愛蘭土紀行2009/09/22 23:41

 私が好きな作家は、司馬遼太郎。これは揺ぎ無い。
 純粋に作家として、好きなのだ。小説はとにかく面白い。
 没後は「司馬史観」なる言葉が使われ、なにやら思想家か何かのような扱いをされているが、私の感覚には馴染まない。某有名アニメ製作会社が、監督と司馬遼太郎の座談会で、意見が合ったということを、ことさら強調していたことがあって、心がしらける思いがした。
 とにかくひたすら、作家としてファンなのだ。あの表現力の凄さ、的確な情報の論述には圧倒され続けている。

 好きな作品トップ3は、「坂の上の雲」,「燃えよ剣」,「項羽と劉邦」。そのほか、戦国もの、幕末物、エッセイなども好きだ。
 (ただし、「竜馬がゆく」だけは読むまいと心に決めている。私はもともと、坂本龍馬という人物が特に好きだというわけではない。むしろ、世間一般に人気がありすぎて、敬遠している向きがある。それでも司馬遼太郎で龍馬を読めば、好きになってしまうに決まっている。それを避けるために、読まないことにしている。)

 中でも、「坂の上の雲」の好きさ加減は尋常ではない。最初に読んだ時は、あまりの面白さに中断できなくなり、仕事中にトイレで読んだりしていた。読了後はあまりの衝撃に、この作品は目に毒だと考え、しばらく読むことを自ら禁じた。
 また読み始めた時は、2度、3度の連続読みなどを繰り返している。
 そこまで偏愛しているので、この秋にドラマ化と聞いて「やめろ念力」を本気で送った。もっとも、私の念力など無力で、ドラマは放映される。怒りが収まらないが、見ないというわけにも行くまい。
 (そもそも、淳が「学問がしとうございます!」なんて熱く語って、両親の前に手をつく訳ないだろ!もっと生ぬる~く行かなきゃ。しかも、お律さんの出番増えてるし。あの控えめな出方が良いのに!!イカン!あのラストシーンとか、淳と会う方向に改竄したら今度こそハレ・クリシュナの大鉄槌を食らわしてやる!児玉さんはもっと小柄でなきゃだめだ!田中と津野田を無視したら呪う!etc...エンドレス)
 
 さて。
 司馬遼太郎の紀行文シリーズに、「街道をゆく」がある。1978年から始まり、司馬遼太郎の死(1996年)まで続いた。
 紀行文といっても、まともな紀行文だと思って読んではいけない。むしろ、「歴史だべり」だと思った方が良い。
 司馬遼太郎が、興味のある国内外各地に出かけて行き、そこで感じた諸々を記したエッセイである。つまり、歴史の話をとめどもなく書き連ねたわけで、歴史好き(私)には面白く、紀行文を期待した人には大はずればかりなのだ。

 シリーズ30巻、31巻は、「愛蘭土紀行」。アイルランドを旅している。面白いのは、アイルランドに行くにあたって、まずはイングランドのロンドンと、リヴァプールを経由していることだ。司馬遼太郎自身が、そういうルートを取りたいと、是非に願った。
 無論、リヴァプールはアイルランドとの交流の地であり、さらに大量のアイルランド移民の町だという要因が強い。同時に、司馬遼太郎は「ビートルズの故郷」と記し、リヴァプールを語る上で重要な要素として取り上げている。



 もっとも、司馬遼太郎自身は音楽に興味がない。確かに、彼の他の作品を読んでいても、音楽に関する記述は非常に少ない。
 彼が賢明なのは、音楽が苦手な以上、ビートルズを聴いてどうこういう批評はしていないところだ。興味もないのに、わかったような顔で音楽を聴き、どうにもならない感想を記録するという愚は、ビートルズ来日の時に複数の文士が犯している。
 司馬遼太郎は、ビートルズの音楽は聴かず、彼らに関する本を読んでいる。1987年ごろの話なので、まだそれらの本の内容も、怪しいところが多かっただろう。「作曲はポール、作詞はジョン」などという、今思うと凄まじい記述など、普通にあった頃ではないだろうか。
 ともあれ、司馬遼太郎は物事の本質を掴み取っている。

 そういう本のなかで、往年のビートルズ四人組の写真をみた。さすがの音痴でさえ、
(ああ、かれらか)
 と、なつかしくおもった。
 どの顔も十代の少年のかがやきと清らかさと利かん気と不敵さを残している。


 これほど、あの四人の容姿を的確に記述した文章があるだろうか。
 特に、「清らかさ」と表現するところが、司馬遼太郎らしい。一種の狂気を含んだような清らかさ ― 「燃えよ剣」に登場する沖田総司などの描かれ方に似ている。

   この紀行文では、ビートルズがアイルランド移民の子孫であることに注目しており、彼らの精神にアイルランドを見出しているのだ。
 「四人中、三人」がアイルランド系としているが、ここはよく解らない。確かに、レノンとマッカートニーはアイルランド系の名前だ。どうやら、あと一人はリンゴを想定しているようだが、ジョージもアイルランド移民の子孫であることが、彼の述懐からも、そして容姿からも読み取ることが出来る。
 司馬遼太郎が参照した本の内容に、少し怪しいところがあるせいで、ところどころ首をかしげるところもあるが、小さいことだ。ビートルズと、司馬遼太郎、もしくは歴史が好きであれば、一読の価値がある。

コメント

_ 参星 ― 2009/09/23 18:33

こんにちは。 
ぶちさんの司馬遼太郎観。いちいちふむふむ!と納得しながら拝見しました。  
児玉さん(笑)  他の俳優陣が、似てるかどうかで選ばれたっぽい配役なのに、児玉さんだけどういうことなんでしょうね(笑)

街道を行く。いつかは読まねば、と思っていました。なのでまず、アイルランド紀行から読んでみます!

