Sister Rosetta Tharpe2023/05/01 20:59

 映画「エルヴィス」のなかで、一番印象的だったシーンは、エルヴィスのパフォーマンスではなく、彼が黒人たちが集うクラブ・ハンディを訪れるシーンだった。
 B.B.キングがエルヴィスを歓迎し、シスター・ロゼッタ・サープが連れてきた若きリトル・リチャードが大ノリで盛り上がるシーンだ。その場に揃ったエルヴィスを含めて四人。実際に起った事だったら、凄い音楽重力で地面がへこんでいただろう。

 エルヴィスがシスター・ロゼッタ・サープのファンであり、チャック・ベリーなども彼女を尊敬し、ロックを作り上げた人の一人が、彼女だったということは、寡聞にして理解していなかった。  シスター・ロゼッタ・サープは1915年生まれ。B.B.キングよりもさらに10歳年上だ。ボブ・ディランのお気に入りミュージシャンの一人で、[Theme time radio hour] にも何度も登場している。



 彼女の素晴らしい歌唱力のみならず、特にイカしていると思うのは、自らギターをひっさげて奏でているところだ。まさにロックンロールの原型そのもので、彼女がロック誕生に多大な貢献をしていることは間違いない。
 Wikipedia によれば彼女は過小評価されており、ロックの殿堂入りしたのも2018年と、とても遅い。今回の映画「エルヴィス」はシスター・ロゼッタの正当な評価にも寄与していると思う。

 ボブ・ディランの [Theme time radio hour] "Friends and neighbors" の回に取り上げられたシスター・ロゼッタの曲は、"Don't Take Everybody to be Your Friend" である。



 これはまさに「ぶっ飛ぶ」。ギターのリフからして格好良すぎる。歌唱もパワフルだし、ギター・ソロも傑作だ。
 ソウルの要素の方が強くはあるが、これにそれなりなドラムを入れたら、本当にロックンロールになるだろう。
 それにしても、ここまで歌とギターが上手な女性ミュージシャンというのは、なかなかお目にかかれない。格好良いの一言に尽きる。

Daisuke, the Trailblazer2023/05/05 21:12

 高橋大輔が、アイスダンスのパートナーである、村元哉中と共に、競技から引退することを発表した。
 村元には心から感謝している。高橋がこどものころから憧れていたアイスダンスの世界に誘ってくれた上に、世界の第一線の競技舞台に立たせ、彼らは世界トップ・イレブンのカップルとなった。日本のフィギュアスケート史において、大きなターニングポイントになったことだろう。

 高橋大輔という、希代のフィギュアスケーターの業績を見守ることが出来て、本当に幸せだったと思う。とても優しい性格の持ち主ながらも、厳しい勝負の世界で怪我と、自分と、ライバルと戦い頂点に立ち、世界中におおくのファンを作った。

 20歳でオリンピックに出場,入賞したのをはじめ、2007年世界選手権で銀(このときの金はランビエール)。本田さんが果たせなかった夢を、彼なら果たしてくれるのではないかという期待を抱かせる若者だった。



 しかし、高橋は競技人生に関わる大怪我を負う。それでも四回転に果敢に挑んだバンクーバーオリンピックで日本男子史上初めての銅メダル獲得。これで引退してもおかしくないほどのことをやり遂げた。



 持ち前の美しいスケーティング、ジャンプ姿勢と着氷姿勢の美しさ、世界一のステップに、スポーツマンにしておくのはもったいないくらいの表現力。彼は氷を離れてもダンサーとして食えるほどの素晴らしい表現者だった。表情、視線、首の動き、手足の表現。何もかも彼以上に表現できるスケーターはいなかった。
 これまで、表現力でここまで点数を獲得できた人も珍しく、おそらく日本人選手としては、ほぼ最初の「表現力のスケーター」にふさわしかった。

 三回目のオリンピック入賞を経て引退をしたが、なんと3シーズン後に競技に復帰し、熾烈な日本選手権の表彰台争いで、二位に入ってファンの度肝すらも抜いて見せた。
 これだけでもびっくりなのに、さらにびっくりなのが、エイプリルフールのネタだった、「アイスダンスへの転向」を本当にやってのけたのだ。
 アイスダンスはおなじフィギュアスケートでも、靴からして違う。滑り方を最初から学び直し、女子を持ち上げるために筋力を強化し、そして持ち前の表現力で見る者を魅了した。同時に、日本においてこれまになかったアイスダンスの盛り上がりをもたらした功績も大きい。

 そしてとうとう、高橋はアイスダンサーとして世界選手権に戻ってきた。世界は限界に挑戦すること、夢を追うこと、そして成功を手にすることを現実として目撃した。
 これほど充実したフィギュアスケーターがこれまでにいただろうか。約20年に渡って先駆者であり、人の目標であり続けた。



 私の中の好きなスポーツ選手殿堂入りしているのは、野球の野茂英雄、イチロー、F1 のデイモン・ヒル、セバスチャン・ベッテルだが、高橋大輔はフィギュアスケーターとしては、鈴木明子に続いて殿堂に加わった。

