戦場はゲティスバーグ2010/04/15 21:34

 歴史と言う物は、後の世になって眺めれば、起きた出来事は起こるべくして起こり、その場所も必然的にそこに定まったように見える。出来事の結果も、条件や環境が導く、必然として実を結ぶ。だから私はいわゆる「陰謀説」のようなものは信じないし(本能寺の変は、誰かが光秀を操った結果だなんてまったく思わない)、歴史における大まかな運命を信じることにしている。
 細かな所が多少違っていても、歴史はなるようになる。たとえジャンヌ・ダルクが登場しなくても、百年戦争はフランスの勝利で終わっただろうし、1957年7月6日にジョンとポールが出会わず、ビートルズが結成されなくても、同じような誰かがビートルズと同じような役割を果たしただろう。

 前置きが長くなった。とにかく、1863年7月1日、ペンシルベニア州ゲティスバーグで、それまで距離を取りながら北上していた南北両軍の戦闘が始まった。
 これは歴史の必然であり、ゲティスバーグはその戦いの地として相応しい場所なのだが、南軍のリーにとっては、やや意外だったかもしれない。もし、北軍の東側をぐるりと回っているスチュアートの騎兵が、もっと早くリーの本体と接触し、北軍の動きを知らせていたら、リーはゲティスバーグこそ、その地だともっと早く確信しただろう。そして、行軍の動きを速め、いち早く全軍をゲティスバーグに集結していただろう。
 しかし、スチュアートは南北両軍がヴァージニア州を抜けて、ペンシルベニア州に入っても、リーの元へは戻ってきていなかった。現実としては、まずA.P.ヒルの第三軍が先行し、後からロングストリートの第一軍、ユーエルの第二軍は北へ迂回していた。

 一方、北軍ポトマック軍司令官に就任したばかりのミードにしても、やおら張り切って全軍を挙げた一大決戦を展開しようとしていた訳ではない。いつかはリーと遭遇することを予想しつつも、ソロリソロリと軍を北上させていた。
 やがて、北軍の先行部隊だったビュフォードの騎兵が、6月30日の午後に、ゲティスバーグの町で南軍の一部と接触した。物資不足気味の南軍兵士が、靴を求めて来たところだった ― と、言うのが定説である。南軍側は、A.P.ヒル率いる第三軍の先行部隊が、最初にゲティスバーグに到着した。この先行部隊同士は、翌7月1日の早朝から、激しい戦闘を開始した。

 北軍ではビュフォードの後方から、レノルズの歩兵が到着したが、南軍の優勢で戦闘は推移した。後方で報告を受けた南軍のリーは、このゲティスバーグが決戦の地になるのかどうか、まだ判断しかねていた。こういう時、より現場に近い部隊の指揮官の判断力が物を言う。この場合、南軍でその状況に立ったのは、第二軍を率いるのユーエルだった。第二軍は、北の迂回路から、ゲティスバーグに進んでおり、北軍は西から(南軍・ヒルの第三軍)と、北から(南軍・ユーエルの第二軍)の挟みうちに遭った。これによって、リーも全軍に進撃を命令。明確に、ゲティスバーグが決戦場と思い定めたのは、この時だろう。
 北軍は大部分が未だ戦場に到着せず、少将であるレノルズが戦死するほどの大苦戦だった。やがて、ゲティスバーグ南の丘― セメテリー・ヒルまで追いやられたのである。
 7月1日の夕方、ユーエルの第二軍では、さらに攻撃を仕掛けてセメテリー・ヒルを落とすかどうかで、議論があったらしい。リーの指示はない。ただ、大原則として「すべての軍が集結するまで、全面的な戦闘はしない」という指示が生きていた。この時点で、まだロングストリートの第一軍は到着していない。ユーエルは、戦闘停止を決定した。

 このユーエルが直面した7月1日夕方の状況は、はたしてリーが戒める「全面的な戦闘」だったのだろうか?21世紀を生きる私たちにしてみれば、答えは否だろう。北軍のミードがゲティスバーグに到着したのは、夜になってからだった。
 私たちには、「もし南軍第二軍を率いるのがユーエルではなく、ストーンウォール・ジャクソンだったら?」と想像することもできる。彼だった、多少のリスクを覚悟しつつも、自分の判断で(もしくは運命を信じる性質のジャクソンらしい行動として)、セメテリー・ヒルへ攻撃を仕掛けていたかもしれない。
 とにかく、現実はそうはならなかった。北軍は命拾いをした形になる。戦死したレノルズに代わって指揮をとったハンコック少将が夜のうちに、軍の立て直しに成功し、さらに北軍本体が、ゲティスバーグに到着しつつあった。

コメント

_ dema ― 2010/04/18 10:14

歴史について、私はちょっとちがった考え方をしています。私は歴史というのはけっこう枝分かれがあり得るものなのではないかと思います。言い換えるなら、必ずしもひとつの方向に流れていくものではないのではないかということですね。
※O・ヘンリーの短編「運命の道」という作品は、彼の歴史、運命論みたいのが出ててすごく面白いです。NIぶちさんの考えと近いかな。

ところで、ゲティスバーグの1日目、南軍は本当に惜しいことをしたと思います。うまくいけば北軍部隊を各個撃破で壊滅させることも可能だったでしょう。
南軍は勝利のチャンスが何度もあったものを、ことごとく落としてしまうわけですが、その1発目でしょうか。

_ NI ぶち ― 2010/04/19 21:31

>demaさん
細部はどうであれ、歴史は一定の運命方向へと進む―という私の考えは、歴史好きの中ではマイナーかもしれませんね。demaさんのように、枝分かれの存在を信じる方が、「面白い!」のは、間違いないと思います。
そういう意味で、コニー・ウィリスの小説「犬は勘定に入れません」が面白いですね。
(おっと、この本の前に必ずジェローム・K・ジェロームの「ボートの三人男」を読まなければいけません!これも超お勧め傑作。登場人物(?)の名前が「モンモランシー」ってのが私にとってはツボ。)
「犬は勘定に入れません」は、タイムトラベル物の傑作。ミステリーでもある。歴史の細部に、タイムトラベラーが干渉したらどうなるか…?!
かなりの大傑作だと思います。同じ筆者が、南北戦争を扱った作品「リンカーンの夢」を書いていたので、ネット入手して読んだのですが…うーん、うーん、「犬」が面白過ぎたんだゎ…。

優秀な戦闘指揮官というのは、状況判断と、勝つチャンスを決して逃さない才能ですね。確かに、1日目は南軍に分があった…!でも日没、サスペンデッド!

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