Beethoven No. 9 in Suntory hall2011/11/03 22:44

 サントリーホール25周年記念、ベートーヴェンの「交響曲第九番」の演奏会に行った。NHK交響楽団に、東京混声合唱団・二期会合唱団。これだけでもクォリティが高そうだったし、一緒に演奏されるモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」が魅力的だったので、珍しく行く気になった。
 指揮はクリストファー・ホグウッド。音楽学者でもあり、古楽器演奏の研究と実践でも有名。いわば、感覚派というよりは、学者肌の指揮者に分類されるだろうか。第二楽章など、ピョンピョン跳ねながら指揮していた。
 休日なので開演は早いが、ホールと演奏者,曲目の格もあるので、観客達の多くは、それなりにおしゃれをしていた。これは良いことだと思う。舞台上の演奏者がホワイト・タイで正装しているのに、客席がTシャツとか、ポロシャツというのはいただけない。



 まず、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。中編成の弦楽に、パイプオルガン、合唱。テンポはやや早め。この曲はモーツァルトの作品の中でも最高の美しさなので、小細工は不要。ただシンプルに演奏するだけで、震えるほどの感動を呼ぶ。

 そして、「第九」。やはりあの湧きでるが如き不思議な始まりは、生で聞くのが一番。第三楽章までは、いたってスタンダードな演奏。やはり「第九」と言えば、合唱を伴う第四楽章をどう演奏するかに特徴が出るし、大方の聴衆の印象もそれで決定してしまう。
 まず出だしはやや早め。このまま合唱部分もテンポを保って入る。― その前にバリトンのソロが入るのだが、このルドルフ・ローゼンというバリトンは、リート(ドイツ語歌曲)歌手としてキャリアをスタートしたとのことで、いかにもそういう雰囲気の歌い方をする。第九のソリストとしては珍しい語り口だったが、これも面白い。
 ソリストの中では、ソプラのスザンネ・ベルンハルトが良かった。とても通りの良い華やかな声だ。

 一番驚いたのが、いわゆる「トルコ行進曲」のところ。のけぞって驚くほどに、テンポがゆっくりなのだ。あの緩いテンポを保つ方がよっぽど大変で、こっちまで緊張してくる。
 テンポをいつ上げるのかとドキドキしてしまったが、これが緊張感を保ったまま上げてこない。うわ、凄いなと思っているのは聴衆の方で、管楽器は大変だろう。しかしこの張り詰めた雰囲気の中 ― 実際、演奏者の表情も張り詰めていた ― 最後まで運んでいった。
 合唱はさすがにプロ集団だけに、パワーも安定感も抜群だった。ただし、第四楽章まで待つ合唱団の中 ― 男声の最後部中央付近の人が、爆睡していたのが気になったが。けっこう合唱の人が手や顔を動かしているのだが、これが意外と目立つ。N響と第九と言えば、年末に母校の声楽科が合唱を担当するが、その学生達は待つ間ぴくりとも動かないよう、厳しく指導されているそうだ。プロなので、その辺りはしっかりしてほしい。

 とにかく、「トルコ行進曲」からどっとテンポを落とし、最後まで引っ張った。そして合唱が終わり、コーダに入った途端にものすごい巻き方。テンポアップでフィニッシュ。
 かなり変わった演奏だったが、すごく良かったというのが感想だ。会場の雰囲気も良かったので、聴衆も満足していたのではないだろうか。
 やはり第九は名曲。最後の最後に、圧倒的な迫力で押し切る潔さ、格好良さ。一度はホールで生の第九を聞くことをお勧めする。

 クラシック音楽というのは、何百年も前に作曲された作品を、飽きもせずに何回も演奏する音楽ジャンルだ。それでも聞くたびに違う感想を持つ。芸術は、常に何かが新しくなければいけないわけでもない。まったく同じものを何度観賞しても何事かを感じ取る。そういう鋭い鑑賞力も、我々には要求されるだろう。
 クラシックにはあまり興味がないが、たまに聞くと、「これは知っているから面白くない」と言う鑑賞者にはなるまいと、自分を戒めずにはいられない。

Conversations with Tom Petty2011/11/06 20:12

 昨日11月5日付けで、Cool Dry Placeに、「カントム」こと、[Conversations with Tom Petty] のチャプター2,[anything that's rock 'n' roll] のアヤシゲ翻訳をアップした。原本が発表された2005年から数えて、6年目の完訳となった。さすがに、大仕事を一つ終えたような気がする。



 そもそも、ハードカバーで302ページ、薄くもないこの本を翻訳する気になったきっかけというのは、他愛もなかった。文中に、やたらとジョージ・ハリスンが登場するのだ。どうやら、マイク・キャンベルの次に頻繁に登場するのがジョージらしい。
 ジョージ・ファンに、「トム・ペティが語るジョージ」を教えてあげたくて、ウィルベリーズの下りあたりから翻訳を始めた。巻末の索引を頼りにジョージが登場するところを翻訳しているうちに、ジョージを追うだけでもこの本のかなりの割合をカバーすることに気付いた。
 だったら、ついでに全文翻訳だってしても良いのではないかと思い始めたのは、3年ほど前だろうか。特に一昨年、ポメラを購入して通勤時間で翻訳を始めてからはかなりはかどった。「カントム」翻訳に貢献してくれたのは、電子辞書とインターネット検索、そしてポメラだ。
 以来、順調に翻訳を進めてきたが、今年3月、あの震災が起きた。あれ以来、生活パターンが少し変わり、通勤翻訳をやめたため、最後の最後に来て翻訳スピードが落ちた。それでも残すはチャプターにして三つほどだったため、完訳にこぎつけた。
 私の翻訳文を楽しみしてくださっている方々から、感想や感謝のお言葉などをいただき、本当に励みになった。この場でお礼を申し上げたい。

