Wish You Were Here2018/06/19 21:11

 十年ほど前、ある習い事をしていた。複数の講師について習っていたのだが、その中に一人、数ヶ月間だけついていた、ある「先生」がいた。いま思うと、「先生」とは言え年下だったような気がする。

 とにかく、その「先生」とは、どこか気が合ったようだ。習い事そっちのけで、よくとりとめもないお喋りをしていた。
 そうこうしていれば、当然、私は音楽が好きで、特にロックンロール好きで、トム・ペティが好きなのだという話になる。
 「先生」はニューヨークに住んでいたことがあり、トム・ペティのことも知っていた。「トム・ペティ?!」と笑いだす。何がおかしいのだ。
 「先生」も音楽が好きで、「プログレッシブ・ロックは?ピンク・フロイドとか」と水を向けてきた。私はにべもなく「興味がない」と言った。長い音楽はクラシックで十分だ。
 しかし、「先生」も食い下がる。これだけは、きっと気に入るはずだ、ぜひ試しに聴いてみろと言って、"Wish You Were Here" というタイトルをメモした。
 私は試しに聴いてみて、そしてiTunesで一曲買いした。気に入ったのだ。



 次に「先生」に会った時、気に入った、良い曲だと言ったら、「やった!」と言って、ガッツポーズをしていた。

 「先生」に習っていたのは、ごく短い期間だった。疾うの昔、ほんの一時期だけの、顔見知り。でも、すごく印象的で、音楽やニューヨークの話をするの時の楽しさや、その顔かたちは良く覚えている。
 でも、十年も経ち、あの「先生」は今、一体、世界のどこで何をしているのか、知るよすがもない。なにしろ、名前すらちゃんと覚えていない。
 ただ、いま思うと ― ああ、あれは、「友達」だったのだと、いまさらながら思う。
 最後に別れた時の姿を、いまでも鮮明に思い出す。何気ない「先生」との「さようなら」だったが、あれは確かに、「友達」との別れだったのだ。

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