LennoNYC2013/01/06 20:56

 長い休暇の間、どこへも出かけず、もっぱら録りだめしていた海外ドラマなどのテレビ番組や、映画を見るのに費やしていた。

 その中で、最後まで見ずにおいていたのが、ジョン・レノンの70年代とニューヨーク,アメリカでの活動を追った作品、「ジョン・レノン,ニューヨーク LennoNYC」だ。元々は、[American Masters] という、テレビ向けのドキュメンタリー・シリーズの一作品である。
 なぜ最後まで見ずにおいていたのかと言えば、ジョンのビートルズ以降の活動に対する、私の評価が高くないから。音楽的にも、スタイル的にも。



 小野洋子との出会いや、ビートルズ解散前後の経緯、イングランドで作った [Imagine] などは全く登場しない。ジョンと小野洋子がニューヨークに拠点を移したところからドキュメンタリーは始まる。
 私はジョンが米国政府から目をつけられ、「迫害」されていたという「陰謀」の被害者だという話には、あまり興味がなかった。この作品では、泥沼化するベトナム戦争と、それに対する反戦運動。運動にのめり込み、影響力の片鱗を見せるジョン・レノン ― 当局としては、無視できないという状況がよく描かれていた。それは決して大袈裟な「陰謀」騒ぎではなく、ジョンだけの問題ではなく、さらにジョン・レノンの価値を高めるものでもない。そういう時代の、そういう人々だったのだ。
 反戦運動、政治活動を叫ぶジョン・レノンの「音楽」はこき下ろさる。さすがにこの下りは、「そりゃそうだ…」という、従来の感想がそのままだった。
 あの最高のソングライターであったジョンの才能は姿を消し、演奏から美しさも失せてしまっている。一番の問題は、小野洋子という、音楽的な要素がまったくない存在。ポール・マッカートニーをパートナーに選び、ビートルズとして最高の音楽を作りあげた、あのジョン・レノンの音楽的価値判断の崩壊…私には、目も、耳も背けたくなるジョン・レノンがいる。
 しかも、絶大と思われていたジョンの影響力の限界と、音楽の力という幻想の現実まで突きつけられる。音楽で出来上がっているジョンが潰されるのは、当然だろう。結局、ジョンには政治活動は合わなかったということを、ドキュメンタリーは証明したのかも知れない。

 ドキュメンタリーは、小野洋子との別居、LAへの移住(失われた週末)、酒(と、ドラッグ)に溺れる、自堕落な生活へと推移する。
 LA時代の証言者として、ジム・ケルトナーとクラウス・フォアマンが登場するのだが、慣れぬ異国で古い同郷の馴染みに巡り会ったような感覚がした。この不思議な安心感。それまでは、東部の運動家や、政治メッセージが第一の見知らぬミュージシャンばかりがジョンを囲んでいて、見ているこっちの居心地が悪かったのだ。
 LAで荒れるジョンを、迎えに来てくれと頼まれた小野洋子の返答が、痛快で好きだ。
「今まで、私がジョンを独占していると非難してきたのに、今になって困ったから、迎えに来てくれって、なにそれ?!」
 …おっしゃる通りです。

 小野洋子は、悪い人ではないのだ。たぶん。強く、個性を重んじる、才能豊かな人なのだろう。ただ、音楽的才能は無い。前衛芸術は、私にはよく分からない。少なくとも、ロックンロール・ミュージックの音楽価値基準に照らすと、彼女の「作品」は非音楽的で、受け入れ難い。
 ジョン・レノンのファンとしては、そういう「非音楽的」な小野洋子の作品を、自分の作品と同等に評価してしまうジョン・レノンは、さらに受け入れ難いのだ。しかし、ファンはファン。ジョンを否定するわけにも行かない。そうすると、小野洋子を攻撃することになってしまう。
 ファンにとっても、小野洋子にとっても不幸な結果。ジョンにかなりの責任があると思われる一方、小野洋子も、自分の「作品」はジョン・レノンの音楽世界を客観的に判断する中には、どうしても入ってこないとは、考えてくれない。要するに、分かってくれない。その「どうしようもなさ」が二重構造になっている。もっと大きな次元での価値判断ができれば、ジョンの音楽も、彼女の音楽も同じカテゴリーで価値判断できるのかも知れないが、そこまで高度な感覚は残念ながら持っていない。

 せっかく House Husband 期を終え、"Starting Over" や、"Woman" のような名曲を生み出したジョンだが、その不思議な音楽価値判断は、[Double Fantasy] でも再現されてしまった。
 ドキュメンタリーは建設的で、健康的な1980年のジョンを幸せに描く。一方で、私の彼に対する失望感は、その死で払拭されることなく、終わってしまう。他人であり、ただのファンである私にとって、ジョン・レノンの最大の悲劇は、この点なのかも知れない。

 レコーディング中のジョンの声や、デモ音源、そして効果的な音楽の使い方など、よく出来ていたと思う。ぞっとするような小野洋子の音の時は、ウクレレの練習をしてやり過ごす。
 DVDなどのソフトはいらないけど、一度は見ておくと良い作品だった。

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