 翻訳を通じて感じ続けてきたのは、トム・ペティという人がとにかく頭の良い人だということだ。この人は、物事を説明する能力が非常に高く、要するに話すのが上手い。これらの能力は、誰でも当たり前に出来そうで、本当の実力を持つ人は少数である。
 トムは決して難しい言葉や、技巧を尽くした表現をする人ではないが、物事を説明する前にきちんと頭の中で順序立て、人に分かり易く伝えるのに最善の方法を見いだしてから、口を開いている。翻訳する方としては、ありがたい人だと思う。
 ポール・ゾロという「著者」が居る以上、トムの言葉をきちんと整理していることは分かるが、映画[Runnin' Down a Dream] で話していたトムの口調は、「カントム」とほぼ同じで、ゾロによる「編集」はそれほど必要なかったのではないだろうか。

 もう一つ、感じたのは、トム・ペティの記憶力の良さである。彼は話す内容にほぼズレがない。この人は何でもかんでも雑多に覚えているのではなく、物事に関して、その一番ポイントになるとことを、的確に覚えている。「カントム」の内容は膨大と言って間違いないが、つじつまが合わなかったり、情報に齟齬があったりという点はほとんど無かった。
 一方、博覧強記なファンの方が、よほど知識があって、トムの記憶違いや作り話を指摘をしたりするのかも知れない。ボブ・ディランのクロニクルのように、文学性の高い作品だと、そういう面もおおいにあるだろう。しかし、少なくとも私は、この「カントム」に関してそういう指摘をいちいちする気が起きない。
 トム・ペティはクレバーで、物覚えが良く、しかも大事なことは忘れない。基本的に現実認識力があり、冷静。だからこそ、バンドを長年にわたって引っ張り続け、レコード会社を相手に闘い、世間に対してモノを申すこともできたのだろう。それでいて、ロッカーとして大事な情熱、反骨心、愛情、友情を豊富に持っている。そういう愛すべきトム・ペティを感じ続ける、6年間だった。
 無論、翻訳していて辛いこともあった。トムが恐怖と衝撃を語る、火事の時。悲しいハウイとの別れ。 ― そして女子ファンとしては当然と言うべきか、のろけ。逆に翻訳していて一番楽しかったのは、やはりマイクをはじめとするバンドメンバーや、ジョージ、ディラン、ジェフ・リンなどとの交友、そしてバンドがデビューする前の子供の頃や、マッドクラッチ時代の話が面白かった。
 最高の音楽のみならず、素敵なロング・インタビュー本を送り出してくれたポール・ゾロと、トム・ペティにも感謝を申し上げたい。

最後に!「カントム」に登場した強烈キャラ、ベスト・ファーイブ!

第5位 マイク・キャンベル
 大事な相棒マイク、いつもトムの側で支えてくれる最高のメイト!でも、ギター馬鹿!なぁ~んにもない野っぱらで、誰も居ないのに、ぽつーんとギターを弾いている。ちょっとドキドキするぞ!

第4位 デニー・コーデル
 目を付けたマッドクラッチをかっさらう、謎のエゲレスおっさん!問答無用、スタジオに置き去り、缶詰め、アートを理解しろ!そしてバンドをレーベルごと売り飛ばす!それでも友達!謎だ。

第3位 ジョージ・ハリスン
 知っていたけど、「友達ハント」能力が半端ない!初対面で、「これからの人生、きみ無しでは考えられないよ!」…って男に言うな!言うか!ウクレレあめあられ。そのうち屋根からばらまくぞ。トムさんとつきあっていた期間は14年ほどだったけど、その登場回数のすさまじさは、マイクもびびるほどだ!

第2位 デイヴ・スチュワート
 登場回数は少ない癖に、出てくるといちいちロクでもないことをしている、変なイギリス人!(5人中3人がイギリス人か…)変な衣装でやってくるのみならず、自分が病院であーんな所に、あーんなことされてるビデオを見せるとは、逮捕するぞこの変態!

第1位 トムさんのパパ
 最初に原本を読んだときから、一番のインパクト!超ワイルドおやじに、青白いブロンド・アート男子のトムさんドン引き!車は側溝に落とす、まずい鳥を狩る!ワニを捕獲し、目にパンチをくらわす!そして極めつき、ガラガラヘビと闘う!ぶんぶん振り回す!一体何の本だか分からなくなってきた!

