Help ! / Overture2011/11/09 21:40

 先週の「N響アワー(毎週日曜20時ETV)」は、オペラの序曲特集だった。
 私は序曲が少し好き。派手な曲が多いし、長すぎず、作曲家も管弦楽の見せ所として力が入るせいか、面白い曲が多い。もっと言えば、オペラ全体を見なくても、序曲だけで構わないような気がする場合もある。学生時代、音楽史の授業で、バロック前半期のミニ研究発表があったのだが、「オペラの序曲のみ」を題材にしようとして、教授に「オペラ全体にしなさい」と言われた。

 N響で、ロッシーニの「セヴィリアの理髪師序曲」を聴き、真っ先に思い出すのは、もちろんビートルズだ。
 ビートルズの映画の中で私が一番好きなのは、[Help !]。楽曲も良いが、なんと言ってもスラップ・スティック・コメディとしての出来が最高。ビートルズのコメディ的才能も光るし、リチャード・レスター監督の才能が十分に発揮されている。ちなみに、いわゆる「三銃士映画」の最高峰はレスター作品であり、どうも他の映画は見る気が起きない。
 「セヴィリアの理髪師 序曲」は、[Help !] のエンディング・クレジットで流れる。エンディングに「序曲」というのもおかしな話だが、ばっちりはまっている。曲にあわせて、ビートルズの面々がヘンテコな歌を歌っている。場面としては、ジョージが近づいてきて、トップハット(シルクハット)を脱ぐシーンが好き。ロックスターにトップハットという素敵な組み合わせは、この映画以前にはあるのだろうか?スキーをするジョージにトップハットをかぶせた人は、天才だと思う。



 [Help !] に登場するクラシック。お次はワーグナー。夜中にビートルズの面々が住むフラットへ、カイリ教の面々が突入し、大乱闘を演じるシーン。
 曲は、オペラ「ローエングリン]第三幕への前奏曲。前奏曲は序曲の小規模版とでも言うべきか。派手。要するに派手。
 私はワーグナーに興味がないし、「ローエングリン」のストーリーを読む気にもならない。しかし、「ローエングリン」には有名な「結婚行進曲」が含まれるし、この「第三幕への前奏曲」のように、パーツパーツを聴けば格好良い楽曲もある。
 この場合は、ビートルズとカイリ教のみなさんのドタバタあってこその格好良さかな。



 三曲目は、チャイコフスキーの、序曲「1812年」。この場合の序曲はオペラの序曲ではなく、単独で一つの楽曲を成し、物語性を帯びる、「演奏会用序曲」のこと。「1812年」とは、1812年のロシア戦役(ナポレオンによるロシア侵攻とその失敗・ロシアの勝利)をあらわしている。
 最後はロシアがナポレオン軍を大いに破る(いわゆる「冬将軍」)この戦役を、派手に表現しており、楽譜に本物の大砲(Canon)のパートがあることでも有名。多くの演奏会では大太鼓が代行するが、主に野外の音楽フェスティバルや、軍楽隊の演奏などでは、本物の大砲をぶっ放す。この「名物」は、某大物推理作家が某短編でトリックに使っていた。
 もっとも、このオーケストラ楽曲に本物の大砲を入れるという演出はチャイコフスキーがオリジナルというわけではなく、ベートーヴェンも「ウェリントンの勝利」で使用している(ちなみに、この「ウェリントンの勝利」の題材となった「ビトリアの戦い」も、「ボナパルト」(ナポレオンの兄,ジョセフ)側の敗戦となっている)。

 [Help !] における「1812年」は、ソールズベリー平原でのシーンに登場する。
 レコーディング中のビートルズを、カイリ教が軍隊でもって攻撃!ビートルズを護衛する側も応戦するが、カイリ教軍の大砲がビートルズの乗る戦車を直撃。よろこぶカイリ教のみなさんを祝福するように、「1812年」が鳴り響くというわけ。
 正直言って、私はこのシーンが大好きだ。もっと言えば、カイリ教の皆さんを応援している。あの間抜けさが最高。軍備がどういうわけか19世紀風なのも良い(一部、第一次世界大戦風?)。
 残念ながら、YouTubeにはちょうど良い映画のシーンがなかったので、ここは代わりにBBCプロムスをどうぞ。大砲のところは、舞台後方に仕掛けた火薬と煙と爆音、花火で代用。これもなかなか迫力があって良い。盛り上がりもプロムスならでは。映画で使用しているのは、4分45分ごろから。



 この馬鹿馬鹿しい中にも、やたらと大掛かりな曲を展開させるセンスは、「ブルースブラザーズ」にも通じる。そんなシーンにフィットするチャイコフスキー。やはりレスターのセンスは最高だと思う。