert for George theater movie2023/08/19 21:09

 さて、もう映画館で CFG こと、「コンサート・フォー・ジョージ」は見たかな?まだまだ全国で上映中なので、見に行こう!



 そして映画館で映画を見たら、即 DVD, Blu-ray を購入して欲しい。完全版である Complete concert は映画の何倍も凄いし感動も大きい。絶対お薦めである。

 私は当たり前のようにジョージのファンだが、中にはジョージには詳しくないけれど、ビートルズのファンだったり、出演者のファンの人もいるだろう。そんな皆さんは、完全版コンサートを鑑賞したら、いよいよジョージのソロ楽曲を聴いてみて欲しい。ビートルズ時代には想像もしなかったような、膨大で豊かで多彩なソロワークの数々を楽しめる。
 名作アルバムを買うのも良いが、まずはベスト盤の [Let It Roll / The Best of George Harrison] が良いのではないだろうか。ソロ初期から、亡くなるまでの楽曲が網羅されているし、ボーナストラック的にビートルズ時代楽曲のライブ盤も楽しめる。



 ベスト盤から気になった曲の収録曲のアルバムを聴き始めるのもお薦めだし、もうひとつ是非ともチェックして欲しいのは、ザ・トラヴェリング・ウィルベリーズのアルバム2枚のボックスセットである。ジョージ、ディラン様、トムさん、ジェフ・リン、ロイ・オービソンという最強の5人が揃ってノリと友情で作りあげた素晴らしき世界を堪能できる。CFG に通じるジョージの愛情溢れる人生をある意味象徴しているのだ。



 ジョージのベスト盤と、ウィルベリーズを聴いてからもう一度 CFG の完全版を見ると、号泣具合がまた違う。
 さらに踏み込むなら、[Concert for Bangla Desh] の映像と、[Live in Japan] のアルバムを聴くのがお薦め。さらなる CFG の完成度を思い知ることになるだろう。



Wah Wah2023/08/26 20:57

 CFG こと、「コンサート・フォー・ジョージ」は全国で絶賛(に、違いない)上映中。音楽好きのみならず、ドキュメンタリーや、友情がテーマの映画が好きな人にもお勧めだ。一度と言わす、二度、三度と見て欲しいし、DVD, Blu-rayを入手して完全版コンサートを是非とも鑑賞して欲しい。



 大画面で堪能できる映画版はそれはそれで素敵なのが、一つ解せないのが "Wah Wah" をカットしたところである。ジョージの曲としては最後を飾り、何十人もステージにうちそろって大音響をぶちかます "Wah Wah" からの、"See You in My Dreams" という流れこそ、最高なのに。
 私だったら、"Beawere of Darkness" をカットして "Wah Wah" を入れるなぁ。ポールが登場してどっと盛り上がり、"Something", "While My Guitar Gently Weeps" というビートルズ・ナンバーからの、"My Sweet Lord" 、さらに "Wah Wah" というジョージソロ曲でどんどん存在感を失うポールも見物だし、ジョージの才能開花の様を堪能できる流れでもあるのだ。

 "Wah Wah”は言うまでも無く、ジョージがビートルズ末期にスタジオで(主にポールが)ああだ、こうだとうるさいのに耐えられず、スタジオワークを放棄して帰宅し、「むしゃくしゃしてやった」系の名作である。ポールを弁護するなら、ジョンが妙な連れをくっつけているのにも腹が立っただろう。
 ネガティブな感情は、名曲誕生のチャンスである。音楽には往々にしてそういうことがある。



 「コンサート・フォー・バングラデシュ」での演奏も格好良く、録音セッションに参加していたクラプトンは、この曲のパワーを熟知していた。最後にこの曲で大花火をぶち上げて、静かに幕を引く。クラプトンは素晴らしい演出家としての一面も魅せてくれた。ついでに言うと、トムさんも赤いテレキャスター(?)を抱えてステージに居るが、ちゃんとアンプから音が出ているかは不明。ともあれ満面の笑顔でクラプトンやダニーと大爆笑しながら楽しんでいる様子は、かなり長時間カメラに捕らえられているのでこれまた見物である。
 さあ、迷ってはいけない!いますぐDVDを購入!日本版じゃなくても大丈夫、日本語字幕がついている!私を信じるのだ!

 CFG における "Wah Wah" があまりにも名演だったので、この曲のカバーがその後続出した。2007年のオーシャン・カラー・シーンはその代表だろう。



 CFGの完全版は、"Wah Wah" 一曲でも買う価値がある。間違いない。