Happy2015/02/03 22:16

 ディラン様ラジオこと、[Theme Time Radio Hour]、今回のテーマは "Happy"。

 出るだろうなと思ったら本当に出た、ザ・ローリング・ストーンズの "Happy" !



 ディラン様が解説したように、キースがリード・ヴォーカルを務める曲であり、その代表。ライブでもよく演奏される。
 バラカンさんの解説でも言っていたが、この曲の録音にはストーンズのメンバーはキース以外は参加していないという。プロデューサーがドラムを叩いている。
 Wikipedia で確認してみると、この「ストーンズのメンバー以外で録音」というのはベイシック・トラックの話 ― つまり、スタジオでのメインとなる録音での話で、後にミック・テイラーがスライド・ギターを、ミックがバック・ボーカルを加えているそうだ。確かに、あきらかにミックの声がする。
 名作 [Exile on Main St.] の収録曲で、2枚組LPの時は、2枚目のA面冒頭にこの "Happy" が来たそうだ。ワクワクするようなイントロに、キースのゴキゲンなボーカル。さらに、B面の冒頭は大好きな "All Down the Line" だったというから、LP時代のメリハリも羨ましい。

 ディラン様はブレンダ・ハロウェイのバージョンでは "You Make Me So Very Happy" を流したが、このときオリジナル版と前置きしている。ブラッド・スウェット&ティアーズのバージョンも有名で、マーティン・フリーマン先生はこちらも好きだと言っている。



 私のタイプの音ではない。やはりブレンダ・ハロウェイのバージョンの方が断然好きだ。



 テンプテーションズのバージョンもあるが、やや脳天気。ハロウェイのちょっと影のある声の方が、サビに入るときの固さによく合っていると思う。

 "Happy" というと、最近大ヒットした有名な曲があるが、私は門外漢なので、最後にシスター・ヘイゼルの "Happy" をご紹介。
 比較的初期のアルバムの収録曲で、ライブでもよく演奏する。イントロのぶっきらぼうな感じが打って変わって、ポップなサビに流れ込んでいくところが良い。
 ライアンのスライド・ギターもやり過ぎず、主張しすぎず、でも絶妙に響き渡る感じで大好きだ。

Shadows in the Night2015/02/06 21:40

 ボブ・ディランの新譜 [Shadows in the Night] を聴いた。
 今回は、フランク・シナトラのカバー・アルバムという趣向とのこと。

 お恥ずかしいことに、私はシナトラを全く知らない。もちろん、存在は知っているし、べらぼうに歌の上手な人だということも知っている。しかし、彼の曲となると、"My Way" か "New York New York" しか知らない。しかも、それらをフルで聴いたことも、多分ない。
 そんな私が、いきなり世紀のダミ声男でシナトラの曲を聞いても良い物かとも思うが、まぁ、良いことにする。



 やっぱり、ロックンロールでポップな音楽が好きな私には、曲調がちょっと合わない。良い曲、名曲揃いなのだが、ムーディで甘い味付けも同じ。もっと言えば、曲の見分けがつかない。せいぜい、「枯葉」とラフマニノフのピアノ協奏曲が分かる程度。
 それはそれとして、ディランの歌唱は、なかなかのものだった。そもそも、歌の名手の曲だけあって、音域も広いし、音程の動きもダイナミックだが、それなりに器用にこなしている。
 一番良いと思ったのは、一つ一つの言葉を丁寧に、美しく歌おうとする繊細さだ。何を言っているか分からないディランではなく、丁寧に、はっきりと歌うディラン。再発見をしたようでもあり、そうでもないかも知れない。今回の新譜を聴いてから、前作の [Tempest] を聞いてみると、実はディランがやりたかったことは前作からつながっているのかも知れないと思うのだ。
 丁寧に、切々と、優しく、歌い上げるという点で、最近のディランがやりたいことが良く分かる。

 曲の見分けがつかないと言いつつも、最後の "That Old Lucky Sun" はとりわけ良かった。情感豊かで、感動的な編曲。トランペット,ホルン,トロンボーンのサウンドも美しい。

