Heaven and Hell (その2)2011/02/11 23:48

 「ドン・フェルダー自伝 天国と地獄 イーグルスという人生」(Heaven and Hell: My life in the Eagles 1974-2001)は断然、前半の方が面白い。私にとって、この手の「ドキュメンタリー」作品は、どれも最初の方が面白い。
 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの映画,[Runnin' Down a Dream] は、サード・アルバムあたりまでの1時間ぐらいが一番面白いし、全8巻 [The Beatles Anthology] も、第1巻が一番好きだ。ブレイク後というのは、その音楽作品の量が思い出話を凌駕するので、けっきょく音楽に負けてしまうのではないかと思っている。

 さて。
 ドン・フェルダーは1947年にフロリダ州ゲインズビルに生まれた。トム・ぺティはこの町はロックバンドが育つに恰好の町だったと言って高評価しているが、どうもフェルダーはこの町が好きではないようだ。
 ロックを愛したギター少年のフェルダーは、無論ビートルズを崇拝しているが、一方でB.B.キングや、のちにはクラプトンをヒーローとして挙げる音楽志向をしていた。
 彼の思い出話を読んでいると、次から次へと面白い人名が登場する。
 少年フェルダーの初期バンド、ザ・コンチネンタルズ(「カントム」にも、ゲインズビルで一番のバンドとして登場する)に、ある日フラリと、スティーブン・スティルスが加わり、楽しくおおはしゃぎ。ところが、突然スティルスは消えてしまう。かなり強烈な印象を残す。
 オールマン兄弟ともよくつるんでおり、デュアンにはよくギターを習ったようだ。兄弟と一緒にレストランに居たら、金髪兄弟の後姿がブロンド娘に見えて、ガールフレンドが激怒したとか。その場に一緒にいたのが、バーニー・レドンである。

 バーニー・レドンの登場は、とりわけ鮮烈だ。この本の中でもっとも魅力的な人物は、間違いなくバーニーだろう。フロリダ大学に転勤でやってきた学者の長男で、すぐ下の弟は、おなじみマッドクラッチのトム・レドン。我らがトム・ペティの旧友だ。
 バーニーは、ゲインズビルにやってくると、町で一番ギターの上手い男(フェルダー)を探しだし、バス停で彼を待ちかまえ、顔一杯の笑顔で「落とした」のである。フェルダーは親と諍いをおこして家出をしても、バーニーという親友と、かわいい彼女と、音楽あれば幸せだった。
 バーニーはビートルズに夢中で、ジョージが彼のヒーロー。いかにして彼らのようになるか、悪戦苦闘している。カーリーヘアに手を焼きつつ、ジョージと同じグレッチ・テネシアンを手に入れて幸せそうだった。
 しかし、バーニーはフェルダーよりも先に、しかも大股で、確実に前進するタイプでもあった。ゲインズビルを飛び出し、LAへ乗り込むというのだ。当然、バーニーはフェルダーを誘う。しかし、彼は断ってしまった。
 旅立つバーニーを見送るシーンでは、読んでるこっちが、「今すぐ、空いているバーニーの助手席に飛び乗れ!」と叫びたくなる。まるでどこかの三流恋愛ドラマのようだ。

 フェルダーの思い出話を読んでいると、やや優柔不断で、自信が不足しており、チャンスを見極める術に欠けていることに気づく。要するに少し不器用なのだ。狡賢いところのない、誠実な人でもあるのだろうが。彼が詰まらないところだと思っていたゲインズビルにだって、多くの人材があって、その人の潮流にもっとうまく乗ることも可能だったかもしれない。
 ともあれ、フェルダーはバーニーからやや遅れて町を出る。そしてガールフレンドの居るボストンに落ち着くのだが、そこではごく短い間、ピーター・グリーン(フリートウッド・マック)との接点がある。面白い事に、とあるスタジオのオーナーに息子が居て雑用をしているのだが、この少年の名前がシェリー・ヤクスだったりする。業界の話なので、世界は狭いのだ。

 やがてボストンに見切りをつけ、フェルダーはバーニーを頼る形で、LAにやってくる。当時、デビッド・ゲフィンのパートナーだったのが、エリオット・ロバーツ。あのディランとTP&HBのコラボのきっかけを作った人だ。彼の紹介でツアー・メンバーとして仕事をもらえるようになるのだが、やがてグラハム・ナッシュのツアーで、ギタリストを務める事になる。デイヴィッド・クロスビーとのツアーだ。
 このグラハム・ナッシュが、涙が出るほどの好人物。良い人すぎて、早く死ぬんじゃないかと思うくらい。後光が差している。(フェルダーは、「英国紳士」に弱いんじゃないかという気もするが…)ナッシュの人格者っぷりが、ヘンリー,フライのやな奴ぶりを引き立てる結果になる(無論、これはフェルダーの見方がそうであるというだけだが)。
 一方、クロスビーはヤクをキメ過ぎて、かなりヤバそうな人だった。ヤバそうな人と言えば、のちにフェルダーがイーグルスに入った時、ストーンズのオープニングをつとめるのだが、そのホテルでキースに会わせてもらおうとしたことがある。しかしキースは、ほぼ死体だった。

