The Witmark Demos2010/12/17 23:25

 8月にニューヨークに行って、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズを見るという大イベントがあったせいか、ひどく遠い出来事のように感じるが、今年はボブ・ディラン来日という大事件があった。
 ライブそのものの形態もあって、鑑賞にはなかなかの苦難が伴ったのだが、ともあれ彼が相変わらず旺盛なライブ意欲を持っていることが嬉しかった。そして、曲目の多くが21世紀になってからの楽曲で、ただの昔の歌手ではないディランの格好よさに、改めて惚れなおした。

 その一方、10月にはブートレグ・シリーズ Vol.9 となる、[The Witmark Demos: 1962-1964] が発売された。
 これは、ディランが最初に所属した音楽出版社である、リーズ・ミュージックおよび、ウィットマーク&サンズのために録音した音源を集めたものだ。すなわち、デモと言っても作曲作業過程に、メモ代わりに録音するようなものではなく、ある程度完成した曲を、人に聞かせることを目的としている。



 私は、中途半端な、しかも本当に断片的な音源を公式に、しかも大量にリリースする行為にはやや疑問を持っている。このことは、ビートルズの [Anthology] の時に強く感じた。いかに大ビートルズであっても、仕上がりの悪いものを大量に、しかも高い値段で売るという行為はどうかと思ったのだ。クラシックで言えば、いかにマウリッツォ・ポリーニでも、毎日の自宅での練習までは録音して販売しないのと同じだ。あの時期、ちょうどTP&HBも似たようなボックス [Playback] を出した頃で、後者の内容の良さが、ビートルズのイマイチ感をより際立たせたことも、影響している。
 そういう意味で、今回のディランの「デモ」にもやや警戒感を持っていたのだが、そこは杞憂だった。すでに述べたように、このデモはすでにある程度出来上がったものなので、価値的には問題ない。1962年から1964年にかけての、みずみずしく、野心的で、何といっても若いディランが息づいている。

 ただし、ブートレグ・シリーズ Vol.1 と、どう違うのかと尋ねられたら困る。要するに、あまり変わらない。もちろん、つぶさに聴けば違いがあり、その違いに感動を新たにするべきだし、その方がファンとして格好良いのだろう。しかし、私はだいぶ前に、そういう高尚なファンである努力を放棄している。
 とにかく、この [The Witmark Demos] は、Vol.1 とかなり印象がかぶる。曲目も実際かぶっていて、Disc 2 の4曲はすでに他のブートレグ・シリーズで発表されている。私は "When The Ship Comes In" の素晴らしさに感動してしまったのだが、これはVol.1 ですでに聴いていた。
 ともあれ、ディラン・ファンであれば、欲しいアルバムだろう。無論、ファンになりたての方には勧めないが。

 相変わらず若い頃のディランが容姿が良く(その後も、今も良いが)、その特色を最大限に生かしたアートワークが見られるのだが、気になるのはタイプライター。
 ソングライターというのは、普通にタイプライターを使うのだろうか。ディランがタイプを使っている写真はよく見る。これは歌詞がほぼ出来上がってから打つのだろうか。ジョージはウィルベリーズの時、ディランの字はクモが這うような細かさで、読めやしなかったと言っているが…
 ともあれ、ディランはタイプライターを打つ姿も、格好良い。

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