楽譜の誤植?2013/12/15 14:29

 一般的に出版されている本を読んでいて、誤植というものに出会うことはめったにない。読んでいる私が注意せずにすっ飛ばして読んでいるなら、なおさらだ。
 本の奥付には、よく「乱丁、落丁本は送って下さい」などと書いてあるが、これもそうそうお目にかからない。私が持っている「坂の上の雲」の第八巻で、2カ所の落丁をみつけたのが唯一の例。そのようなわけで、この巻は2冊持っている(送り返していない)。

 長い間、音楽をやっているが、楽譜の誤植を見つけたことはなかった。
 クラシック音楽の場合、作曲者が手書きで残した楽譜を出版する際、その不鮮明な手書き譜をどう印刷するかの解釈が異なり、細かい点が違う「版」が存在することになる。
 ピアノの譜面で言うと、作曲者が書き留めなかった装飾音の入れ方や、スラー,スタッカートなどのアーティキュレーション、ペダルの入れ方、強弱記号、但し書きなどなどで、いろいろと異なった譜面が存在する。指使いを作曲者みずから書き込むことはまずないので、出版の際に監修者が書き入れることが殆どだ。
 音、そのものが版によって違うというのはかなり希なケース。あったとしても、同じ和声(ハーモニー)内での微妙な違いにとどまる。

 ところが最近、版の違いではなく、「誤植」ではないかと思う場面にぶちあたった。
 J.S.バッハの平均律クラヴィア曲集第二巻6番 d-moll プレリュードである。
 私は、ブロイトコプフ版を使っている。この版、正式にはブライトコプフ・ウント・ヘルテル(Breitkopf & Härtel)。ドイツの18世紀創業、世界でも最も古い楽譜出版社である。
 バッハでこの版を使う人は珍しいだろう。何せ音以外は「何も書いていない」か、最低限のことしか書かれないことがことが多いバッハにおいて、このブロイトコプフ版は指使いはもちろん、速度、強弱、アーティキュレーション、装飾音のほか、別の解釈など事細かに書き込まれているのだ。
 バッハの楽譜としてはやや「邪道」と見られる向きもあるだろうが、私はあまり頓着しない(そもそも、それほどクラシックに精通していない)ので、親切丁寧な書き込みを素直に有り難がっている。

 これはどうやら誤植ではないかと思うのは、平均律二巻6番 d-mollのプレリュード、25小節目である。
 (音名は全てドイツ音名表記。Hはシ、Bはシのフラット。平均律二巻を持っている、弾いているほどの人なら、ドイツ音名で分かるだろうから。)
 18小節目から、次々と転調している関係で、本来の調子記号である B が、H になるべく、ナチュラルがついているのだが、どういうわけか、25小節目の左手の B には、ナチュラルがついていない(赤丸の箇所)。



 このままでは B を弾かなければならないが、右手に Gis と Fis がある以上、A-durか、a-mollに転調しているはず。そこで B は絶対にあり得ない。理論上もあり得ないし、ハーモニーを聞いてもあり得ない。
 これは、左手の B にナチュラルをつけ忘れた、つまり誤植であるというのが、私の結論だ。私は他の版を持っていないので、先生に尋ねたところ、先生の春秋社版にはちゃんとナチュラルがついている。
 もし、平均律二巻を持っている人がいらしたら、6番プレリュードの25小節目、左手の B にナチュラルがついて H になっているか否か、教えて下さい。

 YouTubeで何人かの演奏も聴いてみた。速すぎて判然としないが、やはり誰もがナチュラルをつけて H で弾いているように聞こえる。これは、グルダの演奏で、25小節目は3分13秒付近。



 曲がショパンだの、リストだの、それ以降だの言う新しい音楽なら、この違和感のある表記があっても放っておくのかも知れないが、ものがバッハである。しかも平均律。やはり誤植だと思う。

 さて、このことをどう出版社に知らせるか。ブロイトコプフのホームページには連絡先がちゃんとあるが、「お問い合わせ等のメールはすべて英語またはドイツ語にてお送りいただきますよう、お願い申し上げます。」と、日本語で書いてある。
 うっ…!
 ドイツ語は問題外。英語も…英語も…無理!
 そういえば、私が持っているブロイトコフ版の平均律は、一巻こそドイツからの直輸入品だが、二巻はヤマハが日本版として出版しているものだ。巻末にも、「本書についてのお問い合わせは、株式会社ヤマハミュージックメディアまで」と書いてある。ここに問い合わせるか…?
 さんざん騒いでおいてなんだが、面倒だから黙っているかも知れない。

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