Help ! / Overture2011/11/09 21:40

 先週の「N響アワー(毎週日曜20時ETV)」は、オペラの序曲特集だった。
 私は序曲が少し好き。派手な曲が多いし、長すぎず、作曲家も管弦楽の見せ所として力が入るせいか、面白い曲が多い。もっと言えば、オペラ全体を見なくても、序曲だけで構わないような気がする場合もある。学生時代、音楽史の授業で、バロック前半期のミニ研究発表があったのだが、「オペラの序曲のみ」を題材にしようとして、教授に「オペラ全体にしなさい」と言われた。

 N響で、ロッシーニの「セヴィリアの理髪師序曲」を聴き、真っ先に思い出すのは、もちろんビートルズだ。
 ビートルズの映画の中で私が一番好きなのは、[Help !]。楽曲も良いが、なんと言ってもスラップ・スティック・コメディとしての出来が最高。ビートルズのコメディ的才能も光るし、リチャード・レスター監督の才能が十分に発揮されている。ちなみに、いわゆる「三銃士映画」の最高峰はレスター作品であり、どうも他の映画は見る気が起きない。
 「セヴィリアの理髪師 序曲」は、[Help !] のエンディング・クレジットで流れる。エンディングに「序曲」というのもおかしな話だが、ばっちりはまっている。曲にあわせて、ビートルズの面々がヘンテコな歌を歌っている。場面としては、ジョージが近づいてきて、トップハット(シルクハット)を脱ぐシーンが好き。ロックスターにトップハットという素敵な組み合わせは、この映画以前にはあるのだろうか?スキーをするジョージにトップハットをかぶせた人は、天才だと思う。



 [Help !] に登場するクラシック。お次はワーグナー。夜中にビートルズの面々が住むフラットへ、カイリ教の面々が突入し、大乱闘を演じるシーン。
 曲は、オペラ「ローエングリン]第三幕への前奏曲。前奏曲は序曲の小規模版とでも言うべきか。派手。要するに派手。
 私はワーグナーに興味がないし、「ローエングリン」のストーリーを読む気にもならない。しかし、「ローエングリン」には有名な「結婚行進曲」が含まれるし、この「第三幕への前奏曲」のように、パーツパーツを聴けば格好良い楽曲もある。
 この場合は、ビートルズとカイリ教のみなさんのドタバタあってこその格好良さかな。



 三曲目は、チャイコフスキーの、序曲「1812年」。この場合の序曲はオペラの序曲ではなく、単独で一つの楽曲を成し、物語性を帯びる、「演奏会用序曲」のこと。「1812年」とは、1812年のロシア戦役(ナポレオンによるロシア侵攻とその失敗・ロシアの勝利)をあらわしている。
 最後はロシアがナポレオン軍を大いに破る(いわゆる「冬将軍」)この戦役を、派手に表現しており、楽譜に本物の大砲(Canon)のパートがあることでも有名。多くの演奏会では大太鼓が代行するが、主に野外の音楽フェスティバルや、軍楽隊の演奏などでは、本物の大砲をぶっ放す。この「名物」は、某大物推理作家が某短編でトリックに使っていた。
 もっとも、このオーケストラ楽曲に本物の大砲を入れるという演出はチャイコフスキーがオリジナルというわけではなく、ベートーヴェンも「ウェリントンの勝利」で使用している(ちなみに、この「ウェリントンの勝利」の題材となった「ビトリアの戦い」も、「ボナパルト」(ナポレオンの兄,ジョセフ)側の敗戦となっている)。

 [Help !] における「1812年」は、ソールズベリー平原でのシーンに登場する。
 レコーディング中のビートルズを、カイリ教が軍隊でもって攻撃!ビートルズを護衛する側も応戦するが、カイリ教軍の大砲がビートルズの乗る戦車を直撃。よろこぶカイリ教のみなさんを祝福するように、「1812年」が鳴り響くというわけ。
 正直言って、私はこのシーンが大好きだ。もっと言えば、カイリ教の皆さんを応援している。あの間抜けさが最高。軍備がどういうわけか19世紀風なのも良い(一部、第一次世界大戦風?)。
 残念ながら、YouTubeにはちょうど良い映画のシーンがなかったので、ここは代わりにBBCプロムスをどうぞ。大砲のところは、舞台後方に仕掛けた火薬と煙と爆音、花火で代用。これもなかなか迫力があって良い。盛り上がりもプロムスならでは。映画で使用しているのは、4分45分ごろから。



 この馬鹿馬鹿しい中にも、やたらと大掛かりな曲を展開させるセンスは、「ブルースブラザーズ」にも通じる。そんなシーンにフィットするチャイコフスキー。やはりレスターのセンスは最高だと思う。

ヨコシマなボクら2011/11/13 19:57

 引き続き、英国男子達のボーダーシャツが気になる。
 最初に気になり始めたのは、再三登場しているが、マーティン・フリーマンがドラマ中で着ていたこれ。



 ザ・マイティ・ブーシュのジュリアンも、ノエルもヨコシマ。





 ブーシュと縁の深い[The IT Crowd](ハイっ、こちらIT課!)のロイもヨコシマ着用。彼は「宇宙、人生、すべての答え」のTシャツを着てることもあった。

 

 英国オシャレバンドの連中はどうだろう。ためしに、レイザーライトを見たら、元メンバーのアンディがヨコシマだった。



 そもそも、英国男子にとっておしゃれかどうか以前に、このヨコシマシャツは、泥棒のシンボルコスチュームではなかっただろうか。
 と、いうわけでモンティ・パイソンで確認。女性用下着専門店に押し入った泥棒。どういうわけか礼儀正しい。
「おはようございます。銀行強盗です。お金を出して下さい。」
「当店は下着専門店でございます。」



 モンティ・パイソンを見ていたら思い出した。このヨコシマは、泥棒とともに、「フランス人」の象徴ではないか!そう、日本人と言えば「メガネ,でっぱ、カメラ」と同じように、フランス人と言えば、「ボーダーシャツに、ベレー帽、フランスパン」!
 そのようなわけで、モンティ・パイソンの名作スケッチ、「羊のコンコルド」を、おフランスの二人にご紹介いただきましょう!



