Sound City2014/02/03 20:30

 去年公開された映画、「サウンド・シティ」がテレビで放映されたので、録画してやっと見た。

 LAにあった伝説の録音スタジオ、サウンド・シティ。その始まりから、当時の最新コンソール(製作者の名前を取って「ニーヴ」と呼ばれる)の導入、そしてヒット作が誕生し、数々の伝説的なアーチストたちがやってくる ― しかしデジタル時代の到来と共に、アナログの人間臭いサウンドにこだわるサウンド・シティも消えゆく運命にあるという、ドキュメンタリーだ。
 監督はデイヴ・グロール。彼が愛する数々の音楽、彼が携わった録音などを、記録している。



 正直なところ、作品は60分で良かったと思う。実際には107分ある。

 最初の一時間は、たしかにサウンド・シティの素晴らしいドキュメンタリーなのだが、そのあとで映画としての焦点がぶれて、伝説のコンソール「ニーヴ」を買い取り、スタジオに据え付けたデイヴ・グロールを中心とした録音風景に移ってしまった。
 後半はこれはこれで面白いのかも知れないが(私は特に好きなアーチストがいなかったのでそれほどでもない)、緊張感を保てなくなってしまった。ドキュメンタリー映画としては、サウンド・シティが閉鎖して終わる60分だったら、名作。ミュージック・ビデオの一種として、後半の50分は別物。
 この「別物」である録音風景も、前半に登場するスティーヴィー・ニックスやリック・スプリングフィールドはそれなりに説得力があるが、ポール・マッカートニーの登場はやや唐突。もちろん、デイヴ・グロールは大ファンなのだろうが、取って付けた感が否めない。

 デイヴ・グロールがこの映画を制作するきっかけが、「ニーヴ」をめぐる作品を作りたいという気持ちだったというのだから、彼にとって後半こそが不可欠なのだろう。しかし、誰かも言っていたとおり、道具は飽くまでも道具である。いかにアナログ録音時代の至宝とは言っても、コンソールひとつでドキュメンタリー映画1本は無理がある。
 だからこそ、サウンド・シティの名を冠し、その歴史をたどるドキュメンタリー映画にしたのだから、この線で90分作りこめばよかったのではないだろうか。

 個人的な注目点は、もちろんトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ。この手の作品に登場するのはたいていトムさんひとりだが、この映画にはマイク・キャンベルとベンモント・テンチも登場する。制作側のハートブレイカーズに対する尊敬の気持ちが出ている。
 サード・アルバム [Damn the Torpedoes] を制作する彼らの若く、初々しいこと!スタジオ作業に根を詰めすぎ、人間関係まで緊張感を強いられる辛さを今だから余裕をもって語ることができる。
 最終的には、「一番大事なのは、人とのつながり」と、トムさんが若い人たちへのアドバイスのように語るのが印象的だった。ストレスのたまる作業や、それによる仲違いで、仲良し少年バンドがいくつも解散していった。そんな中で、40年も続けているハートブレイカーズは ― 一部のメンバーチェンジがあったとしても ― 最終的に一番大事なものを、守り続けたことの証明だろう。

 どういうわけか、トムさん、マイク、ベンモント、三人そろって帽子姿。トムさんが若いころ、トナカイ柄のセーターを着ていたのが可愛かった。
 スタジオスタッフの、トムさんの印象も面白かった。「控え目」「冷静」 ― おそらく、ほかの多くのバンドのフロント・マンとは違う印象だったのだろう。

 TP&HBのほかにも、リンジー・バッキンガムに、スティーヴィー・ニックス、フリートウッド・マック、リック・スプリングフィールドが登場するが、彼らが全員好きな人に心当たりがあり、その人にはたまらないのだろうなと思った。
 彼らもまた若く、初々しく、みずみずしい音楽作品を作り出していった様子が輝いていた。

