Muscle Shoals2014/07/21 16:47

 映画 [MUSCLE SHOALS] (邦題「黄金のメロディ マッスル・ショールズ」)を見た。



 アラバマ州北部,“歌う川”テネシー川のほとりの田舎町マッスル・ショールズのスタジオで生まれた数々の音楽を追うドキュメンタリー。

 そのきっかけとなったリック・ホールがまず印象的だ。簡単に言えばマッスル・ショールズに FAME Studio を創立し、凄腕のセッションマンたちを組織し、数々の名録音を生み出した男だが、その人生 ― 家族をめぐる運命は過酷なものだった。
 スタジオでのホールは、妥協を許さないボスであり、絶大な信頼を寄せられ、人種を越えた笑顔と名作を生み出す元になった人だが、農場での作業をするとき、過酷な体験を語るとき、どこか人を受け入れない峻厳な孤独を感じさせる。

 まずホールの 「フェイム・スタジオ」が成功し、数々の名録音を生み出した後、そのスタジオ・ミュージシャンたちがここから独立し、「マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオ」を創立する。つまり、このドキュメンタリー映画に登場するのは、二つのスタジオなのだ。
 ストーンズやトラフィックが録音するのはこの後者だし、ディランの [Saved] が録音されたのも、後者だ。
 この、扱われるスタジオは二つあるという点が、予告編や映画の紹介記事ではわかりにくいかも知れない。「マッスル・ショールズ」は「町」であるという点が重要だろう。この映画を見れば、「マッスル・ショールズ」というと、リヴァプールや、ニュー・オーリンズ,ナッシュヴィル,人によっては(←私)ゲインズヴィルのように、「音楽を生み出す町」として認識されるようになるだろう。

 ロック・ファンである私には、やはりデュエイン・オールマンのエピソードが面白かった。コメントするグレッグは、相変わらずの兄貴大好きっぷりを発揮している。ただし、セッションマンとしてしばらく過ごしたしたデュエインではあるが、オールマン・ブラザーズ・バンドに関して、マッスル・ショールズは「逃す」ことになった。
 レーナード・スキナードも、やや惜しい展開だった。"Free Bird" は間違いなく名曲だが、映画で使用されたライブでのイントロのピアノの弾き方はちょっといただけない。せっかくの名フレーズなのだから、もう少し丁寧に、美しく弾くことも出来るはずだ。

 「フェイム・スタジオ」から独立し、「マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオ」を創立するセッション・マンたちは、「スワンパーズ」と呼ばれ、レーナード・スキナードの "Sweet Home Alabama" に "Muscle Shoals has got the Swampers(マッスル・ショールズにはスワンパーズがいる)" と歌われる。
 この「スワンパーズ」の名づけ親として、突然デニー・コーデルの名前が出てきたので、びっくりしてしまった。
 レオン・ラッセル1971年のアルバム [Leon Russell & The Shelter People] のプロデューサーはデニー・コーデルだったわけだが、一部の曲はマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオで行われ、そのスタジオ・ミュージシャンが録音に加わっている。
 このアルバムの曲はほかにもロンドンやハリウッドでも行われており、それらのミュージシャンとの区別として、マッスル・ショールズのミュージシャンたちを、コーデルが「スワンパーズ」と名づけたということらしい。
 名づけ親が誰であるにしろ、"Sweet Home Alabama" こそ、この映画で一番の聴きどころだろう。一番感動的であり、聴きごたえがある。もっとも、この曲の録音はジョージア州であり、マッスル・ショールズではないのだが…



 私がもう一つ、非常に感動したのは、クラレンス・カーターの "Patches"。こちらはフェイム・スタジオでの録音。リック・ホールの父親への想いとエピソード、映像も相まって、もっとも感動的なシーンだった。



 ストーンズの登場は、遠いところからオシャレな坊やたちが突然やってきた感じで、面白かった。そしてあっという間に去ってゆく。
 マッスル・ショールズのミュージシャンたちは、むしろトラフィックの手法に感銘を受けていた。とはいえ、トラフィックと一緒にツアーに出たことに関しては、やや複雑な感触もあるが。

 最後に、アリシア・キーズがディランの "Pressing On" を演奏したのが印象に残った。
 ディランのアルバム [Saved] の評判は一般に芳しくないが、私は大好きなアルバムだ。このアルバムも、マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオで録音されている。

 映画館は満員。男性率の高さが半端なかった。音楽好きならぜひ見てほしい、おすすめ映画だ。