Conversations with Tom Petty2017/12/09 21:06

 トム・ペティの追悼イベントの時、ファン仲間のCさんが、別れ際に言った。

 「カントム、読み直してるよ。あれにかなり救われてる。ペティ、翻訳してよ。」

 Cさんの言う「ペティ」とは、2015年に発表された、ウォーレン・ザネスによる、トム・ペティの伝記だ。

 私はすっかり、「カントム」 ― [Conversations with Tom Petty] (2005年)の全文を翻訳していることを忘れていた。
 もちろん、完全に忘れていたわけではないが、トムさんが亡くなったあと、そのことにあまり思いが至らなかった。Cさんに言われ、改めてそうだ、あれを完訳したのだと思った。

 全文は、私の書き物倉庫である、Cool Dry Place「カントム」 に、保管してある。

 改めて読んでみた。



 自分が完訳したときにも、このブログの記事にしている。2011年11月6日のことだ。出版から6年目の完訳だった。

 改めて読み、驚いた。意外と悪くない文章だ。もっとボロボロなのかと思ったが、そうでもない。もちろん、ところどころ直したいところはあって、完璧というわけにはいかないが、我ながら読みやすく、何と言っても内容が面白かった。
 完訳したときの記事にも書いたが、トムさんの話し方が良いのだろう。とても分かりやすい話し方をする。基本的に、頭が良い人なのだ。
 何と言っても、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの活き活きとした歩みを、様々なエピソードを交えて整然と、とらえることが出来て、飽きさせない。

 全体を通して認識に新たにしたのは、トムさんが勤勉で、真面目な人だということ。それでもってロックンローラーだったのだから、希有な人材と言える。
そして、彼がミュージシャンとして生きた間に、無数の素晴らしい人々と出会ったことが印象的だった。おそらく、自分にとって、良くない悪影響を及ぼすと思われる人とは、距離を取っていたのだろう。その一方で、良い人と出会うと、瞬時にそれを感じ取り、がっちりと掴んで放さないのだ。そして、相手の方もまた、トムさんの魅力に気づき、友情を深めてゆく。そういうタイプの人だったのだと思う。

 翻訳のきっかけは、ジョージに関するエピソードの多さだ。ジョージとトムさんのエピソードを紹介したくて、翻訳を始めた。トムさんが語るジョージへの気持ちの篤さが、登場するたびに伝わってくる。
 そして、まるでラブレターのようだと思った。音楽への愛情、家族、友人、支えてくれる人々、ファンへの愛情、全てへのラブレターのような言葉の数々。
 マイクのことなど、本当に誇らしく、愛情深く、何度も語られている。トムを失った今、マイクがこれを読んだら、どう感じるのだろうか。瞳の裏側が、カッと熱くなるような、胸が打ち震えるような ― 何とも言いようのない気持ちになるのではないだろうか。

 「カントム」は今、ネット通販で、もの凄い金額になっている。日本でもアメリカでも同じ状況のようだ。Kindle版なら普通の価格で買える。しかし、やはり紙で再版してほしいものだ。