 さて、トム・ペティ。
 彼は、ゲインズビル時代、フェルダーがギター教師として小金を稼いでいた時の、「自慢の教え子」として登場する。「そっ歯で瘦せっぽち」で、しかもひどいギターを持っていたとこの事。そっ歯とか言うな!でも、そのあとすぐに、「トミーはとてもハンサムで、そのつややかな長髪は女の子たちを惹きつけた」と言っているので、許してやる。
 次にトムさんの名が出てくるのは、1977年にイーグルスとして英国ツアーに出たとき。当地で複数のインタビュアーに、「今、ワールド(正確にはヨーロッパだろう)ツアーをしている、トム・ぺティが、あなたにギターを習ったそうですね」と尋ねられた時だ。その時でも、フェルダーにとっては「小さなトミー」だそうだ。
 もう出てこまいと思っていたら、意外なところでトム・ペティの名前が出てきた。グレン・フライの横暴でクビになった、ローディーが、その後トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのローディになったというのだ。なんともはや。

 私のこの本に対する感想を読んだ人もまた、読みたくなるかどうかは分からない。前にも述べたとおり、イーグルス・ファンにとっては不快な内容が相当量を占めるし、特にヘンリーとフライの書かれ方は、凄まじいものがある。ウソっぱちだと言うわけでもなさそうだが、すべて鵜呑みにするのも、危険なことだ。
 しかし、前半の部分は、あの時代のロック・ポップス好きなら一読の価値がある。きっと、自分が好きなミュージシャンの名前が一度は出てくるのではないだろうか。そういう意味では、非常に参考になる本だ。アメリカでベストセラーになったとのことだが、それは決して暴露本という側面だけではなく、ロック史のある重要な部分を活写しているからだと信じたい。

 最後に、文章そのものについて。かなり読みやすく、簡潔な良い文章だ。共同執筆者のウェンディ・ホールデンの功績だろう。
 翻訳も、よくできていると思う。誤植は確かにあるが…まぁ、ささいなことだ(私は酷い誤字脱字病なので、そう思いたい)。
 ただ、曲名表記についてはやや閉口した。全ての曲が、邦題で記されているのだ。「テイク・イット・イージー」など、英語名をそのまま邦題にしている曲は良いのだが、「ならず者」はともかく、「我が愛の至上」とか、「過ぎたこと」などと言われても、まったくどの曲のことだか分らない。私がそれらを理解するほどにファンではないのが悪いのだろうが。今やiPodに邦題で登録している人がどれくらい居るだろうか?索引もないので、これは一次資料としての機能を果たせていない。せめて、邦題と、原題を併記した方が、良いだろう。
 実は同じことをTP&HBの [Playback] でも思っていた。もっとも、あれは文章全体が私が知る中で一番の悪文なので、その問題が小さくなっていたのだが。

コメント

_ Scottie ― 2011/02/17 01:32

そっ歯!(笑)
なんだか、音楽業界って狭い世界なのね~。

ちょっと、読んでみたくなりました。
でも、あんまり知らないバンドの話でも、
メンバー間の不仲の話を読むのはちょっと辛そう。

トムさんもスタンに手を焼いたりしたんだろうけど、
メンバーに恵まれているのは人徳でしょうかね。

_ NI ぶち ― 2011/02/17 23:39

>Scottieさん
そっ歯でも、ハンサムで女の子がキャーキャー言ってれば良いんだもんね~
面白い本ですよ。イーグルスのファンでなければ(笑)。不和と言いましても、「本当は互いのことが好きなのに…」というハートブレイカーズにみられるような切なさはほぼ皆無で(爆)、フェルダーが語るところのアノ二人はぶっ飛んだサイテー加減で、笑えます。
まぁ、Fの人はともかく、Hの人は、どうかな…本当にあんなにヤなやつなのか。マイクやスタンと仲良くしているだけに、実際はそれほどでもないと良いけど。もしくは、外面だけ良いってのでも私は構わない。
トムさんの場合…人徳についてはCo-Captainが助けになっているんじゃないですかね。トムさんは思慮深く、そのあとの決断が果敢で、簡単にはめげず、努力を惜しまず、人を見る目があって、それをキープする力にたけているって感じですね。そしてなんといっても、実力があって、それにたいする自身がある。だからぶれないし、人をいじめる必要もない…のかもしれません。

_ dema ― 2011/02/20 23:51

ふ~ん、ナッシュはやっぱりいい人だったんですか。
もともといい人っぽい雰囲気でしたが。

ほんと、昔のアメリカンロックのオールスターですね。暴露本ぽいのは苦手だけど、ちょっと読んでみたくなる気がします。

_ NI ぶち ― 2011/02/21 20:57

>demaさん
まじで、ナッシュは良い人すぎて、もう亡くなった方なんじゃないかと思わせるものがありました(超失礼)。だって、ほら、先にいったロッカーはみんな「いいやつだった」でしょ。殺されたOLは全員美人みたいなもんで。
本当に豪華メンバーがゾロゾロ登場して、面白いですよ。ただの「暴露本」として、石原真理子と同列にされるのは惜しい!でも、イーグルス来日するんですよね…今朝もテレビでオーストラリア公演の様子がチラリと出てましたけど…もはや普通には見られないぜ…
やっぱり、ふだんから人には優しく、親切に生きましょう!…という教訓でしょうか。もっとも。フェルダーもこの本を書いて得ばかりしたとは思えませんけどね。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの制作者名最初のアルファベット半角大文字2文字は?

コメント:

トラックバック