 マイケルがジョンに髭を貼り付けるときに吹き出してしまい、後ろを向いてごまかすところがす好きだ…。
 そんな今時、フランス人=ヨコシマなんて言わないだろう…と思ったら、東京ガスのCMに登場したフランス人たちが、ばっちりヨコシマだった…(CM動画はこちら



 そして最後に登場するのは…!そう、20世紀最大の事件、ザ・ビートルズ!ええい、どけ、若造ども!ヨコシマってのはこう着こなすモノだ!



 この四人にこのスイミング・スーツを着せた人も凄い。それを完璧に着こなす若きFABはさらに凄い!いやぁ、ここまで何を着てもハマるバンドは、ほかにはないだろう!
 それにしても、どうしてジョージだけロングタイツスタイルなんだろう?細さが際立っておりますが…似合うからまぁいいか。左手の腰への添え方が、ジョージだけ女子っぽい。可愛いからまぁいいか。

あの人とランチを2011/11/17 22:34

 ちょっと奥さん、ご覧になりましたぁ?あの、マイク・キャンベル先生とランチがご一緒できて、しかもギターのレッスンをつけていただける権利が、オークションにかけられているんですってよ!んまーぁ!!!どうしましょう!



 日本時間17日夜の時点で、3350ドル…ええ…円高でして。1ドル75円とすると、約25万円!!!
 はい先生、質問!おランチを食す前に、マイクを食べても良いですか?!

 落ち着け。

 そもそも、このオークションの目的は、マイクが活動しているRock The Dogsというワンコのためのプログラムの…ための寄付…らしい。
 私はあまり動物に興味がないため、活動内容は良く分からないが、とにかくこのオークションにビッドして勝ち抜くと、マイク先生とお昼ご飯をご一緒して、さらにギターのレッスンまでしてくれる!
 20万、30万出しても、そりゃぁその権利が欲しいよね。…あ、お昼はお犬さまと一緒なの?別に構わないけど。和牛食べる?おお、マイクはたしか日本食好きじゃなかっけ?わーい、日本食、日本食!

 そして、その後…なのかな?ギターレッスンは。私は経験から言って、レッスンは1時間、みっちり先生に怒鳴られまくり…終わると疲労困憊というのを想像するが、違うだろうな。楽しいんだろうな。私もギターが弾ければなぁ。ビッドするんだけど。
 やっぱりTP&HBの曲をレッスンするのだろうか。それとも、ブルースなどの基礎かな。生徒が持ち込んだ曲を弾くのか。「アルハンブラの思い出」とか?

 ここで提案だ。ベンモント、ピアノレッスンしようぜ!今、バッハの平均律なんだ。レッスンしてくれ!ピアノはカワイかヤマハでよろしく!あ、その自慢のスタインウェイはいいから。

 そうこう言っている内に、いよいよ11月19日が近づいてきた。ジョージのドキュメンタリー映画 [George Harrison : Living in the Material World] が2週間限定で映画館上映される。さっそく19日と20日に見に行くつもり。
 今は「わぁい、ジョージだ、ジョージだ♪」などと浮かれているが、よくよく考えてみると、最後は異常に泣かされる展開になるのではないか…と、ビクビクしている。この映画見て、その後でCFGなど見ると、脳味噌が全部涙腺から出ちゃって廃人になるんじゃないだろうか…

George Harrison : Living in the Material World (1&2回目)2011/11/20 21:09

 マーティン・スコセッシ監督のジョージドキュメンタリー映画,「ジョージ・ハリスン:リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド」を見た。
 まずは、初日に六本木ヒルズ(写真上)。11月の東京としては珍しい豪雨の中、不慣れな六本木ヒルズを彷徨しつつ、観賞した。14時からの上演で、9時から席取りが始まったのだが、私が10時前に取ったときにはあと数枚という段階にあり、初日の凄さを思い知った。もちろん、この回はソールド・アウト。
 2回目は今日、有楽町で観賞(写真下。地下鉄の通路にポスター)。こちらもほぼ埋まっており、ある程度の熱気を感じた。

 写真より下は、ネタバレ前提での話になるので、これから観賞するので知りたくない方は、読み飛ばしていただきたい。





 意外な映画だった。私が想像していた映画とは、かなり違う映画だった。そして、深い映画だった。単純に「良い映画だった!」とか、「感動した!泣いた!」とか、「ジョージ最高!」…と声高に叫ぶのではなくて、なんだか凄く考えさせる映画だった。
 この映画は、ジョージの何にフォーカスしているのか。私は、ジョージの音楽と言うより、ジョージのスピリチュアルな側面を描いた映画だと思った。
 もし「音楽」を描くのが主たる目的の映画だったとしたら、これは消化不良だ。作曲法や、歌詞作り、ギタープレイ、プロデューシングなどについては、ほとんど描かれていないし、1972年以降のアルバムはまったく登場しない(ウィルベリーズのみが例外)。
 ジョージの音楽を鑑賞する上での助けをメインととらえる ― つまり、プロモーション映像の延長として鑑賞するのは勧めない。さらに、TP&HBの[Runnin' Down a Dream] のような、「歴史」をたどる映画としても不完全だ。
 オリヴィアとスコセッシは、あくまでもジョージの精神面を描く映画としてこれを創作したと思う。前半はビートルズ時代で、何もジョージの音楽人生を描くのにこれほどビートルズに時間を割く必要はなかろう。むしろ、この前半は愛する仲間と理想的なほど素晴らしいバンドをやるという、若者として最高の夢を達成しながら、そのことに抑圧され、もがき苦しむ苦痛の重さが、この長さに表れていると言えそうだ。インドの思想に出会い、それに没入してゆくジョージの言葉や、それに絡む延々と続く議論は、退屈かも知れないし、きついかも知れない。しかし、これもまた、ジョージの苦悩のある種の共有かも知れない。
 ジョージのソロワークの大ファンとしては、ビートルズの時間を半分にでもして欲しいところだが、そうするとジョージが後に達するスピリチュアルなレベルがいとも簡単に達成できてしまったかのように見えてしまう。前半の若きジョージの苦闘を、僅かでも私たちも感じればこそ、後半が映えたように思えた。

