George Harrison : Living in the Material World (1&2回目)2011/11/20 21:09

 マーティン・スコセッシ監督のジョージドキュメンタリー映画,「ジョージ・ハリスン:リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド」を見た。
 まずは、初日に六本木ヒルズ(写真上)。11月の東京としては珍しい豪雨の中、不慣れな六本木ヒルズを彷徨しつつ、観賞した。14時からの上演で、9時から席取りが始まったのだが、私が10時前に取ったときにはあと数枚という段階にあり、初日の凄さを思い知った。もちろん、この回はソールド・アウト。
 2回目は今日、有楽町で観賞(写真下。地下鉄の通路にポスター)。こちらもほぼ埋まっており、ある程度の熱気を感じた。

 写真より下は、ネタバレ前提での話になるので、これから観賞するので知りたくない方は、読み飛ばしていただきたい。





 意外な映画だった。私が想像していた映画とは、かなり違う映画だった。そして、深い映画だった。単純に「良い映画だった!」とか、「感動した!泣いた!」とか、「ジョージ最高!」…と声高に叫ぶのではなくて、なんだか凄く考えさせる映画だった。
 この映画は、ジョージの何にフォーカスしているのか。私は、ジョージの音楽と言うより、ジョージのスピリチュアルな側面を描いた映画だと思った。
 もし「音楽」を描くのが主たる目的の映画だったとしたら、これは消化不良だ。作曲法や、歌詞作り、ギタープレイ、プロデューシングなどについては、ほとんど描かれていないし、1972年以降のアルバムはまったく登場しない(ウィルベリーズのみが例外)。
 ジョージの音楽を鑑賞する上での助けをメインととらえる ― つまり、プロモーション映像の延長として鑑賞するのは勧めない。さらに、TP&HBの[Runnin' Down a Dream] のような、「歴史」をたどる映画としても不完全だ。
 オリヴィアとスコセッシは、あくまでもジョージの精神面を描く映画としてこれを創作したと思う。前半はビートルズ時代で、何もジョージの音楽人生を描くのにこれほどビートルズに時間を割く必要はなかろう。むしろ、この前半は愛する仲間と理想的なほど素晴らしいバンドをやるという、若者として最高の夢を達成しながら、そのことに抑圧され、もがき苦しむ苦痛の重さが、この長さに表れていると言えそうだ。インドの思想に出会い、それに没入してゆくジョージの言葉や、それに絡む延々と続く議論は、退屈かも知れないし、きついかも知れない。しかし、これもまた、ジョージの苦悩のある種の共有かも知れない。
 ジョージのソロワークの大ファンとしては、ビートルズの時間を半分にでもして欲しいところだが、そうするとジョージが後に達するスピリチュアルなレベルがいとも簡単に達成できてしまったかのように見えてしまう。前半の若きジョージの苦闘を、僅かでも私たちも感じればこそ、後半が映えたように思えた。

 そして後半 ― この開放感!「来たっ!」と思わず心の中で叫んでしまう。「ポール、ビートルズ脱退」の新聞紙面に流れる、大音量の "What is life"!なんて素晴らしい開放感!ビートルズ解散の瞬間を、これほど爽やかで、幸福感いっぱいに表現した作品があっただろうか?私は「ああ!」と声を上げてしまいそうなくらい、感動した。"What is life" … 私が大好きな曲。スコセッシのこの使い方に感謝だ。
 やがて、ジョンの死の辺りから、ジョージは自分の死に対する準備を始める。まだ三十代だというのに、彼は明確にそれを意識し始めていた。素敵な友人達との交流や、愛する家族を得た喜びを知りつつも、確実に「死」を思うジョージ。この特異な側面もまた、ジョージの魅力を作っているのかと思うと、ゾクっとする。
 そして病を得て、それと闘う姿。友人達はうろたえるが、妻のオリヴィアはジョージとこころを一つにして、その時を迎える ― 実に雄々しく、美しい彼女には、自信が溢れている。

 いよいよジョージが最期を迎えても、私は不思議と泣かなかった。CFGではあれほど号泣したのに。もちろん、ジャッキー・スチュワートや、リンゴの深い悲しみに、心が痛くなった。しかし、観賞前に予想したような大泣きはしなかった。
 ジョージ自身が死を迎える準備をしていたというその過程をずっと見ていることによって、ジョージが「泣かなくても良いんだよ」と仕向けてくれたかのようだ。
 インド思想や、スピリチュアルなどのことは、正直言って私には分からない。理解もできないし、しようという気もあまりないだろう。でも、生きるということ、死ぬということ、そういう単純で、複雑なことを深刻になりすぎずにぼんやりと思わせる映画だった。
 これは良い映画だ。「笑える映画」でもなければ、「泣ける映画」でもない。「ジョージの音楽の紹介映画」でもないし、ジョージを初めて聴く人に勧められる映画でもない。でも、良い映画だ。

 …と、ここまで語っておいてなんだが。ええ、もちろん色々アレな方面でも楽しかった!
 トムさーん!合格!合格です!エリック・クラプトン君…あーはははははは…(以下略!)ディラン様、手、手!小野洋子って良い人だったか?フィル・スペクターが怖いよー!クラウス?クラウス?!あなたに一体何が…?(レコード・コレクターズ12月号掲載の「レコスケくん」と、全く同ように「アレは一体…?!」と思った私でアル!)
 とにかく、色々あるので、続きはまた後日。