Chestnut Mare / Horse to the Water2014/01/02 22:50

 干支というものは不思議なもので、自分の干支でもない限り、今年が、来年が、何年であるか覚えているのは、年末年始だけだ。
 午年といったら、普通のロック・ファンはニール・ヤングのことを思い出すのだろうが、私は彼のファンではない。
 私が真っ先に思い出すのは、ザ・バーズの "Chestnut Mare"だ。




 私はこの曲を、バーズの曲だという情報なしで初めて聴き、いたく感動した。美しいギターリフの重なりを聞いただけでも涙が出そうになる。ロジャー・マッグインのきらめくような12弦の音と、クラレンス・ホワイトの作りだす豊かな響き。
 ロジャー・マッグインは声量のある方ではなく、決してソロ・ボーカリストとして抜きんでている訳ではないが、この曲にはこの細い声しか考えられない。あの頼りなくて、悲しくなるような美しい声で、切々と歌い上げていく盛り上がりが最高。
 メロディの美しさ、プロデューシングの巧みさ、サウンドの豊かさから言って、バーズの中でも最高峰に位置する名曲ではないだろうか。

 馬ときてもう一つ思い出すのは、ジョージの遺作である "Horse to the Water"。
 ジュールズ・ホランドのアルバムに収録されたジョージのオリジナルは、彼が亡くなる8週間前の録音。ジョージはひどく具合が悪そうで、ジュールズはレコーディングをしてもらって良いものかと思ったそうだが、オリヴィアはやらせて欲しいと言ったそうだ。
 その声は、確かに弱々しい。しかし、一方でジョージらしい茶目っ気も含んでいて、考え深い。
 ここでは、ジョージのオリジナルではなく、[Concert for George] におけるサム・ブラウンの演奏。このコンサートに出演した他の誰とも違う、躍動感とパワーに満ちた名演だ。



 改めて言うまでもないが、バックにはクラプトンにジェフ・リン、マーク・マン、アルバート・リー、ジュールズ・ホランド、ジム・ケルトナー、ジム・キャパルディ…ほかにもあれこれ、豪華すぎるメンバーが揃っている。
 私はサム・ブラウンのこのパフォーマンスにすっかり魅せられてしまい、彼女のオリジナル・アルバムの中古CDをインターネットで探し出して購入したほどだ。
 「You can lead a horse to water, but you cannot make it drink.馬を水場につれてきても、無理に水を飲ませることはできない ―」お膳立てをしても、実行するか否かは、本人次第 ― ジョージは最後になかなか含蓄のある曲を残したものだ。ちょっとひにくれた表現だが、年始には良い言葉かも知れない。

職業病 / 怪我 / 二人羽織2014/01/05 20:07

 どういうわけか、数日前から背中の左側から左肩にかけて痛い。普通に生活する上では支障はないし、ピアノも普通に弾けるが、さすがにウクレレだけは弾きにくい。
 どうやら、私の体には大きすぎる(!)コンサート・ウクレレを無理な姿勢で弾いたせいらしい。楽器をやっていて体を傷めるというのは、ほぼ初めての経験だ。

 学生時代は、ピアノ科の学生が腱鞘炎になったとか言う話をよく聞いたが、あきらかに練習のしすぎだろう。ピアノというのは体への負担が少ない方の楽器だ。何時間弾いてもまだまだ弾けるのがピアノで、管楽器の人などは、そうはいかない。ともあれ、私のピアノに関して、練習のしすぎということはない。
 フルートや龍笛などの横笛系は肩に負担がある。ヴァイオリンなどもやや不自然な格好で楽器を構えるので、傷めることもあるかも知れない。

 ギタリストでもあるウクレレの先生に聞いたのだが、ギタリストに腰痛がつきものだそうだ。そういえば、去年、エリック・クラプトンが座骨神経痛でライブを延期していた。エレキともなると、さらに腰痛の危険は高まるのだろう。
 そもそも、ロック系のギタリストたちは、あまり姿勢が良くない。むしろ、背筋を伸ばして姿勢良く弾くと、ダサく見えるのがロックである。ビル・ワイマンのベースを弾く姿勢は良い方だろう。マイク・キャンベルなど長身なので、ギターを弾くときの猫背が目立つ。そして格好良い。