 そして後半 ― この開放感!「来たっ!」と思わず心の中で叫んでしまう。「ポール、ビートルズ脱退」の新聞紙面に流れる、大音量の "What is life"!なんて素晴らしい開放感!ビートルズ解散の瞬間を、これほど爽やかで、幸福感いっぱいに表現した作品があっただろうか?私は「ああ!」と声を上げてしまいそうなくらい、感動した。"What is life" … 私が大好きな曲。スコセッシのこの使い方に感謝だ。
 やがて、ジョンの死の辺りから、ジョージは自分の死に対する準備を始める。まだ三十代だというのに、彼は明確にそれを意識し始めていた。素敵な友人達との交流や、愛する家族を得た喜びを知りつつも、確実に「死」を思うジョージ。この特異な側面もまた、ジョージの魅力を作っているのかと思うと、ゾクっとする。
 そして病を得て、それと闘う姿。友人達はうろたえるが、妻のオリヴィアはジョージとこころを一つにして、その時を迎える ― 実に雄々しく、美しい彼女には、自信が溢れている。

 いよいよジョージが最期を迎えても、私は不思議と泣かなかった。CFGではあれほど号泣したのに。もちろん、ジャッキー・スチュワートや、リンゴの深い悲しみに、心が痛くなった。しかし、観賞前に予想したような大泣きはしなかった。
 ジョージ自身が死を迎える準備をしていたというその過程をずっと見ていることによって、ジョージが「泣かなくても良いんだよ」と仕向けてくれたかのようだ。
 インド思想や、スピリチュアルなどのことは、正直言って私には分からない。理解もできないし、しようという気もあまりないだろう。でも、生きるということ、死ぬということ、そういう単純で、複雑なことを深刻になりすぎずにぼんやりと思わせる映画だった。
 これは良い映画だ。「笑える映画」でもなければ、「泣ける映画」でもない。「ジョージの音楽の紹介映画」でもないし、ジョージを初めて聴く人に勧められる映画でもない。でも、良い映画だ。

 …と、ここまで語っておいてなんだが。ええ、もちろん色々アレな方面でも楽しかった!
 トムさーん!合格!合格です!エリック・クラプトン君…あーはははははは…(以下略!)ディラン様、手、手!小野洋子って良い人だったか?フィル・スペクターが怖いよー!クラウス?クラウス?!あなたに一体何が…?(レコード・コレクターズ12月号掲載の「レコスケくん」と、全く同ように「アレは一体…?!」と思った私でアル!)
 とにかく、色々あるので、続きはまた後日。

GH:LITMW (3回目)2011/11/24 20:46

 「ジョージ・ハリスン:リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド」の観賞3回目。今回は新宿。場所が場所だけに、非常に混んでおり、私がチケットを取ったのもぎりぎりだった。おかげで席がスクリーンに近い。まぁ、3回目だから何が映写されていうか大体わかるし、字幕も隅々まで見必要も無い。
 やはり余裕が出てくるのか、集中するところ、力を抜くところなどが分かってきて、どんどん上映時間が短く感じられるようになっている。

 今回は、インタビューに登場した人々の印象をメモ。もちろん、ネタバレなので、そのおつもりで。

レイ・クーパー
 未だにジョージの死から立ち直っていない!泣かせるぜレイ・クーパー!まぁ、悲しみというものは癒えるものではなくて、慣れるものなのだろう。

エリック・クラプトン
 おそらく、友人たちのなかで一番出番が多かったし、ジョージとの関係も丁寧に描かれていた果報者。出会いから、ミュージシャンとしてそれぞれに気張っていた青春の記憶、お互いがどこに惹かれたのか、いかに互いを愛していたか、それ故につらいパティをめぐる愛情問題などなど。写真も豊富なのだが、その写真がけっこう笑えるものがあって楽しい。

 この映画での一番の爆笑ポイント。
 Q:「ビートルズに入ることを考えたことは?」
 EC:「あっはっはっはははははははは…はぁ………………………あるよ。」
 あ る の か ?!

