On Air a BBC recording2017/12/05 21:23

 ザ・ローリング・ストーンズの [On Air a BBC recording] が届いたので、繰り返し聞いている。
 1963年から1965年まで、もちろんブライアン・ジョーンズのいた頃の、今思えば本当に「駆け出しの」ストーンズだ。
 ジャケットの左隅に、ロゴと official の文字がある。ブートが幾らでも出ているのだろう。



 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズが突然、思わぬ早さで終わってしまい ― あれだけ成功し、バンドを維持したアーチストとしては十分な長さなのだが ― 思っていたよりは早かった ― ファン仲間と、あれこれと話していたときのことだ。青少年時代に始めたバンドを成功させ、長く維持することの難しさが話題になり、必然的に、ストーンズはなぜ今でも継続し、現役なのだろうかという話になった。

 ある人が、「悪運」と言った。

 なるほど、これはなかなか示唆に富んだ指摘だと思った。
 私など浅薄なもので、「ロックンロールを愛する純粋な気持ち」で50年以上現役と思っていたが、さすがにそういう訳にはいくまい。

 「悪運」を辞書で引くと、「①運が悪いこと。 ②悪事をしても悪い報いを受けずに栄える運命」とある。
 ストーンズは後者だろう。
 もちろん、ストーンズは悪事など働いていない(いや、そんなことないか…)。しかし、バンドが終わりになってしまう危機や、大事件、とんでもない出来事はいくらでもあったはずだ。それでも、それがバンドの終焉にはつながらなかったという、凄まじい紙一重の道のりだったはずだ。

 今回の [On Air] を聴くと、ストーンズは大変貌を遂げたバンドなのだと実感した。ブライアンのハープが炸裂する、むっちりとしたブルースの味付けと、チャック・ベリーに代表されるロックンロール。英国少年のとんがった清らかさがぶつかり合う、素朴な音楽。ブライアンは、ある程度 、幸せだったのではないだろうか。
 ストーンズがこういう音楽を奏でていたのは、いまから思うと、ほんの短い期間だった。
 1967年頃にはすっかりカラフルで、大仕掛けで、うまくプロデュースしている ― 即ちいま私が知っているストーンズへと、変貌していく。彼らのルーツをそのまま純粋に抱いていただけでは、すぐに行き詰まってしまっただろう。実際、ブライアンには居場所がなくなり、生きることも叶わなかった。
 ある意味、ルーツとなった音楽だけを演奏していくという点については「忠誠心」が薄く、極めて野心的で、挑戦的だ。もの凄い向上心と、欲があり、自らの悪運を自覚しているからこそ、ストーンズは何があってもストーンズとして、自信満々に、続いてきたのだろう。

 まだ初々しいストーンズの演奏が並ぶ中、さすがに "(I Can't Get No) Satisfaction" は異色だった。これこそ、ストーンズがその後何十年と続いていくことの予言だった。ブルースと、ロックンロールへの忠誠心だけではなく、自立心と野心が現れている。他とは、明かに異なる音楽だ。
 私はストーンズの「悪運」と、「自立心」に感謝している。この時代から後、格段に強力なロックバンドへと成長し、まだ続いている。ロック・ファンとして幸運なことだ。