 楽器プレイヤーとしての「職業病」とは別に、アクシデントでの怪我による楽器の演奏不能ということもある。ちなみに、私はそういう事態になったことはない。一応、試験や発表会の数日前になると、扉や引き出し、刃物に気をつけるようにする。
 音大入試でのピアノの試験で、私の少し後の順番の人が、控え室でピアノの椅子(高さを調節できる)で指を切ったと言って、周囲が青くなって騒いでいたことがあった。結局、その人はちゃんと合格した。もともと優秀な人だったし、試験の緊張も相まって、ちょっとやそっとの怪我など、本番になったら気にならないのだろう。

 問題は大けがをする人である。
 ギタリストなのに、壁を思いっきり殴って手を複雑骨折する人とか。
 要するにトム・ペティのこと。



 「もうギターは弾けないと思います」という医者に悪態をついても、悪いのは壁を殴る人だと思う。
 この骨折事件の直前、トムさんはマイクとスタジオで一緒だったのだが、彼が2階に行った直後に、事は起こったのだと、マイクは言う。トムさんも青くなっただろうが、マイクも「どうしよう」と思ったことだろう。
 優秀な医者の活躍でまたギターが弾けるようになったから良かったようなもの。もし、本当に左手がダメになったら…二人羽織でもやれば良いと思う。バグズにでも左手をやってもらうか。マイクの方が手足が長いから適任かも知れない。

 …と、ここまでアホなことを考えていて、ギターで二人羽織ってあるのだろうかと思った。
 動画を見ると、ある。二人羽織というよりは、二人で1本のギターを同時に弾くという芸。
 まずこれは、笑えないほど上手い、モーツァルトの「トルコ行進曲」



 練習が…辛そうだ。
 もう一つは、通りすがりのお兄さんが演奏に加わるという小芝居つき。メトロノームを重ねようとして上手く合わないところが笑える。
 ともあれ、人間やればできるものだ。

Hair2014/01/10 22:03

 ディラン様ラジオこと、[Theme Time Radio Hour] 、テーマは "Hair"。
 ディラン様で髪というと、2001年の来日公演時、あの爆発頭にしきりと手を入れていじっているのが印象に残った。あんな髪型でも、気になるらしい。

 例によって「メールが来た」という体で、「D. クロスビーさん」の話が出てくる。もちろん、デイヴィッド・クロスビーのこと。私は何の話をしているのかピンと来なかったが、ピーター・バラカンさんの解説で分かった。
 クロスビーの曲に "Almost Cut My Hair" というものがあり、その歌詞を読んだというのだ。知らない曲だ…と、思ったら持っていた。クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングの [Deja vu] に収録されていたのだ。
 あとで聞いてみたが…まったく記憶に残っていなかった。

 "Hair" とくれば、当然ビートルズの名前も出てきたし、ロックンローラ―としては重要な要素である。
 そういう意味で、私が真っ先に思い浮かべるのは、"So You Want to be a Rock 'n' Roll Star" ― しかも、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのバージョン。

 「ロックンロール・スターになりたいなら、良く聞きな エレクトリック・ギターを手に入れて しっかり練習して 髪型をばっちりきめて ピッチリ・パンツをはけばもう大丈夫 ―」

 さらに、トム・ペティが3番の歌詞 "You're a little insane" で、自慢の金髪に左手を入れるところ(1分45秒)がたまらなく好きだ。



 もう一つ、"Hair" で思い出すのは、"I Won't Back Down" のビデオ。
 このビデオは英国で撮影したとのことで、マイクが言うにはジョージがあの有名なサイケ・ペイントのストラトキャスター "ロッキー" を持ってきてくれたそうだ。さらに、マイクは髪を染めていたのだが、ジョージが目ざとくそれに気づき、「ああ、髪、染めたんだ!」と言ったことが印象に残っているらしい。
 男の人も、髪型や髪の色を変えたことに気付いてもらえると、嬉しいんだな。

L-O-L-A, Lola2014/01/13 19:28

 前々回のディラン様ラジオこと、[Theme Time Radio Hour] でキンクスの "Lola" がかかって以来、この曲を何度も何度も聞いている。テーマが女性の名前ということで、ディランが選曲したのだ。しかも、「ララララローラ♪」と歌ってくれる大サービスつき。
 曲を流しただけではなく、"L-O-L-A" と綴りを読む曲としても紹介し、アルファベット順に女性の名前を列挙したときも、"L" はローラを上げた。
 ディランが流したバージョンの歌詞は "Coca-Cola" になっていたので、アルバム・バージョンということになる。特定の商品名であるため、シングル・バージョンでは 「チェリー・コーラ」と歌い替えられている。

