Get Back (Part 2)2021/12/14 19:49

 ジョージが抜けた後のビートルズが、トゥイッケナムのスタジオで、さぁどうする?という行き詰まりから、映画「ゲット・バック Get Back」のパート2 は始まる。
 ジョンも姿を見せず、ここにきてやはり「ジョンに張り付いている人物」の問題が話題になった。ジョージにバンドに戻るよう設けられた週末の話し合いは、不調に終わったが、その際ジョンの「代弁者」が、かなりしゃべった模様。余り愉快な展開でなかったことは察せられる。
 映画 [Let It Be] や、そのほかのビートルズ伝記映像で、ジョージとポールの言い争い(?)が有名になってしまっているので、ジョージが抜けた原因はポールのような印象を抱かれがちだが、やはりそれだけが理由ではなさそうだ。ジョージもジョンとそのパートナーの「有り様」に気分を害していたのだと思う。それはこの Get Back セッションに始まったことではなく、若いジョージにとっては、十分に長く嫌な思いをしたのではないだろうか。
 ジョージ自身は記録に残るような形でコメントしていないし、結局はみんな「ジョンが好きなようにすればいい」という、いわゆる「大人の」結論を口にするが、実際にはビートルズというバンドにとっては、悪い影響の方が大きかったことは、否めないのではないというのが、私の正直な感想だ。
 もっとも、人生で一番大事なことは、青春時代に結成したバンドの維持ではないと言うのも、真実だ。

 ジョンとポールの昼食での会話の隠し録り音声は、なんだか居心地悪い感じがした。まだ30歳にもならない二人に、こういう事をするのは、誠実な態度とは思えないが…でもまぁ、映画としては面白いのだろう。
 とにかく、なんともコメントのしようのない、やりとりだった。

 ともあれ、トゥイッケナムのスタジオは時間切れ。一同はサヴィル・ロウのアップル・スタジオ(正式名称ではないが、仮にそうしておく)に移動する。
 場所も変われば、気分もかわる。ジョージも戻ってきてくれることになる。戻るまでのジョージの気持ちの変化というのは、彼にしか分からないだろうが、彼なりにビートルズも大事な存在だったのだと察する。
 そして救世主登場。ビリー・プレストンである。映画の中では、「偶然立ち寄った」風に描かれているが、要は従来から言われているとおり、ジョージによる手配なのだ。急に空気が明るくなり、気持ちよく音楽をやろうという心がよみがえる。このパート2で一番良かったのは、ビリー・プレストンが加わってくれたその瞬間だ。

 途中でまた、例の非音楽的な人が奇声を上げるセッションが挟まる。ポールもよく付き合ってくれるものだ。彼は彼なりに、ジョンを理解してあげようとしていたのだろう。もちろん、私にはポールほどの度量がなく、奇声は御免被るので、ヘッドフォンを外してやり過ごした。
 こんなパート、無い方がいいのに。この映画がソフト化されたとき、これのせいで買わないかも知れない。

 それにしても、パート1 からずっと感じていたのだが、リンゴって凄いドラマーだと思う。優れたドラマーというものには、一種の共通点があるのかもしれない。それは忍耐力、許容範囲の広さ、応用力、そして心の優しさ。
 どういう音楽が出てきても、どんな心理戦が行われても、リンゴは寄り添うようにドラムスを叩いてくれる。人格が演奏にでるというもので、天才的なソングライティングの才能とは、また別の範囲、別の次元の「音楽的才能」なのだろう。
 ビートルズのメンバーや、スタッフたちは、そういうリンゴの存在の貴重さを、ずっとあたり前に享受していたのだろうか。当人たちも、関係者たちも、ファンたちも、今あらためて、リンゴに感謝した方が良い。

 演奏面で面白かったのは、ジョンがけっこう不器用なこと。ベースを弾きながら歌うことが出来ないらしい。"For You Blue" でのスライドも、けっこう一生懸命で、余裕がない。あれだけのソングライティングと歌唱の才能があれば、少し不器用なくらいが当たり前なのだろう。むしろ、天才かつ器用なポールが異様なのだ。
 ものまね大会も楽しい。リンゴによるキース・ムーンのまね。"Tow of Us" がアコースティックになってからの、ジョンによるディランのまねも面白い。
 "Tow of Us" と言えば、コーラスの付け方を、ジョージがジョンにアドバイスしているのが興味深かった。ジョージはコーラスの天才的なプロである。そういえば、以前ウィルベリーズを称して「ジョージ以外全員、コーラスについては素人」と言った人がいて、その言い方は極端だと思ったが、ジョージによるジョンへのコーラス指導を見ると、確かにそうかも知れないと認識を改めた。

 さて、結局テレビ特番の話は頓挫する。現代だったらあり得ない話だが、当時はいきあたりばったりのテレビ界だったのか、それともビートルズだから許されたのか。
 そのついでに、観衆を集めたショーの話もなくなれと、何人かが思っているなか、ポールはまだライブ・ショーに望みを持っている。
 結局、アップル・ビルの屋上に話しが及ぶのだが、これを「誰が」提案したのかは、明言されていない。あたかもグリン・ジョンズのアイディアかのように演出しているようで、どうもはっきりしない。マル・エバンズのアイディアだという話もある。
 こうして長かったパート2 も、ルーフ・トップ・ライブへの期待を持たせて終わる。ここまでで5時間半!長い!長すぎる!