 もともと、最初にこの曲を有名にしたのは、フランキー・レーンだそうだ。
 ともあれ、シナトラを聞いてみる。



 うわぁ!聴くんじゃなかった!
 断然良い!上手い!上手すぎる!バックのホーンセクションまでも格段に良い!ディランの方は歌も、伴奏もおっかなびっくりに聞こえてしまう。
 これはどうなのだろう。ディランを聞いて、シナトラも聞いて欲しいという、ディラン様なりの思いがあるのだろうか。そうだとしたら成功している。

 フランク・シナトラのカバー・アルバムを作り、ディラン様の次はどうなるのだろうか。音域広く、美しい曲を作るも良いけど、それにロック的なノリと勢いの良さも欲しいところだ。

Grammy Awards 20152015/02/09 22:40

 まずは、楽しみなニュースから。

元ザ・バーズ ロジャー・マッギンの来日公演が決定

 これはスゴイ!行く!絶対行く!!!
 新宿BLAZEということは…スタンディングかぁ…おおお…辛い…でも頑張る!これって、去年のラトルズと同じ趣向なのか。

 ボブ・ディランはグラミー賞の前夜祭で "MusiCares Person Of The Year"を受賞。
 トリビュート・コンサートは、豪華な顔ぶれ。…しかし、私にとっては、ジョージやTP&HBほどの吸引力のある顔ぶれでは無いところが残念。クロスビー・スティルス&ナッシュとか、ジャクソン・ブラウンなんかは見たいな。
 ニュース映像には、端っこでキーボードを担当するベンモント・テンチを発見。お仕事、お疲れ様です!楽しそうな仕事でいいなぁ。
 当のディラン様と言えば、パフォーマンスはせず、スピーチのみだったのこと。ところが、このスピーチ、当初は10分程度の枠だったのが、喋るわ、喋るわ、40分も喋っていたらしい!

ボブ・ディラン、40分に及ぶ伝説のスピーチ

 安易に「伝説」という言葉を使うのはどうかと思うが、とにかく凄い事になった模様。そういえば、ニュース映像のディランが、いやに沢山の紙を持っているのが気になっていたのだ。



 スピーチの全文も載っているので、時間があったら読んでみたい。

 さて、グラミー賞。ベスト・ロック・アルバムにノミネートされていたトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズは残念ながら受賞ならず。ベックはおめでとう。まぁ、TP&HBにとっては「受賞」っていうのはオマケみたいな物ではないだろうか。獲れば獲ったで嬉しいが、獲れなかったと言って酷くがっかりというわけでもない。
 授賞式は一応録画したのだが、なんだか面倒になってしまい、殆ど早回しして、ジョージのところのコメントと、ジェフ・リンの演奏だけを見た。もっと丁寧に見れば面白いだろうし、ドン・ウォズの話なんかも見れば良いのだろうけど。
 ジョージへのコメントにスモーキー・ロビンソンが登場したのが嬉しかった。どうせなら。歌って欲しかったな。

 グラミー賞はとらなかったけど、素晴らしいロック・アルバムの一つの曲として、締めにこの曲を聞くことにする。

The 10 Best Post-1960s Bob Dylan Songs2015/02/12 19:52

 ローリング・ストーン誌のサイトで、「読者が選ぶボブ・ディラン1960年代以降楽曲10」という記事があがっていた。

Readers' Poll: The 10 Best Post-1960s Bob Dylan Songs

1. Tangled Up in Blue
2. Hurricane
3. Shelter From the Storm
4. Things Have Changed
5. Not Dark Yet
6. Simple Twist of Fate
7. Jokerman
8. Mississippi
9. Knockin' on Heaven's Door
10. Blind Willie McTell

 ちょっと意外だったのが "Knockin' on the Heaven's Door" の順位。私はてっきり1位だとばかり思っていた。"Tangled Up In Blue" は確かに一位でも不思議はない。

 Rolling Stone誌のサイトではアンプラグドの時の演奏をはりつけている。私もあの演奏は大好きだ。その一方で、やはりトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズとの共演も捨てがたい。



 トムさんとディラン様がワン・マイクで歌っているのをみるだけで幸せ。余りにも近いので、トムさんがギターのネックをあっちへ、こっちへ、蝶のように華麗に身を翻すのが素敵。
 そして最後に、ディラン様が去った後に、トップハットを抜いてペコリンとするトムさんが可愛すぎる!犯罪級に可愛すぎる!!!道理でジョージに速効捕獲されるわけだ…!

