Neil Innes2020/01/04 16:33

 年末に、ニール・イネスが亡くなったと聞いて、びっくりしている。
 75歳。特に病気をしていたわけでもなく、本当に突然、眠るように亡くなったというのだから、なんともはや。ニール・イネス、お見事である。

Neil Innes: Monty Python songwriter dies aged 75

 ニール・イネスといえば、天才的な音楽的才能と、コメディアン的な才能を双方持ち合わせた希有の人だった。
 モンティ・パイソン,中でもエリック・アイドルとのコラボレーションが著名。

 まずは、パイソンの映画 [Monty Python and Holy Grail] から、"The tale of Sir Robin"
 楽士たちを連れて旅に出たサー・ロビン(エリック・アイドル)。しかし楽士(イネス)が歌うのは、サー・ロビンが酷い目に遭う内容ばかり。よせ、とか言っている間に、三つ頭の騎士に出会う。なぜか三つ頭が喧嘩をし始め、そのすきに逃げるサー・ロビン。「逃げた、逃げた」と歌う楽士に、「違う!」と言い張るサー・ロビンであった。



 お次は、やはりザ・ラトルズ!
 ジョージ公認の「もう一つのビートルズ」を、イネスとエリック・アイドルが作り上げた名作だ。ビートルズ好きなら、ラトルズはマストだろう。



 ラトルズに関しては、幸運なことに2014年のライブを見ることが出来た。私が体験したライブの中でも、もっとも印象的なライブの一つだった。会場とステージが一体化して、一曲一曲を一緒に熱唱したものだ。
 ライブの終盤、イネスがウクレレを持ち出して、ジョージに捧げる "All Things Must Pass" を歌ったときは、みんなで涙した。イネスの、観衆とともに楽しみ、共感しつつ音楽を奏でる姿が、本当に印象的だった。

 音楽と笑いを力みなく融合させ、心から楽しませてくれたイネス。きっとジョージが両手を広げて迎えているに違いない。
 最後に、イネスによるプロテスト・ソングを。最初からチューニングが合わない、ハーモニカが変に上手いんだけど、長すぎたり、空振りしたり。歌い終わってマイクにぶつかる。大好き、ニール・イネス。

盤渉参軍 全曲演奏会2020/01/09 22:14

 1月6日、四谷区民ホールで、伶楽舎の雅楽演奏会が開かれ、芝祐靖先生が復曲した、「盤渉参軍(ばんしきさんぐん)」の全曲が演奏された。
 午後の部と夜の部、あわせておよそ六時間かかったという、大演奏会だった。
 私は仕事があったので、夜の部のみ鑑賞。午後と夜両方は、演奏する方はもちろん、聴く方も大変だっただろう。

 「盤渉参軍」は、十世紀に源博雅(通称、博雅三位 はくがのさんみ)が編纂した笛譜に記されている楽曲で、その演奏は絶えていたが、芝先生が譜面から復曲し、序だけで十三帖、破が十帖。さらに芝先生が作曲した急(参軍頌)という構成になっている。
 繰り返すようだが、六時間近くかかったたという大曲だ。これは、やりもやったりという感じで、伶楽舎の快挙と言えるだろう。
 私は現代雅楽音楽というものが苦手で、古典と復曲ものが好きだ。だから今回の演奏会は大満足で、まさに雅楽を浴びるように聞き、浸ったというに近い。

 さて。
 演奏会の翌日は、偶然、音大時代のクラス会だった。クラス会と言っても、小さな学科だったので、少人数の集まりで、ほとんどが芝先生や、宮田まゆみ先生にお世話になった連中ばかりである。

 当然、前日の演奏会の話になった。
 あれはもう、やった、というだけで意義があるよね、という意見で一致。
 集まった同級生の中には、伶楽舎のメンバーがいるので、ついでに私は訊いてみた。どうも幕の降りるタイミングが早かったような気がする。観客が拍手喝采しようとするタイミングを逸するほど、幕が早く降りるのだ。あれはどういう訳か。
 明確な答えがあった。
 楽員の足腰が痛いのだという。
 みんな、一刻も早く胡坐を解いて、足腰を伸ばしたい。痛くてたまらない。だからできるだけ早く幕を下ろすよう、仕掛けているのだという。これには大笑いした。

 話できくだけなら笑えるが、実のところ長時間、固い床の上で胡坐をかいたまま、微動だにせずに演奏しなければならないというのは、きつい仕事だ。
 私が雅楽を音大でやっていたときは、授業せいぜい90分ぐらい。若かったからそれほど苦痛ではなかったのだが ―― 楽員である友人は、最近あまりにも足腰が痛むので、これからの演奏活動も考えて整体に行っているという。
 演出によっては、演奏後、幕が上がったまま、しずしずと立ち上がって、退場しなければならず、これがまた辛いのだそうだ。そういえば、能をやっていたころ、「清経」のような長い素謡を終えたとき、何事も無かったように立ち上がるのが、結構な真剣勝負だったことを思い出す。