 コンピューターとデジタル技術の出現についていけず、一度は衰退するサウンド・シティだが、ニルヴァーナの登場によって、また息を吹き返す。 ― このあたりの下りは、話としては面白いが、私の音楽的指向とはあまり合わない。

 そして結局は閉鎖されるサウンド・シティ。スタジオは名作を作って消えて行ったがが、その作品は残る。一番大事なのはその場所で作られた音楽そのものであり、スリーブのどこかに小さくその名が記されている、本当はそれだけでも良いのかもしれない。
 そうやって多くのスタジオが生まれては消えて行ったのだろう。こうして映画まで作られただけでも、サウンド・シティは幸運な方だったのかもしれない。

Sweet Summer Sun: Live in Hyde Park2014/02/06 22:05

 去年、ザ・ローリング・ストーンズはデビュー50周年を迎えた。
 これを記念したイベントの一つとして、2013年7月、ロンドンのハイドパークで2度のライブを行った。ストーンズがハイドパークでライブをするのは、1969年(ブライアン・ジョーンズが亡くなった二日後)以来。
 去年のライブの模様がテレビで放映された。
 曲目は以下の通り。

Start Me Up
It's Only Rock 'n Roll (But I Like It)
Street Fighting Man
Ruby Tuesday
Doom and Gloom
Honky Tonk Women
You Got the Silver
Happy
Miss You
Midnight Rambler
Gimme Shelter
Jumpin' Jack Flash
Sympathy for the Devil
Brown Sugar
You Can't Always Get What You Want
(I Can't Get No) Satisfaction

 まさにヒット曲のオンパレード。
 2012年ニュージャージーで(Izodセンター)でのライブに似ているが、ミック・テイラー以外は特にゲストはない。



 一番印象的だったのは、7月のロンドン、美しい夕暮れだ。7月は日が長い。素晴らしく晴れ渡った夕暮れ、ミックが「この時期のロンドンは世界で一番素敵な場所だ」というのもうなずける。
 コンサート半ばに空を赤く染めながら太陽が沈み、夜を迎えてゆく様子は、一見の価値がある。

 映像には、ストーンズのメンバーによる、短いインタビューも挿入されている。グラストンベリー・フェスティバルに出たときのエピソードなど、可愛らしくて好きだ。
 チャーリーは、いつも「もう歳だし、もう店じまいかなと思っている」と言う。少なくとも、25年前から言っている。

 バンド編成は、ストーンズの4人に、ベース,キーボード,三人のホーンセクション,そして二人のシンガーという、いつもの面々。そしてゲストにミック・テイラー。2曲で共演している。日本でもこの編成で楽しむことが出来るだろう。
 みんなが大好きなストーンズの代表曲の数々、そのイントロが鳴り響くだけでもテンションがあがる。そしてぎっしりと押しかけた観衆が一斉に歌い出す様子には鳥肌が立つ。
 曲目がお馴染みのものばかりなので、やや物足りなく感じるかも知れないが、こういう大規模なお祭りコンサートは、これでなくてはいけないのかも知れない。せっかくなのに、"Brown Suger" が無かったとか、"Honky Tonk Woman" が聞けなかったとか言ったら、がっかりするではないか。
 ストーンズの面々が、これぞストーンズとばかりに決めポーズを見せ、ミックが踊り、観客が歓声を上げる ― 50年間生き続けたロックンロールの息吹、パワーはこういうものだという、説得力に満ちている。

 ストーンズをもうすぐ見る、そういうときに準備運動として最適の、そして夏のロンドンが懐かしくなるコンサートだ。

Do You Love an Apple2014/02/10 20:39

 3月公開予定で、見たい映画がある。原題は[Philomena]「フィロミーナ」だが、「あなたを抱きしめる日まで」というダサい邦題がついている。
 内容はいたって真面目で、いわゆる「感動モノ」のようだが、スティーヴ・クーガンが制作に関わり、出演しているので、面白そうだ。
 スティーヴ・クーガンは、UKの有名なコメディ・クリエイター、コメディアン、俳優。非常に多才な人だ。コメディ・プロダクション,"ベイビー・カウ"を作り、そこからはザ・マイティ・ブーシュなどが出ている。当然、クーガンはブーシュのエグゼクティブ・プロデューサーでもある。
 映画の評判は上々だし、コメディとしても良さそう。