   ジョージの友人の多さの話も、クラプトンの口から出ると説得力がある。「ジョージの友達の多さには驚かされるし、誰とでも仲良くなる。自分だけは特別だと思いたいが、そうは行かない」という、ジョージの友人ならではの喜びと切なさを正直に語ってくれていて、良い。
 日本ツアーを含めた80年代以降の交流の話題にはならなくても、十分クラプトンとジョージとの友情は語れたと思う。

ダーニ・ハリスン
 CFGの頃に比べると、幾分マッチョになった。でも相変わらず美男子。しゃべり方はジョージよりはっきりしていて、分かりやすい。声もジョージには似ていない。ジョージを「怖い父」と認識していたとの事、要するにジョージって意外とまともな父親だったのだと思って、嬉しい。

ポール・マッカートニー
 いつものウザいポジティヴ発言は鳴りを潜め、意外と普通の人っぽい。「"Hey Jude" にギターリフ禁止」に関しては、「そりゃポールの言うとおりだろう」と思っていたが…ちょっと最近、リフ入り"Hey Jude" が聞きたくなってきた。

アストリッド・キルヒア
 自ら「私、美人だったから…」という辺りを、見習いたいぞ日本人。彼女の傍らに CFGの豪華本が置かれている理由は謎。

クラウス・フォアマン
 ジョージを語らせたら世界でも五指に入るイカしたドイツ人。腹出しファッションのスチュもスチュだが、その隣で謎のベルベットジャケット&エリザベスカラーですましているクラウスもどうかと思う。
 「落ち込んでいるときに、ジョージは言葉に言い表せない手段で癒してくれた」という、含みの多い発言でドッキりしたのは、私とレコスケくんと、ハラペコくんだけなのか?
 え、あの、ジョージ、何したの? な に し た の?!何もしてないの?!
 いや、あれはクラウスの奥歯に物が挟まったような説明が悪いよ。何か隠してるっぽいし、手つきも怪しい!

リンゴ・スター
 ビートルズのドラマーとして、ジョージがリンゴを強力に推した話とか(おかげでチアノーゼをこしらた)、リンゴが病欠したツアーを拒否した(結局行ったけど)話などが無くても、やっぱりリンゴは特別。この人の頭髪の強靭さと、それに裏打ちされた自信がすごい。80年代のテレビ番組におけるジョージとのやりとりが最高。ジョージがあそこまでタジタジになるのは、リンゴだけだ。
 そして、最後の最後に泣かせて笑わせる。リンゴ最強。

ジョーン・テイラー(デレク・テイラーの奥さん)
 この人は初めてみたような気がする(アンソロジーに出てきたっけ?)。ジョージのドラッグ体験から、瞑想とマントラへと進む過程を、とても上手に説明してくれている。

パティ・ボイド
 若い頃はとにかく異常に可愛いってことしか印象に残らないが、今回の映画で話す様子はとても落ち着いていてクレバー。クラプトンとのいきさつも淡々と、でも当時の戸惑いがよく伝わるように話していた。
 …なんだろう、もうすぐ70歳にしてはもちろん綺麗で素敵なんだけど…顎から首にかけて…気をつけろって事か。

小野洋子
 めずらしく、それほどイラっとしない小野洋子。イラっとさせるほどの出番が無かったのが幸いしたのか。前衛芸術家としてNYで活動していた彼女が、ロンドンに移る辺りで、当時のロンドンの熱気がよく伝わってよかった。ジョンがジョージを特別気遣っていたかどうかは…まぁ、気遣っていたことにしよう。

ラヴィ・シャンカール
 そのコメントは大体難しくて分からない!でも演奏する姿を見ると、とてつもなく説得力がある。2時間ドラマの最終シーンに出てきそうな崖ぎわに、ジョージと手をつないで行く姿がかわいい♪

ニール・アスピノール
 亡くなる前に収録したインタビューなんだろうな。ヘルズ・エンジェルズのエピソードが楽しかった。

ムクンダ・ゴスワミ
 少年っぽい面影が残っているので変に若く見えるが、それなりに年を経ているはずの彼。すごく頭がよさそう…。あのレコード、迫力があっていいな。買うかも知れない。

ジム・ケルトナー
 70年代初頭の変な服装が信じられない。「自分が好きなミュージシャンのファンクラブを作る」などとジョージに言われて、嬉しかっただろう…けど、ある意味厄介。

フィル・スペクター
 現在は刑務所の薬物中毒治療施設に収監されているとのことで、このインタビューはその前に撮ったのだろう。
 見た目が…怖い。衣装がおしゃれなのは良いが、顔が怖い。化粧してる…?瞬きの回数って、そんなもので良いの?
 それはともかく。彼ほどの音楽的天才のインタビューが収められたのは、幸運だった。[All Things Must Pass] も、[Bangradesh] もスペクター無しには語ることができないし、あの迫力あるサウンドのすばらしさは何物にも替えがたい。特に映画のように、大画面に大爆音で "Wah-Wah" や、"What is life" を体感できる機会では、彼の手腕に感謝するべきだろう。

エリック・アイドル
 エリック節炸裂!ジョージのスピリチュアルでシリアスな側面の一方には、お茶目でコメディ大好きなところがあり、それをとても良く伝えてくれるパイソンズ。
 驚いたのは、ジョージが刺されたときに急遽帰国したという話。ジョージも「いま、どこに居る?」と聞き返すくらいだから、やっぱり会いたかったんだな。

テリー・ギリアム
 この人のおなかには何が詰まっているのだろう?
 [Life of Brian] で複数の宗教団体から叩かれたことを、嬉しそうに語るところはさすが。ジョージの、音楽と、インドと、レースと、コメディと、ガーデニングと、友達が大好きというパーソナリティを、実に上手に語ってくれている。さすが。