 今回の演奏会は、はからずも芝先生の追悼演奏会になってしまったのが、寂しい。それと同時に、芝先生を共通の思い出とする仲間とのひとときが、最高に楽しい。
 五月には、また伶楽舎の雅楽演奏会で芝先生の曲が演奏される。今から楽しみだ。

Bob Dylan and The Band / Like A Rolling Stone2020/01/13 19:57

 最近、訃報に接してはびっくりしてばかりいるが、今回はなんと、今宮純さん。おなじみのF1解説者,モータースポーツ・ジャーナリストだ。70歳だったという。
 心底びっくり。昨年の最終戦も、元気に解説していたような気がするのだが…いや…今宮さん…さみしい限り。
 F1中継といえば、今宮さん、森脇さん、川井ちゃん、時々右京さんか、松田さん。いつも当たり前にある存在が、居なくなってしまう寂しさは、言い様がない。かつて今宮さんが言ったように、F1はそれでも続き、今宮さんの不在にも慣れなければならないのか。

 最近は、伝説のロックスターの伝記もの映画が流行りだが、このたび入ってきた情報は、ジェイムズ・マンゴールド監督が、60年代のボブ・ディランの映画を制作し、ディラン役を、ティモシー・シャラメにするらしいというのだ。

James Mangold set to direct Timothée Chalamet as Bob Dylan

 ティモシー・シャラメ…えええ…それは…どうなんだ…
 この『君の名前で僕を呼んで』でブレイクした美青年。ヘンリー五世役で主演した映画を、見ようかな…と思っていたら、ネタバレを読んでしまい、あまりにも私の「ヘンリー五世像(およびヘンリー四世像)」と、かけ離れていて、嫌になって見るのを止めてしまった矢先である。(シャラメのせいじゃないけど)
 ディラン様の60年代は繊細かつ、ふてぶてしくて、シャイな美青年だが…シャラメは、どうなんだろう…?ディラン様はちょっと下ぶくれな所が可愛いんだけど。シャラメの骨格は、どちらかと言うか…ジョージかな。うーん、どうしよう。見るかな?見ないかも。

 しかもこの映画、ディランがアコースティックからエレクトリックへの移行期を描くという。え、じゃぁ、ザ・バンドの連中も出てくるわけ?ディラン様だけではなく、そっくりさん大会になるのか?!ええ?ロビーは?リックは?どうなるの?
 なんか急に、興味津々になってきた…
 待てよ、ディランがアコギからエレキに移行する時期と言ったら、ビートルズも絡まなきゃいけなくない?Fab4 もそっくりさん大会になるの?
 何にせよ、クライマックスはこれになるんだろうな。

Travelin' Thru2020/01/17 22:34

 ボブ・ディランのブートレッグ・シリーズ Vol.15 1967 - 1969 [Travelin' Thru] を、今週ずっと繰り返して聴いていた。

 ディランはデビューからプロテスト・ソングのプリンス、ロックンローラーへと変貌を遂げていた。そして二十代終盤を迎え、アメリカの音楽そのものを追って、ナッシュヴィルを旅した頃だ。
 アルバムで言うと、[John Wesley Harding] から [Nashville Skyline] の時期。
 このアルバムは、"Featuring Johnny Cash" と銘打たれており、ジョニー・キャッシュとのセッションが中心になっている。



 ディランはもともとカントリー・ミュージックと、ジョニー・キャッシュのファンだった。
 突然、ディランがダミ声をやめて滑らかな歌声を使い始めたのは、ほぼ間違いなくジョニー・キャッシュの影響だろう。

 何度も何度も聞いて、思ったのは、私はカントリーとジョニー・キャッシュのファンではないということだ。私がポップスで好きなのは、キャッシュのような豊かで完璧な美しい歌声よりも、どこか拙くて儚げな ―― やや危うい声なのだ。キャッシュのキャラクターは完璧すぎる。
 キャッシュがディランの曲をカントリー風に歌うと、上手いんだけどなんとなく居心地が悪いような気がする。

 私の嗜好には完璧に一致しなくても、ディランの長いキャリアの中で重要な時期の一つ。私の好きなディラン様はここにも熱く、息づいている。

The Dirty Knobs / Wreckless Abandon2020/01/21 21:22

   マイク・キャンベルのバンド、ザ・ダーティ・ノブズがファースト・アルバム [Wreckless Abandon] を3月20日に発売するにさきだち、アルバムのタイトル・トラック動画を公開した。
 ビートルズのようなインド風のイントロに、ストーンズ風のギターが鳴り響き、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのようなロックンロールがほとばしる。マイクがこの三者が本当に好きなのだと実感できる一曲。
 こういうロックンロールを待っていた!