 実話を元にしており、原作はマーティン・シクススミスの "The Lost Child of Philomena Lee"。
 そうか、そうか、原作があるのかと思い、この本を購入して早速読み始めた。日本語訳があるかどうかは知らない。
 読んですぐに分かったことは、どうやらこの原作は映画とはまったく視点が違っており、予想したような話ではなかった。私がクーガンをたよりに求めたコメディ要素はない。
 それでも、本としては至って面白く、順調に読み進んでいる。途中からどんどん予想外の展開になってびっくりしている。そういう話だったのかと…。映画のネタバレになるので、詳しくは言えないが。
 ともあれ、半ばあたりを読んでいると、面白い下りにぶちあたった。

 1976年、アメリカはワシントンの大学コミュニティラジオ局でDJを務めている男子学生が、アイルランドに思いを馳せ、行こうかどうか考えていたある日、レコード片手にラジオ局から帰ってきて、恋人に興奮しながら言うのだ。

 「こんな不思議なことってあるかい?あんな会話をした後で…とにかく、聞いてみてくれ。アイルランドのバンドなんだ、いいかい?アイルランドだぜ!」



 「ラジオ局に行ったら、デスクにこのレコードが置いてあったんだ。ぼくは知らなかったけど、ザ・ボシー・バンドという、アイルランドのバンドだって。初めて聴いたのに、ぼくはこの曲を知っていたんだ!このレコードは発売されたばかりなのに!人にきいたら、アイルランドの古い曲だそうだ。ぼくが赤ん坊の時にこの曲をきいて、それが頭の中に残っていたに違いない!」

 ここを読んだとき、思わず息をのんだ。ザ・ボシー・バンドがここで登場するとは。
 "Do You Love an Apple" は、ボシー・バンドのデビューアルバム、[The Bothy Band] に収録されている。発表は1975年。Triana Ni Dhomhnail の声が美しい。
 登場する大学ラジオ局はワシントンにあり、レッド・ゼッペリンや、デイヴィッド・ボウイ、そのほか色々、雑多に流していたのだが、その中に発表されて間もないボシー・バンドがあるのにはたまげてしまった。
 ボシー・バンドのウィキペディアを見ても、チャートについては記載がない。彼らのアルバムは評判は良かったものの、どの程度売れたのか、アメリカでの評判はどうだったのかは分からない。
 それでもこうやって、ノンフィクション系の物語に登場する以上、音楽に詳しい学生などがボシー・バンドのデビュー・レコードを手に入れ、人に聴かせていたということは間違いなさそうだ。これは良い事を知った。

 映画 [Philomena] は私が今読んでいる原作 "The Lost Child of Philomena Lee" の筆者であるマーティン・シクススミスが、年老いたフィロミーナと出会い、彼女の息子を探す行程を物語にしており、原作とは視点がまったく異なる。
 だから、このボシー・バンドのエピソードが、映画でどう扱われるかは分からない。しかし、アイリッシュ・ミュージック・ファンとしては、どこかでうまく取り入れてくれると嬉しい。日本での公開が楽しみだ。

Krystian Zimerman : Brahms2014/02/13 22:34

 今年の秋、スイスと日本の国交樹立150周年を記念するコンサートがジュネーヴで開かれ、東京都交響楽団が出演するそうだ。
 指揮はシャルル・デュトワ、ピアノのソリストにクリスティアン・ツィメルマン。曲はブラームスのピアノ協奏曲1番と、サン・サーンスの交響曲3番(オルガンつき)。人気、実力とも当代一の面々に、ゴージャスな曲目。