 ランクインしていないが、私はアルバム [Street Legal] の楽曲も推したい。"No Time to Think", "Baby, Stop Crying", "Is Your Love in Vain?" の3曲は怒涛のように押し寄せる名曲だ。

 21世紀になってからのアルバムでは [Love and Theft] がイチオシだが、1曲選ぶとしたら、2006年 [Modern Times] の "Workingman's Blues #2" が好きだ。
 派手さは無いが、切々として、ただ美しい。



 ほかには、"Silvio" とか、"Love Sick" なんかが入っていたら嬉しい。
 それにしても、デビューから50年以上のディランを、60年代以降というくくりでランキングを作るのも大胆というか、乱暴というか。それだけ、彼の60年代は特別、そしてロック,ポップスにとっての60年代は特別ということだろうか。

Blue plaque honouring Rolling Stones2015/02/15 22:16

 イングランドはケント州ダートフォード駅の2番ホームに、新しいブルー・プラークが設置され、それが先日公開された。
 曰く、「ザ・ローリング・ストーンズ 英国のロックバンド ミック・ジャガーとキース・リチャーズは、1961年10月17日に2番ホームで会い、最も成功したロックバンドとなる、ローリング・ストーンズを結成するに至る。」

Blue plaque honouring Rolling Stones unveiled at Dartford Railway Station

 ブルー・プラーク Blue Plaque というのは、主に著名人の足跡を建造物に印した銘板のことだ。青い大きな円形で、その著名人の名前、生没年、この場所で何をしていたかなどが記されており、ロンドンでは町中でよく見かける。
 建造物そのものと著名人につながりがなければいけないので、古くて17世紀後半以降の人が対象になっている。もしくは、その場所が特定されていれば、再建でも良いらしい。有名なところでは、チャールズ・ディケンズや、サミュエル・ジョンソン、コナン・ドイルなどの住居、妙なところでは、実在人物ではないシャーロック・ホームズとドクター・ワトスンの住所にもある。

 実のところ、このブルー・プラークを設置する機関は一つではない。有名なのは歴史的建造物を保護するイングリッシュ・ヘリテッジが設置するものだが、ロンドン市なり、ケント州なり、独自に作ることもできる。当然、シャーロック・ホームズの住居はイングリッシュ・ヘリテッジの管轄ではなく、ロンドン市が観光サービス的に作った物だろう。
 ミックとキースが会ったダートフォード駅のブルー・プラークは、ダートフォード・バラ・カウンシルが設置したもので、つまり地元自治体が認めた「歴史的建造物」というわけ。



 このダートフォード駅での1961年10月17日の出来事は、「ミックとキースが出会った」とは表現し難い。二人はここで初めて会ったのではなく、「再会」だったからだ。
 この「再会」というのが、ジョンとポールのセント・ピーターズ教会ので「出会い」とも、ゲインズヴィルの学生シェアハウスでのトムさんとマイクの「出会い」とも違うところだ。

 ミックとキースは5歳くらいのときの幼友達で、音楽とは特に関係なく、カウボーイごっこなどをやっていた仲。その後、二人は違う学校に進んだため交流はなかったが、1961年18歳の二人が、ダートフォード駅で再会し「よぉ、久しぶり!」ということになった。
 このエピソードは有名で、ストーンズデビュー25周年のドキュメンタリー冒頭でも語られる。