 私は "Lola" を世紀の大名曲だと思っている。ロックの十大名曲には確実に入るし、もしかしたら五大名曲にも入るかも知れない。曲と言い、歌詞と言い、ヴォーカル、コーラス、ギターワーク、バンドワーク、プロデューシング、何もかもが完璧な曲だ。
 歌詞の内容はこれまたロック史上有名なお話。家を出たばかりのウブな少年がロンドンのソーホーで出会った、ローラと名乗る女性 ― でも実は男性だったという、なんとも凄い曲。こういう曲が、愛がどうとか平和がこうとか言う曲より名曲だと ― 少なくとも私には判定されるのだから、音楽は分からない。



 収録アルバムは、1970年の"Lola Versus Powerman and the Moneygoround, Part One"。音楽産業に対する批評(批判?)を加えたアルバムで、トム・ペティはアルバム [The Last DJ] 制作において、このアルバムに強い影響を受けたそうだ。

 これほどの名曲となると、当然カバーバージョンも多い。
 ここでは、英語以外のカバー。まず、ドイツ人 ハインツ・ルドフル・クンツェのカバー。歌詞の内容はよく分からないが…冒頭でバーに行くことくらいは分かる。"L-O-L-A" はドイツ語読みするので、「エロ・エ」となるし、"C-O-L-A" は「ツェオ・エ」となる。地名として、「ドルトムント」が出てくるらしい。
 サウンド的には80年代風の電子音が強い。あのキーボードを肩からぶら下げるスタイルは、ちょっと間抜けだ。



 こちらは、M-Clanというスペインのロックバンドのカバー。サウンド的にはかなり強いロックで、素晴らしく格好良い。電子音よりは、やはりロックサウンドが合う。
 最初にローラと出会うバーの場所は、マドリッドになっているようだ。Google の翻訳にかけてみると、どうやら英語の原詞ほど詳しくローラとのやりとりは再現していないが、ローラは男だったということにはなっている模様。
 凄い歌詞だが、名曲は言語を、国を超える。

Be more Mick !2014/01/16 19:41

 もうすぐ、ザ・ローリング・ストーンズが来日する。
 史上最強にして、最高のロックバンド、ローリング・ストーンズ。60年代レジェンドにして、現在進行形のロックンロール・スター。ストーンズとロックを愛する多くの人々が、今から彼らの来日と公演を心待ちにしている。
 ストーンズのアルバムをたくさん聴いたり、映像作品を見たり、ストーンズを迎える準備はさまざまだろう。

 だから、そろそろ、ミックになる練習をした方が良いと思う。
 急にやろうとしても上手くいかないのが、ミックになること。準備は早いほうが良い。今のうちに研究,学習,練習をしっかりして、きちんとしたミックになろう。

 良いミックになるには、良いお手本から。
 入門編として、ノエル・フィールディング(The Mighty Boosh)によるミックを見てみよう。まずは、マイティ・ブーシュのシーズン1 "Jangle" のオープニングに登場したミック・ジャガー。ハワードが「真のヒーローとは、リビングストンのような探検家のことだ」というと、ノエル演じるヴィンスが、「俺にとってはミック・ジャガーだな」と返す。呆れたハワードが「ジャガーってのはどんなんだよ」と言うので…



 同じく、マイティ・ブーシュのシーズン1 "Charlie" では、ハワードがヴィンスに「誓え!ジャガーにかけて誓え!」と言うので、ヴィンスが「ジャガー祭壇」に向かって誓いの儀式をするシーンがある。これも初心者向き。
(ちなみに、ハワードが額に貼り付けている仔猫ちゃんの写真は、精神安定剤である。あれを外すと精神が荒れて暴れ出す)



 ノエル・フィールディングのミックは、マイティ・ブーシュ以外でも発揮されており、こちらはクイズ番組 [Never Mind The Buzzcocks]における、「曲当てクイズ」。かなり上手なミックだが、残念ながら回答者は曲名が分からなかった。



 ミック上級者として登場するのが、ジミー・ファロン。親切にも、俳優のサイモン・ベイカーに個人指導までしてくれている。しかし、サイモンもなかなかのミックぶりである。



 ジミー・ファロンほどの上級ミックともなると、ミック・ジャガー本人とも共演ができる。
 こちらは、SNLでの共演。ミックが楽屋の鏡に向かって語りかける…という趣向。こうなると、似ているかどうかはどうでも良くなってくる。



 これらを参考にして、あと1ヶ月あまり、みんなでしっかりとしたミックになろう!