 都響がスイスでデュトワ、ツィメルマンと初共演

 この記事を読んでおやっと思ったのは、
「この世界的に著名なスイス人アーティストふたりと都響が共演するのは今回が初。」とあるところ。
 デュトワは確かにスイス人だが、ツィメルマンはポーランド人だったと思う。だからこそ、夢見るような美青年だった彼がショパン・コンクールで優勝したとき、「ショパンの再来」と言われたのではないか?
 Wikipediaで確認してみると、最近ツィメルマンはスイスに住んでいるそうだ。スイス国籍になったということは書いていないし、"a Polish classical pianist" とあるので、今でもポーランド人なのだろう。

 ツィメルマンでブラームスのピアノ協奏曲と言うと、数年前にサイモン・ラトルと録音したものが評判だそうだが、YouTubeの動画を見ると、圧倒的に1980年バーンスタイン指揮,ウィーン・フィルとの演奏の再生回数が多い。
 演奏が終わった瞬間の、バーンスタインの抱きっぷりにキスが熱い。やめてください、マエストロ。しゃれにならない。55分とか。



 ついでにYouTubeでツィメルマンのブラームスをなんとなく聴いたのだが、ピアノ・ソナタが素晴らしく格好良かった。
 まだ24歳と非常に若い頃の演奏で、元気で勢いのある演奏。ショパン・コンクールで優勝した後、少しモーツァルトを録音した他は、しばらくショパンばかり録音していた(させられた?)のだが、いよいよドイツ・ロマン派へ打って出る ― そういう若武者っぽい格好良さがある。
 ディスクを買ってみる気になった。



 こういうのを聴くと、自分でも弾いてみたくなるのだが…ブラームスとは非常に相性が悪い。いや、特に相性の良い作曲かがあるわけでもないが、手の小さい私はことさらブラームスが苦手。音楽的には好きなのだが。困ったものだ。

A Grammy Salute to The Beatles2014/02/16 20:24

 グラミー・スペシャルとして、ビートルズがアメリカに渡り、エド・サリバン・ショーに出演や、コンサートを行ってから50年を記念したテレビ番組、[The Night That Changed America: A Grammy Salute to The Beatles] が日本でも放映された。
 3月16日に WOWOW で再放送される。

ザ・ビートルズ・トリビュート・ライブ ~グラミー・スペシャル~

 エド・サリバン・ショーの映像をふんだんに盛り込み、さらにそれとリンクするような形でトリビュート・アーチスト達の演奏が続く。スティーヴィー・ワンダーやジョー・ウォルシュのようなベテラン陣に、マルーン5や、デイヴ・グロール、そしてイマジン・ドラゴンのような若者まで、実にゴージャスで見応えのある演奏野目白押し。
 まず良かったのは、スティーヴィー・ワンダー。私は60年代までのモータウンが好きなので、スティーヴィーの声もその時代の印象を持っている。今回、"We Can Work It Out" をうたったスティーヴィーの声も、変わらず若々しい。



 そして、ジェフ・リンとジョー・ウォルシュ、ダーニ・ハリスンが揃っての "Something" がとても感動的だった。ダーニのコーラスがとても力強く、美しい。
 ジェフ・リンが、60年代末にアビーロード・スタジオにビートルズの録音を見学しに行った時のエピソードを披露していた。昔、アビーロードのドキュメンタリー番組でも、語ってた。



 さらに、このライブでもっとも騒々しく、分厚い音の曲、 "While My Guitar Gently Weeps"。デイヴ・グロールのパワフルなドラムが非常によく合っていた。

 ポールとリンゴ、ビートル本人達のプレイは、楽しいのひとこと。特にリンゴは楽しい。"Yellow Submarine" で大物も、観客も一斉にピースサインを振る。
 ポールは自分のバンドでの演奏。どうせなら、スティーヴ・ルカサーやドン・ウォズのハウス・バンドと一緒にやれば良かったのに。
 最後は "Hey Jude"。…良いけど…私としては、さらに "Twist and Shout" が欲しかったかな。

 ビートルズがアメリカ上陸して50周年ということで、こういう動画もある。



 14歳の時の感動を語るトム・ペティ…若い。これ、いつの撮影だろうか?90年代に見えるのだが…?