 ミックは買って入手したチャック・ベリーとマディ・ウォータースのレコードを持っており、それを見たキースが、「よぉ、元気?それどこで手に入れた?!」と言ったことを笑いながら語っている。
 私はバンドの結成秘話としては、ビートルズのそれよりも、このストーンズの駅での再会話の方が好きだ。そもそも、5歳の頃一緒に遊んでいたというのが素敵ではないか。

 ロンドンへ行ったら、ブルー・プラーク巡りをするのも一興だ。私など、毎回あのブルー・プラークを見ようと思いつつ、毎回つい忘れてしまうのだが。
 ダートフォードは、ロンドンのキャノン・ストリート駅(ザ・シティ・オブ・ロンドン。セント・ポールの近く)から、電車で40分ほど。ブループラークを見るためだけに、足を伸ばすのも中々の体験かも知れない。

Sugar and Candy2015/02/18 21:56

 前回のディラン様ラジオこと、[Theme Time Radio Hour]のテーマは "Sugar and Candy"。
 キャンディときて、私は真っ先に思いつく曲は、カウンティング・クロウズの "Hard Candy"。たぶん、カウンティング・クロウズでは一番好きな曲だと思う。



 ピアノの輝くような音色の使い方が素晴らしい。胸が締め付けられるような、切ないメロディだけど、スピードもビートも落とさず突っ走る爽快感。"again and again and again..." の絶妙なコーラスがいかにもこのバンドらしい。
 この曲でのキャンディは、固くて、素朴な、昔懐かしい味。戻っては来ない、切なくて甘い過去を象徴するイメージだろう。

 ディラン様は、砂糖も飴も、食べ物そのものとして取り上げた曲を多く紹介していたような気がするが、一方でもちろん "suger" は "honey" と同じように「愛しい人」というニュアンスでもよく使われる。
 まずは、ストーンズの"Brown Sugar"。ライブでも最高に盛り上がる名曲だ。たぶん、ロックでは最も有名な "Sugar" だろう。
 これは1971年。ピンクのスーツは、なかなかイケている。



 トム・ペティのソロアルバム [Wildflowers] の "Honey Bee" は、"Come on now, give me some sugar" という歌詞から始まる。
 この曲は、サタデー・ナイト・ライブで演奏している有名な演奏があるが、NBCなので動画サイトにはない。デイヴ・グロールが歯でも痛いのかという顔でドラムを叩き、トムさんが青汁(*注)だった。
 ここには、アルバム収録バージョンをはる。


 

 (注 青汁:昔、八名信夫がCM出演していた青汁。そのときの八名信夫の額の広い髪型が、トムさんの前髪を上げた姿に似ているので、このSNL出演時のトムさんを「青汁」と言う。ブロンド前髪サラサラ顔かかりなトムさん大好きな女子ファンのNちゃんが、SNLを見て「いやー!青汁ー!」と叫んだのがその始まり。)

 モータウンからも "sugar" を一曲。
 スティーヴィー・ワンダー1970年の曲 "Sugar"。マーティン・フリーマン先生のおあつらえ20曲にも選ばれている。
 スティーヴィー・ワンダーは活動期間が長く、多作なアーチストだが、私が好きなのは1966年の[Up-Tight] からこの70年頃まで。



 最後はやはりディラン様に締めてもらう。
 "Sugar baby" も良いけど…ここはロックに!2002年の "Brown Sugar" ! いいなぁ。この年は、"Something" も歌っている。私も会場にいたかった。

Happy Marriage, Benmont !2015/02/21 22:16

 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのキーボード奏者、我らがベンモント・テンチが結婚したとのこと。おめでとう!(2回目?)
 そのような訳で、ベンモント特集。

 まずは、ソロアルバムの曲を熱唱するベンモント。



 ピアノはボールドウィン。このピアノはめったに目にしない。
 やはり彼はピアニストだなぁと実感。歌声がピアノに負けている…曲はすごく良いので、トムさんの声で聴きたくなってしまう。

