Clarence2015/03/26 22:13

 ディラン様ラジオこと [Theme Time Radio Hour] は、最終回に向けて2週連続で集中放送。先週は2時間の拡大版 "Clearance Sale" の放送があった。
 「在庫一掃」の "clearance" と掛けて、クラレンス Clarence という名前の男性の特集でもある。

 クラレンスという名前の起こりは、クラレンス公爵というイングランドの爵位から始まっており、王族の公爵位としては、あまり高くない ― という解説。最初のクラレンス公爵は、「アントワープのライオネルという人」とのこと。
 それで、はたと思った。そうか、クラレンス・ホワイトのクラレンスは、クラレンス公爵のクラレンスであって、あのライオネル・オブ・アントワープなのかと。
 あまり高くないとは言っても、そこは公爵であり、王族にのみ与えられるのだから、かなり高い位だ。

 「あのライオネル・オブ・アントワープ」は、彼自身の事績こそほとんど知られていないが、その子孫の存在がその後のイングランド史に大きな影響を及ぼしたため、それだけの知名度を持っている。
 プランタジニット家のイングランド国王エドワード三世には成人した男子が5人おり、上からエドワード,ライオネル,ジョン,エドマンド,トマスと言う。父親と同名の長男エドワードが「ブラック・プリンス」として有名な人物で、次の国王のはずだったが、父王より先に死んでいる。このため、エドワード三世の次はブラック・プリンスの息子,リチャード二世が即位した。
 次男のクラレンス公爵ライオネルは兄よりさらに早く30歳の時に死んでおり、フィリッパという女子のみを残した。このフィリッパが、第3代マーチ伯爵エドマンド・モーティマーと結婚し、その息子は同じく第4代マーチ伯ロジャー・モーティマー。国王リチャード二世が、自分にとっては従妹の息子にあたるこのロジャー・モーティマーを、王位継承者に指定したのが、混乱の元だった。
 国王リチャード二世がマーチ伯を王位継承者に指定したのは、国王がまだ若い時で、世継ぎが生まれるのはこれからだというのに、「従妹の息子」という、エドワード三世の男系男子たちにとっては、王位からは遠いはずの人物を指名したのだ。混乱は当然だろう。
 その後の展開は割愛するが、とにかくイングランドの王位を巡る薔薇戦争の泥沼は、初代クラレンス公爵ライオネル・オブ・アントワープが残した唯一の歴史的事績 -娘フィリッパの誕生から発している。

 ライオネル・オブ・アントワープに男子がなかったのでクラレンス公爵位はいちど廃され、次にクラレンス公爵になったのが、トマス・オブ・ランカスター。ランカスター朝の初代国王ヘンリー四世の次男だ。ちなみに、エドワード三世の曾孫にあたる。
 兄のヘンリー五世が即位したと同時にクラレンス公爵に叙され、兄の代理としてフランスとの百年戦争の戦闘を指揮したが、33歳の時に戦死してしまった。指揮官である国王の弟が戦死するほどの負け戦というのも驚きだが、とにかくこのクラレンス公爵には子供がいなかったため、再びクラレンス公爵位は空位となった。
 ちなみに、ヘンリー五世は弟の死後、自らフランスに乗り込んで大勝ちしている。

 次にクラレンス公爵になったのが、ジョージ・オブ・ヨーク。エドワード四世の弟で、エドワード三世の四代孫にあたる。
 おそらく、このジョージが一番有名なクラレンス公爵だろう。欲が深く、簡単に人に唆され、行動に説得力がない。なかなかのキャラの持ち主で、せっかく兄が大バトルの末に国王になったのに、裏切ったり、謝ったり、あっちについたり、こっちについたり。しまいには反逆罪で処刑(?)される。イメージでは、ワインの樽に頭からさかさまに突っ込んでいる。
 そんなクラレンス公爵ジョージには男子エドワードがおり、実はこれがプランタジニット家の最後の男子だった。血統からするとかなり有力な国王候補なのだが、時流には逆らえず、チューダー朝の開祖ヘンリー七世によって処刑された。

 ジョージの印象が悪すぎるのか、クラレンス公爵位はその後長い間空位となったままで、次に登場したのは18世紀末だった。ジョージ三世の三男がクラレンス公爵になったのだが、後にウィリアム四世として即位する。
 ウィリアム四世にも嫡男がなかったため、クラレンス公爵位はまたもや空位となり、19世紀末にヴィクトリア女王の孫アルバートがクラレンス公爵になった。しかしまたもや嫡子を残さないまま死んだため、以後クラレンス公爵位は現在まで空位のままとなっている。

 音楽と歴史、とりとめもなく思いを馳せるのは最良の娯楽だ。
 最後は、クラレンス・ホワイトのギター・ソロだと…思う、ザ・バーズの "Ballad of Easy Rider"。