Tom Petty Rock 'n' Roll Guardian2014/02/18 22:19

 冬期オリンピックの影響で、ゲイリー・ムーアが多少注目されているそうだ。

 むむッ!ゲイリー・ムーア?!つまり、こうなるのか!

ゲイリー・ムーアがゲストとして参加しているというわけで、トラヴェリング・ウィルベリーズが注目される
  ↓
ウィルベリーズ大ブームが起きる
  ↓
え、この金髪の可愛いお兄さんだれ?
  ↓
トム・ペティが女の子の間でキャーキャー言われる
  ↓
トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの人気爆発
  ↓
TP&HBが来日!3大ドーム延べ5日間!!

 むむッ!これは大変だ!今のうちに、来日公演追っかけのためにお金を貯めねば。

 しかし、せっかくゲイリー・ムーアからTP&HBのファンになった人がいても、いま、彼らのHPを見ると…

 「ふはははは!TP&HBの公式ホームページは、このベンジャミン・モンモランシー・テンチ3世が完全に制圧した!」

 …って感じになっている。
 ベンモントのソロ・アルバムはまだ届かない。たぶん、木曜日に届くのだろう。

 ベンモントより先に、トムさんが届いた。即ち、トムさんの新しい伝記 [Tom Petty Rock 'n' Roll Guardian] 著者はアンドレア・M・ロートンド。



 この本は一体何なのかと思っていたのだが、前書きに経緯が書いてあった。どうやら、オムニバス・プレス・UKの企画として始まったらしい。オムニバス・プレスと言えば、「カントム」こと、[Conversations with Tom Petty] を出した出版社だ。
 著者のロートンドは、ホームページによると旅関係ほか、いろいろ書いている女性らしい。前書きには、彼女は祖父から贈られたラジオで、1976年にTP&HBのデビュー・アルバムの曲を聴いたとき以来の、大ファンとある。

 チラチラと拾い読みをしただけの印象だが、どうやらこれまで存在したトムさんの伝記の要素をコンパクトにまとめた本のらしい。すなわち、[Play Back](Box)の解説、ポール・ゼロによる 、[Conversations with Tom Petty]、[Runnin' Down a Dream]、そしてその他さまざまなインタビュー記事などから、再編集している感じ。
 これは良い。[Play Back] は力作だが、もの凄い悪文だし(私はああいう文章だけは書くまいと反面教師にしている)、「カントム」はトムさんの言葉のみ。[Runnin' Down a Dream] は大きすぎて読みにくい。これらを取捨選択してまとめ、さらにマイクやベンモント、他のメンバーなどのインタビューなどが絡む。文章も簡潔だ。
 たとえば、マッドクラッチが解散した時のことは、こうある。

 "I went immediately to Mike," recalls Tom, "and said,'Don't leave me. You gotta stay with me.' I felt really bad about Benmont leaving, but I didn't know what to do. I wanted to be in the band. I didn't want to be a solo guy." Mike did stay with Tom and Benmont understood. "Mike and Tom. You can't split that up," he says.

 この一連の文章には、ロートンド自身の文章と、[Play Back], [Runnin' Down a Dream] が混ざっている。

 もう一つ、印象的なのは、全体的に漂う、「女子!」という感じ。
 これの説明は難しい。でも、女子ファンには分かってもらえると思う。表現がどことなくロマンチックなのだ。簡潔なわりに、ラブリーな表現が多いような気がする。上記のエピソードも、いくつかの表現がすでに存在しているが、その中でも「女子!」という選択をしている。「俺から離れるなよ、一緒にやろう」とか、「誰にもあの二人を引き離せないよ」とか。
 そもそも、ロートンド自身が前書きで、自分のPCのデスクトップに、1999年のステージで顔を見合わせ微笑みながらギターを弾くトムさんとマイクを壁紙にしていると言うのだ。ああ、わかる。女子なら分かる、そういう感覚。
 写真を選んだのが誰だかは知らないが、これらもなんとなく「女子!」な感じが漂う。



 なぜかは分からないが、杖を携えているトムさんとか。中性的な色気で攻める若トムさん!うぉぉおおおお…!