ジャッキー・スチュワート
 F1チーム,「スチュワート」をやっていた頃に比べると、なんだか小さくなってしまったような印象でちょっと悲しかった。
 70年代のF1映像 ― 特にウェットのモナコのオンボードなど見ると、当時がいかにも危なっかしくて怖い。スチュワートも語っていたが、多くのドライバーが命を落としたのもこの時期だ。
 クーパーと同じく、ジョージの死の影響を引きずる悲しみがズキンとくる。そして、「自分はジョージにとっての一番ではないけれど…」という、クラプトンと同じことを語っていた。リンゴ曰く、「ジョージは全員を特別扱いする」

オリヴィア・ハリスン
 後半もいくらか進んでから登場する、控えめな彼女。自分だけが愛されて付き合ったわけじゃないし、つらいこともあった、夫婦円満の秘訣は離婚しないこと…できたお嫁さんである。しかも強い。侵入者がボコボコにされている写真を見たら、人間ってすごいなぁと変に関心してしまった。
 ともあれ、野球大好きなオリヴィアのお父さんのアドバイスに感謝。やっぱり、野球は振り抜かないとね!

トム・ペティ
 登場した順番を思うと、トムさんってジョージの生涯においては、最後の方に登場する若い友達なんだという実感が沸く。
 相変わらず物事の説明が上手なトムさん。ロイ・オービソンが亡くなったとき、ジョージから電話がかかってきた話は、初めて聞いた。内容が内容なだけに、今までは黙っていたらしい。「ジョージの言葉を言っても良いのかな?まぁ、言うけどね。」
 「自分でなくて良かった」というところでは一応笑っているけど、ジョージが「彼は大丈夫だよ。彼なら大丈夫」と言ったときの、トムさんの泣きそうな表情にキュンとなる。この人が時々みせるこの表情に、みんな参っちゃうんだろうな…

 それは良い。トムさんチェーっク!そう、ジョージというビッグネームのドキュメンタリー映画ともなれば、注目度は桁違いだ!そんな映画で、力の抜けまくったしょうもない出で立ちで登場されては、ハートブレイカーズ的に困るのだ!ここは一つ、「ウィルベリーズの可愛い彼が、良い年の取り方をしたね♪」というアッピールをしてくれなければ困る!
 その結果。
 服よし、髪よし、ヒゲよし、瞳の色よーし!珍しく合格だ!
 すばらしいぞ、トムさん!やっぱり事の重大さを分かっているね。ここ一番でキメてくれる女優・トムさん、さすが。…それとも、スコセッシや、オリヴィアの厳しいチェックが入ったのだろうか?それはそれで結構。


 DVDの特典映像には、映画には収録されなかったインタビューなどもあるとのこと。そちらも楽しみだ。

Without a Paddle2011/11/27 21:53

 以前から見たいと思っていた映画、[Without a Paddle] のDVDを購入した。



 私がこの映画について知っていたのは、三人の幼なじみの男が、ボートに乗って冒険に出かけ、あれやこれやの爆笑エピソードがつづられる…というもの。さらに言えば、ジェローム・K・ジェロームの小説「ボートの三人男」のオマージュのような作品だと思い込んでいた。
 しかし、実際に見てみると全然違った。無論、男が三人でボートで出かける辺りはジェロームのパロディなのだろうが、その後の展開はUKコメディの臭いすらしない。ただひたすら、いかにもアメリカなおバカアクションの連続。
 仲間の一人の葬儀で再会した少年時代からの友人三人,ダン、ジェリー、トムは、死んだ友人が残したお宝の地図をたよりに、ボートで冒険に繰り出すが、激しい濁流にもまれ、深い森にさまよい、怪しいならず者に追われ、野生動物に脅かされ、冒険は大混乱!

 

 私の好みからすると、やはりコメディはUK系の方が好きだ。この手のアメリカ系おバカコメディも良いけど、ちょっと物足りないかな。
 悪漢二人の片割れに見覚えがあると思ったら、やっぱり[My Name is Earl] のおバカな弟ランディ役の、イーサン・リプリーだった。しかも、その悪漢の飼い犬二匹の名前がレイナードと、スキナードだった。
 邦題はどういうわけか、「トレジャー・ハンターズ 進め!笑撃冒険王」というわけのわからないシロモノになっている。こうなるとジェロームのオマージュも何もあったもんじゃない。
 原題は、"up a creek without a paddle" というイディオムからで、「にっちもさっちもいかなくなる」という意味。映画そのものを描写しつつ、意味深なタイトルなのだが…こういうスゴイ邦題というのは、どこかで誰かが「よせ」と言う機会がなく、すり抜けてきてしまうのだろうか…。

 音楽的には聴きどころが多い。三人男が少年時代を懐かしんで、カルチャークラブなどの、80年代のヒット曲を熱唱する。
 さらに、オープニングにフェイセズの "Ooh La La" が使われてるのが印象的だ。



 フェイセズにとってはあまり幸せななアルバムとは言えない [Ooh La La] だが、私は大好きだし、このタイトル曲 "Ooh La La" を聞くと、何となく幸せな気分になれる。
 ロニー・ウッドが初めてリード・ヴォーカルを務めた曲だそうだが、本当だろうか。それにしては上手い。…というか、以降のどのロニーの歌よりも上手いような気がする。曲の良さがそう思わせるのだろうか。

Concert for George2011/11/30 21:09

 11月29日はジョージが亡くなった日。映画が公開された今年は、また感慨もひとしおだ。そこで、久しぶりに[Concert for George] をフルで鑑賞することにした。
 これが、今回の映画よりも泣ける代物だった…。いや、最初に見たときから泣いていたが…それにしても。すごいコンサートもあったものである。これまでに何回見たのかも分からないくらい繰り返しているが、いつも感動しっぱなしだ。



