The Lost King2023/06/29 20:56

 きたる9月22日、映画「ロスト・キング 500年越しの運命」が日本で公開される。2012年、イングランド, レスターの駐車場から発掘された骨は、本物のリチャード三世のものだったという一大事件を、その発掘プロジェクトの中心人物のひとり、フィリッパ・ラングリーを主人公にして映画化したのが、この「ロスト・キング」だ。
 なんて素晴らしい!この日本で、私が見に行かずに誰が行く?!

『ロスト・キング 500年越しの運命』9月22日公開決定!



 2012年にリチャード三世の骨が発見され、ニュースになったときは、本当に興奮した。BBCはフィリッパと発掘の様子、およびDNA鑑定で骨がリチャードのそれであることを証明した経緯をドキュメンタリー番組にした。それにより、彼の顔も再現されたのだ。
 翌2013年、私はボブ・ディランのロイヤル・アルバート・ホール公演に合わせて渡英し、レスターの現場を見に行った。このとき、日本のリカーディアン(リチャード三世「擁護派」という人々)の代表と言うべき、Akiko.T さんを誘った。彼女はは北国の町に住んでおり、私とはネット上の交流だけで、一度も会ったことがなかったのに、中世イングランド史とボブ・ディラン好きという共通点だけで旅を共にしたのだ。ボズワース古戦場と、レスター大聖堂、タウン・ホールでの展示、そして工事中だったリチャード発見現場を塀越しに拝んだ。
 2018年、私はレスターを再訪し、リチャードの発見現場に建てられた博物館を訪れ、そしてその発掘場所を見学し、彼の墓を訪ねた。このとき、Akiko.T さんはこの世に亡く、私は心の中で彼女へ報告したものだった。

 それにしても、この映画は楽しみすぎる!
 プリデューサーの一人で、出演もしているスティーヴ・クーガンは私がよく見る英国映画,コメディではお馴染みの人物だ。
 そしてなんと言っても魅力的なのは、リチャードの再現だ。美しい!でも、かなり現実的で、「あり」なリチャード像ではないか?骨からの再現像にも近いし、リチャードのちょっと神経質そうな表情の肖像画とも似ている。そもそも彼は生前、美男で有名だった兄(エドワード四世。ただし、「女のこととなると理性を失う」)の「次に美男子だった」と言われているのだ。

 確かに、リチャードは兄王の亡き後、その息子達の王位を否定し、自ら王位に就いた。王位簒奪と言われて当然だろう。しかし、彼に対する容姿醜悪、極悪非道、悪魔そのものという評価は明らかに不当だし、二人の甥の死に関する責任は歴史の謎のままなのだ。彼はヘンリー・チューダーとの戦いに敗れて死に、ヘンリーが王位に就いた。そのヘンリーのチューダー朝においてリチャードは前述のような怪物に仕立てられ、シェイクスピアは素晴らしい戯曲の主役として描いた。かくして悪王リチャード像は広く流布するに至った。
 私自身は、プリンスたちの死に関して、首謀者がリチャードなのか、ヘンリーなのかと言う点について、完全に五分五分だと思っている。
 ともあれ、これからも一般的には甥から王位を奪った悪名はリチャードにつきまとうだろう。しかし、その一方でこの映画のような「素敵なリチャード」があっても良いと思うのだ。

 人には格好良い仕草というものがある。私にとっては、F1 レーサーがバイザーを下げる仕草だが、中世ヨーロッパ騎士のヘルメットのバイザーもしかり。キング・リチャード、格好良し!God save the King !

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