 お次は、ソロ・アルバムを出すにあたってのインタビュー。



 とてもシャイなので、リード・ヴォーカルをとるまでずいぶん時間がかかったベンモント。面白かったのは、最初に "Free Fallin'" を聴いたときの印象。自分にも弾かせて欲しいと申し出たところ、ジェフ・リンはハモンド・オルガンの音を入れたがらず、お呼びがかからなかったとのこと。
 スタジオ録音の仕上がりを聴くと、確かにベンモントの出番はないように思われる。しかし、ライブとなると、また事情が違う。



 曲の出だしに聞こえるオルガンは、スコット・サーストンの方だろうか。ベンモントが活躍するピアノは、第2ヴァースから入ってくる。
 ギターがあまり激しく動き回る曲ではないだけに、隙間を縫うように降りそそぐピアノの音。お天気雨のように、きらめくように。スタジオ録音とのもう一つの違いである、ドラムの重々しさと、ピアノの音色が、大会場での興奮入り交じる演奏を引っぱっているように聞こえる。

 最後は、ちょっと可愛い動画。ミュージシャン,イラストレーター,俳優であるケイト・ミクーチ,マット・ミクーチの兄妹のライブに、ベンモントが参加したときのもの。
 マットの「七面鳥の歌」。



 こういうバカバカしいの、大好き。しかも、ピアノはベンモント・テンチ!贅沢すぎるというか、ベンモントの無駄遣いと言うべきか。こういうお茶目でオシャレなベンモントも最高。
 おめでとう、ベンモント!末永くお幸せに。リンゴのアルバムも買いますよ!

CRT & レココレ Present ジョージ・ハリスン誕生祭 20152015/02/27 20:45

 体調を崩してしまった。
 仕事は休めず、ウンウン苦しみながらなんとかこなしていたのだが、年に一度のお楽しみ、レココレプレゼンツ,CRTジョージ祭りも、どうしても参加したい。幸い感染性の強い病気ではなかったので無理押しで参加したのだが、おかげで快復が遅れている。

 今回のジョージ祭りは、もちろん去年発売された Apple Years ボックスが主な話題。いつものとおり、本秀康さんが熱くジョージ語りを展開した。

 ボックスに収められた最初の2枚、「電子音楽の世界」と、「不思議の壁」は、正直言っていらない。とくに「電子音楽の世界」がいらない。いかにジョージの作品だろうと、ジョージのプロデュースだろうと、機械がピーとか、ガーとか、キーとか鳴っているものは聴かない。たとえ、ジョージ本人が美男子大爆発に魅力を語って勧めてきても、私は受け付けない。
 つまり、「電子音楽の世界」は私にとって、ボックスの中に入っているプラスチックの板でしかない。今回のCRTの収穫は、そのプラスチックの板に刻まれている音の一部を聴いたこと。やはりいらないということを確認できた。
 一方で、「不思議の壁」はそれなりにまともな音楽なので、聴いてみようという気持ちが起きた。

 [Living in the Material World], [Dark Horse], [Extra Texture] の話題も、もちろん展開されるのだが、結局はこの Apple Years も[All Things Must Pass] に話が集中する。
 ジョージファンとしては、どのアルバムも平等に、情熱を傾けて語り倒したいところだが、名作とそうでもない作品が存在するのはやむを得ないことで、結局 [All Things Must Pass] に話が集中しても、構わないのではないだろうか。それほどの大作だし、その大作が存在することの幸福を素直に享受すればいい。

 祢屋さん(レコード・コレクターズ)のリクエストが、ずばり “My Sweet Lord”。思い返せば、まともにアルバム収録バージョンの “My Sweet Lord” を、このジョージ祭りで聴いたことがないね…との感慨で、改めて大音響で鑑賞。
 本さんが、この “My Sweet Lord” をはじめて聴いたとき、その前評判に対して、それほど良い曲だとは思わなかったということを言っていた。実は、私も同じ感覚を持った人である。[期待したほどのすさまじい感動は覚えなかったのだ。むしろ、”What Is Life” や、”Awaiting on You All” のようなポップでキャッチーな曲に感動したものだ。
 聴き始めて何年もたち、今あらためて “My Sweet Lord” を聴いてみると、確かに名曲だということが分かる。イントロで流れるアコースティック・ギターの豊かな響きが、これから起きるすばらしいことを予感させる。穏やかなジョージの歌声、徐々に加わってゆくコーラス、音の厚み、あふれ出すような幸福感 ― 大きな音で、もしくは良いヘッドフォンで聴くと、思わず天を仰ぎたくなるような充実感を覚える。
 “My Sweet Lord” をパソコンで聴くというのはまったく薦められない。だから、ここではYouTubeのリンクははらない。