 さらに、評論家のおじさん(トムさんの2倍はある)にギューッ!としているトムさんとか…。おじさんは注目すべき人ではないはずだが、このトムさんの仕草は、珍しいし、女子的にはキュンと来るのだ!
 おじさんとトムさんの左、ロジャー・マッグインと一緒のトムさん。マッグインの印象がちょっと変わった。私は勝手に彼をシャイな人だと思っているのだが…違ったかな?

 もう一つ、テンションが上がった写真。2008年6月、プルデンシャル・センターでのトムさんとマイク。このライブ、私も見た!おおおお…あの時か。なんだか、この本が読む前から好きになってきた。

You Should Be So Lucky2014/02/21 22:07

 楽しみにしていた、ベンモント・テンチのソロアルバム、[You Should Be So Lucky] が届いた。

 久々に見た、完璧なデザインがまず嬉しい。ブルーノートのことは良く知らないが、ブルーノート的な格好良さなのだろうか。
 ジャケット写真が特に格好良く、大きなポスターにして欲しい。さらに裏のベンモントも格好良い(知らない方のために申し上げますが、はげてます。でも美男子!)。
 参加したミュージシャン達の写真も素敵。リ、リンゴ-!やっぱりリンゴはひと味違うなぁ。トムさんの写真がないのは…一種の照れかな?



 さて、肝心の中身。
 うーん。そうだな…これはどうしても言わなければならないと思うのは、やはり声が弱いということ。歌を主体とするポピュラー・ミュージックである以上、このヴォーカルの弱さはやや致命的。声の輪郭が立っていないし、通らない。音程も微妙に不安定。
 もちろん、ベンモントは本職の歌手ではなく、ピアニストであって、ヴォーカルに多くを期待すること自体が間違っている。ニッキー・ホプキンズも、声は非常に弱かった。
 たとえると…優秀なソングライターが、本職シンガーのために曲を作り、シンガーのガイドのために、仮のヴォーカル・ラインを吹き込んだ感じ。
 もちろんベンモントが歌っても良いけど、彼の楽曲をいろいろなゲストヴォーカリストが歌っていくような形式でも良いのかも知れない。

 意外だったのは、ピアノをばんばん聴かせるアルバムではないというところ。
 ピアニストである私は、ベンモントのビルトゥオーソ的ピアノの豪華な展開を期待していたので、拍子抜けてしまった。ハートブレイカーズとしてのアルバム録音のプレイと大差ない。ニッキー・ホプキンズのアルバムの方が、その点ピアノを堪能できる。
 これは、ベンモントがピアノを主体としたアルバムを作ろうと意図しなかったということだろう。実際、彼はライブではギターも弾いているし、ピアノ,キーボードはあくまでもバンドの一部として捉えていたのだろう。
 これはどうだろう…こちらの勝手な希望なので申し訳ないが、もっとピアノを前面に押し出して迫力一杯に聞かせて欲しかった。次回はそういうアルバムを期待する。

 一方、ベンモントのソングライティングはなかなかに素晴らしい。
 そもそも、彼はハートブレイカーズが有名になってから作曲を始めたのではなく、マッドクラッチの頃から書いていたのだ。ただ、ハートブレイカーズにはトムさんとマイクという素晴らしいソングライターが居たので、発表の場にはほとんど出さなかっただけ。
 ロック好きな私には、やはり "You Should Be So Lucky" が印象深い。それから、ビートルズ風,ザ・バーズ風、そしてもちろんハートブレイカーズ風が強い "Like the Sun" が素敵。あああ…この曲、トムさんのヴォーカルで聴きたいなぁ…
 ときどき、カプリソ風というか、南国風というか、中南米風というか…そういうサウンドが聞こえるのが面白い。"Dogwood" や、"Wobbles" など、ジョージの [Gone Troppo] のころを彷彿とさせる。
 ところで、"Wobbles" はインストゥルメンタル曲だと思っているのは…私だけだろうか。しかし、スリーブには歌詞らしきものがある。カラオケ?それとも曲を聴きながら詩を味わおうということだろうか?