Bobfest がやってくる、ヤァ!ヤァ!ヤァ!2014/01/19 20:30

 あの「ボブ・フェスト」こと、[Bob Dylan the 30th Anniversary Concert Celebration] が再発されることになったとのこと。フォーマットは、CD, DVD, Blu-Ray。
 新しいジャケットが発表されている。



 オリジナルのデザインには愛着がある。ジョージやトムさんの顔がはっきり見えるし。今回のは、クラプトンがジョージとロニーの浮気現場を押さえたみたいな凄い顔をしている。

 このコンサートの映像にはとてもお世話になった。私がまだジョージやディラン、TP&HBのファンになりたてのころ、この映像は彼らのライブ映像として私にとっては貴重な存在だった。音大の図書館に、研究のために必要だからと購入希望を出して、本当に買ってもらったのだ。無論、「研究のために必要」というのはウソである。

 実のところ、[Concer for Geogre] ほど徹頭徹尾大好きというわけではない。特に私の興味を引かないアーチストもいるし、一番好きな "Like a Rolling Stone" は悪いが苦手な部類に入るので、まったく見ていない。
 それから、ややリハーサル不足も窺える。G.E.スミスは八面六臂の活躍で、名うてのバンドマンたちも奮闘しているが、いかんせん音楽の練習不足は痛い。
 ロニー・ウッドの "Seven Days" は大好きだが、ややバタバタが見て取れる。そしてロニーは一足先に曲を終わらせてしまったのには、笑うしかない。

 今回の再発売では、オリジナルとはどの程度異なる物が収録されるのだろうか。  あの有名な "My Back Pages" はやはり後で録音を被せたバージョンの方が良いと正直に思っている。
 ジョージの "If Not for You" はぜひとも収録してほしい。

 さて、ここからは、誰もがきっと心当たりがある、「ボブ・フェストあるある」!

リハが好き
 ジョージが日本で買ったビデオカメラでリハーサルの様子を録画しているのを見るのが好き。金髪のトムさんが目立つ。YouTubeなどにもたくさん上がっているので、再販版にも収録されると嬉しい。

ロニーの時、ベースはハウイだ
 どういう経緯で、ハウイ・エプスタインがロニーのベースを担当することになったのか、今のところ不明。いつ見てもハウイに目が行く。

ジョージのジャケットはいつ見ても凄い
 色が凄い。みうらじゅん曰く、「漫才師のような」凄い紫のジャケット。80年代風の肩パット入り。

ボブ・フェストへようこそ、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズです!
 ニール・ヤングがTP&HBを紹介すると、客席の少年が顔を見合わせて狂喜乱舞する瞬間が大好きだ。

コンバースが欲しくなる
 トムさんの足下を見て、黒いコンバースが欲しくなったのは私だけだろうか。実際、買った。黒のコンバースを。

マイクが楽しそうだ
 "Licebse to Kill" の時はそうでもないが、"Rainy Day Woman #12 &35" あたりになると、マイクがどんどんニコニコし始める。トムさんと顔を見合わせてリズムを合わせながらニコニコ。ロジャー・マッグインが登場すると、さらにニコニコ。

ボトル・ネックはポケットへ
 "Rainy Day Woman #12 &35"の間は、座ってスライドギターを弾いていたハウイ。演奏が終わり、ロジャー・マッグインを迎えての "Mr. Tambourine Man" のために、スタッフが来てギターと椅子を撤去するのだが、ハウイからボトルネックを受け取るのは忘れてしまった。ちょっと困った顔をしつつ、ボトルネックをポケットにしまうハウイが大好き。

感動の "Mr. Tambourine Man"
 トムさんの紹介で登場したロジャー・マッグイン。"Mr. Tambourine Man" のあの鳴り響くイントロが素晴らしい。ロックの歴史、ロックのもつ熱量、ロックを愛する人々全ての情熱が詰まっている。

ウインク!
 トムさんがロジャーにウィンクする瞬間は見逃さない。

ウィルベリー集合
 ウィルベリー兄弟が3人も揃っての "May Back Pages" は感涙もの。以前、あの演奏を見て、「人間には二種類ある。ウィルベリーズになれる人と、なれない人だ」という意見を聞いたことがある。確かにそうかも知れない。
 ウィルベリーズの Vol.3 から間もなく、トムさんもピアスをしている頃だ。

スタンだって頑張るぞ
 "My Back Pages" と "Knockin' on Heaven's Door" のパーカッションは、実はスタン・リンチ。頑張れスタン!ちゃんと見ているぞ!

