Crosby, Stills & Nash in Tokyo2015/03/07 15:40

 3月6日東京国際フォーラムに、クロスビー・スティルス&ナッシュのコンサートに行った。

 私は特にCS&Nの大ファンというわけではない。でもけっこう好き。持っているアルバムは、ファースト・アルバムと [CSN]、&ヤングの [Déjà Vu ], [So Far]だけ。あとはクロスビー&ナッシュの1枚と、スティルスはマナサスを含めた3枚。
 これまでライブを見たこともないし、特に情報も追ってもいなかった。今回も前情報は収集せず、動画などもチェックせずに臨んだ。

 後悔した。
 なぜ、もっと頑張って前の席を取るようにしなかったのだろう。なぜ、一日目も取らなかったのだろう。ジャクソン・ブラウンが見たいのではなく、純粋にCS&Nの凄さに圧倒されてしまったのだ。

 特に凄かったのは、デイヴィッド・クロスビーの歌声。あの声量、張り、音域。豊かで緊密で、広い会場を支配する圧倒的な声。「美声」というのとも違う、人間が成す何かを越えた大いなる響き。ロックの分野で、彼に比肩する声の持ち主は何人居るのだろうか?
 彼のソロの曲ではもちろん、その声の凄まじさを堪能できるし、アンサンブルでは声量を落としてもその存在感と安定感は群を抜いている。
 あの独特の暗くて、不気味で、奇妙に耳に残る印象的なクロスビー楽曲の世界も、堪能できた。
 クロスビーのことは、もちろんバーズのメンバーとして知っていたが、その凄さを初めて知ってしまったような気がする。昔とくらべてアレコレと言う人もいるが、人のいうことなど、どうでも良く、自分の目で見る、自分で耳で聞くことの大切さを思い知った。
 どんなにアーチストが年老いても関係ない。「俺は昔のもっとすごかった頃を見た」なんていう自慢話をする輩は放っておけばいい。今からでも遅くない、興味のあるアーチストはためらわずに見に行くべきだ。それをクロスビーは教えてくれた。

 ナッシュは想像通りの人だった。あのハイトーン、ポップな曲調、スリムでフットワークの軽い、そしてその素晴らしい人柄が滲み出るロック界の宝だと思うのだ。
 ただポップなだけではない、政治性も含めたメッセージ性も説得力がある。

 スティルスは、歌声に関してやや残念だった。まず声が出ないし、音程が定まらない。"Girl From the North Country" を独りで歌うのはまずいというくらい、歌は良くなかった。もっとも、そこはクロスビーとナッシュがスルスルと進み出て、素晴らしくサポートしてくれるのだが。
 聞くところによると、どうやらスティルスは耳が不調とのこと。音楽は結局、最後は耳だ。今後快復して、また素晴らしい歌声を取り戻してくれると良いのだが。
 一方で、ギタリストとしての活躍はさすが。コンサート全体も、ハードなロック・バンドサウンドや、アコースティックな響き、静謐なソロや、ゴージャスなサウンドの雨など、これぞロックの多様性を具現化しているという演奏構成で、とても楽しかった。

 スティルスの歌が不調で残念などと思いつつ、最後に "Love the One You're With" が始まったら、吹っ飛んでしまった。正直に言って、私が今回のセットリストで一番好きな曲は、スティルスのソロ作品の曲、"Love the One You're With"。CS&Nのコンサートで聞けるとは思っていなかったので、大感激だった。
 そしてこの曲でも、クロスビーの声が冴え渡っていた。特に、コーラス前に客席に向かって "Come on!" と叫んだ声の素晴らしいこと。呆然としてしまった。

 アンコールで、誰もが "Suite: Judy Blue Eyes" を待っていたに違いない。電気がついてしまうと、周囲から 「ジュディは?」という声がたくさん聞こえた。
 ファースト・アルバムの冒頭を飾る、あの象徴的な曲を聴けなかったのは、やはり残念だ。スティルスの耳の不調は無関係ではないのだろう。
 それでも、消化不良という気はしない。"Love the One You're With" をCS&Nで聴けただけでも大満足。ぜひともまた次回、コンサートに足を運びたい。