 カバー曲。これは二曲ともディランの声で慣れているという点がやや災いしたか。
 特に "Duquesne Whistle" はディランの力強いヴォーカルが印象的な曲だし、私は去年のロンドンで、この曲のディランによるしなやかで力強く、躍動的なすばらしい歌を聴いてしまっている。ベンモントも好きなのだろうけど、やや分が悪いか…。比較的ピアノソロの比重のある方の曲ではあるが、もっともっと前に押し出してしまえば良いのに。

 大好きなハートブレイカーズの大好きなベンモントのアルバム。もちろん、全体的にとても聞きやすく、何度もループできる。ゆったりとした時間に、ゆったりと楽しむと最適。
 これで満足せず、もっともっと、積極的なソロ・アルバムを作ってくれることを期待している。

ローリング・ストーンズがやってきた ヤァ!ヤァ!ヤァ!2014/02/24 20:54

 いよいよ、ザ・ローリング・ストーンズがやってきた。
 ミックが着込んでいる写真を見て、なんだか変な感じ。あの人、基本的に薄着でいる方が見慣れているので。ミックも、寒いことは寒いんだ。



 私にとっては、何度目かのストーンズ・ライブとなる。
 知った顔をしてやれセットリストがどうだの、サウンドがこうだのと言うのは、野暮というものだろう。特にストーンズの場合は。お馴染みの曲目だろうと、音響が悪かろうと、たかがロックである。そこはエキサイティングで胸の熱くなるようなストーンズのパフォーマンスに、没入した者勝ち。
 ライブが終わったら、理屈なんて放り出して、「楽しかったね!」「格好良かったね!」…と言えればいい。

 とは言え、もちろん私だってファンである。ファンであるなりに、聴きたい曲はある。

 最近、モータウンを聴き始めた身としては、やはり "Going to a go-go" は生で見てみたい。最近はラインナップには上がっていないようだが。



 それから、名作 [Exile on Main St.] の中でも、とりわけ大好きな "All down the line"



 うわぁ、これ格好良いな。1972年。ミックの衣装は、例のオジー・クラークだろう。
 ミック・テイラーが若い。細くて可愛い。今は…その…あれだ。ミック・テイラーが普通の人間の形態であって、ストーンズの4人が異常なのだ。
 それにしても、この曲の一番素晴らしいところは、なんといってもホーンセクションである。特にエンディングの早いパッセージは爽快感に満ちていて、「ロックの勝利」を叫びたくなる格好良さ。

 どの曲が聴きたいなどと、言い出したら切りがない。結局は、ストーンズのロックンロールに飲まれて、最高に楽しめれば、それで良いのだ。

The Rolling Stones in Tokyo 2014 (No. 1)2014/02/27 19:27

 2月26日東京ドーム。いよいよ、ストーンズのライブ初日。
 チケットには18時30分開演とあり、平日にしては早いと思ったが、実際にストーンズが出てきたのは19時。5万人収容のドームが満員に見える。
 私の席はスタンド1階3塁側。斜めからの眺めになるが、比較的ステージは近いほうの席だろう。下手なアリーナよりはよく見える。

 セットリストは以下の通り。

Get Off Of My Cloud
It's Only Rock 'N' Roll (But I Like It)
Tumbling Dice
Wild Horses
Emotional Rescue
Doom And Gloom
Bitch
Slipping Away
Before They Make Me Run
Midnight Rambler
Miss You
Paint It Black
Gimme Shelter
Start Me Up
Brown Sugar
Jumpin' Jack Flash
Sympathy For The Devil
You Can’t Always Get What You Want
(I Can't Get No) Satisfaction