ジョージだ!ジョージに頼もう!
 「ボブの紹介、誰がする…?」
 「………」
 「ジョージだ!ジョージに頼もう!」

 「"My Back Pages"、ボブが最後は嫌だってよ…」
 「誰が最後に歌うんだよ」
 「ジョージだ!ジョージに頼もう!」

 ボブの扱いも、ジョージさえ居れば大丈夫!…だったと思われる。

Rush / George & Fasters2014/01/22 21:32

 映画「ラッシュ」を試写会で見た。
 1970年代後半のF1ワールド・チャンピオンシップ、ニキ・ラウダとジェイムズ・ハントの物語。すごく見たいと思っていたので、試写会に誘ってもらえて良かった。

 

 私の知らない70年代のF1が存分に楽しめる。マシンはまだ葉巻型からウィング型への過渡期で、90年代以降のマシンを見慣れた私には、ややダサい。しかし、大爆音で迫力満点にフォーミュラカーが疾走するシーンには、否が応でもテンションが上がる。
 当時のレーサーとして、ラウダとハントの他は、クレイ・レガツォーニが登場したが、ほかにもシャクティやアンドレッティも居た。今からするとびっくりするほど悠長なタイヤ交換や、安全面では信じられないほど危険一杯なサーキット、タイヤを氷で冷やしたり、フライング気味なスタートなど、F1好きにはたまらない映画だ。
 ラウダとハントは映画で描かれるほど仲が悪くはなく、むしろ馬が合う友人同士だったとも言われている。レースに人間ドラマを色濃く重ねすぎると、少し冗長な印象になってしまうところは惜しい。
 お気に入りなのは、ラウダが二人のティフォシ(熱狂的フェラーリ・ファン)の車に偶然同乗することになり、ティフォシたちのテンションが上がりまくるところ。

 音楽的には全体に特筆すべきことはなかったが、このシーンはとびきり格好良かった。
 ラウダとハントが、F3で初めて対決するシーンだ。"Gimme Some Lovin'"



 "Gimme Some Lovin'" 独特の、あのベースラインと、熱いオルガンの音、ウィンウッドの声が生み出す疾走感、まさにレースシーンにぴったり。映画の序盤だったが、一番良いシーンだった。

 F1と言えばかならず登場するのがジョージの話題。
 ニキ・ラウダとはもちろん親しく、一緒に映っている写真もよく見かけるし、"Faster" のピクチャー・レコードにもラウダは ― 1976年の事故後の姿で ― 登場する。
 一方、ハントとはどうかと言うと、もちろん交流があったようで、一緒に楽しく映っている写真がいくつもヒットした。やはりサーキットにジョージ・ハリスンあり…だった。

December 1963 (Oh, What a Night)2014/01/25 18:16

 昨日から、高熱を出して寝込んでいる。
 ちゃんとした記事は書けないが、ただこの曲だけチェック。

 フォー・シーズンズ1975年のヒット曲 "December 1963 (Oh, What a Night)"



 BBCのドラマ[Sherlock]シーズン3を見たのだが、相変わらずあまり音楽的には特筆するところがなかった。
 ただ、あるエピソードでこの曲が使われた。使われたシーンからしても、マーティン・フリーマンが選曲したのではないだろうか。モータウン時代の曲ではないが、フォー・シーズンズはマーティンのお気に入り。彼はディスコサウンドはあまり好きではなさそうだが、この曲には60年代の香りがする。
 フォー・シーズンズはフランキー・ヴァリ&フォー・シーズンズという名義を使う時期、場合もあるようだが、この曲でのメインのリードヴォーカルはヴァリではないそうだ。

 シーズン3の感想…?ノー・コメント。療養中だし。

ボブ・ディラン ― ロックの精霊2014/01/28 21:49

 何度か書いたことがあるが ― 私は音楽好きな割に、音楽に関する本を読まない。音楽に関する本は、音楽そのものに比べれば何十分の一、何百分の一程度にしか面白くないからだ。
 それでも好きな音楽に関しては、手頃で読みやすいガイドとなる本があると助かる。これが意外と無い。多くの筆者はその音楽のファンであるため、自分がいかに重大なファンであるかを文章に浮き立たせてしまったり、自分の好みによってムラがあったり、読み終わる間に音楽に逃げたくなるほど面倒なシロモノになってしまうことも多い。
 ミュージシャン本人による書籍というものもあるが、当然、その人の音楽より格段につまらないので、なかなか難しい。