Dr. Tom Petty2023/05/09 20:07

 5月6日、フロリダ大学はトム・ペティに名誉音楽博士号(The Honorary Doctor of Music degree)を授与した。
 それを知らせる動画は、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの公式と、フロリダ大学の公式、共通のものである。この動画、格好良く編集されていて、とても素敵だ。特に曲を二曲に絞っているところや、ハートブレイカーズのメンバーもたくさんフィーチャーされているところが良い。



 トムさんはロックンローラーなので、別に博士号も栄誉も要らないだろうが、ゲインズヴィルという町と、フロリダ大学がトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ結成のために果たした役割は大きく、むしろ名誉なのはゲインズヴィルおよびフロリダ大学の方だろう。
 大学生の多い町は当然若者が多く、活気のある独特な環境を作り出していた。そもそも、マイク・キャンベルも進学のためにゲインズヴィルに来たのであり、フロリダ大学の芝生で演奏するトムさんのバンドを見て、格好良いと思っていたのが、彼らのファースト・コンタクトなのだ。

 「ドクター・ペティ」ではあるが、厳密には The Doctor of Music degree であって、いわゆる「ドクター,博士,Ph Doctor」に相当する The Doctor of Musical Arts (DMA)とは別である。無論、Dr. ブライアン・メイとも別だ。
 優れた音楽家に名誉的に授与される博士号であり、古くはハイドン、メンデルスゾーン、リストといったクラシック・ミュージシャンから、20世紀以降のポピュラー・ミュージシャンにも多く授与されている。
 たとえば、ポール・マッカートニーの場合1988年に UK のサセックス大学からと、2008年にアメリカのイェール大学から授与された。ビリー・ジョエルに至っては1991年から2015年にわたって、バークリー音楽院を含む七つの大学から授与されている。

 多くの名誉音楽博士の中でも、さすがにボブ・ディランは破格である。彼に博士号を授与した大学こそ二校だけだが、そのうちプリンストン大学はなんと1970年、彼がまだ20代のうちに授与したのだ。さすがはディラン様。ちょっと格が違った。

Tied up hair Tom Petty2023/05/13 21:51

 なんとなく動画サイトを見ていたら、1989年トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのライブ告知&インタビュー・テレビ映像が出てきた。
 注目するべきは、登場するライブシーンでのトムさんの髪型である。なんと珍しく、トムさんが長い髪を結っている。私はトムさんが髪を結っているのを見るのは初めてだ。



 トムさんの金髪はだいたい長く伸ばしているのだが、同じ長さでいわゆる「ワンレン」の時もあるし、段カットにしている時もある。"MOJO" の頃は、輪郭を丸く整えていて素敵だった。前髪を作って流している感じもお気に入り。
 それにしても髪を後ろで結っているのは本当に珍しい。すごくレアなだけにドキっとする。トムさんには両性的な魅力があるが、この映像では腕をむき出してマッチョな感じを出しつつ、髪は結って色っぽいな感じがする。要するに可愛い…!

 長髪ミュージシャンが髪を結うと言えば、まずはジョン。ジョンのアルバムジャケットにもなっている。



 ジョージも長髪の時期が多いので、よく結っていた。トムさんほどは可愛くないかな。



 こちらは、前髪がうるさくてお子様みたいに引っ詰めたスタイル。これはちょっと可愛いな。

A Man Called Otto2023/05/17 20:35

 アメリカの映画「オットーという男 A Man Called Otto」を見た。原作とその映画化であるスウェーデン映画を見ていたのと、アメリカ版予告編に、トラヴェリング・ウィルベリーズの曲が使われていたので、「ウィルベリー・チェック」のために見たのだ。



 原作や、スウェーデン版との違いなど、いろいろ面白かったし、まぁまぁ見て良かったと思える映画だった。車のメーカーに関する言及が興味深い。主人公のオットーはシボレーに誇りを持ち、その親友はフォードを愛用していたが、トヨタに乗り換えて絶交。フォルクスワーゲンを欲しがる若者を阻止し、いまどきのウェブ報道記者はヒュンダイに乗っている。

 音楽的には特にウィルベリーズ要素も無かったのだが、エンドロールでポール・マッカートニーが出てきたのにはびっくりしてしまった。ちゃんと聞いてみればちゃんとポールなのだが、私のポールに対する感度が弱すぎるのだろう。
 この曲でポールはヴォーカルのみならず、全ての楽器も担当しているとのこと。



 クラシックではあるが、リストのコンソレーション No.3 も美しかった。演奏はジョージアのピアニスト、カティア・ブニアティシヴィリである、リストのコンソレーション No.3 と言えばウラジーミル・ホロヴィッツ(現ウクライナ出身)の演奏が有名だが、ブニアティシヴィリの演奏も、繊細でしみ通るようでとても美しい。

Down the Road Apiece2023/05/21 19:51

 一年は365日ないし、366日。自分と同じ誕生日の人を発見すると、ちょっと楽しい。それが有名人だったりするとなおさら。
 私の場合、親鸞上人と、スタン・リンチである。

