盤渉参軍 全曲演奏会2020/01/09 22:14

 1月6日、四谷区民ホールで、伶楽舎の雅楽演奏会が開かれ、芝祐靖先生が復曲した、「盤渉参軍(ばんしきさんぐん)」の全曲が演奏された。
 午後の部と夜の部、あわせておよそ六時間かかったという、大演奏会だった。
 私は仕事があったので、夜の部のみ鑑賞。午後と夜両方は、演奏する方はもちろん、聴く方も大変だっただろう。

 「盤渉参軍」は、十世紀に源博雅(通称、博雅三位 はくがのさんみ)が編纂した笛譜に記されている楽曲で、その演奏は絶えていたが、芝先生が譜面から復曲し、序だけで十三帖、破が十帖。さらに芝先生が作曲した急(参軍頌)という構成になっている。
 繰り返すようだが、六時間近くかかったたという大曲だ。これは、やりもやったりという感じで、伶楽舎の快挙と言えるだろう。
 私は現代雅楽音楽というものが苦手で、古典と復曲ものが好きだ。だから今回の演奏会は大満足で、まさに雅楽を浴びるように聞き、浸ったというに近い。

 さて。
 演奏会の翌日は、偶然、音大時代のクラス会だった。クラス会と言っても、小さな学科だったので、少人数の集まりで、ほとんどが芝先生や、宮田まゆみ先生にお世話になった連中ばかりである。

 当然、前日の演奏会の話になった。
 あれはもう、やった、というだけで意義があるよね、という意見で一致。
 集まった同級生の中には、伶楽舎のメンバーがいるので、ついでに私は訊いてみた。どうも幕の降りるタイミングが早かったような気がする。観客が拍手喝采しようとするタイミングを逸するほど、幕が早く降りるのだ。あれはどういう訳か。
 明確な答えがあった。
 楽員の足腰が痛いのだという。
 みんな、一刻も早く胡坐を解いて、足腰を伸ばしたい。痛くてたまらない。だからできるだけ早く幕を下ろすよう、仕掛けているのだという。これには大笑いした。

 話できくだけなら笑えるが、実のところ長時間、固い床の上で胡坐をかいたまま、微動だにせずに演奏しなければならないというのは、きつい仕事だ。
 私が雅楽を音大でやっていたときは、授業せいぜい90分ぐらい。若かったからそれほど苦痛ではなかったのだが ―― 楽員である友人は、最近あまりにも足腰が痛むので、これからの演奏活動も考えて整体に行っているという。
 演出によっては、演奏後、幕が上がったまま、しずしずと立ち上がって、退場しなければならず、これがまた辛いのだそうだ。そういえば、能をやっていたころ、「清経」のような長い素謡を終えたとき、何事も無かったように立ち上がるのが、結構な真剣勝負だったことを思い出す。

 今回の演奏会は、はからずも芝先生の追悼演奏会になってしまったのが、寂しい。それと同時に、芝先生を共通の思い出とする仲間とのひとときが、最高に楽しい。
 五月には、また伶楽舎の雅楽演奏会で芝先生の曲が演奏される。今から楽しみだ。