 最初にクラプトンとラヴィ・シャンカールが出てきて挨拶をしただけで、グっとくる。
 そして、前半のインド音楽。このパートをフルで鑑賞するのは久しぶりだ。アヌーシュカの美しさが目を惹く。彼女とても、たまにはミスることがあるらしく、ちょっと笑っているのが可愛い。"The Inner Light" で、ジェフ・リン登場。なんだか緊張している。考えてみると、このコンサートで、最初にソロで歌う大役を、よくぞ引き受けたものだ。
 "Arpan" は大曲とあって、時々リハ不足か、練習不足をうかがわせる瞬間があるが、聞く側の耳が慣れてきたということだろう。最後にクラプトンまで加わると、いよいよこのコンサートならではの楽曲だという気分が盛り上がる。
 舞台から引き上げる前に、ラヴィとクラプトンが何か言葉を交わして笑っている。「ジョージがいたら喜んだんじゃない?」「いるよ、最前列にかぶりついつる!」…ってところだろうか。

 モンティ・パイソンで泣かされそうになるのは不本意だが、仕方ない。楽屋で、テリー二人が、嬉々としてお尻を出しながらソックスをどうするとか相談していたのが好きだ。

 後半のジョージズ・バンドのセクションになると、改めて思い知らされるのは入念なリハーサルの重要さ。私は練習不足の本番というものに対する許容範囲が狭い。ボブ・フェストや、ロックの殿堂セッションも素敵だが、ただ練習・リハ不足はどうしても気になる。
 「生ならではの即興性」などというものでカバーできるレヴェルというのは意外と達しにくいもので、クラプトンが拘ったリハの入念さには共感を覚える。
 クラウス・フォアマンは自分の演奏機会の少なさが不満だったようだが、バンドマスターの立場からすると、仕方がないかもしれない。何せジョージの曲は演奏が難しい。
 映画を見て、改めてジョージの曲に複合拍子が多いことを思い知った。 "Here Comes the Sun" は代表的だが、"Give Me Love" は変拍子にフェミオラが加わるし、"That's Way It Goes" にも複合拍子が入り込む。歌の節回しも独特なので、「みんな知ってる曲だから、いきなり合わせても大丈夫だよね」があり得ない。コード進行も一筋縄にはいかない。
 このコンサートの演奏レヴェルの高さを思うと、クラプトンがリーダーとなっての入念なリハーサルの成果は、何物にも替えがたいすばらしいものだったと納得する。参加メンバーが華やかだし、感動的な要素が強いので視線が散りがちだが、全体的な演奏レヴェルの高さは、最大限に評価されて良いだろう。

 映画ではレイ・クーパーの、ジョージの死に対する悲しみの深さが印象的だったが、それを知ったうえでCFGを見ると、なるほど確かに、時折うつむいているクーパーの思いが、わかるような気がする。

 ジョー・ブラウンのバンド・メンバーを見ていて、今回初めて気付いたことがある。このバンドのドラマー、フィル・キャパルディはジム・キャパルディの実弟だそうだ。兄弟そろってCFGに参加とは、幸せなことだ。 兄上がお亡くなりになったのはとても残念。

 それまではグっとくる程度で我慢できたが、やはりTP&HBの登場となると涙が出る。特に "I Need You" は破壊力がある。"Taxman" の時はモニターで歌詞を確認していたトムさんが、まったくモニターを見ない。終始上を見上げたまま、あの「きみ無しでなんて 生きられない お願いだから ぼくのもとに帰ってきてよ」という、詩を歌い上げる姿を見ると、どうしても泣けてくる。
 アンディ・フェアウェザー=ロウにしても、マーク・マンにしても、ジョージのあのスライドの再現に良くがんばっているが、やはり最高なのは、"Handle with Care" のマイク・キャンベル!彼の笑顔と格好良いギター・プレイは、CFGの華の一つだと思う。

 コンサートも大詰めになってくると、ステージの端々に出演者達があふれ出して、押すな押すなの様相を呈しているのがおかしい。クラウスなんて、"My Sweet Lord" でもう舞台中央まで来てるもんね。
 リンゴが出てくると、毎回思うのだが魔法が解けるかのようにみんなの顔に笑顔が浮かぶ。ポールは…投げキッスはご遠慮下さい…特に、ジェフ・リンには。…それはともかく、ポールの演奏のクォリティもとても高い。最近、ジョージのオリジナルばかり聴いていたせいか、"All Things Must Pass" のテンポの速さに少し驚いた。

 最後の "Wah-Wha" の格好良さは相変わらず。あれだけの人数が舞台にひしめいて、あそこまでの演奏ができれば、クラプトンも満足だろう。
 このコンサートで一番泣かせるのは、やはり "I'll See You in My Dreams"。ジョー・ブラウンの歌い方が優しくて、穏やかで、大げささがなくて素晴らしい。温かくて、美しくて、ちょっとだけ寂しいけど、愛に溢れたコンサート、ジョージも楽しんだよね。舞い散る紙吹雪を眺めながら、ステージ上の誰もが満足そうなのが印象的。

 映画は好評なようだし、劇場にはいかずともDVDを購入予定の人も大勢いる。これらの人たちでCFGを持っていない人は、これを機に購入をおすすめする。ジョージは確かにいる。あれほど素敵なコンサートは他にちょっとない。