 スタン・リンチ。言わずと知れた、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのオリジナル・ドラマー。躍動的でワクワクするようなドラミングと共に、美しくて、トムさんとの相性も抜群のコーラスワークにも定評があった。
 ハートブレイカーズのほかのメンバーよりもやや若くて、いつまでも若手かと思った彼も、今年で68歳である。
 去年、マイクに誘われてダーティ・ノブズの臨時ドラマーを務めて、ファンを驚かせ、かつ喜ばせた。

 動画サイトを見ていたら、1990年トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのライブで、スタンがリード・ヴォーカルを務めている曲があった。お馴染みの "Phychedelic Reacion" ではなく、1940年の楽曲 "Down the Road a Piece"



 ハートブレイカーズとしては最高の演奏ではないだろうか。トムさん、マイク、ベンモントもニコニコしていて、楽しくてたまらないという感じだ。スタンのヴォーカルも格好良いし、言うことなしだ。

 この曲はザ・ローリング・ストーンズもカバーしている。恐らく、スタンはこのストーンズによるカバーを参考にしているのではないだろうか。



 スタン、これからも元気で。時々、マイクやベンモントとも共演してくれると嬉しいな。

Tina Turner2023/05/25 21:04

 ティナ・ターナーが亡くなったとの報が入った。83歳だったという。R.I.P.

 アーチストが亡くなると、俄にその業績が注目され、評価されたりするが、従来からのファンにしてみれば「もっと前からもっと評価しろ」と言いたいところだろう。しかし、人はいつ亡くなるかは分からないし、亡くなることは生まれることと同様に大きな出来事だ。致し方の無いことだと思う。

 ティナ・ターナーといえば、もちろんロックの女王ではあるが、私にとっては私の好きな誰かとの共演者という印象が強い。
 まずはこちら。1993年の F1 GP最終戦(オーストラリア?)のアフター・パーティと思われる。ああ、セナってこういう声だったっけ…?うろ覚えだ。



 私が購入したアルバムでは、エリック・クラプトンのアルバム [August] (1986)に収録されている "Tearing us apart" に、ティナ・ターナーが参加している。前にも述べたが、クラプトンの80年代というのは意外に好きなのだ。
 これは、プリンスズ・トラスト。1986年かな?



 もっと古い動画を探すと、70年代初頭にエド・サリバンン・ショーに出演している動画があった。



 これは熱い!凄まじく格好良い。いまさらどんなに奇抜なファッションで踊って見せても、このイカした熱量には敵わない。
 曲は CCR の "Proud Mary" ―― オリジナルとはかなり違う解釈だが、まさに物にした感じで、文句なし。

正倉院復元楽器2023/05/29 19:47

 昨日、伶楽舎の雅楽コンサート「芝祐靖作品演奏会 その4」を鑑賞してきた。
 しばらく改修工事中だった四谷区民ホールに戻ってきて、さぁどう新しくなったのかと思ったら、目に見えるところは大して変わっていなかった。シートは変わっていたようだが…トイレに温水洗浄器がついていないなんて、日本の音楽ホールなのに、みすぼらしいじゃないか!…と、思う。

 今回は安心、安全の芝先生作品集。なんと言っても、復元曲である「曹娘褌脱(そうろうこだつ)」と、「長沙女引(ちょうさじょいん)」が素晴らしかった。

 芝先生のオリジナル作曲作品も三つあり、三味線,十七弦(箏,琴。つまり近世,江戸時代風の箏)と、雅楽器とのコラボレーションもあったし、正倉院の所蔵楽器を復元した、いわゆる「正倉院復元楽器」の演奏も加わり、器楽好きとしては見所の多い演奏会でもあった。
 はっきり言ってしまうと、三味線や十七弦のような近世楽器は、かなのり強敵―― というか、雅楽器はやや不利である。そもそも騒々しい篳篥や龍笛はともかく、雅楽の楽琵琶や、楽箏の音は、三味線や十七弦と比べてると恐ろしく音響が貧弱なのだ。ついでに、実は笙も一管一管は蚊の鳴くような音なので、こちらも負けている。
 狭い宮中やごく一部の寺社でほそぼそと伝えられた雅楽は、いかにも可憐でそこが好きなのだが、やはり近世,庶民文化の花開いた江戸時代のパワーは桁が違う。そのことを思い知る演奏会だった。

 正倉院復元楽器のうちの一つ、箜篌(くご)は小型のハープのような楽器である。弦は23三弦なのだが、これがまた音が小さい!そもそもフレームが華奢なので ―― と言うか、二本の木材が直角に繋いであるだけなので、フレームとも言えない ―― 響かないのである。
 演奏者にきいてみると、まずチューニングで発狂しそうになるそうだ。一応、一弦一弦にペグがついているのでチューニングはできるのだが、最後の一弦をチューニングすると、脆弱なフレーム故に全体が歪む。そうしたらまたバランスの取り直しである。そりゃぁ、発狂もするだろう。
 正倉院復元楽器が、なぜ一般に流布せず、正倉院にだけ残ったのか。要は音が小さい、扱いにくい、あってもなくても良い ―― そういった事情だったのだろう。

 ともあれ、珍しい楽器とその演奏を鑑賞できるのはとても楽しい。伶楽舎にはこれからも頑張って欲しい。