 さて、ジョージ祭りでは、「なぜ [All Things Must Pass] は3枚組なのか」ということがよく話題になる。
 本さんによると、一般的な説明では、「ビートルズ時代は楽曲発表の場に恵まれなかったジョージが、ソロになってあまりにもたくさんの曲がありすぎて、1枚はおろか、2枚でも収まりきらなかったので、3枚組になった」…ということになっているそうだ。なるほど、とても普通な説明。
 これに対する、本さんの反論。「でも、あの3枚目(アップル・ジャム)はいらないでしょう?!しかも、”Isn’t It a Pity” は2バージョンも入っている。結局は2枚組みで済んだはず」とのこと。
 それでもなぜ3枚なのかというと、「もし売れ行きが悪くなったとしても、『3枚組じゃ売れなくても仕方がないよね』という言い訳が利くから」と、本さんは解釈しているそうだ。結果的には3枚組でも良く売れたのだから、これが1枚か、2枚組だったら、もっとどえらい売れ方をしたのではないかとも付け加えている。

 この「なぜ3枚組なのか」に関して、私の見解は本さんとは全く異なる。
 ジョージがソロ・アルバムを作るにあたり、発表するに足りる出来ばえの曲数が、2枚4面分あったことは、間違いないだろう。では、3枚目の「アップル・ジャム」は何か。私は、「史上初のボーナス・ディスク」と解釈している。
 もし、[All Things Must Pass] が21世紀にCDの作品として発表されたとしたら、きっと「通常版」が2枚組だったに違いない。そして、「スペシャル・エディション」もしくは「コレクターズ・エディション」,「デラックス・エディション」には、アップル・ジャムの「ボーナス・ディスク」がついているのだ。
 そう解釈すれば、今やとても普通のことだ。「日本版限定ボーナストラック」も普通だし、「ボーナス・ディスクはライブ音源」、もしくは「ボーナスDVD」がつくこともある。
 しかし、1970年当時は、そういう考えがなかった。ジョージとしては、普通の楽曲を収めた2枚組で考えていたものの、楽しいジャム・セッションの音も録音してあるなら、これも楽しむファンもいると思って当然だ。だから、ボーナス音源として3枚目をつけたのだ ― これが私の解釈である。

 史上初のボーナス・ディスクと考えれば、3枚であることの説明もつく。3枚目だけは殆ど聞かなくても不自然でもなければ、不義理でもない。当時「通常版」と「豪華版」の違いがなかったため、全てが「豪華版」になったというだけ。
 こう解釈している私は、「ボーナス・ディスク」というものを思いついたジョージのオリジナリティに、勝手に感心している。コンサート・フォー・バングラデシュにしろ、ウィルベリーズにしろ、ジョージはアイディアマンだと思うのだ。

 「ボーナス・ディスク説」からこぼれ落ちたが、"Isn't It a Pity" が2バージョン入っていることに関しては、純粋に名曲だからどちらのバージョンも捨てがたく、両方収録したと解釈している。
 もっとも、「ボーナス・トラック説」としても良いのだが。

 私は基本的に、ワーナー移籍以降のジョージの方が好きなのだが、やはり [All Things Must Pass] は特別。あれほどの大作,名作を作り得たアーチストが、ほかにどれほどいるだろうか。愛するジョージの作品なら全て平等に愛したいところだが、名作の特殊性も、おおいに認めて良いと思うのだ。