 最初に聴いたとき、両手で顔を覆って、突っ伏してしまった。涙がにじんでくる。
 ああ、なんてこと!なんてことだろう!!
 トム・ペティ!トーマス・アール・ペティ!!あなたはこれを、この音楽を、この人をこの世に残して、旅立ってしまったのだ!なんてことをしたんだ!なんて取り返しのつかないことをしたんだ!

 あまりにも良すぎて、嬉しくなるより、かえって悲しくなってしまった。
 すさまじくトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの魂を内包し、どきっとするほど爽快で、尖って、新しい命を得て駆けだしたような音楽。怒濤のような、すさまじいロックンロールの格好良さが、ここに溢れている。

 私の知っているマイク・キャンベルという人は、二回「変わったな」と思わせる。
 最初は、シャイで控えめでトムさんの後ろにそっと隠れているような青年だった。それがジョージ・ハリスンが亡くなって以降、派手な髪型や服装をするようになり、ステージでも前に繰り出し、トムさんの良き Co-Captain, Right-hand man ぶりを発揮し始めた。
 そして、トム・ペティが亡くなって以降、彼はもう一つの人生を歩み始めたようだ。真っ赤なリッケンバッカーをひっさげ、振り回し、声を張って堂々たるロックンローラーぶりを見せつけている。

 マイクは、二度目の青春を生きようとしている。
 ロックンロールが若者たちの魂の音楽であることを、実年齢とは関係なく証明し続けているのだ。

 いまから新譜が楽しみだ。本当に楽しみだ。

I Saw Her Standing There2020/01/25 19:30

 マイク・キャンベルのバンド、ザ・ダーティ・ノブズの新曲 "Wreckless Abundon" のおかげで、改めて「ロックンロールらしいロックンロール」の良さを認識している。
 つまり、アップテンポで、はち切れんばかりに元気で明るく、声を張る曲調だ。
 その代表曲の一つが、ビートルズの "I Saw Her Standing There" だろう。彼らのファースト・アルバムのオープニング曲である。ロック史に燦然と輝くビートルズのアルバムは、ポールのカウントから始まる。



 リンゴって凄いロックンロール・ドラマーだなと再認識する。それから、実はビートルズの音楽の特徴の一つが、ちょっとやり過ぎ感もある、ポールのベースであることも分かる。ジョンの安定感と躍動感がしっかりバランスのとれたリズムギターと、まだこの頃ははにかんだようなジョージのリードギターがキラキラしている。
 わずか3分未満のこの曲は、心躍るロックンロールの輝きを凝縮したようだ。

 ちなみにこのYouTubeの音は、ステレオになっている。2009年のリマスターがアップされているからだ。
 実は私はこのステレオがあまり気に入らない。ビートルズの初期アルバムは、モノラルの方がなじみがあるので、リマスターの時はモノ・ボックスも購入した。

 Rock 'n' Roll Hall of Fame でビートルズが殿堂入りしたときのジャムでは、名前を挙げきれないような豪華メンバーで "I Saw Her Standing There" が披露された。
 ディラン様は相変わらずジョージに釘付け。でもジョージはディランだけのお守りをするわけにも行かず、周りに気を配り、頭を振っている。格好良い。
 歌をリードするのはビリー・ジョエル。まず彼がしっかり曲を引っ張り、ミックとスプリングスティーンが花を添える。(このブログにスプリングスティーンが登場するのは珍しい)そして、ジェフ・ベックのリード・ギター。
 この世代のこの顔ぶれが揃うのは、もはや無いだろう。とても貴重なジャムだ。

Irish Girl2020/01/29 19:31

 マイク・キャンベルのバンド、ザ・ダーティ・ノブズが西海岸でミニ・ライブ・ツアーを行った。その様子が動画サイトにアップされている。
 目を引いたのは、"Irish Girl" という曲。美しいフォーク・ロックだ。なんと、マイクがホルダーを使って、ディランのようにハーモニカを吹いている。



 求む!この曲の情報!
 実は2018年のライブでもこの曲は披露されており、ダーティ・ノブズの重要なナンバーの一つのようだ。3月に発売になる新譜 [Wreckless Abandon] にも、収録されているのは確かだ。
 この曲は、誰かのカバーなのか、それともマイクのオリジナルの新曲なのか。ちょっとググっただけでは分からない。

 この曲のリフは、かつてマイクがTP&HBの公式サイトに動画をアップしていた、"The Guitars" のエンディング・テーマにそっくりだ。
 あの当時、とても美しい曲なので、歌もつけてハートブレイカーズのアルバムに収録してほしいと思ったものだ。
 いま、"Irish Girl" というこの魅力的な曲として完成したのだとしたら、凄く嬉しい。

 ボブ・ディラン、ザ・バーズ、ザ・バンドなどのフォーク・ロックの流れをくみ、それでいてトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズっぽい力強さと、切なさを内包している。
 しみじみと、名曲だなぁと思う。もしオリジナルがほかにあるなら、そちらもぜひ聴いてみたい。