Beethoven No. 9 in Suntory hall2011/11/03 22:44

 サントリーホール25周年記念、ベートーヴェンの「交響曲第九番」の演奏会に行った。NHK交響楽団に、東京混声合唱団・二期会合唱団。これだけでもクォリティが高そうだったし、一緒に演奏されるモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」が魅力的だったので、珍しく行く気になった。
 指揮はクリストファー・ホグウッド。音楽学者でもあり、古楽器演奏の研究と実践でも有名。いわば、感覚派というよりは、学者肌の指揮者に分類されるだろうか。第二楽章など、ピョンピョン跳ねながら指揮していた。
 休日なので開演は早いが、ホールと演奏者,曲目の格もあるので、観客達の多くは、それなりにおしゃれをしていた。これは良いことだと思う。舞台上の演奏者がホワイト・タイで正装しているのに、客席がTシャツとか、ポロシャツというのはいただけない。



 まず、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。中編成の弦楽に、パイプオルガン、合唱。テンポはやや早め。この曲はモーツァルトの作品の中でも最高の美しさなので、小細工は不要。ただシンプルに演奏するだけで、震えるほどの感動を呼ぶ。

 そして、「第九」。やはりあの湧きでるが如き不思議な始まりは、生で聞くのが一番。第三楽章までは、いたってスタンダードな演奏。やはり「第九」と言えば、合唱を伴う第四楽章をどう演奏するかに特徴が出るし、大方の聴衆の印象もそれで決定してしまう。
 まず出だしはやや早め。このまま合唱部分もテンポを保って入る。― その前にバリトンのソロが入るのだが、このルドルフ・ローゼンというバリトンは、リート(ドイツ語歌曲)歌手としてキャリアをスタートしたとのことで、いかにもそういう雰囲気の歌い方をする。第九のソリストとしては珍しい語り口だったが、これも面白い。
 ソリストの中では、ソプラのスザンネ・ベルンハルトが良かった。とても通りの良い華やかな声だ。

 一番驚いたのが、いわゆる「トルコ行進曲」のところ。のけぞって驚くほどに、テンポがゆっくりなのだ。あの緩いテンポを保つ方がよっぽど大変で、こっちまで緊張してくる。
 テンポをいつ上げるのかとドキドキしてしまったが、これが緊張感を保ったまま上げてこない。うわ、凄いなと思っているのは聴衆の方で、管楽器は大変だろう。しかしこの張り詰めた雰囲気の中 ― 実際、演奏者の表情も張り詰めていた ― 最後まで運んでいった。
 合唱はさすがにプロ集団だけに、パワーも安定感も抜群だった。ただし、第四楽章まで待つ合唱団の中 ― 男声の最後部中央付近の人が、爆睡していたのが気になったが。けっこう合唱の人が手や顔を動かしているのだが、これが意外と目立つ。N響と第九と言えば、年末に母校の声楽科が合唱を担当するが、その学生達は待つ間ぴくりとも動かないよう、厳しく指導されているそうだ。プロなので、その辺りはしっかりしてほしい。

 とにかく、「トルコ行進曲」からどっとテンポを落とし、最後まで引っ張った。そして合唱が終わり、コーダに入った途端にものすごい巻き方。テンポアップでフィニッシュ。
 かなり変わった演奏だったが、すごく良かったというのが感想だ。会場の雰囲気も良かったので、聴衆も満足していたのではないだろうか。
 やはり第九は名曲。最後の最後に、圧倒的な迫力で押し切る潔さ、格好良さ。一度はホールで生の第九を聞くことをお勧めする。

 クラシック音楽というのは、何百年も前に作曲された作品を、飽きもせずに何回も演奏する音楽ジャンルだ。それでも聞くたびに違う感想を持つ。芸術は、常に何かが新しくなければいけないわけでもない。まったく同じものを何度観賞しても何事かを感じ取る。そういう鋭い鑑賞力も、我々には要求されるだろう。
 クラシックにはあまり興味がないが、たまに聞くと、「これは知っているから面白くない」と言う鑑賞者にはなるまいと、自分を戒めずにはいられない。

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