 手堅く "Start Me Up" で明けると思っていたので、1曲目が "Get Off Of My Cloud" なのには少し驚いた。
 スローな曲のパートとして、"Ruby Tuesday" ではなく、"Wild Horses" だったのは嬉い。"Ruby" も好きだが、"Wild Horses" はさらに好きなので。"Emotional Rescue" はさらに意外な選曲。ミックの裏声は健在の模様。"Bitch" はファン投票で選ばれたらしい。これに関しては、個人的には "All Down the Line" の方が良かった。
 後半はおなじみのラインナップ。ミック・テイラーを迎えての "Midnight Rambler" はさすがに熱く、格好良い。"Paint It Black" など、47年も昔に作られたとは思えないほど、ヴィヴィッドで、ロックの進化形に聞こえる。
 ライブが終わったのは21時過ぎ。約2時間の楽しい時間だった。

 私は前の記事で、曲目や音響などは気にせず、「エキサイティングで胸の熱くなるようなストーンズのパフォーマンスに、没入した者勝ち」と書いた。その観点で行くと、私は…負けた。…ような気がする。

 東京ドームは音響が悪い。先刻承知で行ったはずだし、去年のポールも経験している。それにしても、昨日の音響はすさまじく悪かった。以前のストーンズだって、ここまで酷くはなかったと思うのだが。
 音が悪いというよりは、機材の調整の問題だろうか。機械のことはまったく分からないが、各楽器ごとのボリューム・コントロールがうまく出来ないようで、ものすごくアンバランスな音がする。せっかく “Bitch” の演奏をしても、あの特徴的なホーンセクションがほとんど聞こえない。
 キースとロニーのギターのボリュームバランスも扱いづらそう…さらにいうなれば、キースは全体的に調子が良くない、もしくは演奏しにくそうに見えた。ミックとの息も合っておらず、3曲でイントロをやり直している。やっと最後の “Satisfaction” で調子の良いキースが聞けた感じ。
 ロニーもがんばっているが、ストーンズは二人のギターの隙間のない絡み合いが重要なので、やや演奏がしにくそう。
 演奏のしにくい雰囲気はチャーリーにも少し見えて、苦労してコントロールしている場面が散見された。キーボードのチャック・リーヴェルでさえ、”Slipping Away” 最初の和音を、完全にはずしてしまった。
 さらに凄かったのは、"You Can’t Always Get What You Want" の出だしで、ギターとホルンのチューニングが全く合っておらず、さすがにのけぞってしまった。演奏しにくい感じが、色々なところに影響したのだろうか。

 ミックはさすがに揺るがずに歌うのだが、マイクのハウリングがこれまた凄い。ハウリングというのはある程度あっても仕方がないそうだが、今回は私が見た中でもハウリング最多記録となるだろう。
 初日というのは、こういうものだろうか。私はもう一日だけ見るので、良くなっていると嬉しいのだが。

 とはいえ、全面的に「負けた」わけではない。全体的には楽しく、みんなで踊り、歌い、ストーンズのライブを目一杯満喫した。
 “You Can’t Always Get What You Want” で、すぐに歌える観客の少なさにミックが本気で驚いていた。ここはひとつ、シャイな日本人にもがんばって、大声で歌って欲しい。歌詞は、

”You can’t always get what you want !!!”

 次回の観客のみなさま、がんばろう!

 最後に、一つだけロニーの衣装について。真っ赤なスニーカーをミックに「ダサい」といわれたロニーが、黄色いTシャツを着ていた。何の柄かは、よくわからないが、明らかに前足を上げた馬のイラスト。馬の頭部はよく見えない。
 前日はジョージの誕生日だった。私は勝手に、あれはジョージへのメッセージとしての、「ダークホース」なのだと、解釈することにした。