 そんな中で、この本は日本経済新聞に書評が載り、なおかつ新書ということで、良いのではないかと思い、珍しく買ってみた。

 「ボブ・ディラン ― ロックの精霊」(湯浅学 著:岩波新書)



 ボブ・ディランの伝記である。ディランの誕生から現在まで、順を追い、エピソードやアルバムを紹介しながら語られている。ディランの場合、社会背景とのつながりを過剰に語りたがる面倒な解説が多いが、この本は時代を分かり易く、簡潔な文章で記述し、その中に生きたディランの説明として、とても説得力があって良い。
 各アルバムの作られた背景 ― とういうよりは、雰囲気,様子を説明し、それが当時どのように受け取られたのかも客観的に書いてある。

 そもそも、ディランに関する記述、評伝というものはマスコミや批評家もさることながら、ディラン本人の言うことが一番信用できないときている。別にディランをけなしているわけではない。彼のことは彼の音楽を聴くほかにないのであり、ディランが世に発表するものはすべからく彼の「作品」にほかならない。
 そんな中で、ディランの音楽を聴く上での「良い参考程度」の本として、手頃なのだ。

 かと言って、筆者個人の考えが皆無なのかというとそうではなく、湯浅さんなりの考察も加わっており、それが過剰ではない。さすがに、2007年以降の記述にはくどさが臭うが、数ページのことだ。
 音楽を文章で語ろうとすると難しいので、いろいろな比喩が用いられる。たとえば、「暗澹たる怒りを疾走させ」とか、「心地よい抱擁力と峻厳な洞察力」…など。やり過ぎると鬱陶しいが、この本は短い文章で簡潔さを心がけているようなので、気にならない。
 もっとも、[Nashville Skyline] でのディランのあの滑らかな歌声について、「まるで、今まで剛毛のヒグマの着ぐるみを着用していたのです、とクリオネがそれを脱いでみせているようだった。」は、ちょっとやり過ぎか。

 やはり私はウィルベリーズのところの記述が気になった。細かいことだが、トム・ペティがディランの家に来たのは、「借りていたギターをボブに返すため」ではなく、ジョージに誘われたから。どうやら、ディランのファンにはトムさんが「ボブの家に返しに来た」と思っている人があるようで、どこかディラン関連の本にそう書いてあるのかも知れない。
 それから、ウィルベリーズのバンド名を「トラヴェリン・ウィルベリーズ」としているが、もちろんこれは「トラヴェリン・ウィルベリーズ」の間違いだろう。ディランの名前も「ラッキー・ウィルベリー」としているが、もちろんこれは「ラッキー・ウィルベリー」。
 湯浅さんは、デル・シャノンを入れての「ヴォリューム2」が録音されたとしているが、私はそもそも録音そのものがされなかった説を支持しているので(「ヴォリューム3」というタイトルは、いかにもジョージらしいジョーク)、この点は意見が合わない。

 ともあれ、新書で読みやすく、ディランのガイドとしては最適の一冊ではないだろうか。ディランのアルバムを全て集めてから読んでも良いし、今後の購入の手引きにしても良い。
 珍しく、2回連続読みをした「音楽に関する本」だった。

Slippin' and Slidin'2014/01/31 21:26

 "Slippin' and Slidin'" という曲を最初に聞いたのは、ジョン・レノンのカバー・バージョンだった。アルバム [Rock 'n' Roll] の収録曲。
 私はロックンロールしているジョンのシャウトが大好きなので、このアルバムが好きだし、この曲の格好良い疾走感と、爽快感が素晴らしいと思う。
 ドラムは、ジム・ケルトナーに見えるけど、どうだろう。イントロでしばし沈黙してから動き出すところが格好良い。

John Lennon: Slippin' and Slidin'

 この曲を最初にヒットさせたのはリトル・リチャードで、1956年のこと。シングルとしては、"Long Tall Sally" のB面だったというのだから、贅沢なシングルだ。



 長い間、ジョンのバージョンで聞いていたわけだが、ここ数年のお気に入りは、ザ・バンドによるライブ・バージョン。2005年のボックスセット,[A Musical History] に収録されていたので、初めて聴いた。
 もともとザ・バンドは大好きだが、こいうラフでパワフルなロックンロールをやると更に好き。特にこの曲は、歌える人間が全員で思い切りがなり立てているところが格好良い。
 この曲の持つ爽快感が、さらに解放されたような演奏で、一緒に歌いたくなる。これをライブで見た人々がとても羨ましい。