あと、坂雲も、お勧めに従って、また1巻からパラパラとですが、読み始めました。子規がいる時代が懐かしくてまた泣けます(つд`)

ぶちさんの坂雲語り。もっと聞きたいです。

_ Scottie ― 2009/09/24 01:14

ぶちさん司馬さん好きなんですね。
私は燃えよ剣と王城の護衛者くらいしか読んでない
ですが、坂の上の雲はドラマの予告を見て興味を
持ってたところでした。読んでみよう~!アイルランド紀行も♪

アメリカのアマゾンにlive anthology予約可能
と出てましたね。まだ通常盤だけですが。
4枚組で20.99ドルとは!
トムさん偉い!(笑)
楽しみですね~!

_ dema ― 2009/09/24 21:29

司馬遼太郎さんの話題が出てくるとは思ってもみませんでした。
坂の上の雲は、僕も読んですごく夢中になりました。あれを読むと、日本がアメリカに戦争しかけて勝てるつもりでいた人を、あながちバカだなんて思えなくなります。日露戦争は、もっと分の悪い戦争だったはずですから。
小説中、ナポレオンが騎兵を用いる天才だったとありますが、それはちょっと「?」ですね。彼は元々砲兵で、砲の移動のことを考えてワーテルロー会戦の攻撃開始を遅らせています。(それが命取りになりました)

司馬遼太郎という作家は、歴史小説家では「別格」な感じがします。人物を、善玉と悪玉、天才と凡人、正義漢と卑劣な奴といったキャラクターに当てはめていくのでなく、それぞれ違った人格として、分析的に描写していきます。悪役を作らずにおもしろい歴史小説を書ける作家はなかなかいません。
 人物の心理、性格の分析の見事さという意味では、国盗り物語は好きな作品の1つです。
 最近は、宮城谷昌光にはまってます。

_ NI ぶち ― 2009/09/24 23:48

>参星さん
こんにちは!コメントありがとうございます
児玉はせめて、橋爪功なら・・・まだましなんだけどな。高橋氏は権兵衛向きじゃないかなぁ。
「街道をゆく」の中でも、アイルランド紀行は実は番外編的です。海外だし、究極の癒し系・須田画伯が同行してないし。でも、やっぱFabファン的には必読です!
え、私の「坂雲」語りですか?ふふふ、べらぼうな長さの語りになる自信があります。

>Scottieさん
警戒警報!今すぐに、「坂の上の雲」を読んだ方が良いです!絶対にドラマの前に!できれば2回読みで!
4枚組で21ドルって…何かの間違いじゃないかと思う金額ですね。ま、私はもちろんデラックス・エディションだけど♪
 日本版はどうなるんでしょうね。うーん、US版,国内版、両方平気で購入する自分が目に浮かぶ…

>demaさん
音楽ブログですから、司馬遼太郎は確かに意外ですね(笑)。
ナポレオンの天才性は、砲兵操縦って点は、南北戦争の本でもよく出てきますね。つまりは、兵力をうまく使う、ってとこでしょうか。
ナポレオンの騎兵術について語るのは…確か、好古の留学先のアル中教授だったかな?

おお、「国盗り物語」…で、あるか!(信長)松波庄九郎、格好良かったなぁ~。
宮城谷氏は、何冊読んだかな?えーと、「晏子」では断然、お父さん時代が面白かったという記憶があります(笑)。

_ mcsky ― 2009/09/26 01:13

ごぶさたしてます。
その愛蘭土紀行の表紙懐かしい~!と思わずコメントさせていただきたくなり突っ込みいれさせていただきました。
そういえばなんとなく読んでいた「アイルランド紀行」にビートルズが出てきたときはびっくりしたなぁ。そして表紙がアルバートドックだと気がついたときはさらにびっくりしたなぁ。。(笑)今本屋に並んでる新装版は何の変哲もなくて寂しいですよね。

私にとっても司馬遼太郎氏はベスト作家なので、共通項(?)が増えて嬉しいです。ちなみに私のベスト3といえば城塞、風神の門、国盗り物語‥ん?戦国&青春小説ばかり。。竜馬が行くは、一般評価が高すぎるのでよくわかりませんが、司馬氏が「坂本竜馬」という人物をどれだけ好きだったかが分かると言う意味で一読の価値はあると思います。西郷以上に大好きオーラぷんぷんでたのしいですよ。

ほんとはもっといろいろ突っ込んでみたいのですが、スペースももったいないので‥いつか司馬氏語りのお相手させてください!(笑)

_ NI ぶち ― 2009/09/26 23:19

>mcskyさん
コメント、ありがとうございます。
司馬遼太郎、みなさんの食いつきが良いですね…。このブログで、これほどコメントがつくのは、あとトムさんの毛髪の時だな。
ははぁ、コメントを拝読して、やっぱり「竜馬」は読まないことにします(笑)。それほどの作品なら、なにも私が読まなくても…(謎の自己規制)
おお、戦国好みですね。私は「新史太閤記」もけっこう好きです。歴史なんだから分かっているはずなのに、信長が死んだ時は、読みながら物凄くハラハラしたものです。
やっぱり、さすがの表現力でしたね。

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