Get Back (Part 3)2021/12/22 20:43

 [Get Back] セッションもあと四日を残すのみ。最新のライブ案はビルの屋上というところから、パート3が始まる。
 最初に、リンゴが "Octopus's Garden" を披露して、ジョージがアドバイスする可愛いシーンから始まる。ジョージの優しい表情が最高。この曲のクレジットを確認したが、リンゴだけになっている。実際はジョージがかなりの部分つくっている。
 良い感じに和んだ頃に、例の非音楽的な人の奇声が早くも響く。もちろんイヤホンを外してやりすごす。

 紫のゴージャスなブラウスに、ピンクのピンストライプスーツのジョージが、きまっている。面白いのは、ギタリスト(ジョージ)がピアニスト(ビリー・プレストン)にコードを訊くところだ。私の感覚では、クラシックのピアニストはコードに弱く、ギタリストが強い。私とウクレレの先生(ギタリスト)のやりとりの面白さは、その辺りなのだが。
 ともあれ、ジョージが昨晩出来てきた曲 "Old brown shoe" を作る過程が面白い。ジョンの作曲アドバイスによると、「始めたら最後まで作れ」とのこと。(本人が出来ているかどうかは別らしい。)ジョージがピアノを弾いている間に、ポールがジョージのギター(ローズウッドのテレキャスター)を弾いているのが驚き。右利き用なのに!ポールは本当に器用だ。
 パート1の頃から思っていたのだが、こういう音楽分野の人は、アンプだのマイクだの、PA だの、とにかく電子機器に時間と手間を取られすぎている。私はピアノさえあれば蓋を開けて弾くだけの人なので、なんて面倒くさいのだろうと思う。

 お気に入りのカール・パーキンスを演奏したり、自分たちの古い曲を演奏したり。"Let it be", "The long and winding road", "I've got a feeling", "Don't let me down" , "Get back" などを合わせていくうちに、ジョージの新曲を覚えようということになり、"Something" が登場する。ジョージは歌詞に苦労しているようで、ここで例のジョンによる「カリフラワーとかにしとけ」というアドバイスがでてくる。
 ジョージが唐突に、黒い革靴が欲しいと言い出すのも面白い。たしか、パート2だったか、急に蝶ネクタイが欲しいとか言い出していた。むかし読んだ、アリステア・テイラーの本によると、ジョージは無茶は言わないし、手の掛からないナイス・ガイなのだが、こういう他愛もないリクエストが時々あるらしい。
 ジョージのピンクのシャツも素敵だが、リンゴの緑のシャツに、明るい緑のスーツも、凄く鮮やかで似合っている。

 不穏なアラン・クラインの話題に続き、それで、じゃあライブはやるの?という相談になる。ポールが煮え切らない。ジョンも煮え切らない。そもそも、このセッションってどこを目指してたんだっけ?みたいな「そもそも論」になってしまい、聞いているといらついてくる。
 「要するに煙突のに上ることを期待してるの?」とマイケル・リンジー・ホッグに尋ねるジョージ。内容よりも…その、白いセーター似合う!かわいい!
「やれというなら、やるよ。バンドなんだから。屋上ではやりたくないけど」
 いやぁ~!この長い映画の中で一番ビジュアル的に輝いているジョージではないだろうか?
 リンゴは「やりたい」というし、ジョンも同意に回る。ポールが渋る。こっちは、結局あの歴史的な「ルーフ・トップ・コンサート」が行われた事実を歴史として知っているので、この逡巡にはイライラするが、よく考えると躊躇しているポールの方がまともなのかも知れない。町中で、昼日中にロックバンドが屋上でロックコンサート?予告もなしに?そりゃ警察も出動するだろう…

 ジョージが、たまっている自分の曲をアルバムにするつもりだと、ジョンに語るシーンがある。これはそのまま、[All Things Must Pass] へと繋がるのだろう。ジョンに言わせれば、"outlet" (排出口、コンセント) ―― 日本語字幕では「はけ口」にしていたが、上手い翻訳だ。ジョージ曰く、自分の曲を人にあげたりもしたけど、馬鹿らしいから、自分でやろうと思う。―― まさに、これこそビートルズ解散の重要なファクターだと思う。
 その後、ビリー・プレストンと、ジョンが中心になって "I Want You" のセッションになるのだが、マーティン・ルーサー・キングの有名な演説を歌詞にしているところが素晴らしい。この映画のセッションシーンの中でも、これが一番良かった。

 そして、屋上ライブ当日。
 直前まで、四人で話し合っていた模様だが、着々と準備は進み、ここまで来たら、やるしかないとなったのだろう。四人が屋上に現れて、"Get Back" の途中から始まる。多分、録音テストで頭が切れていたのだろう。
 ここから映画は一から二、三、多ければ六など、複数のカットを使った画面になって、ライブが行われている間に、階下や通り、近隣のビルで何が起きていたのかを映し出す。
 私が勝手に持っていた印象として、ルーフトップのジョージとリンゴは、不機嫌そうだと思っていたのだが、きれいになった映像を改めて見ると、そうでもなくて、要するに寒かったということらしい。
 ライブ・パフォーマンスをするビートルズは素晴らしく生き生きとしていて、格好良い。これを見ると、ライブ・パフォーマンスを止めたこともまた、ビートルズ解散の一因だということが分かる。
 もう一つ分かったのは、唐突に、ジョンのもみ上げのことである。トム・ペティの女子ファンたちに超絶不評な [Live Aid] でのトムさんのもみ上げは、ジョンの真似だったのだ…トムさんは、要所要所でジョンになろうとして、盛大に失敗する。
 パート1から思っていたのだが、やはりジョンという人も、とても格好良い。私がジョージが一番格好良いと気付く前は、ジョンが一番好きだったのも、そのせいだろう。
 やがて警官がやってくる。パフォーマンスは終わりに近づく。最後の "Get Back" の方がテンポが若干速いし、ジョンのソロもちゃんと弾けている。

 こうして [Get Back] セッションは終わり、映画も終わる。ジョンの "We've got so many of the bastards." という言葉とともに。
 長かった!とにかく長かった!約8時間である。8時間かけて、この映画が伝えたことは?私個人としては、音楽演奏の練習は公開するモノじゃないなということ。やっぱり練習、リハーサル、変更、改善、そういうことは人に見せるものでも、聞かせるものでもない。入念に準備し、ある程度納得いったものを、人に聞かせるのが、音楽家としてあるべき姿だと思う。
 それまでの過程まで見せようとすると、見たくないものや、聞きたくないものまで混在してしまい、音楽を楽しむという本来の目的の妨げになるのだ。
 その一方で、ビートルズもまた「人間」であって、それなりの苦労、葛藤があって、あれほど偉大なのだということも分かった。その先に待っている運命は解散であり、泥沼の訴訟合戦である。それらも含めて、ビートルズは好かれているのだろうか。そうかもしれないし、そうでもないような気もする。
 なんだか、音楽はいいけど、長くて、すっきりしない、物足りない感覚が残る作品だった。まぁ、人生の実情なんて、すっきりしないし、いつも何か物足りないものなのだろう。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの制作者名最初のアルファベット半角大文字2文字は?

コメント:

トラックバック